大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・012『修学旅行・12・児玉元帥・1』

2020-10-05 11:09:28 | 小説4

・012

『修学旅行・12・児玉元帥・1』   

 

 

 ウ……!  ア……!  オ……!  グ……!

 

 四人とも息をのんでしまった。

 大鳥居を目前に陛下の御料車が速度を落とすと、火星の田舎者は思わず叫びたくなる。

 火星では、国のリーダーが国民の前に姿を現すと雄たけびのような歓声をあげるものなのだ。

 扶桑国は日本の分家だけあって、何事につけてもつつましやかなのだが、こういう君民一体の行事ではワイルドなんだ。

 それは、苦しい開拓時代を国民も将軍も共に経験しているからなんだ。

 声をあげることで、互いの心を奮い立たせて、過酷な開拓事業を前に進めてく。開拓を進めることでしか、火星には未来が無いから。君民の近さは地球では考えられないくらい近くて熱いんだ。

 だから、初代将軍の扶桑宮よりも偉い陛下のお姿が見られると思うと、つい、叫びたくなる。

 日ごろ冷静な彦も目頭を押さえて「グググ……」と唸っている。

 御料車は二百年前のトヨタ・センチュリーロイヤルだ。

 日ごろの移動にはパルス車をお使いになられるが、靖国神社や明治神宮、武蔵野陵ご参拝の時は昭和・平成の伝統にのっとってアナログ車が使われる。

 ズシ

 高級アナログ車特有のタイヤが路面を噛む音をさせて停車する。

 お出迎えの侍従武官が御料車のドアに寄り添って、白い手袋でドアハンドルに手を掛ける。

 ウグッ

 ヒコがテルの口を押えた。放っておくと、この最年少の同級生は間違いなく叫んでしまうからだ。

 未来は自分で口を押えている。見ると目尻に泪が浮かんでこぼれる寸前だ。俺は日の丸の小旗を小刻みに振ることで耐えている。居並んだ火星人や月人も似たようなもので、それが面白いんだろう、地球のマスコミが古典的なシャッター音をさせて写真や動画を撮っている。

 中には、そんな田舎者丸出しの俺たちが面白いんだろう、ニヤニヤしている記者もいる。

 一人静かな女性記者がいると思ったら、大使館の桔梗さんだ。人手の少ない大使館なので広報としてかり出されているんだろ。

「お出ましだぞ」

 周囲に気をとられている俺にヒコが注意してくれる。

 

 …………陛下の美しさに息をのんだ。

 

 後桜町天皇以来五百年ぶりの女性天皇である陛下は陸軍の礼装に碧の黒髪をそよがせてお車の前にお立ちになった。

 女性天皇ってどうなんだろうって思っていた俺だが、一瞬で『ぜったいいい!』と思ってしまった。

「あれは児玉元帥だ」

「え?」

 ヒコの言う通りだ。

 今の今まで陛下と思っていた人は、ドアの横に位置して、次に出てくる貴人をエスコートする。

 児玉元帥同様の陸軍の礼装で陛下はお出ましになる。

 陛下も。軍帽はお手に持たれたまま、いたずらな風が御髪を嬲るのを押えておられる。

 同じ軍服で、同じようなロングの御髪、並んでお立ちになると、まるで姉妹のようだ。

 出迎えの宮司が一礼して先頭に立つと、陛下は侍従武官と児玉元帥を具して大鳥居に向かわれた。

 

 ポーーーーーン

 

 その時、お列の真上で花火のような破裂音が響いた。

 

 ※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

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ポナの季節・54『ユニットの衣装……③』       

2020-10-05 05:42:33 | 小説6

・54
『ユニットの衣装……③』        


 

「……というわけなのよ」

 安祐美が、やっと霊体化するところまで回復したので、そぼ降る雨の中、旧講堂にまで早朝から足を運んで説明し終えたポナであった。

「現物見ないとなんとも言えないけど、聞いた限りでは因縁がありそうだね」

 大ネエが持ってきてくれたコスは、アマチュアで五人のユニットを組んでいた横浜の女の子が特注で作ったもので、品質としては一級品だった。
 ただ本人たちは、移動中の交通事故で三人が死亡、二人が意識不明の重体である。で、この衣装は事故の後に仕上がって届いたもので、遺族の母親たちは、四十九日が過ぎた日に、事故の担当であった大ネエに相談した。
「手許に置いておくのも辛いし、遺品としては他の衣装もあることだし、もしよかったら、同じような活動をしている人たちに使ってもらえれば」
 そこで大ネエはポナのことが頭に浮かんだ。
「分かりました、心当たりがありますので、当たらせてもらいます」

