大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・080『生存者発見!』

2021-11-20 14:25:46 | 小説4

・080

『生存者発見!』 加藤 恵    

 

 

 押しつぶされた肋材や瓦礫の向こうに生存者が居る。

 

 アナライズするまでもなく分かった。

 生存者が小石のようなもので瓦礫を叩く音がしている。

「イエスなら一回、ノーなら二回叩いて!」

 瓦礫の隙間に向かって声をあげる。

 カン

「瓦礫をどけたら、自力で出てこれる?」

 カンカン

「負傷している?」

 カン

「脚を挟まれてる?」

 カン

 脚が自由になれば、ある程度動けるかと思った。兵二が横に来て質問を続ける。

「脚以外も挟まれているか?」

 カン

 兵二は冷静だ、大きく質問して小さく絞って、状況を把握しようとしている。

「他に生存者は居るか?」

 ……カン

 複数の生存者が居る、救出を急がなければ。

 無駄かもしれないけど、地上に向かってパルス通信を試みるけど、パルスガスの影響で返事は無い。

「続けてみる……」

 被災者は、パルス通信どころか、口もきっけずに、石ころで意思表示するしかないんだ。

 諦めるわけのはいかない。

「きびしいな……」

 兵二が声を落としてため息のようにこぼす。

 質問を繰り返して、三人の生存者が居て、三人とも重症なことが分かったのだ。

 瓦礫は人の力で排除できるものではなく、ニッパチの到着を待たなければ手が付けられない。

 人の声を聞いて、生存者は希望を持っている。その希望の火が消えないうちに救助しなければならない。

 被災者の周囲の状況も知りたい。

「モールス信号は使えるか?」

 時代劇の台詞のようなことを言う。

「火星では、まだモールス信号を使っているんだよ」

「そうなんだ……」

 カン……カン

 しかし返事はノーだ。

「そうか、きみは地球人なんだね。僕は火星人だから、地球の事は西ノ島のことしか分からない。地球のことを聞くから、返事してもらえるかな」

 ……カン

 返事が遅れている、弱り始めてるんだ。だから、通信し続けることで気を引き立てようとしているんだ。

 

 二分経過して、他の生存者が絶命したことが知れる。

 

 急がないと、この被災者も命が危ない。

 わたしは――救助急がれたし――と、もう十回は超えたであろうパルス通信を試みる。

 しかし、パルスを動力源にしているものは、ことごとく使えなくて、それは、通信手段においても同じようだ。

 

 ザザザザザザザザザ

 

「ニッパチ、そっちは?」

『こっちは済みました、こちらは、どうですか?』

「ひとり生存している、おまえの力で、なんとかならないか?」

『調べてみます』

 ウィーーーーーーン

 触角を伸ばして、瓦礫の様子をチェックする。

 ウィーーーーーーン

「どうだ?」

―― 手に負えません、構造そのものが崩壊していて、わたしの馬力では排除できません ――

 ニッパチは共感通信で伝えてきた、被災者を落胆させないための配慮だ。

「なんとかならないかしら……」

「働きかけてないと、すぐに意識を失ってしまうぞ」

 重傷を負ってコミニケーションがとれなくなると、急速に様態が悪化するのは、兵二もわたしも、ニッパチも分かっている。

 もう、小石を使ってのコミニケーションも限界だろう。

「せめて、手をとってあげるくらいできればいいんだけどね……」

『それ、できるかも』

「え……?」

「あ、そうか!」

『はい、これです!』

 結節点の一つが開いたかと思うと、リアルハンドが伸びてきた。ほら、ここへ来てすぐに付けてやったやつ。

「よし、俺も、救助を急ぐように連絡し続けてみる。やってくれ」

 無駄かもしれないけど、兵二がパルス通信を引き受けてくれる。

 この人だけでも助けなきゃ……祈るような気持ちで、ニッパチのリアルハンドが瓦礫の隙間に伸びていくのを見つめるだけだった……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

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ライトノベルベスト『え うそ!?』

2021-11-20 06:06:03 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『え うそ!?』  




 え……うそ!?

