大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

まりあ戦記・017『ヨミ出現公式』

2020-10-22 06:10:50 | ボクの妹

・017
『ヨミ出現公式』     


 

 風が吹けば桶屋が儲かる……という言い回しがある。

 風が吹く⇒砂ぼこりがたつ⇒砂ぼこりが目に入って視力を失う人が増える⇒門付(かどづけ)をする盲人が増える⇒門付が使う三味線が良く売れる⇒三味線に使う猫の皮が足りなくなる⇒乱獲されて猫の数が減る⇒天敵である猫が減ると鼠が増える⇒鼠に齧られて桶がダメになる⇒桶の需要が高まり桶屋が儲かる。

 一見するとなんの関係もなさそうなものが次から次へと影響が及んで、とんでもない結果になる。という意味である。

 これにヒントを得たのか偶然か、ヨミが出現して人類に壊滅的な打撃を与え続けることの原因は太陽風にある……と学校では教える。
 
「う~……憶えられない!」

 妙子が音をあげ、友子も机に突っ伏してしまい、観音(かのん)は涼しい顔をしている。
 ちなみに、妙子は佐藤妙子、友子は鈴木友子、観音は釈迦堂観音の三人で、まりあが転校してきて仲良くなった友だちである。
 先週、渋谷2のハローウィンで一層仲が良くなったので、まりあも三人のことを名前で呼ぶようになったのだ。
「小学校の頃はさ、もっと簡単だったじゃん」
 妙子が、サラサラとノートに書いた。

 太陽風の異常⇒地球磁場の異常⇒地磁気の異常⇒ヨミの出現

「これだけだったんだよ」
「抜けてるわよ」
 友子が『四次元空間の歪』を『ヨミの出現』の前に付け加えた。
「あ、そうだった」
 妙子たちは放課後の教室に残って『ヨミ出現公式』を覚える勉強をしている。
 小中学校では、たった五段階の公式なのだが、高校になると48段階にもなる。これを暗記しないと二学期の社会の単位が取れない。
 円周率を3・14の下二桁ではなくて下108桁まで覚えろと言う以上に難しくナンセンスでもある。
「カノンはさ、どうしてサラッと憶えられたのさ?」
 妙子がシャーペンをクルクル回しながらプータレる。
「お経を覚える要領よ」
「ああ」
「カノンちお寺だもんね」
「そゆこと……まりあ遅いね」

「ごめん、遅くなって」

 ぴったりのタイミングでマリアが戻って来た。

「あら、手ぶら?」
「わたしの前で雪見大福売り切れちゃった」
「「「あーーーー」」」
 三人のため息が揃う。
「みんな考えることはいっしょなんだね」
 第二首都高では『暗記ものには雪見大福』というローカルな伝説があり、テスト前などには食堂は仕入れの量を増やすのだが、今年は追いつかなかったようだ。
「一つファクトが増えるだけで、こんなに違うんだね」
 友子が呆れるには理由がある。ヨミの出現公式は半年に一つぐらいの割でファクトが増えるのだ。研究が進んでいるというのが理由だが、覚える高校生はたまらない。
「ね、もう帰ろうよ。テストなら直前までカンペ置いといて、エイヤって分かるところまで書けばいいわよ。他の生徒だって同じか、それ以下。全員を落第にするわけにもいかないだろうしさ、平均点取れればいいじゃん」
「お、開き直り!?」
「それよりも、雪見大福クリーミースイートポテト食べにいこっ!」
「え、それってなに!?」
「新製品、先月の末に発売されたの。学校の食堂じゃ、まだ売ってないんだよ、ほら、これ」

