大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・110『里見さんのお嬢さんと飼い犬のハチ』

2021-11-16 15:28:51 | ライトノベルセレクト

やく物語・110

『里見さんのお嬢さんと飼い犬のハチ』   

 

 

 うちの近所に里見さんというお家がある。

 

 ときどき、娘さんが犬を散歩させているのに出会う。

「ご近所の人には、ご挨拶するのよ」

 今の家に越すにあたって、お母さんから注意された。

 人見知りの性格なので、この『ご挨拶』がね、ちょっと苦手。

 でも、たいていのご近所さんは「おはよう」とか「おかえりなさい」とか言ってくれるので、なんとか挨拶を返せていた。

 今ではね、たとえペコリお化けにでも、きちんと挨拶できるよ。

 

 そんなご近所の中でも、苦手なのが、この里見さん。

 

 挨拶しなくっちゃ……アセアセになるんだけど、二つの理由で、まともな挨拶ができない。

 一つはね、挨拶しようと視線を向けると、スッと逸らされてしまう。

 こちらから声を掛ければいいんだけど、そこまでの勇気が出ない。

 そのうち、出会うと、こっちも視線を避けて、そのまますれ違ってしまう。

 そういうのも気まずいので――あ、出会いそう――と思うと、ちょっと遠回りでも道を変えて出会わないようにする。

 もう一つはね、連れてる犬がね、ちょっとおっかない。

 尻尾がクルリンと巻き上がった、中型の日本犬。

 おっかないと言っても、狂暴とか吠えられるとか、そういうんじゃないんだ。

 ハチは里見さんよりも早く、わたしの顔を見る。ちょっとは、ご主人の顔も見るんだけど、すれ違うまで、わたしを見てる。

 人懐っこいようにも、咎めだてされてるようにも思えて、ちょっと居心地が悪い。

 

 だからね、里見さんも犬も苦手。

 

 お爺ちゃんお婆ちゃんは、昔からの知り合いなんで、とうぜん挨拶はするし、立ち話程度の付き合いもある。

 お爺ちゃんお婆ちゃんと一緒の時に出くわして立ち話になった時の気まずさって、ちょっと拷問かも(^_^;)。

 犬は、行儀よくお座りしていて、邪魔をすることは無いけど、やっぱり、わたしのことを見てるから苦手。

 立ち話が終わると、里見さんが「ハチ」って呼びかけると、里見さんを先導するみたいに歩き出す。

 そう、犬は『ハチ』って名前。

 忠犬の代表みたいな名前で、名前だけは好感。

 

 わたしは苦手なんで、もう何カ月も、里見さんにも犬にも出会っていない。

 

「そうそう、久々に里見さんのお嬢さんに会ったのよ」

 お風呂掃除が終わって、リビングに戻ると、お祖母ちゃんがお茶を淹れながら思い出した。

「ほう、ハチも元気だったかい?」

 お爺ちゃんが、読んでた新聞を畳みながら顔を上げる。

「それがね、ハチったら、車いすなのよ……」

「「車いす?」」

 お爺ちゃんと声が揃った。

「ええ、なんでも崖から落ちたとかで半身不随なんだそうよ」

「あのハチが……」

「ハチの車いすって……?」

 ハチが人間の車いすに乗って、手で漕いでいる姿が浮かんでしまう。

「それが、よくできてるの。なんでも、古いキャリーを改造したとかで、ハチの体格に合っていて、楽しそうだった」

「それは、ハチなりの気遣いだよ……落ち込んだら、ご主人が気に病むだろうって、犬なりに気を回しているんだ。ハチは、それくらいの気配りはするやつさ」

「そうかもしれませんねえ」

 お婆ちゃんもしみじみして、向かい合ってお爺ちゃんとお茶をすすっている。

 

 こんど、ハチに出くわしたら、どんな顔をしたらいいんだろう……。

 日ごろ、不義理っぽい態度とってたから、ちょっと悩んでしまう。

 

 するとね、その晩、なんと、ハチから電話がかかってきた。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所

 

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せやさかい・258『女王陛下の間接話法』

2021-11-16 09:19:28 | ノベル

・258

『女王陛下の間接話法』頼子       

 

 

 

 お祖母ちゃんとのコミニケーション手段は三種類。

 

 第一は、直接顔を突き合わせて話すこと。

 ただし、お祖母ちゃんが女王陛下という立場なので、いつもというわけにはいかない。日本とヤマセンブルグに離れているしね。

 まして、コロナが猛威を振るっている今日、気軽に行き来するわけにもいかない。

 だから、直に会ったのは、今上陛下の御即位の時が最後だったりする。

 

