大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・256『オープンスクールに行ってきた』

2021-11-07 17:08:45 | ノベル

・256

『オープンスクールに行ってきた』さくら       

 

 

 留美ちゃんとオープンスクールに行ってきた。

 

 もちろん、真理愛女学院のオープンスクールでございますわよ。

 ここには二回来たことがある。

 二回とも、まだ詩(ことは)ちゃんが在籍してた時。

 一回は、詩ちゃんの吹部の練習日。

 もう一回は、頼子さんの個人的な学校見学に付いてきた時。

 頼子さんの時のんで、ある程度慣れてうねんけど、自分がオープンスクールのゲストとして行くのんは格別ですわ。

 

「え、こんなもん?」

 

 駅の改札を出て、思わず呟いてしまう。

 真理愛女学院は大阪でも指折りのミッションスクールなんで、さぞかし参加者が、駅からゾロゾロ歩いてると思てた。

 進路の先生からも、人気の学校は何千人もオープンスクールに行くと聞いてたさかい、きっと最寄りの駅からは大阪中から女子中学生が集まって来るもんやと……思うでしょ?

 それが、改札から出てみると、まあ……ニ三十人の見覚えのあるんやら見たことないようなんやらの制服姿が真理愛女学院に向かってるだけ。

「ひょっとして、時間間違うたかな?」

 慌てもんで、スカタンの絶えへんうちとしては、まず、自分のミスを疑う。

 早すぎて、同じ電車に乗ってた子らが少ない……これはええねん。せやかて、待ってたら済むこっちゃし。

 遅すぎ……は、シャレになれへん(;'∀')。 オープンスクールとは言え、事前に申し込んでるさかい、安泰中学のうちらが遅刻いうのはバレてしまうわけで、ペコちゃん先生が言うてた言葉が蘇る。

―― オープンスクールから見られてるからね、もし、入試で当落ギリギリだったら、態度の悪かった人は落とされるぞ ――

 ペコちゃんスマイルで言うさかい、よけいに凄みがあった。

「アハハ……」

 留美ちゃんが笑う。

「なにかおかしい?」

「遅刻じゃないわよ、早すぎてもいないし」

 う、さすが寝食を共にする心の友、口に出さんでも読まれてる。

「オープンキャンパスは何回にも分けてやってるのよ」

「え、そうなん!?」

「いっぺんに集まったら、説明とか行き届かないでしょ。むろん、学院の方も少人数の方が観察しやすいし、いろいろと……」

「あ、せ、せやね(^_^;)」

 ガサツなわたしは、そう言われただけでビビってしまいます。

 

「校門入る時は、一礼すんのんよ、一礼!」

 詩ちゃんが通ってたんで、一応の作法は知ってる。

 留美ちゃんと、いっしょに、一瞬立ち止まって一礼。

 よし、同じように礼してる子は、視界に入った限りでは、ほかに二人おっただけ。

「ここの先生もお辞儀してくれてたわよ」

「え、ほんま?」

 ちらり振り返ると、修道女みたいなコスの先生風が、入って来る中学生に無言ながら頭を下げ……ながら観察してる。

「オシ、一点リード!」

「力まないでくれる(^_^;)」

「かんにん」

 昇降口に行くと、生徒会かなんかやろか、三人の生徒が、下足の世話をしてる。

「学校のスリッパを履いてもらいますが、脱いだ下足は袋に入れて持っていてください」

 前に来た時は来客用の靴箱使ったけど、オープンスクールは、各自で持たせるんや。

 せやろな、分散させてるとは言え、この人数が来客用使うたら、いっぱいになるわなあ。

「はい、このレジ袋使ってください」

「ありがとうございます」

 差し出されたレジ袋の先を見てビックリ。

「ソ、ソフィア」

 わたしはビックリしたんやけど、ソフィアはポーカーフェイスであります。

 驚いたいうのは、二つの意味。

 雰囲気が完全に普通の生徒で、言葉にも訛がない。

 エディンバラで初めて会うたときは、片言の日本語を懸命に喋ってて、語尾に可愛らしく『です!』と気合が入ってた頃の感じは、まるであれへん。間近で見てへんかったら、ぜったい普通の生徒やと思てるって!

「いくよ、さくら」

 留美ちゃんに促されて、流れに乗ってオープンスクールの始まり始り……。

 

 で、なにを聞いたか……ぜんぜん憶えてませ~ん(^_^;)

 

 大きな部屋で全体の説明があって、二回ほど教室が変わって、なんか説明やら模擬授業みたいなん受けて、意識が戻ったんは、最初の部屋に戻った時。

「みなさん、お疲れさまでした。これからは、お茶会風のフリートークになります。ささやかですが、紅茶とスコーンやクッキーを用意しました、バイキングスタイルでやりますので、どうぞご自由にお持ちください」

 よどみなく説明してるのは……我らが先輩の頼子さんではありませんか!

