大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・079『ニッパチに跨って第四層へ』

2021-11-14 12:50:57 | 小説4

・079

『ニッパチに跨って第四層へ』 加藤 恵    

 

 

 ニッパチも付いていくとせがんだ。

 ニッパチは法的には可変多用途作業機械に分類されて、厳密にはロボットでさえない。

 鉱山や建設現場では、いくらでも転がっている掘削機やコンプレッサーや鋲打機、もっと単純化すればカナヅチやねじ回しと変わりがない。多目的というか汎用の為に可変化されていて、その多目的機能のためにCPが搭載され、疑似人格が与えられているが、プログラムされた行動しかできないため、法的な人格が認められているロボットとは一線を画されている。

 だから、せがんでいると感じたのは人間である、こちらの感性で、ニッパチにすればプログラムされた災害時における選択順位の高い行動を示したに過ぎない。

 だけど、やる気は満々。

「え、この形態でいくのか!?」

 準備の整ったニッパチを前にして、兵二は顔色を変えた。

『はい、これが事故現場ではいちばん合理的』

「兵二って、長いのが苦手なの?」

「いや、蛇とかは大丈夫なんだけどね」

『脚はセンサーを兼ねているので、失くすと捜索能力がおちてしまう』

「ああ、いいよ、慣れたら大丈夫……だから」

 それでは……ということで、わたしと兵二はニッパチに跨って第四層に繋がる竪穴を降下した。

 

 ザザザ ザザザ ザザザ ザザザ ザザザ ザザザ ザザザ ザザザ ザザザ

 

 状況と安全を確認しながら降りていくので、ニッパチの足音は断続的になる。

「大丈夫?」

「あ、ああ(;'∀')」

 ニッパチは電柱ぐらいの太さのムカデ型に変態している。

 おまけにボディーは黒で、体節と脚はオレンジに近い黄色。つまり、まんまムカデの配色。

「色ぐらいはなんとかならないの?」

『安全基準にのっとった配色なので変えられません』

 なるほど、踏切の遮断機とかは、黒と黄色のダンダラで、あれは法的に決められていたはずだ。

 しかし、外国の基準では、もっと違う配色もあったはず……そうか、こういうところは西ノ島は番外地とはいえ、日本の法律が縛っているんだ。

『狭いところを通ります、先にニッパチが行きますから、安全が確認出来たら続いてください』

「分かった」

 わたしたちが下りると、ニッパチの体は半分の細さになって、斜めに曲がった瓦礫の隙間を下っていく。

 ギギギ

 鉄骨のきしむ音がした。

『人が通れる隙間を作りました、三分は持ちますから、降りてきてください』

「うん、ありがとう」

「…………」

 気持ちが悪いのか、兵二は言葉もない。

 

 なんと、ニッパチはらせん状になって瓦礫の内側からプレッシャーをかけて穴を広げてくれている。

 ギギギ ギギギ

 長くは持ちそうにないので、急いで降りる。

「…………」

 相変わらず、兵二は言葉を発しない。

 まあ、穴の内側をビッシリと螺旋になった巨大ムカデが貼り付いているのだから仕方がない(^_^;)

 そういうところを三か所も通過するころには、兵二も幾分慣れてきて、横に並んだ時などは息を感じるようになった。

「ひょっとして、息止めてた?」

「あ、だいぶマシになったから」

 ヘッドランプに浮きたつ兵二の顔は、まだ青白かったけどね。

『生体反応!』

 キッパリ言うと、ニッパチはガサガサと音を立てて、先に向かった。

 ガサガサガサガサガサガサ

 さっきと違って、一気に進んで行く。

 補強材が崩落しているところまで進むと、触覚を伸ばして、遭難者の安否を確かめる。

「どう、ニッパチ?」

『……たった今、生体反応が途切れました』

「そうか……」

『B鉱区のコムロさんです、位置情報と死亡時刻を送っておきます』

「頼むわ」

「捜索範囲を広げたほうがいいだろうな」

『十時の方角に微弱なパルス、おそらくロボット。二時の方角に微弱な生体反応……お二人でロボットの方へ行ってください、わたしは生体反応の方に向かいます』

「一人で大丈夫?」

『制限時間は、あと35分です、いっしょに回っていては、どちらかを諦めなくてはなりません』

「分かった」

『危険と思ったら、引き返してください。対人センサーはお二人の方向に指向しておきますから』

「ああ、でも全力を尽くしてくるよ」

「それじゃ」

「ニッパチも気を付けて」

『イエス、マム!』

 一番前の右脚で敬礼すると、ニッパチは二時方向の崩壊した坑道をガサゴソと進んで行った。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

