大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 43『市 生徒会長に呼び出される』

2021-11-06 14:03:58 | ノベル2

ら 信長転生記

43『市 生徒会長に呼び出される』  

 

 

 責任を感じてくれるのは嬉しいんだけど、顔色を窺うように付きまとわられるのはね……

 

 いや、本人には、そんな卑しい意識は無い。

 分かってる。

 だから、おへその所に力を入れて、その分、顔の緊張は解して振り返る。

 案の定、屋上のフェンスにしがみ付くようにして見送る忠八くんの眉は、心配でヘタレている。

「だいじょうぶ! わたしも、天下の市だからねぇ!」

 もう四回目の『だいじょうぶ!』を繰り返す。

 これでだいじょうぶ! って感じでピキッと敬礼。

 忠八くんと紙飛行機飛ばすようになってからは、挨拶は敬礼になってきた。

 やっぱ、紙とはいえ、ヒコーキを飛ばす人間は敬礼がよく似合うのさ。

 視界没寸前の紙ヒコーキを追いかけていったら、三国志から越境してきた袁紹ってやつの部隊と出くわして殺されかけた。そのことを忠八くんは気に病んでいる。

 三国志が攻めてくるなんて予想もつかないことだったし、宮本武蔵が助けてくれて事なきを得たんだら、そんなに気にすることは無いと思うんだけど。まあ、気性なんだ。忠八くんが落ち着くまでは、嫌な顔なんかしないで受け止めてあげようと思ってるよ。

 忠八君が、紙ヒコーキを折りかけのまま屋上に駆けあがってきたのは、生徒会からの伝言があったから。

「生徒会長が、織田さんを呼んでる。織田さん、ひとりで生徒会長室に来いって(;'∀')」

「生徒会長が?」

 忠八くんは、息を吸って、いろいろ心配事とか慰めを言おうと口をパクパクさせた。

「分かった、行って来る」

 それだけ言って、階段を駆け下りてきた。

 忠八くんの善意は分かってる。

 でも、男がグダグダと慰めたり言い訳したりするのは大嫌い。

 どうも、この感性は兄の信長といっしょみたいだけど、あいつみたいに「殺してしまえ」とは思わない。まあ、張り倒しておしまい。でも、女に張り倒されてひっくり返る男を見るのは、もっとヤダし。

 あ、とにかく、生徒会長室に向かうのよ!

 

 生徒会長は坂本乙女。

 

 乙女だなんて、文字通り乙女チックな名前なんだけど、あいつは化け物だ。

 知ってる人は、もう名前だけでお見通しだよね。

 乙女は、あの坂本龍馬のお姉さん。

 まあ……あとは、じっさいの乙女の会ってのお楽しみよ。

 だって、もう会長室がすぐそこだからね。

 

『ヒエーー参ったあ!』

 

 もう三歩でドアの前というところで悲鳴が聞こえる。

 ヤバいところに来ちまった……足が停まると、乱暴にドアが開いて、意外な女生徒がボロボロで走り出てきた。

「え、ともえ……」

 痛む腰を押えながら、わたしの前を通っていったのは木曽義仲の実質的な妻の座にあった巴御前だ。

 日本史に残る女豪傑……それを、なんの勝負でかは分からないけど、あそこまでボロボロになるまでやっつけてしまって……ちょっと、タイミング悪すぎ(^_^;)。

「ああ、織田さん、もう来ちょったんだ、入ってよ」

 制服は着崩れているけど、勝利者の笑みをたたえながら、乙女生徒会長は、ドアから半身を出してオイデオイデをした。

 南無三……。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  今川 義元       生徒会長 

 

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ライトノベルベスト『星に願いを・4』

2021-11-06 06:15:52 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『星に願いを・5』  

 




「いいかげんに起きなさい!」

 母が本気で怒鳴った。怒鳴ると、意外に若やいだ声になる母だ。


「まあ、叱られるのも親孝行のうちよね……」

 一人ごちて、洗面所に行く。父が朝風呂に入ったせいだろう、洗面所の鏡は曇っていた。そういえば嫌に寒気がする。

「お弁当は鞄に入れといたから、さっさと着替えて、牛乳ぐらいは飲んでいきなさいよ!」

「……るさいなあ」

 歯を磨きながら、鏡を拭いた……そして驚いた。

「うそ!?」

 宏美は、慌てて自分の部屋に戻った。まずアナログのテレビが目に飛び込んできた。そして、壁に掛けた通勤用のツーピースに……それは高校生の時に着ていた制服に替わっていた。

「どうなってんの!?」

 カレンダーに目をやりながら、テレビを点ける。カレンダーは1999年の十一月になっており、テレビのニュースキャスターは、今日が十一月の二十日であると告げている。キャスターそのものも、宏美の記憶では白髪頭のはずであった。


――うそ、わたし戻っちゃったの!?

