大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 46『誰も文句言うな!』

2021-11-24 10:41:30 | ノベル2

ら 信長転生記

46『誰も文句言うな!』  

 

 

 場所をリビングに移すと、敦子は観念した。

 

 ドアとか窓とかはもちろん、エアコンや換気扇や床下収納の蓋から水道の蛇口まで伊勢神宮のお札を貼っておいたので、敦子は、どこにも逃げられない!

「しかし、よくもまあ、こんなにお伊勢さんのお札を持っていたものねえ……」

「それは……浅井に嫁ぐときにいっぱいもらったからよ」

「え、だれにもらったの?」

「そ、それは……あの、バカ兄貴よ」

「え、信長くんが?」

「ま、政略結婚だったから、せめてもの罪滅ぼし的な? なんか、男らしくなくってというか、言い訳じみててやだったんだけどね」

「でも、その男らしくなくて言い訳じみてるのを大いに活用してると思うんだけど……ま、いいわ、どんな相談なのよ」

「え、あ、うん……どうして、兄貴といっしょに三国志の偵察なんかに行かなきゃならないのよ!?」

「わたしに聞く?」

「だって、うちの生徒会長じゃラチあかないんだもん」

「プータレてないで、行ってきなさいよ。生徒会長が言ったってことは、もう決定事項なんだから」

「たとえ、そうでもよ、納得したいのよ、納得。前世では、納得も何も、兄貴の言う通り、浅井に嫁いだり柴田勝家と再婚させられたり。挙句の果ては猿に攻められて、プライド傷つけられた勝家と天守閣で無理心中よ。それも、爆薬一杯仕掛けられて、天守閣ごと吹き飛ばされて、わたし、骨のひとかけらも残らなかったわよ!」

「ああ、あれね……」

「せめてさ、前田利家とかに攻めさせたら、勝家も、あそこまでブチ切れなかったと思う。思わない?」

「あれは、筒井順慶の真似だったわよね(^_^;)」

「順慶は兄貴に平蜘蛛の茶釜を渡したくなかったからでしょ、国宝級の茶釜といっしょに粉々に爆死って、順慶のはいちおうの美学とか、男の意地とか感じるけど、生身の女を、それも主筋の姫を粉々にしちゃうなんて、男のヒステリーじゃん! 悔しくって涙も出なかったわよ!」

「で、でも、いっちゃんも合意の上だったでしょーが」

「仕方なしよ! 天下のお市さまが、みっともなく切れたり泣き叫んだりってあり得なくない!?」

「あんたたち兄妹って、そういうとここだわるのよね」

「あ、あいつといっしょにすんな!」

「わ、わかったわかった。でもね、これくらいのこと乗り越えないと、来世でも同じことを繰り返すわよ」

「だ、だけどさ、水滸伝の奴らとは、もう出くわしてさ、死ぬ思いしたんだから、もっかい、偵察とかで向こうに行くなんて、あり得ないでしょ!」

「そこが試練よ。女の身で、戦国時代に覇を唱えるって並大抵のことじゃないわよ。女で天下統一なんて、針の穴にゾウさんを通すようなものなんだからね」

「天下……?」

「え、あ……違った?」

「天下なんて欲しくないわよ! んなもんサルにでもタヌキにでもくれてやるわよ!」

「いっちゃん……あんたいったい?」

 

「…………」

 

「な、なによ、なんで涙一杯浮かべて睨むのよ……」

「あんたの言う通りなのかもしれない……天下とらなきゃならないのかもね……わたしが、わたしらしく生きていくには……ゾウでも、ゴジラでも針の穴を通してやる! 天下を丸ごと針の穴に通してやるわよ!」

「いっちゃん……」

 

 墓穴を掘ってしまったかもしれない。

 

 でも、敦子……熱田大神にさえ、天下を取ることが目的だなんて思われたら、この織田市っていう日本史上最高の女は受けて立つしかないわよ!

 ツンデレの意地ってのを見せてやるんだから!

 もう、誰も文句言うな!

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 
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ライトノベルベスト・〔期末テストの最終日〕

2021-11-24 06:37:09 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『期末テストの最終日』  




 終わったー!

 テスト最終日の最後の答案用紙を回収する「はい、止め。後ろから回答用紙集めて!」の先生の終了宣言は、数少ない高校生活の開放感の一つや。

 今の英語のテストで、三学期、いや、一年間の勉強はおしまい。テストの出来不出来にかかわらず、この開放感は、ちょっと言い表されへん。

 その中でも、特に二年生の二学期は意味が大きい。

 一年生は、まだ二年残ってて、まだまだ取り返しもつく。三年は大半が進路決まってしもてて、おつり言うか、おまけみたいと言うか、ルーチンワークなテスト。

 そやけど、二年は違う。進路に向けての評定が、これでほぼ確定する。このテストで、行ける大学やら就職やらの幅が決まってしまう。
 関関同立(かんかんどうりゅう)とまでは見栄はれへんけど、産近甲龍(さんきんこうりゅう)のレベルは維持できたと思う。

 最近の府立高校で産近甲龍いうたら、自分で言うのもなんやけど、大したもんや。北野やら天王寺みたいなとこは別やけど、うちみたいな、評定5ちょっという学校ではなかなかなもん。

 そんながんばって、どないすんねん?

