大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・260『体育祭のあくる日』

2021-11-22 15:16:44 | ノベル

・260

『体育祭のあくる日』       

 

 

 雨の真ん中の縦棒を下に伸ばして『ん』と書く。

 

 これで『アーメン』と読むらしい。

 他にも『道』の『辶』と『首』を離して書いて『分かれ道』とか。

 三時間目の国語の時間、みんな退屈と見えて、そんなメモが回ってきた。

 

 ヌフフフフ……

 

 二つ向こうの列で男子がアホな忍び笑い。

 チラ見したら、落書きを回して喜んどる。

 首謀者はアホの田中や。

 あ、東京都のマークを崩して噴き出しかけとる。一年からいっしょの田中やけど、ほんまアホや。

「こら、田中あ!」

 ほら、先生に怒られよった。

 

 田中のアホはしゃあないと思うねんけど、クラスみんながドンヨリしてる。

 

 ひとつは、朝からの雨。

 雨は、みんな嫌いやけど、今日は格別。

 昨日が運動会やったのに、なんで代休になれへんのか?

 いえ、代休にはなるんです。昼からね。

 一時間目で運動会の後始末やって、2・3・4時間目授業やって昼からが代休。

 つまりね、昨日の運動会は午前中の二時間半だけやったんですわ。

 保護者の参観も三年生の保護者に限って、一家に一人だけ。

 それもね、校区からコロナの感染者が出た……という噂。

 この噂が広まったんと、三年の保護者だけでは不公平みたいな空気になって、PTAが自主規制。

 けっきょく、参観者無しで二時間半の運動会。

 

 あたしはリレーとかに出たんやけどね、もう、笑うしかないリレーになってしもた。

 なんせ、バトンが2メートルもある。それもウレタンとかいうのん? フニャフニャのやつ。

 予行演習では問題なかったんやけど、本番では力が入ってしもて、走者の脚に絡んで転倒者が続出。

 もう、なんか罰ゲーム。あたしも転んでひざを擦りむいてバンソーコ貼ってる。

 アニメのキャラで膝とか頬っぺたにバンソーコ貼ってる女子が居てるやんか。

 ヒロインか準ヒロインいう感じで、幼なじみ系、運動ができて、世話焼き女房型とか体育会系のツンデレとかさ。

 とにかくNPCとかモブとかと違うて、存在感がある。

 いっしゅん夢見たんやけど、夢でした。誰も注目はしてくれません。

 

 綱引き!

 マスクかけて綱引きはありえへん!

 このマスク綱引きのお蔭で、留美ちゃんは体調不良でお休み。

「午後からだったら行けたのに」

 まじめ女子中学生は布団の中で悔しがっておりました。

 

 あ、そうそう。

 

 なんで、昼からの代休になったかというと、明日の23日が勤労感謝の日なんで、午後からの方が得なんで、そうなったらしい。

「え、ほんまか?」

 怒られたばっかりの男子の方で囁く声。

 耳をダンボにして聞いてると、大谷翔平が国民栄誉賞を辞退したそうな。

 もったいない。くれるいうもんはもろといたらええのに。

 なんか、道頓堀に飛び込んで亡くなったニイチャンがおるらしい。男子らは「あほかあ」と呟いとる。

 うちは、坊主の孫やからやろか、どんな死に方にしろ「あほかあ」は出てこーへん。

 ただただ南無阿弥陀仏や。

 

「こらあ、授業中にスマホ見るんやない!」

 

 また、怒られよった。

 田中はスマホ取り上げられて、立たされよった。

 窓の外を見るとまだまだ雨。

 雨の縦棒を伸ばして「ん」にしてアーメンにした祟りかもしれません。

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やくもあやかし物語・111『ハチと坂の底で待ち合わせ』

2021-11-22 13:41:02 | ライトノベルセレクト

やく物語・111

『ハチと坂の底で待ち合わせ』   

 

 

 断ってもいいんですが……

 

 交換手さんは、めずらしくためらった。

「え、ヤバイ人からの電話?」

『里見さんのところのハチです』

 交換手さんは、いつもは「誰それさんからお電話です」とだけ言って、取り次いでくれるんだけどね。

 今日は『断ってもいいんですが……』と言ってから。

 ちょっと前のわたしなら「じゃ、断って」と言うんだけど、気の迷いか「ううん、繋いで」と応えてしまった。

 たぶんね、机の上のコタツでくつろいでいる黒猫(チカコ)とあやせ(六条御息所)が興味深そうで、どこか意地悪な目で見ていたせいだ。

『では、お繋ぎします!』

 ちょっと気合いの入った返事をして切り替わった。

 

『時分時(じぶんどき)にすみません、里見さんちのハチです。大至急お話したいことがあるので坂の下までお越し願えませんか?』

 人語を話しても、ハチは折り目正しい。

「えと、晩御飯までには家に帰りたいんだけど、それでもいいかしら?」

『はい、それで結構です。おそらく五分も話せば済むと思いますから』

「う、うん、じゃ、すぐに行くわ」

『よろしくお願いします』

 電話を切ると、チカコと御息所が興味津々の目で見上げてる。

「あんたたちも来る?」

「「ううん」」

 揃って首を横に振る。

 御息所は、まだ新参者だけど、チカコは、ほとんどわたしの相棒だ。断られるのは心外だけど、疑問形で聞いたんだから、断られても文句は言えない。

「だってねえ……」

「ハチって八房……」

「ちょ、声大きい!」

 意味深なことを言ってるけど、時間が無いし、聞くのもムカつくし、自転車を漕いで、坂の下を目指した。

 

