大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

まりあ戦記・022『親父一人の企て・1』

2020-10-27 06:05:23 | ボクの妹

・022
『親父一人の企て・1』    


 

 

 軍の保養施設なので、食事は部屋までは運んではくれない。

 一階の食堂で食べなければならない。
「あーーー食った食った!」
 のけ反るようにお腹を突きだすと、ポンとお腹を叩くまりあ。
「もっとゆっくり食べなさいよ」
 食事よりもお酒がメインの大尉が文句を言う。
「いやあ、マリアにマッサージしてもらったら快調で、速い!安い!美味い!になってしまう!」
「なんだか牛丼屋ね、せっかくの剣菱が横っちょに入ってしまう」
「こんな調子で食べていたら、マッサージで落ちた4%が、すぐに戻ってきてしまうわよ」
「わりーわりー、一足先に部屋に戻ってるね~、マリア、みなみさんのお相手よっろしく~」
 まりあは、ひらひら手を振ると食堂を出て行った。

 カッポーン…………コーン…………

 誰かが入っているんだろう、地下の浴場に続く階段からいい音が聞こえてくる。
「よし、もうひと風呂入ってこようか」
 ここにきて、まだ一人で温泉に浸かっていないことを思い出して、階下の浴場に向かった。
「このお風呂は初めてだな~」
 露天風呂にばかり入っていたので、地下の浴場は初めてだ。

 カラカラっと女湯の引き戸を開けたところで意識がおぼろになった。

 え…………?

 気づくとお湯の中に居た。それも全身がお湯の中に浸かっている。
 首を上に向けると、自分の髪がユラユラとお湯の中で揺らめいているのが見える。

――お湯の中なのに息が出来る?――

 手を伸ばすと壁に当たった。触ってみるとガラスのような感触がする。しかし、壁は仄かな緑色に光って、その先は見えない。

――心地いんだけど、ここは? これってなに?――

 手探りで、そこが人一人をゆったり入れる卵型の容器であることが知れる。
 閉所恐怖症ならパニックになるかなあ……そんなことを思ったりしたが、まりあには心地いい。
 再び目がトロンとしてきて、まりあは胎児のように、ゆるく丸まった。

――気持ちよさそうにしているところで悪いが、目を覚ましてくれるか――

 頭の中の声に起こされて目を開けると、容器の壁が素通しになって、ラボのような機器に取り巻かれていることが分かる。
 視線を感じて前を向くと、透明になった容器の向こうに、父である舵司令の顔が見えた。

――あ――

 ゆるく開いた股間のあたりに司令の顔があるので、まりあは慌てて足を閉じた。

――いまカプセルの底が開く。開いた先は小さなキャビンだ。キャビンにはコネクトスーツが掛けてある、それを着ると床がせり上がってきてシートになる。シートはそのままウズメのコクピットに運んでくれる。とりあえず、そこまでやってみてくれ――

 親父が手を動かすと、説明通りのことが起こり、まりあはコクピットに収まった。

――まりあの適応レベルを引き上げて運用システムを変更した。今までは五人でオペレートしていたが、このシステムならば、わたし一人でやれる――
「みなみ大尉とか、他の人は居ないわけ?」
――わたし一人だ。このシステムを構築するために、メンバーには休暇を出した。そして、まりあたちが、この保養施設に来るように誘導したんだ。ここは、ベースの最前線基地の一つだ――
「……今から迎撃?」
――迎撃じゃない、攻撃、それも奇襲攻撃だ。ヨミが成熟する前に撃滅する――
「えと、お父さん」
――なんだ?――
「……なんでもない」
――予備知識は与えない。ある程度分かってはいるが全てではない、予想外のことが起こると対応を誤るからな、出くわした状況に素直に反応しろ、その方が道が開ける。では、秒読みに入る……30秒前、29、28……――

 親父の企てに不安が湧いたが、深呼吸一つして未知の接敵に備えるまりあであった……。
 

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ポナの季節・76『世界で一番熱い夏』

2020-10-27 05:50:49 | 小説6

・76
『世界で一番熱い夏』
        



 アリスの広場にアリスがいるわけではない。       

「ア」はあらかわ遊園、「リ」はリバー、「ス」はステージを現している。
 夏は小学校の四年生まで、そのことを知らなかった。

「ア、アリスいるよね!」

 玄関から出ていくお父さんに聞いてみた。

 ほんとうは「出て行かないで!」と叫びたかった。でも、そんな直接的な言い方をしたら全てぶち壊しだと思い、アリスのことがとっさに口をついて出た。
 お父さんは、アリスの広場の本当の意味をボソリと言い、そのまま出ていってしまった。
 夏は幼いころからの夢とお父さんの両方を一度に失った。
「なにも最後の最後に言わなくっても…………夏、お母さん夏のためにがんばるからね。めそめそしないの!」

 たしかにお母さんはがんばった。

 駅一つ向こうのスナックから始め、今は銀座のクラブで働いている。ホステスの仕事が合っているのか、夏の目から見てもお母さんはイキイキしている。今ではチイママというのになり「夏のため」というのはお題目になってしまった。
 夏は中学の二年生になってから学校を休みがちになり、ほとんど不登校のまま夏休みに突入した。
 学校には行かなくなったが、それに反比例してあらかわ遊園に足を運ぶようになった。

