大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 44『乙女生徒会長』

2021-11-13 14:35:03 | ノベル2

ら 信長転生記

44『乙女生徒会長』  

 

 

 失礼しま……

 

 そこまで言って、固まってしまった(;'∀')

 入って左の壁は100インチのモニターが掛かっていて、そこに凄いものが映っていたから……

「やっぱね、足を掛けるタイミングはいいんだけど、ツボを外してしまうから……一気に勝負にもっていけないんだよね……」

 画面には、たった今まで行われていた巴御前との勝負のリプレイが流れている。

「巴は、まだ恥じらいが抜け切れていないから、勝負をかけるのは……そこ! ああ、外してる……」

 二人とも制服のまま床に寝っ転がって脚を絡め合って、脚相撲の真っ最中の映像。

 二人とも校則通りのスカート丈なんだけど、もう、女を捨てて勝負にのめり込んでるから、男には見せられない……と言うか、女でも、ちょっと目を伏せてしまう。

「巴はね『女が、こんなみっともない勝負をするか!』って言うんだけどね、本音はやる気満々だと思うのよ」

「で、ですか……」

「だって、わたしと勝負するときは、いつも純白のパンツ穿いてくるんだよ。これって『潔く戦います!』って、意思表示だよ、白は源氏のシンボルカラーでもあるしね。水泳の授業で一緒になって着替えた時はピンクだったしね……勝負になりそうな時は、わざわざ穿き替えてくれていると思うのよ。だったらさ、もっと果敢に攻めてくれても……ね、織田さん、一勝負していかない?」

「お誘いは嬉しいんですけど、ここは、まず、ご用件を……」

「織田さん、けっこう強そう……だしぃ」

 ここはきっぱり断っておかなければ、乙女さんの脚相撲は弟の坂本龍馬でさえ勝てなかったというしろものだ。あっちの世界に居たころは、とうぜん着物なわけで、着物というのはパンツというものを穿かない代物で、とうぜん試合が佳境に入るとあられもない姿になってしまう。

 ここはパンツを穿く世界だけども、たとえ、パンツを穿いていても恥ずかしいことには違いないわけ。

 だから、ここは、きっぱり言っておかないと。

「ご用件を! おっしゃってください!!」

「ちぇ、つまんない……」

 不貞腐れながらも、こちらの意志の強さは伝わったようで、しぶしぶモニターの画面を切り替えた。

 

『三国志偵察隊派遣要項   扶桑府  扶桑高等学校連盟』

 

 大層なタイトルの書類の表題が出てきた。

 乙女会長がスクロールさせると、まるでスマホかオンラインゲームの約款みたいに細かな字の長ったらしい文章が昇天するように流れていく。

「分かった?」

「い、いいえ」

「だよね(^_^;)、わたしも、ざっとしか読めてないんだけどね……ま、ここだけは、確認してよ」

 乙女さんがマウスをクリックすると、とんでもない決定事項が現れた。

 

 派遣隊員  織田信長(転生学院)  織田 市(転生学園)

 

「ちょ、ちょっと、なんですか、これは!?」

「だからね、予算の関係と、この転生世界扶桑全体の利益に関わることなので、費用も派遣隊員も学院と学園の双方から出すことに決定したのよ」

「で、でも」

「あなたたちは兄妹だし、あ、今は姉妹かな? とにかく、どちらの学校でもとびきりのホープだし。そうそう、学院の会長さんからもビデオレターが来てたはず……」

 乙女さんが数回クリックすると、学院の今川会長の上半身が現れた。

『こんにちは織田さん。あなたは奇しき縁で隊員に選ばれました。けして楽な任務ではありませんが、この転生世界の命運がかかっています。どうか、当学院の信長さんと手を携えて偵察の任務を果たしてください。もとより、この転生世界の安寧のためですが、任務を果たすあなたたちも来たるべき転生においてアドバンテージが上がるはずです。なかば試練と覚悟してお励みください』

 転生学院生徒会長   今川よしもと

「あの、なぜ今川会長の名前は平がななんですか?」

「ちょっと事情があってね、どうしても知りたければ教えないこともないけど……」

「いえ、けっこうです」

 無理に聞けば、きっと脚相撲を強要される。

「確約はできないけど、増援部隊を派遣できる方向で転生府とも協議を続けていくわ」

「それで、出発はいつなんでしょうか?」

「はい、明日ですよ(^▽^)」

 

