大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 47『風速6ノット!』

2021-11-30 17:10:00 | ノベル2

ら 信長転生記

47『風速6ノット!』  

 

 

 てっきり南の大森林から潜入するものと思っていた。

 

 三国志の長城は大森林と付かず離れずのところを東西にのびている。

 長城にはいくつかの関門があって、人の行き来がある。

 その、人の行き来に紛れて三国志の領内に潜入するのが普通だ。

 

 しかし、ここへきて俄かに関門の警備が厳重になり、なにに化けようと関門からの潜入は不可能という知らせが生徒会からもたらされた。

 ひょっとして偵察隊の派遣は中止か?

 決まったことを覆すのは性分に合わない。しかし、妹の市は、気持ちがいっぱいいっぱいだ。

 昨日、市に詰め寄られた敦子が「ちょっと、あの子ヤバイわよ」とこぼしていた。

 敦子は、あれでも熱田大神の化身。それがヤバイというのだから、とても偵察隊の任務など務まらないだろう。

 市の代わりには織部か武蔵にやらせればいいだろうと思った。

 

 しかし、俺と市の兄妹編成も出発にあたっては変更は無い。

 

 生徒会は、俺たちが紙飛行機に乗って越境を果たすことに変更した。

「間もなく、南風が5ノットを超えます」

 織部が時計と風速計の両方を見ながら神妙に声をあげる。

 決定したのは生徒会だろうが、技術的な立案者は、この御山の南斜面、織部と並んで上昇気流を読んでいる二宮忠八だ。

 二人乗りの紙飛行機が存在しているのは、目の前にそれが見えていても不思議なのだが、忠八は、こう見えても飛行神社の祭神なのだ。神としての力を振り絞れば、これくらいのことはやってしまうのだろう。

 この神業が扶桑に迫った危機感からなのか、市への想いからなのかは分からないが、文字通りこれに乗るしかない。

 ここで中止になれば、世間はどう思う。

 織田兄妹ラッキー! あるいは 織田兄妹命拾い! 妹と共に胸をなでおろす信長! 

 けして進んで引き受けた役目ではないが、そんな人を見下げた同情心などごめん被る。

 たとえ、墜落して命を落とし、再び本能寺の変をやり直すことになろうと、俺はこの道を進む。

「お兄さん」

「俺は、お前の兄ではない」

「す、すみません。信長さん」

「なんだ?」

「こ、これを市さんにお渡しください」

 忠八の手には、飛行神社の朱印が押されたメモ帳のようなものが載っている。

「メモ帳か?」

「いえ、飛行神社のお御籤用の紙片を閉じたものです」

「いよいよ神頼みなのか(-_-;)?」

「いえ、偵察の報告とか……なにかお困りのことが起きましたら……」

「どこかの神社の木の枝に結んでおけか?」

「いえ……紙飛行機にして飛ばしてもらったら、ぼくのところに飛んできます」

「そうなのか?」

「はい、いちおうは……」

「そうか、おまえも、いちおうは神さまであるか」

「ハ、ハヒ(;'∀')」

 どれだけ役に立つのかは分からないが、こいつは掛け値なしの善意なのだろう。

「うん」

 頷いて妹に渡してやる。

「なに!?」

「尖がるな、忠八からの心遣いだ」

「う、うん」

 市もいっぱいいっぱいなんだろう、怒ったような顔を向けておしまい。

 それでも通じたようで、忠八は頬っぺたを真っ赤にして頭を掻いた。

 

「風速6ノット!」

 織部が叫ぶ。

 

「いくか」

「お、おう」

 兄妹二人して、紙飛行機に跨る。

 手をかしてやると、市の手は異様に冷たい。緊張が頂点に達しているんだ。

「信玄! 謙信! 頼んだぞ!」

「おお!」

「任せておけ!」

 手を挙げた二人の鞍にはロープが繋がれて、この紙飛行機に繋がっている。

「コンタークト!」

 三成が懐中電灯を左右に振って、噛まされていたチョーク(車止め)が外される。

「発進!」

 その一言だけが仕事の今川生徒会長が号令をかけ、後ろで控えていた乙女生徒会長と利休が機嫌よく手を振って、見送りに来ていた学院と学園の生徒たちが、それに倣う。

 ハッ!!

 信信コンビが馬に鞭を当てる。

 ビン!

 一瞬の唸りを上げると、紙飛行機はグンと機首を上げて、夕闇迫る扶桑の空に舞い上がった!