「……もう一人で遊ぶのは限界かな」

 家族連れの子どもが多い中、中学生の夏は一人で遊ぶのに抵抗が出てきている。メリーゴーランドや豆汽車に乗っていると大人たちの視線を感じることが多くなった。
「でも自転車で来れて、千円でお釣りが出るようなとこ他にないしな……」
 そう言ってはいるが、園内を歩いていても幸せそうな家族づれに目がいく。かつての自分ちと近似値の親子たちに。
 観覧車に乗ると一枚のチラシが目に入った。

――SEN48サマーライブ! アリスの広場で!――

 タイトルを見て少しだけ心が躍った。ユーチューブで見た売り出し中の女子高生ユニットだ。
「あ、字まちがえてる。熱い夏じゃなくて暑い夏でしょ」
 それだけの興味で夏は、しばらく行っていないアリスの広場に足を運んだ。

「すごい……( ゚Д゚)」

 定員八百の客席に千人ほどが入っている。幼いころ、この広場で観たどんなショーよりも多い観客だ。

「それでは最後の曲聞いて下さい! あたしたちSEN48この夏のテーマ曲『世界で一番熱い夏』でーす!」
 
 浜崎安祐美が叫んで、巻き起こる拍手と歓声。

 夏は迫ってくる音楽に圧倒されながら、この曲は自分に投げかけられたものだと感じた。
 ギターもベースもドラム、キーボード、そしてボーカル、全てが新発見。メンバーのみんながアリスに見えた。

「今日は、あたしの一番熱い夏だ!」

 夏は初めて握手会というものに並んだ。誰にしようかと迷ったら、流れのままにポナの愛称の寺沢新子のところに並んだ。
「寺沢……あたしの平沢にちょっと似てる」
 ささいなことが嬉しかった。
「どうもありがとう!」
 ポナのキラキラした目にしびれた。
――あたしも、こんな目になりたい! アリスの瞳だ!――

 握手が終わって振り返ると、列の向こうに知った顔があった。お母さんの店のママさんの顔が……。

 

ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢 夏  未知数の中学二年生

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かの世界この世界:114『落花狼藉の大騒ぎ』

2020-10-27 05:38:36 | 小説5

かの世界この世界:114

『落花狼藉の大騒ぎ』語り手:テル       

 

 

 明るさは滅びの徴であろうか 人も家も暗いうちは滅びはせぬ

 

 太宰治の『右大臣実朝』の一節だと思うのだが、太宰治が何者で右大臣も実朝もよく分からない。どこか夢の中で出てきた言葉なのかもしれないが、目の前で繰り広げられている光景は、まさに、この言葉通りだ。

「おかえり、ヤコブ! しばらく見ないうちにいい男になって! お母さん嬉しいよーーーー!」

「おかえり!」「久しぶりいい!」「やあ!」「ウッス!」「ほんとにおかえり!」「おかえり! グラス持って!」「グラスこっち!」「あーーもーージッとしてらんない!」「歓迎のポルカだ!」「サルサだ!」「ヨサコイだ!」「ヤコブを真ん中に!」「となりはあたし!」「ずるい!」「あんた小学校でもとなりだったじゃん!」「となりはあんた!」「膝の上でもいいよお!」「まずは胴上げだ!」「そーだそーだ、胴上げだ!」

 なんだか分からないうちに胴上げになり、阪神タイガースの優勝みたいになった。お調子者が川に飛び込む代わりに片っ端からシャンパンやビールの栓を抜いてアルコールの雨を降らす。

 って、阪神タイガースってなんだ? 時々分からない言葉が浮かんでくる……。

 子どもたちも、一瞬四号に目を輝かせるが、大人たちの乱痴気騒ぎに載ったり載せられたりで飛んだり跳ねたりしている。

 胴上げを八回もやられて「ちょっと助けてえ!」とヤコブがこちらも見るものだから、舞い上がった参加者がいっせいにこちらを見た!

「次は、あんたらだ!」

 数十人の矛先が、四号の乗員に向かった。

 ロキとポチはノリノリで喜んだが、あとは軍服は着ていても女だ。あちこち触られまくりの胴上げには抵抗がある。

「ウ」「キャ!」「グエ!」「ウヒョー!」「フグ!」「ギョエ!」

 為すすべがない。

「え、あ、ちょと……」

「ボタン外さないでえ!」

「ベルトおおお!」

 胴上げされながら服を脱がされていく。

 もう身を任せろ。

 横を見ると、ほとんど下着だけにされてしまったタングリスが、どこか楽しんでる顔でウィンクしている。

 えーい、ままよ!

 身体の力を抜くと、あっという間に裸にされて、恥ずかしがる間も有らばこそ、別の衣装に着替えさせられた。

 

 もう一回、カンパーーーイ!!

 

 参加者と同じヘルムの民族衣装に着替えさせられて、飲んだくれたちの仲間入りをさせられてしまった。

 それから、いっしょにポルカを踊ったり、何十枚も写真を撮ったり撮られたり、食べたり乾杯したり歌ったり。落花狼藉の大騒ぎの渦になった。

 さすがに酔っぱらって尻餅を突いたところにヒルデが倒れ込んできて意識がなくなった。

 

 まるで玉砕した部隊の中で、たった一人生き残ったような感じで目が覚めた。

 ウンコラショ……っと、ヒルデのお尻をどかせ、脚にまとわりつくケイトを引き剥がして首を巡らす。

 ヒソヒソ ヒソヒソ……

 二つ向こうのテーブルで密かに話し合う声が聞こえてきた……。

 

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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