 その……桂浜の水平線から昇って来る朝日みたいな笑顔で言って欲しくないんですけど。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  今川 義元       生徒会長 
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普通科高校の劣等生・5『あたしの絵を描いてくれないかしら』

2021-11-13 06:14:34 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
普通科高校の劣等生
5『あたしの絵を描いてくれないかしら』   



 

「あたしの絵を描いてくれないかしら」

 昼休みに、食堂でBランチをほとんど喰い終わったところで、オレの前に座り込んで転校生が慣れない校内の様子を聞くような気楽さで聞いてきた。もっともミリーは本物の転校生だから、ごく普通の会話に見えてるはずだ。

 このオファーに対するオレの反応と返事を説明する前に、なんでオレが一人でB定食を喰っているかを話しておく。

 妹の伸子は弁当だ、妹は入学以来弁当にしている。

 理由は簡単、その方がオレと兄妹であることを人に知られないためである。ほんでまた、お袋の仕込みが良かったわけじゃないけど、料理はうまい。食材は週一遍の生協で注文しておいて、朝10分ほどでお花畑みたいに可愛い弁当を作る。

 で、なんで、オレが食堂で一人ぼっちだったかと言うと、親友の澄人が推薦入試の面接で学校を公欠しているからだ。

 オレは、クラスには溶け込んでいない。ダブりであることもあって、クラスでは最初から敬遠されていた。絵が上手いこともプラスにはならない。絵と言うのは、なんとも孤独な芸術で、音楽のように群れることがない。また和気先生は授業中は静謐(せいひつ)を大事にしている。なんともストイックな時間のストイックな生徒という印象なんだろう。

 ミリーの絵の申し込みは、それほど意外じゃなかった。

 ミリーは本当に、夏休みの宿題の絵に感動してくれたし、そんな気配はしていた。ま、オレは自分で言うのもなんだけど、本当に風采の上がらない高校生だったので、学校でミリーの絵を描いても妙な噂にはならないだろう。

 なんせ、ミリーは好奇心旺盛だ。

 クラブの半分以上は体験入部している(2年の秋の体験入部は、いたって珍しい)。で、たいていのクラブで、レギュラーの部員より上手い。

 軽音じゃ、ギター、ベース、パーカッション、ボーカルのいずれもセミプロ級。吹部でも、スーザホン以外は見事にこなし、コンクール前の演劇部じゃ、試しにやった主役を去年個人演技賞を取ったP子よりもうまくやってのけ、テニス部じゃ、エースを完膚無きまでに叩きのめした。ただ二年と言うことで、どこのクラブでも歓迎されず。ミリー自身も「楽しかったわ、ありがとう!」と明るい言葉を残して一回ポッキリで来なくなる。

 で、オレは美術部員でもないのに、よく放課後の美術室には出入りしている。

 和気先生が「描きたい人はいつでも来なさい」と美術室を解放してくれていた。だから、オレがヒョッコリ行って、二日ほどでミリーの絵を描いても、誰も不思議には思わないだろう。

 ところが、話は少し違った。

「うちの家に来て描いてほしいの。キャンパスも少し大きめだし、時間もしっかり掛けて欲しいの」

 で、スマホに地図ごと家の場所を送ってもらった。

 あ、オレって携帯持たないのが主義だったけど、お袋に持たされてしまった。理由がメゲる。関西で小学生の女の子が誘拐されて殺されるという事件があった。で、お袋は、スマホを持たしておけばGPS機能もあるので、オレが、そういう犯罪……を犯す恐れが低くなると判断したのだ。むろん口では「こういう時代だし、いざってときにもね……」とか言ってた。

 だけど、オレは心が読めてしまう。

 いささか実の母親に猟奇的犯罪の有力候補だと思われているのはショックだったけど、オレの日常を客観的にみれば「さもありなん」と感じた。

 スマホというのは、やはり人間を堕落させる道具だと思う。ミリーから住所を教えてもらう時だって、メモなら目を通した段階で気づく。スマホというのは音もせずにダイオードが光っただけで、情報転送が完了したことが分かる。
 でもって、並の神経していれば、その場で地図と住所の確認をしただろう。オレは転送しっぱなしで当日まで地図の確認を怠った。このへんの気楽さが、オレをして「蛙の面に小便」の劣等生たらしめているのかもしれない。

 ミリーの家は、天下に名だたる成城だった……。
 

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