大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 45『敦子を捕まえる』

2021-11-19 15:48:21 | ノベル2

ら 信長転生記

45『敦子を捕まえる』  

 

 

 敦子の部屋のドアにお札を貼っておいた。

 

 敦子って分かるわよね? 熱田敦子。

 ここんとこ姿を見せないけど、織田家担当の神さまの熱田大神。

 クソ兄貴の信長を転生させて、ここんとこ知らんぷりを決め込んでいる。

 ちゃっかり家を大きくして、家族同然に住み着いてるけど、なんか無責任。

 敦子の正体って、三種の神器が具現化したもので、神格が高い。

 で、記憶を頼りに探したら荷物の奥から出てきた。伊勢神宮のお札。

 なんてったって、ご神体は皇祖神の天照大神(あまてらすおおかみ)だから、敦子よりもえらい!

 それをドアに貼っておいたから、入れるわけもないから、庭の祠に戻っているはず。

 だから、学校から帰ってから、ずっと祠の前で待っている。

 晩ご飯まだだから、きっと空腹に耐えきれずに出てくる。敦子は、神さまのくせに食い意地は張ってるからね。

 

 こんな簡単なことで、敦子をおびき出せるかって?

 

 フフ、舐めるんじゃないわよ。

 わたしは市よ。

 女に生まれたから、力の振るいようもなかったけど、もし、男に生まれていたら、クソ兄貴の信長なんか差し置いて、天下の主になっていたわよ。ま、男になんか生まれかわるつもりはカケラもないけどね。

 ミシミシ……ミシミシ……

 祠が微かに軋んでる……分かってるけど、知らんふり。これも計算のうちだからね。

 シュ

 小さく空気が抜けるような音がしたかと思うと……予想通り!

 ガッシャーーン!  ドスン!

 やった!!

 急いで祠の裏に回ると、塀に頭をぶつけて、敦子が唸ってる。

「痛ぁぁぁぁぁ……」

「ふふ、裏口があるのは、とっくにお見通しなのよ」

「で、でも、突き当たった塀に伊勢神宮のお札貼るのは反則ぅ……たんこぶができちゃったぁぁぁぁぁ……」

 信長のご飯は、シャクだけど美味しい。

 それを毎日食べてるもんだから、敦子のやつ、ちょっと太ってきた。だから、めったに使わない裏口は通りにくいってことは計算のうち。そこを無理に通ろうとしたら、シャンパンの栓を抜くみたいに勢いがつく。

 で、行き止まりの塀に伊勢神宮のお札。

 普通なら、こんな塀、素通しで抜けられるんだけどね。

 お札のお蔭で、ガラス戸に突っ込んだワンコと同じになって、激突してタンコブができるわけさ。

「ふん、神さまのくせに、コソコソしてるからよ」

「で、なんなのよ、この仕打ちはぁ……」

「それはね……」

 敦子の襟首を掴むと、一世一代の人生相談を持ち掛けるわたしであった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 
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ライトノベルベスト・〔ミイラとエンドライン〕

2021-11-19 07:30:05 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『ミイラとエンドライン』   



 

 ミライとミイラ、ちょっと似ている。

 あたしは高橋ミライっていう。でも通称はミイラだ。

 なぜかっていうと、いま言ったみたいに読み間違いやすい。それにあたしは、保育所の頃から背がヒョロッと高くて痩せていたから、みんなからミイラって呼ばれてた。

 とくに気にはしない。保育所の最初のころってミイラの意味も分かってなかったし、お友だちが言っても気にならなくて、自分でも「ミイラ(^▽^)/」って喜んでた。

 年中さんになって、お母さんが気づいて保育所の先生に言ったことがある。

「この子はミライなんです。ミイラじゃありません」

 でも当人が一人称で「ミイラ」って言ってるのだから仕方がない。

 背が高いという理由だけで、中学ではバレー部に入れられた。あんまり強いクラブじゃなかったしウイングスパイカーってのもヘタクソながら気に入っていた。

 高校に入っても、当然のごとくバレー部に入った。

 同期でも背が高い方なのと、中学からのポジションもあるので、だぶだぶの制服で「ウイングスパイカーをやりたいです!」と希望した。

 あだ名は相変わらずミイラだった。

 ところが思春期ってのはむつかしいもので、あたしは体つきが変わってきてしまった。

 身長はそのままで、体にメリハリがついてきたんだ。一緒に入った仲間はずんずん身長が伸びていき、一年の二学期では同じくらいに、三学期では全員に追い越された。

「ミイラ、リベロに替われ」

「え?」

 顧問の天崎先生に言われた時はショックだった。

 リベロって、チームで一番チビがやるポジションじゃん!