 マリアはスマホの画面をみんなに見せた。

「「「おーー、食べたい!!」」」

 瞬間に決まって、四人は昇降口を目指して駆けだした。

 『ヨミ出現公式』は、どこかへ吹っ飛んでしまった。

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ポナの季節・71『クレープ屋さんの角を曲がって』

2020-10-22 05:59:26 | 小説6

・71
『クレープ屋さんの角を曲がって』
        


 原宿駅で降りて竹下通りを駆け下り、クレープ屋さんの角を曲がる。

 スイッチを切り替えたように街の喧騒と暑さが吹っ切れて、東郷神社の林を思わせる境内に入る。
 涼しいとは感じるんだけど、学校からここまで急いで来たのでポナの額に汗が滲む。
 神池をぐるっと回って『クラブ水交』に飛び込む。

「おっと、汗を拭かなきゃ」
 冷房の吹き出し口に立ったぐらいで収まる汗じゃなかった。トイレを見つけて駆け込んだ。
「あぢい~ι(´Д`υ)」
 鏡の前でブラウスをくつろげ、タオルハンカチで汗を拭きまくる。腋の下に手を伸ばしたところで鏡の中の優里と目が合った。
「あ、大ネエ!」
「もう少しおしとやかにやれないの、ポナ一応準ミス世田女でしょ」
「アハハ、でも、ここ女子トイレだし……てか、なんで分かったの?」
「あれだけドタバタ入ってくりゃ嫌でも分かる。さ、人さまに見られないうちにおいで」

 和室に入ると、寺沢家の家族が孝史を除いてそろっていた。

「遅れて来たってよかったのに。お芝居の稽古とかあったんじゃないのか」
「通し一本と小返しやって、あとは新入りの子に代役頼んできた」
「アンダスタディーか」
 父の達孝は一学期の半ばから演劇部の顧問をやっているので難しい言葉を知っている。
「ハハ、そこまではね。でも新入りにも勉強してもらわなくっちゃね」
 えらそうに言ったので、みんなが苦笑した。
「なによ!」
「まあ、これでそろった。それでは一日早いけど、お父さんお母さんの誕生日とお父さんの還暦を祝って乾杯!」
「「「「「「カンパーイ!」」」」」」
 大ニイ達幸の音頭で寺沢家の節目の宴が開かれた。   

「誕生日がいっしょなのは、いつ知った?」
 還暦祝いに子どもたちが借りてくれたホンダN360Z。その懐かしいハンドルを切りながら達孝が聞いた。
「……忘れちゃった。そいうお父さんは?」
「オレは担任持ったときから」
「……そうなんですか?」
「うん、学年はじめにいろいろ書類を作ったり書き足したり。それで覚えた」
「じゃ、あの時『先生と誕生日がいっしょなんです』って言ったとき驚いて見せたのは演技?」
「あの時……」
「横浜の夜」

 ホンダN360Zは危うく車線をはみ出しそうになった。

「あれは……怯えながらも、初々しく喜んだお母さんに驚いたんだ」
「え?」
「あれで決心した、トヨのことはオレが一生ひきうけようって……さ、着いたよ」
 ホンダN360Zは表参道を北に折れたところで停まった。
「ここ……」
「思い出したかい?」
「うん……『クレープ屋さんの角を曲がって、そこで待ってる』」
「ああ、トヨが専務付きの秘書になって、専務のインサイダー取引の証拠をつかんでしまって、オレに助けを求めて……オレはここで待っていたんだ」
「……あのクレープ屋さん、もうありませんね」
「母さん、一度車を降りて」
「え……?」
「あの時と同じように、乗り込んできたところからやってみよう」


 豊子が乗り込むと、ホンダN360Zは表参道を走る車列の中に溶け込んだ。
「なんだか胸がドキドキする」
「さ、横浜に行こう」
「あの時泊まったところ、まだ残ってるんですか?」
「まさか、クレ-プ屋と同じさ」
「行ってみなきゃ分からないでしょ」
「優奈に調べてもらった。でも、近い場所には泊まれる。残念ながら、ちゃんとしたところだけどな」

 夏の夕暮れ、二人は三十年前の自分たちをトレースしていった……。 


ポナと周辺の人たち

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母

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かの世界この世界:109『紅茶まみれの姫騎士』

2020-10-22 05:48:38 | 小説5

かの世界この世界:109

『紅茶まみれの姫騎士』語り手:ブリュンヒルデ      

 

 

 突然の砲声に満身創痍のシュネーヴィットヘンは慄いた。

 船腹に大小六つの穴を開けられマストもへし折られたシュネーヴィットヘンは千トンあまりの注水で水平を保っている。そのため喫水は貨物デッキから一メートルちょっとしかなく、海面の高さと変わらなくなっている。そこに弾をぶち込まれればひとたまりもない。

 しかし、その慄きは杞憂であった。

 二発目の砲声が轟いても、船はおろか海面にも弾着の水柱が上がらない。ヘルム島から撃たれたのは礼砲なのだ。

 そうと知れた途端に、船内の復員兵たちはデッキに群がってヘルメットやら小銃やら戦闘帽を振って応えた。振るものを持たない傷病兵たちは松葉杖や腕のギブスを振ったり、包帯を解いて白いテープのようになびかせた。

「すまん、四号の主砲を撃ってくれ!」

 船長がタラップを滑り降りながら叫んだ。

 そうだ、礼砲には礼砲で応えなければならない。しかし、シュネーヴィットヘンは輸送船、答礼するための砲が無い。

「わかった船長、弾数を聞いて礼にかなった空砲を撃つ。みんな配置についてくれ!」

「「「「ラジャー!」」」」

 舷側に並んでいたみんなが声を揃えて車内の配置に着いた。

 砲塔を九時の方向に旋回させ、主砲を最大仰角に上げる。

 シュネーヴィットヘンの船長は大佐だ。大佐への礼砲基準は無いから准将待遇として十一発、領事待遇で九発か……なんと、元首待遇の二十一発を数えた!

 思えば、一万トンを超えるオーディンの軍艦がヘルム島に来るのは初めてなのだ。しかも休戦協定に違反するパラノキアの攻撃を受けて傷ついているのだ。最大の歓迎と言っていい。

 船と港の双方からヘルム湾を震わすような歓声が沸いた!

 ムヘンこの方、戦ってばかりだったので、思わず眼がしらが熱くなる。ロキもケイトもテルも礼砲を撃ち終わるとハッチから身を乗り出し、他の復員兵たちと同じように帽子やらスパナやら薬莢やらを振っている。タングリス一人操縦席に収まってポーカーフェイスだが、うなじが紅く染まっている。素直に感激すればいいのにと思う。

 わたしは堕天使かつ漆黒の姫騎士に相応しく鷹揚にコマンダーハッチをガチャリと開き。砲塔の上に聖グロリアーナ女学院のダージリンの如く泰然と立ち上がって左手にソーサー(分かるわよね、ティーカップの下のお皿)、右手にティーカップを持って、優雅に姿を現す。

 あいた!

 無様な声をあげて、ドジを踏んだローズヒップのように砲塔の上でひっくり返ってしまった。

「な、なにすんのよ、ポチ!」

 そうなんだ!

 パラノキアの対巡洋艦戦の時のようにダッシュで飛んできたポチがわたしのことを避けきれずにぶつかってしまったのだ!

「すごいよ! すごいのよ、みんな!」

「何事だ、今度こそ首輪をつけるぞ!」

「港は、歓迎の人たちでいっぱいでさ! メチャクチャ可愛い女の子がティアラにローブを羽織って花束抱えて待ってくれてるよ! まるでお姫さまだよ!」

「わたしだってお姫様なんだけどな!」

「ブリの百倍は可愛いもん! みんな聞いてえ!」

「それって、港の女王とかのコンテストで選ばれた可愛いだけが取り柄のマスコットだぞ!」

 くそ……漆黒の姫騎士を紅茶まみれにして、ポチは船内に触れてまわりやがった!

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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