 

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普通科高校の劣等生・6『サンルーム まずはデッサン』

2021-11-14 05:06:35 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
普通科高校の劣等生
6『サンルーム まずはデッサン』   





 ミリーの家は、天下に名だたる成城だった……。

 五百坪はあるだろう。でも、建物の品がいいので、外観は、それほどのお屋敷とは感じさせない……と言っても、他のお屋敷と比べての話で、オレを3LDKの自宅と比較して、気後れさせるのには十分なお屋敷だ。

 ドアホンを押すとミリー自身の声がした。

「どうぞ、そのまま入ってきて。ロックは解除してあるから」

 門から玄関まではうちの敷地の縦よりも長くて、入った玄関だけでもオレの部屋よりも広い。ミリーは生成りのワンピースで迎えてくれた。制服姿のミリーしか知らないオレには、とても新鮮だった。

 同時に難しいと思った。生成りのコットンというのは表現がとても難しい。オレが持ってきた授業用の12色の油絵具ではとても表せないだろう……てなことを心配しているうちにリビングに通された。

「あら、絵の具持ってきてくれたのね」

「あ、うん。だって絵を描くんだろ。その……ミリーの肖像画。キャンパスは一応8号。ま、今日はとりあえずデッサンだけで終わりそうだけどね」

「あの……一応うちで絵具とか用意してあるの。できたら、それを使って欲しいんだけど」

 その一言で、かなり高級な絵具と画材を用意してくれているような気がした。12色以上の絵具を使ったことのないオレにはとても嬉しい。オレって、そのへんは超えに出さずとも素直に表情に出る方なんで、ミリーも直ぐに喜んでくれた。

「朝の光を大事にしたいんで、お茶飲んだらすぐにかかってくれる?」

「うんうん、朝の光って人間の肌を一番きれいに見せるんだ。すぐとっかかろう……アチチ!」

 急いでお茶を飲んだので、舌をやけどした。そんなオレが可笑しいんだろう、ミリーはコロコロと笑った。

 サンルームは十二畳ほどの広さで三方が格子の入ったガラスの壁になっている。淡いグリーンを基調とした内装で、人物画を描くのにはうってつけだ。

 覆っている布が取られるまで、それがキャンパスだとは気付かなかった。

 なんちゅうか等身大(^_^;)。

 オレは12号以上のキャンパスなんて使ったことが無いから、サイズが分からない。畳一枚分と言えば分かるだろうか。

「ウワー……とりあえず、顔のデッサンだけやらせてくれる。人物画は顔が命だからね、描いてもらいたい姿勢と表情くれるかな」

 ミリーはあらかじめ決めていたんだろう、スックと立つと斜めに向き、上半身をこちらに捻り、軽く微笑んだ。

「お家の人は……挨拶とかしなくてもいいのかな?」
「親は二人ともお出かけ。家政婦さんはお休み」

「え……じゃ、兄弟とかは?」
「トドムくんは?」
「あ……オレも一人っ子。で、親父と二人の父子家庭」

「……そうなんだ」

 ミリーの表情が少し曇った。

「あ、おれ、そういうの気にしてないから。そんなの気にしてるようならダブって二度目の二年生なんかやってらんねえから」
「アハハ。トドムくんのそういうとこ好きよ。なんで、こんなユニークな生徒落第させるかなあ」
「学校にも好かれてんの。三年で出られたら寂しいって」
「アハハハ……」

 ひとしきり笑ったり喋ったりしているうちに、デッサンが出来上がった。

「え、あたしって、こんななの?」
「うん、オレの目を通してだけどね。そこの鏡を見てみろよ」

 ミリーは、デッサンを持って鏡の前に立った。

「……なるほど、あたしから迷いを取ったら、こういう顔になるんだ」

 オレは、分かっていなかった、ミリーの中の迷いや悩みを。

 互いに美しい誤解をしていたと思う。逆に、ミリーの迷いや悩みを正確に知っていたら、この肖像画は引き受けられなかっただろう。

「じゃ、キャンパスに下書きしていこうか!」
「うん!」

 ミリーは生成りのワンピースを脱いだ。

 その下はなにも身に着けていなかった……。

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