大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・081『おにぎり』

2021-11-25 12:22:28 | 小説4

・081

『おにぎり』 加藤 恵    

 

 

 ニッパチはロボットのカテゴリーにも入らない多用途作業機械だけど、共感通信ができる。

 共感通信とは情報の並列化と言ってもいい。

 同型機や、形式の合う機械同士で情報が共有できる。ナバホ村のサンパチやフートンのイッパチも同様だ。

 また、同型機でなくとも位相変換することで人間を含む他者とも交流が可能で、大人数が働く建設現場やスタジアムなどの警備に向いている。

 ただ、二世代前の量子エネルギーで動作しているので、その通信範囲や速度には限りがあって、この西ノ島ぐらいの広さが限界。

 しかし、パルスガスが発生してパルス動力がいっさい使えない事故現場では頼みの綱と云っていい。

 

 ニッパチは、変態しているムカデ型ボディーの結節点からリアルハンドを伸ばして、被災者との連絡をとろうとしている。

 

『見つけました! 被災者の手に触れてます!』

「共感通信できそうか?」

 兵二が身を乗り出す。身を乗り出したところで通信の感度が上がるわけではないけど、こういう、思わず無駄な動きが出てしまうのは好ましい。

『はい、被災者の声は共感通信で送ります』

「ニッパチ、ケガの具合から聞いてあげて」

『ラジャー』

 ジジジ ジジ

 同期させるためのノイズが少しあって、繋がった。

―― ありがとうございます、もう、脚の感覚がありません……左手も持ち上がらなくなってきました ――

「増援が来たらすぐに助けるから、もう気楽にしてくれていいよ」

 兵二が語りかけ、わたしが被災者データのモニタリングをやる。

 血圧が下がって、拍動も弱くなってる。

『止血と強心剤の注射をします、ちょっと、チクっとしますよ……』

―― う、うん……あ、これって看護婦さんの手だ…… ――

 看護師を看護婦と言ってる、これは、マース開拓団の出身?

「きみは、マース開拓団の出身かい?」

―― え……どうしてですか? ――

「今どき、ナースの事を看護婦って呼ぶのは火星人くらいだからね」

―― え、あ…… ――

「いや、前歴を詮索するするつもりじゃないんだ、僕も火星人だからね」

―― そうなんですか ――

 西ノ島では人の前歴に触れるのはマナー違反だ、だから戸惑いがあるんだろう。

「つい懐かしくて、ごめん、ちょっとマナー違反だったね」

―― いえ……父の代で引き上げて、静かの海再開発公社で働いていました ――

 マース(火星)開拓から月の再開発、そして、辺境の小笠原諸島での鉱山労働……並みの苦労じゃない。

「僕は、先月まで、扶桑にいた」

―― 扶桑ですか……わたしも行きたかった……家族全員の移住が認められなくて……父は、家族全員でなきゃダメだって……それで、月に…… ――

『義体化はレベル1ですね、右の大腿骨と筋肉がハザマの01タイプです』

 ハザマ01、何世代前の義体パーツ? 開拓団だから、たぶん事故による欠失。

「僕は、ナバホ村の本多兵二、僕の横には氷室カンパニーの加藤恵さんが居る。もうじき地上とも連絡がとれて、本格的な救助作業がはじまるからね」

―― ありがとうございま……じゃ、この手は…………え、え……うそ、お母さん? ――

 意識が混濁し始めてる、ニッパチのリアルハンドをお母さんと勘違いしてるんだ。

『え……そうよ、今夜は夜勤だから、お惣菜はテーブルの上、マースポークのフライだから、一人二個ずつね。大きい小さいで姉弟げんかしないよう、チルルはお姉ちゃんなんだから、頼んだわよ。ご飯は炊きあがって保温になってるから、お爺ちゃんには、かならず二回は声かけてね』

―― うん、一回だと忘れちゃうもんね ――

『そろそろケアマネさんに来てもらって、認定のしなおし……』

―― 大丈夫だよ、わたしが付いてるから ――

『そうね、こんどお父さんと休みが重なった時に相談しよっか』

―― お母さん ――

『え、なに?』

―― おにぎり作ってくれない? ――

『なに? お腹空いた?』

―― お母さんの手見てたら、小さいころに握ってくれたおにぎり思い出して、食べたくなった ――

『フフ、チルルはよく食べる子だったから、晩御飯まで待てなかったのよね……よし、出勤まで三分ほどあるから、握ってあげよう』

―― ありがと、嬉しい ――

『……はい、熱々だから、気を付けてね』

―― うん! ハム……美味しいよ……お母さんのおにぎり……ハム……ハム………… ――

『チルルったら』

―― お、おい……し………… ――

『チルル……………』

―― …………………………………………………… ――

『午前9時25分……ご臨終です』

「そんな……」

 

 イッパチとサンパチがフートンのトラックほどの大きさのパルス清浄機を担いできたのは、その三分後。

 そして、本格的に救助作業が再開されたのは30分後のことだった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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ライトノベルベスト『スクールボブ』

