ライトノベルベスト
うかつにも心を読んでしまった!
正確には、読もうと思う前に飛び込んできた。
二学期の始業式、担任の八重桜(ニックネーム)さんが、転校生を連れて教室に入ってきた。
帰国子女で秋野美理という女生徒。お父さんが日本人で、お母さんがカナダ人というハーフ。で、ラノベのお約束のように可愛い。
髪はブルネットとブロンドの間ぐらいで、それを頭のスィートスポット(顎と耳の延長線上で、一番ポニーテールが映える)でポニーテールにしている。スタイルもいいんだろう、制服が入学案内のパンフレットのように似合ってる。
で、さすがは半分カナダ人。笑顔の振り向け方や、目線の配り方など堂に入ってて、まるで、ディズニーアニメの実写版。
「カナダのトロントから来ました……」
なんと彼女は社会のM先生より上手い北米地図を描くと、五大湖をサラリと描き、オンタリオ湖の傍にトロントとワシントン、ニューヨークを描き入れバカでも分かる出身地を示した。
「トロントというのは、ヒュ-ロン族の言葉で「人の集まる場所」という意味で。あたしも人の集まる学校とかは好きです。名前は秋野美理と書くけどもこれは、英語のMillieを漢字にあてたもんで、どうか気楽にミリーって呼んでください」
短くて的確、簡潔な自己紹介にみんな好感を持ったようで、拍手が沸き起こった。
しかし、オレには読めてしまった。
――なんて、ボンヤリした連中! 評定5・6! ハア、こんな連中と一緒にやるわけ? カナダに居たら、この秋からは三年だってのに、なんで、二年なわけよ。制度か単位だか知らないけど、人間は、もっと実力で判断しなさいよね! ま、とにかく歳は言わないように。日本人には18で二年だなんて、落第としかとらないだろうからね――
ミリーの表情と、中味が全然違うことに気づいてしまった。女が恐ろしいのは妹とお袋で良く分かってるけど、こんなに内側と外側の違うのは初めてだ。で、おまけに席が、オレの隣になってしまった。クラスのみんなの気持ちが押し寄せてきた。
――羨ましい~!――
オレは、こういう多重人格者とは、あまり関わりになりたくなかったが、あくる日の英語の時間に、不可抗力で起こってしまった。
「夏休みの思い出を、英単語10個以上使って表現しなさい」
という無理を先生が言う。
オレは辞書を駆使して「二回目の二年生、しっかりがんばろうと蝉しぐれを聞きながら思い。宿題は半月でやり遂げました」という意味の英文をそつなく書いた。実際は、妹と宿題を折半してアンチョコ見ながらやっつけただけ。
「落葉くん、いい心がけね」
と、お誉め頂いた。だが、ミリーの英作文に、英語の先生は(カナダの帰国子女とは気づかずに)ケチをつけた。
「秋野さん。高校二年になって、こんな間違いしちゃいけませんね」
「be動詞が抜けてるし、二人称の『U』は、なんなの。こんなの通じないわよ」
「普段は、ずっとそれで通してるんですけど」
「いけませんねえ。中学一年程度の間違いですよ……」
「じゃ、どう書けばいいんですか?」
「みんなも、見てらっしゃい。こんな風に……」
と書きだしたら。ミリーが途中で笑い出した。
「何が、おかしいの!?」
「すみません。でもその文章はひどく……」
「なにが、ひどくなの?」
「古典的というか、文語的で、まるで大統領か総督に出してる手紙みたい……なんです」
「なんですって! あたしはね、これでも……」
「先生、『u』てのは、スラングで『YOU』のことなんです。チャットやってたら、みんなそんなんです(^_^;)」
オレは、特にミリーの肩を持つつもりじゃなかった。ただ、不毛ないさかいが起こるのと、英語の先生がネイティブのミリーにズタズタにされるのが嫌だったからだ。どうも子供の頃の親同士のいさかいにゲンナリしたトラウマかもしれない。
これが、思わぬ結果を生むんだよなあ……。