大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・142「学食の自販機前にて」

2020-10-30 13:41:29 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)142

『学食の自販機前にて』千歳     

 

 

 昇降口を横目に殺して車いすを進めると、学食に通じるスロープになる。開け放ったドアから自販機のサンプルをチラ見。よし、午後の紅茶無糖は残っている。

 

 スロープは健常者用の四段の階段に対し直角に付けられている。

 二段分下りたところでクニっと360度折り返して、さらに二段分下りて学食の前に着く。

 折り返のところは生け垣のスペースに被っていて、学食の入り口からは死角になって見えなくなる。

 

 その折り返しの所で止まってしまった(;^_^A

 

 自販機の前に啓介先輩が立ってしまったのだ。

 ちょっと気まずい。昨日のヘリコプター不時着事件で先輩にお姫様抱っこされて、その時のドキドキがまだ残ってるから。

 先輩が行ってしまうまで待とう。

 ゴトンと音とペットボトルを取り出す気配、足音が遠ざかる。

 よし。

 車いすを超真地旋回(ガルパンで憶えた言葉)させて、下りの勢いのまま自販機へ。

 百円玉二個を握って……固まってしまった。

 ウソ……午後の紅茶無糖は無情の売り切れ赤ランプ。

 

 啓介先輩が最後の一個を買ってしまった……。

 

 ショック…………ついさっきまで買えると思っていた午後の紅茶無糖が売り切れてしまったこと。そして、最後の一個を買ったのが啓介先輩だったこと。

 なんだかドキドキしてきた。

 悲しいから? お目当ての午後の紅茶無糖が無くなったから? それとも?

 え……なんで涙が?

「あ、これ欲しかったのか?」

 声が降ってきたので二度ビックリ! 見上げると啓介先輩。

「え!?」

「あ、ボンヤリしてて、もう一つ買うの忘れてて……俺は、どれでもええから、ほれ、これは千歳にやるわ」

「あ、いや(;'∀')」

「俺は、これ……っと……」

 先輩は缶コーヒーを二つ買って「んじゃ」と顔も見ないで行ってしまった。

 

 あ、お金渡してない。

 

 数秒、ボーっとして気づいた。

 車いすを超真地旋回させて校舎に戻る。

 先輩が向かったのは三年生のブロックだ。

 エレベーターに乗って、三年のフロアを進む。

 二つ目の教室で発見。

 声をかけようと思ったら、先輩の他にもう一人。

 え……須磨先輩。

 急に胸のドキドキが高鳴ってきた……。

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まりあ戦記・025『俺の三回忌』

2020-10-30 06:47:59 | ボクの妹

戦記・025
『俺の三回忌』      


 

 自分で言うのもなんだけど、今日は俺の三回忌だ。

 専光寺の須弥壇の前には鮮明なことだけが取り柄の俺の写真が置かれ、写真を乗せた経机に『釋善実(しゃくぜんじつ)』という法名を書いた半紙がぶら下がっている。過去帳があるんだから、わざわざ法名を晒す必要はないんだけど、まりあのこだわりなので仕方がない。
 
 二年前の俺は、まさか死ぬとは思わなかった。

 だから遺影にふさわしい写真がなくて、まりあは手っ取り早く生徒手帳の個人写真を遺影に使った。で、それを更新することなく、四十九日法要と一周忌に使い、今日の三回忌にも使っている。もうホトケサンになってしまったんだからこだわることもないんだけど、せめてディズニーランドで撮った笑顔の写真にしてほしかった。

「ディズニーランドの写真は、お兄ちゃんケンカしたあとで、前歯が一本欠けてるからね」

 俺と同じことを言ったみなみ大尉に説明した。
「でも、まじめ写真の方が、まりあの守護霊って感じがするね」
 アンドロイドのマリアが軽く言う。軽い言葉なんだけど、俺には響く。

 そうなんだよなあ、俺ってまりあの守護霊なんだろう。守護霊らしいことは何もしてやれないけどな。

「じゃ、そろそろ始めるわね」

 まりあのクラスメートにして専光寺副住職である釈迦堂観音が、まりあの耳元で囁いた。
 さんざめいていた本堂が静かになり、各自が出す数珠のチャラチャラした音がする。
 一周忌はまりあとお向かいのオバチャンだけだったが、三回忌の今日は、ちょっと賑やかだ。

 法事って、ま、パーティーだから。

 まりあの軽いノリに共鳴してくれたというか、言葉の通りに受け取ったまりあの友だちが六人も来てくれ、引率ということで担任の瀬戸内美晴先生まで来てくれている。
 あ、そしてベースからみなみ大尉と徳川曹長も。

「それでは、釋善実、俗名舵晋三さま三回忌の法要を務めさせていただきます」

 観音(かのん)ちゃんに似た面差しのご住職が開会宣言。
 何度聞いてもお経というのは眠くなる。
 参列のみんなは、お寺での法事が珍しいのか居眠りするような者はいなかったが、俺は、ついつい記憶が飛んでしまう。
 こんなお経を毎日聞かされたら、しまいには二度と目が覚めなくなるんじゃないかと思ってしまう。
 
 そうか、こうやって眠ってしまうことが往生なのかもしれないなあ……。

 ふと目が覚めた。

 エッ!?