 宏美は、駅へ急いだ。

 急ぎながら街の様子を観察した。

 十数年では街の様子は大きく変わってはいない。しかし微妙に違う。

「お早うございます」と挨拶した筋向かいのオバサンも若返っていた。

 電柱を見上げるとヒカリのケーブルが無い。

 駅前近くのラーメン屋は、高校時代そうであった書店に戻っている。

 コンビニのガラスに映る自分の姿は完全な女子高生。制服で出ようとしたら、母がダッフルコートを投げてきた……そのダッフルコートのなんとイケていないことか。でも、そのイケていないところが、いかにも(あのころの)女子高生である。

 決定打は駅の改札だ。

 バタン!

 いつものようにピタパで改札を通ろうとしたら、機械に通せんぼをされてしまった。

――マジで戻ったんだ……。

 そして宏美は思い出した。この十一月二十日は、あの事件が起こる日だ。

 ホ-ムに着くと、まさに電車が出るところ。

――こいつは見送って、次のに乗るんだ。

 乗車位置を示すブロックの上に立つ。横に人の気配。

――浩一クンだ、高校時代の、あの日の浩一クンがいる。

「……オッス」

「お早う」

 あの日と同じ挨拶。高校生らしいそっけなさ。でも、一つだけ違っていた。

 宏美は浩一の……右側に立っていた。

 大人になってから身に付いた習慣「人と並ぶときは右側に立つ」 それを無意識でやっていた。

 ホームの人の列は、押しくらまんじゅうのようになってきた。

「ここじゃダメだわ、もっと前の方に行った方が、A駅は出口が近いわよ」

「急ご、もう電車来ちゃうわよ」

 普段乗り慣れていないオバサン数人が、団子になった列を割るようにして、移動してきた。

 パオーーーン

 電車の警笛が轟いた。

 宏美の後ろのオネエサンが、列割りオバサンに押された勢いで、宏美の背中にぶつかってきた。宏美はつんのめって、危うく線路に落ちそうになった。

 あ……!

 電車の先頭は、もう目の前に来つつあり、宏美は人生で初めて死を予感した。

 そのときガシっとダッフルコートごと制服の襟が掴まれる……はずであった。

 それは、スロ-モーションのように見えた。驚く人々の顔、その中で必死に宏美を救おうと右手を精一杯伸ばす浩一の苦悶の表情。

 浩一には一瞬の迷いがあった。

 左手が出かけたが届かない。そこで宏美に近い方の右手を出したが、左手ほどの俊敏さが無く、その手は虚空を掴むばかりであった。

 パオーーーーーーーン! キキキキイイイイイイイ!

 ブレーキのきしむ音と警笛が鳴り響き、鉄の焦げる臭い。

――わたしってば、なんで右側に立ったんだろう……

 そして視界いっぱいに広がる電車の顔。

 ドン!
 
 大きな衝撃がして、宏美の視界も頭も真っ暗になった……。


 エピローグ

「せっかく願いを叶えてあげたのに」

 頬杖ついて、天使が言った。

「お願い……?」

「なんだ、覚えてないの?」

「夕べ、電車の中で、流れ星に願いをかけたじゃないの」

「え……あ、そうだっけ」

「そうよ、それもミザールの星近く。めったにない願い星の掛け合わせだったから、効果バツグン」

「見ざーるの星……ハハ、笑っちゃうわよね、わたしってば」

「笑ってる場合!?」

 天使は、いらだったように、宏美の周りを飛んだ。

「あ、目が回っちゃうよ」

 宏美は、苦情を言った。

「そうだ!」

 天使は、何か思いついたらしく、急に止まった。宏美はスマッシュを受け損なったときのように、ひっくり返った。

「なによ、急に止まらないでくれる。目の前で星が回ってるわよ」

「それだよ!」

 天使は、鼻先まで近づいて羽ばたいて言う。

「その星に願いをかけてみたら、もう一回できるかもしれない!」

「あ……でも、もう星消えちゃった」

「あたしが手伝うわ」

 天使の手には、特大のトンカチが握られていた。

「これで、殴ってあげるから、そのとき自分の目から出る星に願いをかけてごらんなさいよ」

「そんなので殴られたら、死んじゃうよ」

「もう死んでるってば。ここは、あの世への入り口」

「あ……そ」

「死なないけど、気絶はするからね。気絶する寸前に願いをかけるのよ。かけそこなったら……」

「かけそこなったら……?」

「天国に行っちゃうからね……地獄ってことも、たまにあるかな……いい、覚悟は?」

「ウ……うん」

 ムツカシイことだけれど、命と夢がかかっているので、宏美は真剣になった。

「じゃ、いくよ!」

「よ、よろしく!」

「スリー……ツー……ワン……ゴー!!」
 
 ガツンと音がして、特大の星が出た……!

 一面の雲と青空の中に、天使が特大のトンカチを手に羽ばたいている。宏美の姿は無い。

 宏美がどこに行ったのかは、天使にも分からなかった……。

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