 思わず口癖がでてしまった。

 今朝起きて、カレンダーを見たら、夏休みに入って一週間もたっていることに気づいた。

 んでもって、起きた時間が十一時。九時ごろって感覚しかなかったあたしは自己嫌悪(,,꒪꒫꒪,,)。

 普段は、こんな事はない。

 普段というのは、学校があるときや、バイトがあるとき。そういうドーシヨ-モナイ時は遅刻なんかしない。ただ、夏休みとか連休とか、自分でドーニデモナルときは、このウッカリをやってしまう。

 どうも、あたしは、このままウッカリというかウカウカしているうちに一生を終えてしまいそうな気がする。

 きっとショ-モナイ一生だったと後悔しながら「ご臨終です」を聞いてしまうんだろうなあ……そんでもって、「あ、あたし死んじゃったんだ!」とあわてふためくに違いない。

『由留美~、バイトじゃなかったの~?』

 階下で、あたしの気配を感じたババンツが、間延びした声を上げた。一瞬お尻の穴がギュっとなるようなショック。

「え、うそ!」

 そう言って、パジャマの下を脱ぎながらスマホで、バイトのシフトを確認。

「もう、バイトは明日だよ!」

『あ、そうか。あんまし気配ないからさ……』

 ババンツのボヤキが聞こえる。

「あ、エエトモ間に合うかなあ……」

 バイトが無いとなると、のんびりするに限る。

 脱いだパジャマを着直して、テレビのスイッチを入れる。今日は、あたしの好きなトモカが出るんだ(^▽^)。

 トモカは、この春に彗星の如く現れたマルチタレントの女の子。

 ルックスは八十点ぐらいだけど、トモカには本物の可愛さと優しさを感じる。

 デビュー間もないころに、ライブで歌っていて突然画面から姿が消えたことがあった。その間歌声はずっと聞こえていた。なんだクチパクかよ。と、思ったら切り替わった画面の中でしっかり歌っていた。

 ADの子がケーブルに足を取られて、どうやら足首を骨折。そこにファンの子達が押し寄せて、そのADの子は押しつぶされそう。それをトモカは体を張ってADの子を守った。気づいたスタッフが直ぐに駆けつけて事なきを得たけど、トモカの目線は、そのADの子が無事にスタジオを出るまで追っていたんだよ。

 MCの居中や角江なんかが、あとで誉めていた。その間、歌に乱れはまったくなく。あたしは、それ以来。同性ながらトモカのファンになったってわけ。

 トモカの歌は、友だちとか思い出とか、ちょっとマイナーな曲が多いけど、その心情溢れる歌い方にファンは多かった。
 じっさい、彼女の歌を聴いていると、縁の薄いのやら濃いのやら、友だちのことを思い出してしまう。

 そのトモカが、目の前のテレビで「友」を歌っている。

 あたしは、なんの脈絡もなく、去年の一学期までいた田中って男の子のことを思い出した。ちょうど歌が「青春の消しゴムで、嫌なものはみんな消して、虹色の~♪」にさしかかったからだと思う。

 田中は、入試の時、ウッカリ消しゴムを忘れ「え、うそ!?」をやらかしたあたしに、自分の消しゴムを半分ちぎってくれた。遠足のときお弁当のお箸を忘れ「え、うそ!?」のときも、コンビニで二人分もらったからって、お箸をくれた。最初の掃除当番忘れて担任の本坂が鬼みたく怒っていたときも、いつのまにか教えていたメアドで教えてくれた。

 その田中が居なくなって、もう一年か……

 そう思っていると。バイトのシフトでいっしょになる同姓の田中剛の顔が浮かんだ。なにかっちゅーと、無意味に体をすり寄せてくる。お客さんの手前、ヤナ顔はできない。そのへんの呼吸は心得ていて、セクハラ寸前のところで止める。

 慌ててスマホのシフトを見る……よかった。今度は、ちょっとトロイけどミーちゃんだ。でも、オーナーは最悪だろうなあ。だって「トロイ」と「え、うそ!?」のコンビだもんね。

 すると、トモカが昔とても頼りにしていた友だちに電話をかけるコーナーになった。

 トモカに、頼りにされていたって、どんな子だろう。きっとジャニーズ系のイケメンで、痒いところに手だって足だって届いちゃう子なんだろうなあ……そう思って、テレビに食いつくように見ていた。なかなか相手は出ない。二十回コールしてだめならアウト! 

 くそ、早く出てやれよ!

 そのとき、スマホの着メロに気づいた。

「うそ、田中からだ!?」

 でも、こんなときに……しぶしぶ出る。

「もしもし……」

『あ、おひさ~』

 心ここにあらず、ええかげんな返事をしていると、テレビとシンクロしていることに気づいた!

「え、うそ!?」

 テレビのトモカは田中だった……。

 学校を辞めて、タイで性転換手術を受けたそうだ。とある外国との二重国籍で、そのへんは簡単だったらしい。

 あたしは、なにを喋ったか覚えていないけど、ちょっと複雑で、ちょっと胸暖まる「え、うそ!?」だった。

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