やくもあやかし物語・112
「何かついてるわよ……」
「背中に……」
ゼーゼー言いながら家に帰ると、コタツで寛ぎまくりのチカコと御息所が揃って指をさす。
「え、なによ、背中って……?」
「これ……よっ!」
ペリ
二人でジャンプして取ってくれたのは半分破れた紙切れだ。
「ううん……字がむつかしい」
草書って言うんだろうか、ずっと昔の崩した字なので、ちょっと読めない。
「ちょっと、これは……」
「ヤバきものね……」
「エンガチョよ!」
「こころえた!」
「エンガチョ!」
「切った!」
チカコが両手で作った輪っかを、御息所が手刀で切った……て、穢れを払うお呪いしてんじゃないわよ!
「こんなもの、どこで張り付けられたの!?」
迫力のあるジト目でチカコが詰問。
「え…………あ、あのとき!?」
坂を下って来るダンプを物の怪と間違って、いや、わざと間違えて……八房のやつ!
親切に後ろを支えてくれたと思ったら!
「里見一族のやりそうなことね、正義の味方って、そーゆーことやるのよ(*≧0≦*)」
「え、あ、で……なんて書いてあるの?」
「「第一の怨敵は○○○……」」
「え、なに、その○○○は?」
「口にしたらエンガチョぐらいじゃ済まなくなる」
「口にしただけで祟られるわよ」
「でも、言ってくれなきゃ分からないじゃない!」
「それもそう……どうするチカコ?」
「やくもに字を思い出してもらおう」
「あ、そうね」
「やくも、うちみたいに二階の無い家ってなんていう?」
「一階建て?」
「別の言い方」
「平屋?」
「あ、その上の字」
「『平』?」
「「うんうん」」
「藤井聡太くんが、三冠をとったのは?」
「ふじいそうた?」
「これよこれ」
チカコと御息所が向き合って座って、ペシペシ……あ!
「将棋!」
「ええ、それも上の字を憶えてね」
「次、いくよ」
「笑う門には福来る……」
「……の、門」
「さあ、三つ揃えて書いてみて」
「平……将……門……あ!?」
平将門(たいらのまさかど)だ!
正解を思いついて口にすると、二人ともコタツに頭を突っ込んでいた。
え……ちょ、平将門をやっつけろって言うの!?
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