大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・257『瀬戸内寂聴さんが亡くなった』

2021-11-11 15:47:21 | ノベル

・257

『瀬戸内寂聴さんが亡くなった』詩(ことは)       

       

 


 人のスマホを盗み見るなんて無作法を始めてやってしまった。


 学校帰りの電車の中、横に座っていた女の人がスマホをスクロールしていて「え!」と息をのんだ。
 こういう局面は、今までにもあったけど、目を泳がせて盗み見るようなことはしたことが無かった。

 時間にして、ほんの0・2秒ほどで、その人の驚きの意味が分かった。

 瀬戸内寂聴さん死去

 すぐに自分のスマホを出して確かめてみた。

 「源氏物語の翻訳」「美は乱調にあり」など、情熱的な愛と生に着目して、小説や口語訳、法話などの活動で知られる作家で僧侶の瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう、本名晴美)さんが11日、死去したことが分かった。9日、京都市内の病院で亡くなった。享年99歳。

 昼休みに著名な占い師の女性が亡くなったのは見たけど、あ、そうかって感じだった。

 寂聴さんは、ショック。

 気になる女性作家の一人で、いつかは瀬戸内さんのお作を体系だって読んでみたいと思っていた。

 『夏の終り』『花に問え』『場所』『美は乱調にあり』『源氏物語』……断片的に読んだ書名が浮かんでくるけど、すぐに上がってくるのは、この程度。話の断片は浮かんでも、ストーリーやタイトルが分かるものは意外に少ない。

 寂聴さんを知ったのは、中学の時に見た、寂聴さんが尼さんになる時の動画。

 ユーチューブだったかニコ動だったかは覚えていないんだけど「どうして本格的な尼さんになんかなるの!?」だった。

 うちはお寺だから、人よりは抹香臭いのには慣れている。お寺の付き合いで、女性のお坊さんにも違和感はない。

 でも、浄土真宗では男でも坊主頭にしている人はめったに居ない。専念寺のごえんさんが坊主頭だったけど、あれは髪が薄くなってきたのをごまかすためだった。

 まして、女性のお坊さんで髪を剃っている人なんか見たこともない。

 それが、ピカピカの尼さんになったのだから、ちょっとショックだった。

 阿波踊りに毎年参加されて震災後の原発廃止を求める運動では、若い人に混じってハンストに加わったり、有名な、でも怪しげな写真家さんが寂聴さんの写真を幾枚も撮って、撮らせてもらったお礼に送ったのが紫の下着だった。

 ショーツなどという生易しいものじゃなくて、その手のグラビア写真でモデルさんが身に着けているようなの。

 寂聴さんは「これはこれは……」と広げてお喜びになって、一度、ほんとうに身に着けてから洗濯して、きれいに残された。

 普通だったら「このセクハラじじい!」とか言うところだけどね……すごいよ。

 大学に入ってから、もう一度尼さんになった経緯を動画で見た。

 寂聴さんの法名は、師である今東光の春聴という法名にちなんでいる、というか、今東光が、寂聴さんの髪を剃っている。僧籍上の親のような存在だ。

 今東光と言えば、河内のあくたれ坊主で『悪名』や『太平記』の作家で、自民党の代議士をやっていた時期もある。

 つまり右翼っぽい河内のオッサンなんだ。

 寂聴さんは、リベラルで、どちらかというと左翼のカテゴリーに入る人。

 それが、こんなに親しく師弟の関係にあって、生涯親しくされていた。

 寂聴さんも、師の今東光さんも、とても素敵。

 イデオロギーとか、感性とか、文学的な方向だとか、そんなものを超えて人と親しむ。すごい人。

 だから、大人になる過程で、そのお作を通して、もっと知っておきたかった。

 わたしって、人からは優しくて寛容な女だと思われてる、そういう風にふるまってもきたしね。

 でも、それって、ほんの表面でしか人と関わっていないからやれてる偽装なんだ。

 お寺の娘って、そいう偽装がよく似合うしね、人からの期待値も、そう言う方向だし。

 わたしは、きっと甘えている。


 あ、だめだ。考えすぎ!


 寂聴さんのお作では『源氏物語』が好きだ。

 源氏は田辺聖子さんのも読んだ。出てくる女の人がみんな尼さんになる話だと、中学の頃は思ってた。

 中学の頃のはコミックで読んだんだけどね。

 朧月夜の君が好き、明るくて、ちょっと奔放で、でもタイミングが悪い。そういうところがね。

 そうやって、家に帰るまでは、寂聴さんと源氏を反芻した。


「瀬戸内寂聴さんが亡くなりましたね……」

 お台所に手伝いにいくと、留美ちゃんが包丁を使いながら横顔で言う。

「うん、スマホで見た」

 留美ちゃんの目が、心なし赤い。

 いかん、この子は、わたしに輪をかけた文学少女なんだった。

「寂聴さんと言えば『源氏』だよね、留美ちゃんは、源氏の女性でだれが好き?」

「詩さんは、誰ですか?」

「うん、朧月夜かな?」

「そうですか……」

「で、留美ちゃんは?」

「六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)です……」

 ゲ

 包丁使って涙流しながら口にする名前じゃないと思うけど……まな板の上に目をやると、玉ねぎをみじん切りにしているところだった。

「今夜は、手抜きでカレーやでえ(^▽^)!」

 愛すべき従妹がエプロンかけながら入ってきて、わたしの神経は日常を取り戻した(^_^;) 

 


 

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魔法少女マヂカ・244『山親爺ゴールヌィ戦』

2021-11-11 06:44:20 | 小説

魔法少女マヂカ・244

『山親爺ゴールヌィ戦語り手:霧子 

 

 

 ガキン! ガキン! ガキン! ガキコーン!

 ぬ、ぬかったあ(*≧o≦*)!

 

 何度目かの斬撃を撃ち返され、剣旋嬢は山親爺ゴールヌィの木斧を眉間に喰らってしまって敗退した。

 剣旋嬢が打ち込んだ数の方が圧倒的に多いのだけど、打撃、斬撃共に力がなく、有効が取れない。

 その疲れが見えてきたところにゴールヌイの一撃を喰らってしまったのだ。

 得物は違うけど、わたしも高坂流の剣術・槍術・薙刀術・手裏剣術の免許皆伝、今の一撃が当たった瞬間に勝負がついたと思った。

 孫悟嬢の仲間は、みんな一回戦から戦っているが、鉄扇童子と呼ばれる少年とメルケルだけ。その二人も満身創痍のうえ、やっと判定勝ちに持ち込めたという際どい勝ちだ。

「う~~ん、やっぱり乳酸たまりまくりで、力が出ないよ、孫姐さん……」

 眉間のたんこぶの為に満足に目も開けられなくなって剣旋嬢が戻って来る。

「いやいや、よくやったぞ。たまには妖術抜きの試合もいいもんだろ?」

「姉さんは余裕っすね」

「当たり前だ、主催者側だからな」

「え、ほんとうに試合には出ないつもりっすか?」

「おもしろい大会にするのが仕事だ、さ、いよいよ霧子……いや、薫子の番だ、がんばれよ」

「承知」

 

『これからは、二回戦にはいりま~す。二回戦、Aリングの勝負は、ただいまの勝負で勝ちを収めた山親爺ゴールヌィ対高坂薫子になりま~す。みなさんご期待くださいま~せ(^▽^)』

 

 ちょうど、アナウンスが入って、リングに上がる。B・Cのリングもアナウンスがあって、試合が始まる。メルケルがBリングに上がるのが視野に入ったが、さすがにエールを交わす余裕はない。

 リングの端はエレベーターになっていて、互いの得物がズイ~っとせり上がって来る。試合中は、登録してある得物ならばどれを使っても構わない決まりだ。

 山親爺ゴールヌィの得物が出てくるのは一呼吸遅れる。遅れるわけだ、ゴールヌイの得物は試合用とは言えバカみたいに重い斧ばかり、一番大きいのは大震災で胴体から落ちてしまった上野大仏の首ほどもある。ロシア語で『山親爺ゴールヌィ』とデカデカと書いてあるところを見ると、看板なのだろう。わたしも『高坂霧子』のノボリを立てているからね。

 え?

 ゴールヌイは、なんと、そのバカでかい看板のを手に持った……それも左手には剣旋嬢をぶちのめした木斧を持ったまま。

 わたしは木槍を木剣に持ち替えた。

 

 カーーーーン

 

 開始のゴングが鳴る。

 互いに対峙したままリングを一周、打ち込むタイミング……というよりは、相手の力量を計り、自分が踏み出すイメージを喚起するんだ。イメージは、将棋に似ていて数合先まで頭に浮かぶ、そして、理屈ではなく「これだ!」と思えた瞬間に踏み出す。

 二周目に入ったかというところで「これだ!」になった。

 トオーーー!

 中段のまま踏み込み、突きと見せつつ胴を払う。

 構えが変わった瞬間、ゴールヌイは小さい方の斧を繰り出す。

 ブン!

 すごい風圧を身をかがめて躱す。

 ブオーーーー! ドン!

 野獣めいた音がして、大きい方の斧が繰り出され、空を切ってリングに地響きを立てる。

 そのまま、イメージ通りの軌跡をたどって、ゴールヌイの動きと速さを掴む。

 よし、これだ!

 確信的な閃き! 奴が振り下ろした斧を踏み台にして牛若丸のようにジャンプ!

 放物線を描く跳躍の頂点、眼下には、わたしの動きを追い切れていないゴールヌイの間抜け面。

 ゴールヌイに比べては非力な木刀だけど、ポテンシャルを稼いだ分、力が籠る!

 キエーー!

 裂ぱくの息と共に、実り過ぎた南瓜のような頭に渾身の一撃を食らわす!

 ガキーーーン!!

 確かな手ごたえがあって着地……残心の吐息を静かに吐く。

 ドスン ドゴドゴン……

 自分自身が倒れた音と、得物を落とした音をさせて、ゴールヌイはリングに沈んだ。

 

『ただいまの勝負、高坂薫子の勝ち!』

 

 ウワアアアアアアアア!

 歓声が沸き起こる、剣旋嬢が負けた後の勝利でもあり、ほんの女学生にしか見えない少女が荒くれの大男を下したことで、試合会場は沸き返った。

 息を整えて、両脇のリングに目をやると、メルケルがリングに伏しているのが目に入った……。 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • 孫悟嬢        中国一の魔法少女

 

 

 

 

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