「パージ」

 声を掛けると、コクンと頷いてレバーを引く市。牽引ロープが蛇のように落ちていく。

 

 グウーーーーーン

 

 さらに勢いを増して、紙飛行機は大森林の向こうに垣間見える三国志の長城を目指した。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 
  •  

  

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ライトノベルベスト〔左足の裏が痒い……〕

2021-11-30 05:43:14 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
 左足の裏が痒い……〕   




 

 左足の裏が痒くて目が覚めた。

 覚めたと言っても、頭は半分寝ている。無意識に膝を曲げて手を伸ばす。

 掻こうと思った左足の裏は、膝から下ごと無くなっていた。

「あ、まただ……」

 そう呟いて、あたしは再びまどろんだ……。

 目覚ましが鳴って、本格的に目が覚める。

 お布団をけ飛ばして、最初にするのは、パジャマの下だけ脱いで左足の義足を付けること。

 少し動かしてみて、筋電センサーがきちんと機能しているのを確かめる。

―― よし、感度良好 ――

 そして、再びパジャマの下を穿いて、お手洗いと洗顔、歯磨き。

 それから部屋に戻って、制服に着替える。そして、念入りにブラッシング……したいとこだけど、時間がないので手櫛で二三回。自慢じゃないけど髪質がいいので、特にトリートメントしなくても、まあまあ、これで決まる。

 むろん、セミロングのままにしておくのなら、これでは気が済まない。きゅっとひっつめてゴムで束ねた後、紺碧に白い紙ヒコーキをあしらったシュシュをかける。

 

 これで、標準的なフェリペ女学院の生徒の出来上がり。

 お父さんが出かける気配がして苦笑、直ぐにお母さんの声。

「早くしなさい、遅刻するわよ!」

 遅刻なんかしたことないけど、お母さんの決まり文句。あたしと声が似ているのもシャクに障る。

「はーい、いまいくとこ!」

 ちょっと反抗的な感じで言ってしまう。実際ダイニングに降りようとしていたんだから。

 お父さんが、ほんの少し前まで居た気配。お父さんの席に折りたたんだ新聞が置いてある。

「まだ、そこに新聞置くクセ治らないのね」

「え……」

 洗濯物を、洗濯機に入れながらお母さん。

「そういうあたしも、お父さんが出かける気配がするんだけどね」

 と言いながら、ホットミルクでトーストとスクランブルエッグを流し込む。

「また、そんな食べ方して。少しは女の子らしく……」

「していたら、本当に遅刻しちゃう」

「それなら、もう五分早起きしなさい!」

「こういう朝のドタバタが、年頃の女の子らしいんじゃん」

「もう、減らず口を……」

「言ってるうちが花なの。ねえ、一度トーストくわえたまま、駅まで走ってみようか!?」

「なにそれ?」

「よくテレビドラマとかでやってんじゃん。現実には、そんな人見たことないけど」

 これだけの会話の間に食事を済ませ、トイレに直行。入れてから出す。健康のリズム。

 消臭剤では消しきれなかったお父さんのニオイがしない。ガキンチョの頃から嗅ぎ慣れたニオイ。

 

 これで、現実を思い知る。

 

 お父さんは、もういない……三か月前の事故で、お父さんは、あたしを庇って死んでしまった。

 あたしは、左足の膝から下を失った。

 最近、ようやくトイレで泣かなくなった。

「よし、大丈夫」

 本当は学校で禁止されてんだけど、セミグロスのリップ付けて出発準備OK!