「うお!」

 思わず唸ってしまう。

 リアル頼子さんは、もう何カ月ぶりやろかいう感じやったさかい。

「ちょ」

 留美ちゃんにたしなめられたんは言うまでもありません。

 生徒は、他にも五六人居てて、みんなの世話をしたり、質問に応えたり。

 むろん、そばには先生が控えてはるねんけど、口出しすることはなかった。

 うちは、アホなこと口走ったらあかんので、自重してたんやけど、よその学校の子が質問した。

「とても美味しいんですけど、生徒さんがお作りに?」

「はい、みんなで作りました」

 頼子さんが答えると、その子は、声を小さくして頼子さんに聞いた。

 ああ……。

 なんか、溜息みたいな返事をするとお皿の上のクッキーをティッシュで包んだ。

 あ、お持ち帰り。

 他にも、何人かの子が、こっそりとハンカチに包んだり。

 いくら制服着てても、頼子さんは目立つもんねえ。

 頼子さんは、笑顔で知らんふりしてるけど、付き合いの長いうちらには困ってるのがよう分かったよ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト・『山に向かいて』

2021-11-07 06:33:14 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『山に向かいて』   




 熱海を過ぎると圧倒的な迫力で見え始めた……。  

 受験の時は行きも帰りも夜行バスなので気づかなかった。

 富士山がこんなにも圧倒的で迫力があって人格的な大きさを感じさせるとは思わなかった。
 偶然E席をとったので、窓から見える富士山は独り占めだ。

――こんな山見て育ったら、人間変わるやろなあ――

 富士山は、テレビなんかの画像で何度も見てきているので、知ったつもりになっていたが、現物で見る富士山はまるで違った。

 熱海を過ぎて気づいた富士山は、三十分余り雪子を圧倒のクレッシェンドの中に放りこんだ。

 雪子にとっての馴染みの山は、生まれてこの方見飽きた生駒山である。

 生駒山、地学的には傾動地塊(けいどうちかい)という。

 生駒構造線というのが奈良と大阪の間にあり、数十万年の時を掛けて押しあがった大地のシワのようなもので、定高性が著しい。
 要はダラダラした山並みで、富士山のような孤高とか崇高な人格は感じさせない。関西はおしなべて、この手の山が多い。京都の東山も、六甲の山も同じ仲間で「布団着て寝たる姿や東山」という川柳や太宰治の『富岳百景』が実感をもって感じられる……どうも感想が受験生的なので、自分でもおかしくなった。

 三年前の夏、ヒデの告白を半分受け入れるカタチで付き合い始めた。

 ヒデは勉強もスポーツも上手く、楽器も軽音で使うものなら一通りできた。メンツは父親似で、ベースは整ったイケメンに属する。ま、学年に二三人はいる程度の「よくできる男の子」であった。
 半分受け入れたというのは、雪子が「揃って東京の大学行けたら本格的に付き合う」ということにしたからである。

 そのヒデは、バッグの中で天神さんのお守りに成り果てている。

 さすがに、新大阪までは見送りに来た。三月には珍しい雪がちらついていた。

「大阪で見る雪も、しばらくサヨナラやな……」

 Jポップの古典曲のようなことを言った。

――もっと、ましなこと言えんかあ――

 そう思いながら、いっしょに振り散る雪を眺めていた。

 ヒデは正式には三島秀介(しゅうすけ)という。長男なので父親の一字をもらって秀一とか秀太が似つかわしいのだけど、父は自分のような苦労をしないで、人の二番目ぐらいで生きていけという気持ちを込めて、律令の官制の二等官にあたる「介」の字を入れた。

 しゅうすけだったら「しゅう」と呼ぶのが普通なんだろうけど、わたしは「ヒデ」と略す。「しゅう」では風船から空気が漏れるようで力が入らない。「ヒデ」は「ヒデッ!」と力を籠めやすい。

 嫌がるかと思ったら、あっさり受け入れて気弱に「うん」とか言う。「しゅう」という呼び方は生駒山の姿に似ている。「ヒデ」というのは二音節ということもあって「富士」に近いんだ……というのは屁理屈で、「ヒデ」は嫌だと言えばみんなが呼ぶように「しゅう」にしたんだぞ。 

 ヒデが東京の大学を受けなかったのは経済的な理由ではない。要は気持ちなんだ。一応優等生の部類に入るヒデは、東京で並あるいは並以下の学生になるのが怖いのだ。

 理屈はいくつも付いていた。やりたい学部は関西でも東京に負けないところがあるとか軽音のメンバーも続けたいし。などなど……。

 百歩譲って、そういうヒデでもよかった。

 正直に「東京は怖い」で良かった。そして、「それでも雪が好きや!」そう言えば、デッキで目を見つめて、こう言えた。

「ほんなら、また連休にでもな!」

 雪子は、だまって振り向きもせずに車内の席についた。窓越しにヒデの視線を感じたがシカトした。せめて、せめて窓をノックして笑顔ぐらい見せろよ……怒った顔ならなおよかった。ヒデの視線の距離は発車まで変わらなかった。

 雪子は、思い立って富士山の写真を撮り、メッセをつけて送った。

――特に意味なし。現物の富士山はええで!――

 連休にヒデが来るか自分が行くかしないと、本当にヒデとは切れそうに思った。

――富士山の雪、連休まで残ってるやろか――

 そう思った頃、新幹線は三島の駅を素通りした。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする