かの世界この世界:112
『ヤコブの家まで』語り手:テル
ヤコブが心配していた子どもの飛び出しは無かった。
確かに、四号の姿に目を輝かせる子どもは多かった。子どもどころか大人まで立ち止まって「オオ」とか「ホオオ」とか感心してスマホで撮影する者も多い。子どもたちは反射的に車道に飛び出しそうになるが、親や年長の子どもが引き留めて、我々を煩わせることが無い。親子関係や子どもたち同士の関係がうまくいっている証拠だろう。
「行儀の悪いのは、お前ひとりだったな」
「仕方ないよ、衣装脱いで着替えるのに手間取ったんだから。おしとやかにしてたら置いてかれる」
「家の準備はできてるのか?」
「うん、歓迎式典に出かける前にやっといた」
「まさか、おまえが料理とかしてないだろーな?」
「アハハ、そんな無謀なことはしないよ。お母さんがやってくれてる」
「それより、みなさんのこと紹介してよ、お兄ちゃん。式典じゃ口もきけなかったし。まずは、わたしの胸元ばっか見てる坊やから」
指名されたロキがひっくり返りそうになる。
「通信手のロキ、子どもだが、なかなかの苦労人だ」
「よろしく、わたしのスリーサイズなんか通信しちゃダメよ。国家機密なんだから」
「し、しないよ(;'∀')。あ、あんたほんとに、さっきのクイーンなのか?」
「そうよ、島の人たちはいい人ばかりだから、オフの時は自由を尊重してくれるのよ」
微妙に問題点をズラされたようだが、さすがに追及はしない。
「ロキの肩に停まってる妖精さんは?」
「ヒック!」
しゃっくりを一つしてロキの服に中に隠れるポチ。
「こ、こら、くすぐったいポチ!」
「へー、ポチって言うんだ!」
「い、犬じゃないからね!」
「分かってるわよ、点という意味だよね。点がどこにあるかで全然意味がちがっちゃうものね。大の字の肩に掛かれば犬だし、又の所にくれば太いだし、丸まって肩に戻ったら、ポチのポだよね」
「ハハ、ポはカタカナだよ。足の付け根に隙間があるし」
「そっか、オーディンの文字は難しいからね」
「おまえが不勉強なんだ」
「テヘ。いいじゃん人柄はとってもいいからさ!」
「自分で言うかあ」
「いいのいいの、わたしって可愛いからね!」
「砲塔の右っかわから身を乗り出しているのがケイト。装填手。歳はユーリアと同じくらいだ」
「光栄です、お目にかかれて」
「あ、敬語禁止。私服の時はただのユーリア。ヤコブ兄ちゃんにはもったいない美人の妹」
「は、はい」
不思議だ、ユーリアは自然に振る舞っているようで、威厳……気品……口にすると違うのだが、人に一目置かせる何かがある。ベイクイーンの称号は伊達じゃないようだ。
「わたしに何かあるみたいに思ってるオネエサンは?」
「テル、砲手をやってる。世話になるけどよろしくね」
「よろしく、ケイトとテルは……二人で一組なのね」
「え……ああ、砲手と装填手だからね」
「そうね」
なにか本質的なことを言われたような気がしたが、自分でも分からない、気のせいだろう。
「運転中だから顔は見えないけど、操縦手のタングリス」
そこまで聞くと、ユーリアは器用に車内に潜り込みタングリスに挨拶する。
「本当は、この中でタングリスさんが一番綺麗な人なんだと思う……」
ポツリというユーリアに苦笑で応えるタングリス。
「えと、これでいいかなあ?」
「よくない!」砲塔のキューポラから声がする。
「失礼だよ、お兄ちゃん」
「あ、車長のブリュンヒルデ」
「見知りおけ、主神オーディン娘にして堕天使の宿命を負いし漆黒の姫騎士ブリュンヒルデである」
「冗談みたいに長いお名乗りだけど……いいえ、お目にかかれて光栄です殿下」
「畏まるのはこれきりでいい。これからはブリュンヒルデあるいはヒルデでいい。ブリという呼び方はNGだぞ」
「心得ました殿……ブリュンヒルデ」
自己やら他己やらの紹介をやっているうちにヤコブとユーリア兄妹の家に着いてしまった……。
☆ ステータス
HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長