 まあ、バレーってのは6人それぞれ大事な役割がある……と、納得はしたよ(^_^;)。

 

 リベロは目立つ。

 6人の中で一人だけユニホームが違う。全員赤なら、リベロだけは黒だとか……バレーの専門ならともかく、素人目には、よく目立つ。クラブもそこそこで、地区では2~3番目くらいの力の学校だ。ミイラと呼ばれても気にならないお気楽な性格なので、いつの間にかリベロにも慣れてきた。

 リベロになりたての頃に、コクられた(#^_^#)。

 軽音の米倉君。

 身長は165で、そんなに高くないけど160で止まってしまったあたしにはちょうどつり合いがとれる。彼はボーカルで良い声してんだけど、なんせ70人もいる軽音の中では二線級らしい。だから、クラブも暇してて、よく試合を見に来てくれた。

「なんか、一人目立ってかっこいいじゃん!」

 と、素人だから喜んでくれる。もちろん米倉君も「ミイラ」って、あたしを呼ぶ。

 でも、一人だけ「ミイラ」って呼ばれてムカつくやつができた。

 二年になってから、顧問が替わった。県の教育委員会の方針で「教師の負担を軽減する」ということで、顧問を外部から呼ぶようになった。

 畑中って、地元企業のバレーの選手。ほとんどプロと言っていい。

 専門の顧問が来たのは、試験段階なので女バレとサッカーだけ。サッカーは分かる。顧問の島崎先生が主席になったから。

 でも、天崎先生は平のペーペーだよ。

「あてがいぶちだから仕方ない。それに畑中さんは、オレよりずっとバレーが上手いし、よく指導してくださる。ミイラもしっかりついていけ」

 そう言われて、しぶしぶ付いていった。

 練習は厳しかった。トスとレシーブの練習を徹底的にやらされた。

「県大会でベスト3に入る!」なんて無茶を言う。

 怪我人続出の半年だった。で……悔しいことにうちのクラブは強くなっていった。だから、みんな表立っては文句も言わない。

 でも、あたしには合わなかった。畑中の「ミイラ」には訳もなくムカついた。

「畑中監督。監督ががんばってんのは、けっきょく自分のチームの宣伝のためじゃないんですか!?」

 言ってしまった……。

「そうだ。君らを一流にして、オレのチームの名前を挙げたいと思ってる」
「そんな……あたしたち、監督の道具なんですか!?」
「そうだ。そして……」

 あとの言葉は聞いてなかった。

「あたし、このシーズンが終わったら辞めます!」

 そして、試合は秋も押し詰まり、県の三位決定戦にまで進んだ。

 女バレ開設以来の上位進出だった。相手は去年の優勝校、私立H女学院。始めから気後れしてしまったけど、なんと試合はフルセットの14:14にまでもつれ込んだ。

 H女学院の名サーバーの早乙女って子がサーバーに入った。ここまで、サービスエースを5本も取られている。

 このサーブだけは取ってやる……つもりだった。だけどボールが飛んできたとき、これはアウトになると見送った。

 トン!

 ボールがスローモーションみたく見えてフロアに弾んだ。

 かつかつで、エンドラインを超えている「勝った!」と思った。

 ところが主審も線審もインの判定だった。

 抗議しようと思ったら、先を越された畑中監督が鬼のような顔で主審に抗議した。

 けど、結果は覆らなかった。畑中監督は、それでも抗議したのでイエローカードのおまけまで付いてしまった。

 5年間バレーをやってきて、最大の屈辱感だった。チームメイトの目も微妙に険しい。あたしが見送らなければ別の展開になった……そんな目つきだ。いたたまれない。

「ミイラの目は正しい!」

 畑中監督は、みんなの目の前で言ってくれた。

「今のアウトですよ!」

 米倉君がビデオを持ってやってきた。スローの拡大で再生すると、確かにボールはエンドラインを超えている。

「監督!」
「高校バレーにはチャレンジシステムがないからな。来年、また頑張ろう!」

 監督は、そう締めくくった。そしてキャプテンが、そっと言ってくれた。

「監督、あのときね、オレの事も利用しろって言ったのよ。世界はギブアンドテイクだって」

 あたしの気持ちは、辛うじてエンドラインを越えずに済んだ。

 米倉君は、誤審のビデオをスローにして動画サイトに投稿してくれた。アクセスは1000ほどになったところで、県の高校バレー連盟から削除の要請があり、動画は削除されたんだけどね。

 素人ながら、ここまで頑張ってくれた米倉君への気持ちは嬉しかった。

 

 スマホでお礼のメッセを……なかなか気の利いた言葉が見つからず、やっと思いついて送信。

 トン!

 送信の電子音が、あの時のボールがフロアに弾む音に聞こえた。

 わたしの中で、ミイラのニックネームがミライにでんぐり返って、心はエンドラインを超えそうだった……。

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