 ビックリした。なんと親父が、俺の前で焼香をしている!
 親父は仕事最優先の人間で、俺が死んだときも、葬式に十分顔を出しただけだ。四十九日にも一周忌にも現れなかった。いや、ベースにまりあを呼びつけた時でも娘としてのまりあに声を掛けたことも無かった。
 ホトケサンである俺はうろたえたが、当のまりあは平然としている。まりあの友だちたちは――だれなんだろう?――という顔だ。

「まりあ、ちょっと」

 焼香が終わり、本堂の中は「お斎」と言われる法要後の食事会の準備に入り、長い座卓やらお斎の料理やらが並べられ始めた。
 一同が副住職の観音ちゃんの指示でテキパキと動く中、親父はまりあを本堂外の回廊に呼び出した。

 さすがに、まりあもムっとした顔になった……。
 

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ポナの季節・79『ポナの制服を優里が着たら』

2020-10-30 06:36:54 | 小説6

・79
『ポナの制服を優里が着たら』
       


 

「……お母さん、高校の制服どこかなあ?」

「クローゼットの中……無いの?」
「探した……見当たらないの」
「へんねえ……そうだ、春にみなみちゃんに貸したげて、そこに……こっちかな……おかしいわね、そっちの衣装ケースは?」
「……見当たらない」

 仕方なく優里はポナの夏服を持ち出して地下鉄に乗った。

「エキストラの人は、この大部屋で着替えて五分後スタジオに入ってください。貴重品と着替えはロッカーに。よろしく」
 そう言うとADは足早に駆けて行った。
「ごめんね、急にピンチヒッター頼んで」
 女学院の夏服姿で瑞穂が手を合わせる。
「こっちこそ遅れてごめん、制服見つからなくってさ、これ妹の借りてきちゃった」
 思い切りよくTシャツを脱ぐと、それで汗を拭いて一分で優里は着替えた。
「あら、ピッタリじゃない!」
「うん、妹とサイズいっしょだから。行こうか、みんなスタジオに向かってる」
 優里は着替えたものをトートバッグにザックリ入れてロッカーにぶち込んだ。

 出番は五カット、どれも高校生の合唱部のコンクールシーンで、エキストラは同じ制服ごとに固まった。
 世田女は優里一人だったのでフレームの端の方。最初はディレクターの指示通り動いていたが、少しは目立ちたくなり、ホールで主役が振り返るシーンでは、すぐそばを通ってみた。収録は順調で昼を挟んで二時半には終わった。

「優里、初めてにしてはやるじゃん」
「そう?」
「横と後ろだったけど、カメラがアップで抜いてた。放映されるといいね」
「ハハ、編集でカットよ……わ!」
「どうかした?」

 大部屋を出る時、汗のまま服を突っ込んだので着替えに持ってきたTシャツまで汗臭くなっていた。

「開き直れば、これはこれでいいかも」
 ビルのガラスに映る自分に呟いて、優里は世田女の制服のまま帰ることにした。高校を出てまだ四か月なのですぐにその気になった。
 渋谷で途中下車し、陰を拾いながらウィンドショッピング。すっかり感覚が女子高生に戻ってしまう。
 小間物屋さんでシュシュを買ってしまった。
「こんなもの、制服でなきゃ似合わないのにね……」
 呟きながらポニーテールのゴムをシュシュに替えてみる。
「あら、おいしそう」
 アイスクリームを買った。現役のころよりも少し奔放な高校生になった気がした。
「こういう気分は久々……初めてかな」
 わずかだけど振り返る人がいる。何年かぶりでスキップしてしまった自分に驚く。
「ダメだ(#´ω`*#)調子に乗っちゃう……か~えろ」

「………!」

 渋谷の駅で声をかけられる。振り返ると修学院の制服が思い詰めた顔で立っていた……。
 

※ 主な登場人物

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:117『落花狼藉の夜が明けて……』

2020-10-30 06:24:43 | 小説5

かの世界この世界:117

『落花狼藉の夜が明けて……』語り手:タングリス      

 

 

 

 テルが呟いた言葉通りだった。

 明るさは滅びの徴であろうか 人も家も暗いうちは滅びはせぬ

 夕べは、その明るさに身をゆだねるしかなかった。

 ポルカだサルサだヨサコイだのと高揚していくうちに裸にされて、あっという間にヘルムの民族衣装に着替えさせられた。南欧風の衣装は提灯袖の半袖で胸ぐりが大きく開いていて、スカートは二重に穿かされたパニエでフワフワだ。スカートなどは軍籍に入ってからは身につけたこともなく。久々に自分の性別が男ではないことを自覚した。

 酔いつぶれたふりをして雑魚寝の中に加わった。

 みんな幸せそうに鼾をかいたり歯ぎしりしたり言葉にならない寝言を言ったり花提灯を膨らませたり……だが、ほとんどの大人たちは寝たふりだ。

 横のオッサンの手が寝返りうった勢いで、わたしの胸に落ちてきた。

 手の主はドキッとしたのがバレバレなのだが、意識的に手をどければ眠っていないことが分かってしまう。また寝返りのタイミングをつかむまで、そのままにしておいてやった。

 夜半、ヤコブ親子が話し合っているのに気付いた。

 母親のアグネスも、十七歳で生贄に選ばれていた話には驚いた。平和な楽園に見えているが、その内実は他のオーディンの地と同様に悩みを抱えているようだ。

 ヘルムに立ち寄ったのはグラズヘイムへの便船であるシュネービットヘンの修理のためで、ヤコブの問題は余力があればくらいのつもりでいた……だが、この深刻さ、わたしがダメと言っても姫は助けてやる気持ちになっておられるだろう……姫のご性格と姫ご自身の境遇を考えると捨て置かれるとは思えない。

 朝、皆が起きだすのに合わせて、大きく伸びをする。ロキとケイトは地元の子どもたちに交じって熟睡中、夕べむしり取られた軍服をかき集めて素早く着替える。起きるタイミングを掴めないでいるテルと姫を起こすと、開け放たれたキッチンの窓からいい匂いがしてくる。

「みんな、酔い覚ましの朝ごはん! さっさと食べて片づけ手伝ってね!」

 ユーリアの元気な声が庭いっぱいにこだました。

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