 ごもっともです。たとえ東大、京大出てても、しょーもない奴はしょ-もない。社会のS先生なんか、東大の法学部出てて、府立高校の先生。国語のM先生は産近甲龍の下の下。通称K学院高校付属大学。それでも試験に通ったら、同じ府立高校の先生や。

 そんなあたしが産近甲龍レベルにこだわるのは、クラスの杉本くんが産近甲龍狙いやから。

 はっきり言います。あたしは杉本君が好きです!

 大阪の女子高生らしく、一学期にはコクってます。

 返事は「親しい友達で」という評定4ぐらいの煮え切らんもんやった。

 

 けどええねん。

 

 4はがんばったら5になれんこともない。一回だけやけど、二人でUSJに行ったこともある。バタービールを二人で飲んだ。間接キスや。カラオケには三回行った。もっとも二人きりいうのは一回だけやけど(莉乃がドタキャンしたから)

 あたしは、できたら杉本君と同じ大学に行こうと思てる。女の意地です。

 あたしにはライバルがいてます。

 椎名留美。

 杉本君はええ子やねんけど「ただし」がつく。まあ名前が忠司やから、まんまの寒いシャレみたいやけど……杉本君は留美とも付き合うてる「親しい友達」いうレベルで。

 突き放した言い方したら両天秤やねんけど、杉本君は「親しい友達」でくくってる。親しいても薄いでも、友達がついたら何人おっても文句言われへん。

 あたしは、同じ大学に行って「彼女」にランクアップしよ思てる。

 それが目標。

 あたしは、杉本君を最初の男にしよと、密かに決めてる。

 杉本君は女の子と関係を持ったことはない。

 女の勘。

 USJ行ったときの微妙な距離の取り方。距離には人間関係がある。USJの行きしなの電車の中で並んで座っても、2センチは距離を空ける。体触ったんは、バタービール飲んだ時に、鼻の下に泡が付いた時「めっちゃ、面白い!」言うて、あいつの手ぇ握ったときだけ。それ以上はあかんいう空気が、杉本君にはある。

 ほんなら、将来は杉本君と結ばれたいか……そうは思てへん。

 いつの間にか離れていく相手やろとは、漠然と思てる。ただ、青春の最初のページは杉本君にしたい。そんなとこ。むろん、成り行き次第で、それ以上になってもかめへん。

 帰りに、係やさかいに英語のワークブック集めて職員室へ持っていった。大好きな「時をかける少女」のアニメ版に、こんなシーンがあった。ちょっと世界の主人公いう感じになる。

「失礼しま~す」

 期末最終日のお気楽さで、職員室に入る。ロッカーの上の指定の場所に置いて振り返る。パーテーションで区切った、応接セットのとこに、うちの担任と留美とお母さんらしい人がいてるのが分かった。

 距離はあったけど、テーブルの上の書類に「転学」いう字が見えた。

 今ごろ……主人の仕事で……

 言葉の断片が耳に入った。

 留美は、俯いて表情は分からへんけど、ハンカチ握りしめた力の強さで見当がついた。

 留美、転校するんや……。

 

 そんで、用事を済ませて昇降口。

 

 下足に履き替えるためにロッカーを開ける。

 あ……

 せや、学年も終わりやさかい――テスト期間中にロッカーの中は整理しておきなさい――という指示で、昨日には済んで、下足のローファーが残ってるだけ。

 ローファーに履き替えて、上履きのサンダルはレジ袋に入れて……持って帰ろと思たけど、一瞬悩んでゴミ箱へ。

 もう二か月ぐらいは履けそうやったけど、三年になったら新調しよ。

 バサ

 サンダルを捨てて正門までのアプローチを歩く。

 正門の向こうの空は、お日様が南中に近くて、穏やかに澄んでる。

 

 ブーーーーーーーーーン

 

 頭の上を、八尾空港から飛んできた飛行機が飛んでいく。

 空の深さが際立って、ついさっきまで、胸の中に蟠ってたもんが消えていくような気がした。

 この感じ……胃の悪いときに、お父さんに勧められて太田胃散を飲んだ時に似てるかも。

 

 留美がええ子に思えてきて、杉本君の影も、なんや薄なっていく。

 振り返ると、正門の向こうに昇降口がクリアしたダンジョンの洞窟みたいに萎びた闇になってた。

 

 

 

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