 第二は、パソコンのスカイプで。

 これは、もう、しょっちゅうで、一週間に八回くらい(日に二回というのもある)

 スカイプだから、部屋着とかでいいんだけど、だらしないのはダメ。

 お風呂上がりにタンクトップ、タオルで頭を拭きながら話したら怒られちゃった。

 

 第三は、メール。

 時間が無くて、取りあえず伝えておきたいことがあるとき。たいていは『○○時にスカイプするから待機しておくように』的な予告。

 あるいは、きちんと伝えなければならない時よ。画面で顔見ながらだと、つい、余計なこと喋ったり、身だしなみとか態度とかで文句が出る(文句言うのは99%お祖母ちゃんだけどね)。

 もうひとつはね、きちんと伝えたいとき。感情とか交えずに、必要なことを伝えたいときよ。

 メールだから、記録が残るから『言った言ってない』で揉めることや『その言い方は無い』ということもない。

 

 お祖母ちゃんが、その第三の方法で、こんなことを伝えてきた。

 

 日本の新総領事が着任して信任状を持ってきてくれて、いい話をしてくれたの(注釈:新しい大使や総領事が着任した時は、所属国の信任状を国家元首に提出する。日本に着任した大使とかは、天皇陛下に信任状を渡すのよ)

 総領事は、昔、高校の先生をやってらしてね、そのころのお話。

 悪たれの男子生徒が居てね、学校ではいろいろ問題を起こしては叱られて、当人も、いろいろ学校や先生に悪態をついていたの。

 その子がね、三年になって大学進学のために面接に行ったのよ。

 その面接でね、その子は大失敗をやらかした。

 大学は、その子の高校の近くにあって、大学の関係者は、日ごろから高校のアレコレをよく知っていたのね。

「君の学校は、いろいろあるよね」

「はあ」

「登下校では、道いっぱいに広がって交通の邪魔だし、注意したら突っかかって来るし。こないだなんか、うちの学生の自転車ひっくり返したり、幼稚園児を突き飛ばしたり、ひとの庭をショートカットに使ったり、駐車場に入り込んでタバコすったり……」

 事実なんだけど、学校の悪口を言われて、その子は頭にきたのね。

「こんな悪口ばかり言う大学は、こっちから願い下げだ!」

 椅子を蹴飛ばして面接会場を飛び出してきちゃった。

 帰り道、その子は後悔してね、その足で学校に戻って先生に謝ったのよ。

「ごめん、悪口ばかり言われて、カッときてしまって、取り返しのつかないことやってしまった」てね。

 高校の先生は真っ青になって大学にお詫びの電話をいれたわ。

「申し訳ありません、うちの生徒が……」

 受話器を持ったまま平身低頭して、謝ったらね、大学の先生が、こう言うの。

「いえいえ、今どき珍しいほどピュアな愛校心を持った生徒さんです!」

 絶賛されてね、結局は合格になったんだって。

 ちょっと、いい話でしょ。

 わたしの孫としても、ヤマセンブルグの王女としても伝えておきたいお話だと思ってメールしました(^0^)。

 

 分かってるよ、お祖母ちゃん。

 発信時刻は、ちょうど、あの元内親王さまが、ニューヨークの空港に着いた時間だもん。

 

 めちゃくちゃ間接話法なんだけど、愛情と感謝の気持ちが大事だということを言ってる。

 でもって、ぐるっと回って、お祖母ちゃんなりに元内親王さまを批判している。

 日本の総領事もなかなか、そういうやり方で遺憾の意を表しているんだよね、あの新婚夫婦に。

 

 そして、なにより、わたしをお祖母ちゃんなりに教育してくれてるんだよね(^_^;)

 

 ハ~~~~~~~~~

 

 いろんな意味でため息が出る。

 

 ん?

 

 ちょ、ソフィア、なにニヤニヤ笑って! いつから、そこに居るのよ!?

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普通科高校の劣等生・8『家庭訪問』

2021-11-16 05:41:04 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
普通科高校の劣等生
8『家庭訪問』   




 家に帰ると居場所が無くなっていた!