2021-11-25 06:09:50 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『スクールボブ』  




「やらないでおいた後悔は、やってしまった後悔よりも大きいから」

 照れたような顔で、そう言うと、沼田君は立ち上がった。
「じゃ、佳乃子さんも元気で!」
 一度振り返って、快活そうに言うと、沼田君は公園を出て行った。
 佳乃子さんという呼び方に、沼田君の傷を感じる。名前でいいわよと言ったら、ぎこちなく「佳乃子」と、さっきまでは言っていた。
 それまでは「支倉さん」だった。
 友だちでいようよという、いつもの優しい断り方をしたら、次の瞬間から、佳乃子に「さん」が付いてしまった。
 どう断っても、男の子は傷つく……分かっているんだけどなあ。

「ロングヘアーは、そそるよ」

 今城君を袖にしたときにお母さんに言われた。
 わたしは子どものころから髪を伸ばしている。わたしにとっては、伸ばした髪が自然だった。
 ネットで検索したら、男の子が一番好きなのが黒髪のロングだと出ていた。てっきりツインテールだと思っていた。親友のミポリンなんか典型で、カワイコブリッコして、よろしくやっている。今城君も、今はミポリンと付き合っているみたいだし。

 わたしは、男の子だけじゃなくても、束縛し合うような付き合いは御免だ。

 だから、コクられたら断ってしまう。もちろん相手が傷つかないように気をつかうが、男の子というのはデリケートなもので、ふつうの友だちのカテゴリーからも抜け出て行ってしまう。で、わたしは凹んでしまう。
「気づいてなかった? 佳乃子のロンゲは凶器だよ!?」
 ミポリンに言われて決心。お財布を握って咲花商店街のマルセ美容室へ。

「え……うそ、お休み?」

 開かない自動ドアの前で、30秒ほど佇んで気づく……そうだ、今日は火曜日だ。
 今日実行しなければ決心が鈍る。スマホで開いている美容院を調べる……あった!
 隣町のこっちよりにあるので、急ぎ足で向かう。

「すみません、ショートにしてください」

 たいての美容院が定休日だというのに、その美容院は開いていた。わたしが入ると入れ替わりにお客さんが出て行き、お客は、わたし一人になった。
「どのようなショートにしましょうか?」
 睡蓮と名札を付けた美容師さんが「いらっしゃいませ」の後に聞いてきた。
「えと……どこにでもあるようなショートヘアにしたいんです」
「高校生ですか?」
「はい、この春で3年生です」
「じゃ、なじんだ感じのスクールボブかな?」
「それでいいです」
 
 こんな平凡な顔になるんだ。

 できあがった頭を見て思った。これでいいという気持ちと寂しさの両方が胸に押し寄せてきた。
「悪くないですよ、佳乃子さんの新しい可能性が開けますよ」
「どんな可能性ですか?」
 リップサービスだと分かっていたけど、つい聞き直してしまう。
「沼田君や今城君とも、いい関係でおられます」

「え……?」

 なんで知っているんだろう? 睡蓮さんは聞き上手なので、カットしてもらっている間にいろいろ喋った。その中で、ひょっと口が滑ったのかもしれない。
 よそが定休日の日に開いているのはありがたいので、お店を出てから確認。通りに面したガラス壁にSEIREN(セイレン)と書かれていた。

 それからは、コクられることは無くなった。でも寂しくはなかった。

 男女にかかわらず、友だちがすごく増えた。それまで帰宅部だったのに、3年生であるのにもかかわらずテニス部に入ったりもした。
「あ、いたんだ!?」
 入部したあくる日に男子テニスに沼田君が居るのを発見。隣り同士のコートなので、あたりまえに友だちになれた。
 そんなこんなで、楽しく肩の凝らない高校生活が送れた。

「ええと……ここらへんだったんだけどなあ」

 わたしは八年ぶりにセイレンを探している。
 ずぼらなわたしは、あれからは咲花商店街のマルセ美容室ですましていた。

 あれから七年目に結婚し、こんど主人の転勤で住み慣れた街を離れることになり、引っ越し先でもうまくいくようにセイレンでカットしてもらうことにした。

 が、見つからない。あれから七年もたっているのだから仕方ないか……。

「あら、沼田さん!」
 そう呼ばれて反応するのに時間が掛かった。ふだんは旧姓を使っているので、新しい苗字にはまだ馴染まない。呼び止めたのは向かいの伊藤さんの奥さんだ。
「美容院だったら、この裏にありますよ。あたしも行くところだから」
「あ、そうなんですか!?」
 そして着いたのは別の美容院だったが、なじみのスクールボブ……いまや、わたしのトレードマークに磨きをかけてもらった。

  でも、伊藤さん、なんでわたしが美容院探してるの分かったんだろう?

 ま、いいや。帰ったら高校以来の付き合いの沼田君……主人に話しておもしろがろう!
  

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