「いってきまーす!」

「ちゃんと前向いて歩くのよ、せっかく助かった命なんだから」

 少しトゲのある言い方でお母さん。

 あのスガタカタチでパートに出かける。あたしによく似たハイティーンのボディで。

 あの事故で、お母さんはかろうじて脳だけが無事で、全身、義体に入れ替わった。オペレーターが入力ミスをして、お母さんの義体は十八歳。

 一応文句は言ったけど、本人は気に入っている。区別のため、お母さんはボブにしているけど、時々街中で、友だちに、あたしと間違われる。

 駅のホームに立つと、急ぎ足できたせいか、また左足の裏がむず痒くなる。

 この義足は、保険の汎用品なので、痒みは感じないはずなんだけど……。

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泉希 ラプソディー・3〈泉希着々と〉

2021-11-30 05:23:47 | 小説6

ラプソディー・03
〈泉希着々と〉    



「泉希ちゃん、このお金……」

 嫁の佐江が、やっと口を開いた。

「はい、お父さんの遺産です」
 
「こ、こんなにあるのなら、もう一度遺産分けの話しなきゃならないだろ、母さん!」

 亮太が色を成した。

「あ、ああ、そうだよ。遺産は妻と子で折半。子供は人数で頭割りのはずだわよ!」

「そうだそうだ」

「アハハハ」

「な、なにがおかしいの!?」

「だって、お父さんの子どもだって認めてくれたんですよね!?」

「「あ……」」

 5000万円の現金を目の前に、泉希をあっさり亮の実子であることを認めるハメになってしまった。

 そして。

「残念ですけど、これは全てあたしのお金です」

「だって、法律じゃ……」

「お父さんは、宝くじでこれをくれたんです。これが当選証書です。当選の日付は8月30日。お父さんが亡くなって二週間後です。だから、あたしのです。嘘だと思ったらネットで調べても、弁護士さんに聞いてもらってもいいですよ(^▽^)」

 亮太がパソコンで調べてみたが、当選番号にも間違いはなく、法的にも、それは泉希のものであった。

 

 泉希は、亮太が結婚するまで使っていた三階の6畳を使うことにした。机やベッドは亮太のがそのまま残っていたのでそのまま使うことにした。足りないものは三日ほどで泉希が自分で揃えた。

 

「お母さん。あたし学校に行かなきゃ」

「今まで行っていた学校は?」

「遠いので辞めました。編入試験受けて別の学校にいかなきゃ!」

 泉希は三日で編入できる学校を見つけ、さっさと編入試験を受けた。

 

「申し分ありません。泉希さんは、これまでの編入試験で最高の点数でした。明後日で中間テストも終わるから、来週からでも来てください」

 都立谷町高校の教務主任はニコニコと言ってくれ、担任の御手洗先生に引き渡した。

「御手洗先生って、ひょっとして、元子爵家の御手洗さんじゃありませんか?」

 御手洗素子先生は驚いた。

 初対面で「みたらい」と正確に読めるものもめったにいないのに、元子爵家であることなど、自分でも忘れかけていた。

「よく、そんなこと知ってたわね!?」

「先生のお歳で「子」のつく名前は珍しいです。元皇族や華族の方は、今でも「子」を付けられることが多いですから。それに、曾祖母が御手洗子爵家で女中をしていました」

「まあ、そうだったの、奇遇ね!」

 付き添いの今日子は、自分でも知らない義祖母のことを知っているだけでも驚いたが、物おじせずに、すぐに人間関係をつくってしまう泉希に驚いた。

 泉希は一週間ほどで、4メートルの私道を挟んだ町会の大人たちの大半と親しくなった。

 

 6人ほどいる子供たちとは、少し時間がかかった。今の子は、たとえ隣同士でも高校生になって越してきた者を容易には受け入れない。で、6人の子供たちも、それぞれに孤立してもいた。

 町内で一番年かさで問題児だったのは、四軒となりの稲田瑞穂だった。

 泉希は、平仮名にしたら一字違いで、歳も同じ瑞穂に親近感を持ったが、越してきたあくる朝にぶつかっていた。

 

 早朝の4時半ぐらいに、原チャの爆音で目が覚め、玄関の前に出てみると、この瑞穂と目が合った。

 

「なんだ、てめえは?」

「あたし、雫石泉希。ここの娘よ」

「ん、そんなのいたっけ?」

「別居してた。昨日ここに越してきたんだよ」

「じゃ、あの玉無し亮太の妹か。あんたに玉がないのはあたりまえだけどね」

「もうちょっと期待したんだけどな、名前も似てるし。原チャにフルフェイスのメットてダサくね?」

「なんだと!?」

「大声ださないの、ご近所は、まだ寝てらっしゃるんだから」

「るっせえんだよ!」

 ブン!

 出したパンチは虚しく空を打ち、瑞穂はたたらを踏んで跪くようにしゃがみこんでしまった。

「初対面でその挨拶はないでしょ。それに今の格好って、瑞穂があたしに土下座してるみたいに見えるわよ」

 カシャ

「テヘ、撮っちゃった(^ν^)」

「て、てめえ……(╬•᷅д•᷄╬)」

「女の子らしくし……っても、瑞穂は口で分かる相手じゃないみたいだから、腕でカタつけよっか。準備期間あげるわ。十日後、そこの三角公園で。玉無し同士だけどタイマンね、小細工はなし」

「なんで十日も先なのさ!?」

「だって、学校あるでしょ。それに、今のパンチじゃ、あたしには届かない。少しは稽古しとくことね」

 そこに新聞配達のオジサンが来て「おはようございます」と言ってるうちに瑞穂の姿は消えてしまった。

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