 うちは3LDKなので、妹の伸子とは10・5畳の部屋をシェアリングしている。一応折り畳みの間仕切りはあるんだけど、普段は半分開けて、テレビや本棚の入ったボードなんかを共有している。

 で、それぞれ間仕切りで隠れたところにベッドを置いて一応のプライベートスペースと言うことにしてある。ドアは別々にあるんだけど、つい便利なので手前の妹のスペースのドアを使っている。子供の頃に間仕切りなんかしていなかった頃の名残で、伸子も特になんとも言わないので、そういうことになっている。

 ところが、その共用のドアを開けると間仕切りが完全に閉められて、オレは行き場所が無くなって茫然とした。

「あ、兄ちゃんのは全部そっちのほうにやっちゃったから。出入りも自分のドアを使ってね」

 そう言われて部屋を見渡すと、テレビはもちろんボードも完全に取り込まれてしまって、オレの本とかフィギュアとか、オレに関するものは、何一つ見当たらない……いったい、なんの仕打ちだ!?

 オレのスペースのドアは、普段使わないので、背の低いボードなんかが置いてあって普段は開けることができない。それが、スッと開いた。

 中は、完全に物置状態に成り果てていた。リビングに置いてあった、小学校の頃のトロフィーやら、ソファーに載っていたオレ用のクッション。ダイニングのオレの椅子から、玄関のサンダル……。

「あ、これもしまっといてね」

 伸子は、いまオレが玄関で脱いだばかりの靴まで持ってきた。

「ほんとは、お父さんのも片付けてあったんだけど、スペース的にね。だから、内縁の男がいることにした。ちょっと同情を買うシュチュエーションになったと思わない?」

 ピンときた。

 玄関のドアに出てみると、勘はあたっていた。表札が登坂だけになっていて、落葉のは外され、表札が張ってあった周りの汚れもきれいに拭かれていた。

――家庭訪問があるんだ!――

 前も言ったけど、うちの両親は出来心で離婚し、そのうちに引っ越し先を探すのが面倒になり。経済的には一緒にいる方が何かと便利なので一緒に暮らしていながら、所帯は別と言うことになっている。だから、当然学校も伸子は母子家庭。オレは父子家庭と思われている。

 オレは劣等生と言う以外、なにも問題のない生徒だ。妹も、今日の午前中までは問題のない普通の女子高生だった。それが授業をエスケープして、生活指導の部屋に連れていかれ、だんまりを決め込んだ上に、国語の福田先生を張り倒してしまい、エスケープと対教師暴力で停学になったのだ……慣例から言って、教師の家庭訪問がある……そうだったんだ。

 それから、お袋が帰ってきた。

 事情は伸子本人と学校からの連絡で知っている。いろいろ愚痴をこぼしたあと、オレに、外に出てろと言った。で、ついでに晩飯の材料を買いにスーパーまで行けということになった……ところで、玄関のチャイムが鳴った。

 オレは、仕方なく物置と化した自分のスペースに潜り込んだ。

 なんせ、狭い3LDKだ、リビングで喋っていることがまるまる聞こえてくる。

 やってきたのは、担任の八重桜(ハナより前にハが出る)さんと、生指の梅本のオッサンだ。

「……だんまりの訳がわかったよ」
「友情からだったのね……」

 梅本と八重桜さんの話は意外だった。

「二組の鈴木が、全部喋ってくれたよ……」

 それから、しばらくダンマリが続いた。

「鈴木さん……妊娠してるのよね」

 八重桜さんが言うと、伸子がワッと泣き伏すのが分かった。

「友美も同じ時間にエスケープしとったんで、直ぐに分かった。妊娠のことも直ぐに話した。だけど、相手の男のことは言わないんだよな」
「登坂さん、事情を知ってたら教えてくれないかな。こういうことは男に責任があるの。なんたって鈴木さんは未成年なんだからね」

 伸子は、泣き崩れるばかりで、なかなか答えを言わなかったが、冷静に考えれば大人の力を借りなければ解決のしようのない問題だ。伸子は、しゃくりあげながら真相を言った。

「相手は……数学の陣内先生です」

 !!!……思わず声が出てしまうところだった。

 陣内と言えば、この春に来たばかりの新卒教師で、一部の女生徒からは人気があった。しかし、商品に手を出さないというのは労働者の基本だろーが!

 事情が確認できたので、しばらく話した後二人の先生は帰って行った。事態は、一生徒の停学問題を超えてしまった。

 あくる日津守から、伸子の停学は3日になったことを教えられた。

 レギュラーよりも4日短いので、津守は首を捻っていた。さすがの情報屋にも、新卒教師の不始末は伝わっていないようだった。

 分からないと言えばミリーだ。ヌードの絵を描く理由を言うと言って4日になるが、あれから何も言わない。まあ、無理に聞くこともないと思って、オレは二度目のミリーの絵を描くために成城に向かった。

 慣れかもしれないけど、その日のミリーは、前よりもスタイルが良く、肌の色艶にも大人びた美しさを感じた……。

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