 で、夕べのポナと大ネエの話になったわけである。

「こういうのは、プラスにしろマイナスにしろ、影響が大きいからね。みんなで着てみないとわからないよ」
「じゃ、手配するわ。放課後、みんなで集まろう」

 放課後、非番の大ネエが車に衣装をのっけ、ついでに乃木坂に寄ってみなみも拾ってきてくれた。

「やっぱ、みんなピッタリじゃん!」
 大ネエも、みんなも驚いた。衣装だけじゃなくて、ブーツのサイズも全員ピッタリ。
「でも、変だなあ……」
「大ネエ、なにが変なの?」
「靴のサイズ、被害者のと合わないんだ……業者のミスってこともあるかもしれないけど、こうも都合よく合うかな?」
「これは因縁ですよ、お姉さん。事故に遭った子たちが、自分たちのハートをだれかに受け継いでもらいたいって気持ちの現れですよ」
「うん、なんだか、このコス着てると、胸がワクワクする!」
 普段穏やかなみなみが頬を染めて叫ぶように言った。

「ものは試しだ、一曲やってみよう」
「でも、楽器とかないよ」
「アカペラでいいじゃん!」

 ダイアモンズをアカペラで通してみた。すごくノリやすいと、五人とも感じた。

「不思議ね、声が十人分くらいに聞こえた」

 大ネエが拍手しながら、嬉しそうに言った。ポナも感激した。大ネエは物事に感動しても、めったに表情には出さない。それが満面の笑みで喜んでくれている。唐突だけど、血の繋がりはなくても大ネエは、お姉ちゃんなんだと思った。

「あの、考えたんだけどさ……ユニット名」
「え、どんなの!?」
「SEN4・8ってのどうかな?」

 安祐美が幽霊らしくなく、目を輝かせて言った。




ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

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かの世界この世界:92『ポチの帰還』

2020-10-05 05:28:00 | 小説5

かの世界この世界:92

『ポチの帰還』     

 

 

 気がついたらヨタヨタと飛んでいる……たぶん東にむかって。

 

 バシュっとからめとられて、いっしゅんふり返ったら、エスナルの泉ほどの口を開けたイソギンチャクみたいなのに呑みこまれそうになっていた。くさいい息がモワモワからめとるようにおそいかかってきて、もうダメだああ!

 そして、どのくらいか意識がなくなって、気がついたらヨタヨタと飛んでいるんだ……。

 右手にムヘン川が見えているから東にむかっていることはまちがいない。

 はいきょとやけ野原の間をいくつかの曲がりくねった道が走っている、おおかたは、平和であったころの町や村、あるいは畑の道であったんだろうけど、こう荒れはててはよく分からない。その中の一本がムヘンかいどうで、そのかいどうのどこかに四号が身をひそめているはず……さがすと、ほかの道とゴッチャになってこんらんする。

 えと……えと……えと……また気がとおくなってきた。

 なつかしい鉄と油のにおい……ハッとわれに返ってとびおきる!

 ゴチン!

 まっ白い天じょうに頭を打つと、なじんだ手がつつむようにして助け上げてくれる。

「あ、気がついたか!?」

 四号の車内、わたしは通しんきの上のベッドに寝かされていた。ロキがウエスの布団でつつむようにして介ほうしてくれている。

 助かったんだ……

「おっと、もう気絶すんなよ」

「ロキ! ロキ! こわかったよー!」

「もう大じょうぶだ、よくやったな。ヨタヨタ飛んできたかと思うと四号のまうえでピタッととまって落っこちてきたんだぞ」

「ロキが受けとめてくれたの?」

「ああ、だいぶ前から、ポチが帰ってくる気がしてさ。ほうとうの上で待ってたら、ちょうど広げたオレの手の中に落ちてきたんだ」

「そ、そーだったんだ……ロキ、なんで上半身はだかなの?」

「ああ、受けとめた時、ポチのにおいが移っちまってな」

 見ると、開けはなったハッチから、アンテナにくくり付けてはためいてるロキの上着が見えた……上着の下には見おぼえのある小さい服が……あ、わたしの服だ!?

「おまえ、犬の口の中みたいにドロドロで臭かったから洗ったんだ」

 タングリスが横顔のまま言う。わ、わたしってばすっぱだかだ!?

「新しい服もぬってるから、元気になったら着てみなさいよ」

 ケイトとテルが狭い車内でなにか縫ってる。

「あ、ロキ、見るなあああ!」

 あわてて、ウエスの布団を身にまとう。

「おまえ、そんな人間の女の子みたいな反のうすんなよ」

「そうだぞ~、気ぜつしてるおまえを、ロキはかいがいしく洗ってくれたんだぞ~」

 自分でも分かるくらいに真っ赤になる。

「うそだよ、男はあっち向いてろって、女子のみんながやってくれたんだ」

「しかし、だんだん人間らしくなっていくなあ……ところで、西のほうはどうだった?」

「あ、そ-だ」

 まだ生々しい感かくが残る西ぶせんせんの情ほうを伝える。みんな、それまでのオフザケをやめて真けんに聞いてくれる。

「人とクリーチャーのゆうごうか……」

「新しい局面ですね」

 ブリュンヒルデとタングリスが見かわす。

「トール軍とレジスタンスとクリーチャー……それに、人とクリーチャーのゆうごう体か」

「よつどもえだな」

「しかし、そのおかげで、街道は平おんなんだ。一気にノルデンハーフェンを目指すぞ!」

 ブリュンヒルデがこぶしを上げて、四号は動きだしたよ。

 

☆ ステータス

 HP:7000 MP:43 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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