 黄昏時の通学路、いろいろ気配を感じる。

 二丁目地蔵……メイドお化け……四毛猫……  

 みんな姿は現さない。道路に映った影とか「カサリ」とか「ガサ」って音だったりの気配だったりするだけ。

 みんな、なんか企んでる感じ。もしくは、わたしに申し訳なくて遠慮的な、そんな感じ。

 角を曲がって下り坂になったところにペコリお化け。

 なんの力もない妖だけど、姿を晒して、きちんとペコリするのは好感度なんだ。

 だけど、神風特攻隊を見送るような悲壮な顔はしないでほしい。

 チャラララ

 ペダルを逆廻しして、ちょっとだけ気合いを入れる。

 

 坂の下が見えてくる。

 

 ジジジ ジジジ ジジ……

 今どき珍しい蛍光灯の街灯が切れかかってチラチラ。

 そのストロボが近くなると、ノッソリと車いすのハチが街灯の灯りの中に入ってきた。

 

「あら、そういう車いすだったの?」

 意表を突かれた。

 犬の車いすだから、てっきり前脚を地面についたやつだと思ったら、人間の車いすを小さくしたようなのに乗っている。

「恐縮です、これが本来のカタチなもので。さっそく用件に入らせていただいてよろしいでしょうか?」

「あ、うん、どうぞ」

「ハチと言うのは略称と申しましょうか、ニックネームのようなもので、本来は八房と申します」

「あ、うん、チカコたちが言ってた」

「主人は里見さんのお嬢さんなのですが、わけあって、大妖怪どもと戦っております」

「ひょっとして、その戦いの……」

「はい、不覚でした。条件が整う前に、ちょっと勇み過ぎました……」

 ちょっと悪い予感がしたけど、こう丁寧に話されると、待ったをかけるのはためらわれるよ。

「関八州には八人の大妖怪がおります。われわれ里見一族は、その八大妖怪と戦うことを運命づけられております……」

「南総里見八犬伝?」

「ご存知でしたか?」

「あ、うちのね……」

「チカコさんと御息所さんですね?」

「あ、うん ハチ……八房も知ってるの?」

「ハチでけっこうです。ええ、古くから、この地におりますので、情報はいろいろと伝わってまいります」

 あ、きっと二丁目地蔵とかメイドお化けだ……

「先日は、河内の俊徳丸もお助けになったとか」

「あ、うん、ちょっとね……」

 突っ込まれたら、どうしようかと思ったんだけど、すぐに用件を切り出した。

「厚かましいお願いなんですが、わたしに変わって大妖怪を退治してはいただけないでしょうか?」

「え、わたしが!?」

 慌てて顔の前でナイナイする。

「やくもさんには、十分、その力があります」

「ナイナイナイ(;'∀')」

「いいえ、無ければ、仁義八行の玉が、あなたの手にもたらされるわけがありません!」

「あ、あれは……」

 メイドお化けに嵌められて、八つのカップ麺を……

「どのような事情や経緯があろうとも、お手に渡ったということは、十分に資格があるということです」

「し、資格って……」

「運命と申し上げてもよろしいでしょう」

「で、でも……」

「八つ全てとは申しません、わたしも、この脚が回復すれば戦えると思います。取りあえずは、わたしが打ち漏らした武蔵の妖怪だけでも」

「え、あ、でも、もう日も落ちてしまったし……」

「そうですね、かいつまんで申します。先日お使いになったコルト・ガバメントをお使いになれば分があります。弾は、八つのカップ麺を、あれは仁義八行の力が籠められていますから、絶大な力を発揮いたします」

「で、でも……」

「お願いです、これには里見のお嬢様の命運もかかっております……あ、いけません。もう陽が沈み切ってしまいます、急いでお戻りください、グズグズしていては大妖怪が、ホラ……」

 折り返して一丁目に繋がる坂道から唸り声のようなものが聞こえてくる。

 ブオブボボボボ……

「わたしが防ぎます! お急ぎになってください!」

「わ、分かった! わたしも何とかするからねえ!」

「急いでください、追いつかれそうです!」

 カクン カクン

 慌てているので、ペダルに足が掛からずオタオタ。

「わ、あわわわ(;゚Д゚)」

「落ち着いて!」

 八房が自転車の後ろと背中を支えてくれて、やっと自転車を漕ぐ!

 精一杯の立ち漕ぎで坂の上を目指した。

 

 ゼーゼーゼー

 

「あれ?」 

 坂の上まで来ると、まだ西の空の底辺に太陽な張り付いていて、まだ余裕で家に帰れそう。

 そうか、坂の底だったから、早く暗くなるんだ……ひょっとしたら、ハチに嵌められた?

 ブオブボボボボ……

 あ、化け物が追いかけてくる!

 アセアセで自転車を漕ぐと、坂を上り切った化け物のがすぐ後ろまで迫ってきた!

 ブオブボボボボ!!

 ああ、もうダメ!

 そう思って漕ぎながら頭を下げると、ブオブボボボボ……どこかの工事現場から帰る途中のトラックが、追い越していくだけだった。

 あ……ひょっとしたら嵌められた!?

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所

 

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