大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・109『メイドお化けとお辞儀』

2021-11-09 15:15:33 | ライトノベルセレクト

やく物語・109

『メイドお化けとお辞儀』   

 

 

 ニギタマにしてくれてありがとう……と、お地蔵様が言ってました。

 

 カップ麺を宙に浮かせたままメイドお化けがお礼を言う。

 ニギタマ……保育所に行っていたころのできごとを思い出してしまった。

 マリちゃんという子が、いきなりトウマくんの○○を握ったんだ(^_^;)

 ウグ!

 幼心にも、声が出ないくらい痛いんだ! と、思った。

 じっさいトウマくんは○○を押えて転げまわった。

 先生が飛んできて、トウマくんを抱きかかえて医務室へ連れて行って、少しすると、トウマくんの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

 ほんとうの痛さって、しばらくは声が出ないくらいに苦しいんだということを学習した。

「あ、それじゃなくてね、和魂と書いてニギタマって読むの」

「あ、ああ……」

「茨木童子の魂は、ほとんど六条御息所に吸収されていたみたいだけど、やくもが別の依り代を用意してくれたので、どうやら荒魂(あらたま)であることを止めて和魂になったみたい」

「あ、あれは……桃の木さんとチカコが思いついて」

「うん、そうなんだけどね、やくもの力が無かったらできなかったことなのよ」

「そうなの?」

「うん、そうだよ。やくもは、いろんな妖に出会ってるけど、他の人には見えていないでしょ?」

「見えてる人もいるよ」

 教頭先生の顔が浮かんだ。

「あ、そうね。でも、それ、少し見えてるだけで、やくもみたいに友達付き合いができてるわけじゃないでしょ?」

「あ……ああ、たしかに」

「友だちみたいに付き合えて、はじめて『見えてる』って言うんじゃないかなあ」

「そうなの?」

「さっき、スーパーに行ったでしょ?」

「あ、うん」

「スーパーの店員さんとかお客さん、憶えてる?」

「あ……」

 バイトのオニイサンには、カップ麺ではお世話になったけど、顔も覚えてない。

「うん、そうなんだよ、見えてるけど見てないんだよ。やくも、妖のことはしっかり憶えてるもんね」

 その通りだ、いま目の前に居るメイドお化けはオリジナルで、お地蔵さんが乗り移った地蔵メイドじゃないことも分かってる。

「ね、だからこそなんだよ」

「う、うん」

「いま一つ分かってないっぽいから、ちょっとね」

「うん」

「それに、お礼も言っておかないと。わたしだけじゃないわよ、ここいらの妖は、みんな喜んでるから。ね、ほんとうに、どうもありがとう」

 メイドお化けは、本物のメイドさんのようにていねいにお辞儀をしてくれた。

「ど、ども……」

 わたしも、同じように、でも、アセアセでお辞儀をする。

 あれ?

 頭を下げると、背中に、ちょっとだけ重みを感じる。

「フフ、カップ麺もどしておいたわ」

 あ、そうか、さっきまで担いでたカップ麺の重さだ。

 と……?

「ね、いま背中に隠さなかった?」

「テヘ、バレちゃった?」

 テヘペロの顔で背中のカップ麺を差し出す。

「ハハ、いいわよ、友情のしるしに進呈するわ」

「どうもありがとう」

 

 ニコニコと笑顔を交わして、お家に帰った。

 

「「おかえり」」

 チカコと御息所が、コタツに足を突っ込んだままだけど労ってくれる。

「いっぱい買ってきたのね」

「うん、しばらくは安心……よっこらしょっと」

「あら?」

 下ろしたカップ麺を見て、二人とも「?」という顔をする。

「なに?」

「そのカップ麺……」

 見て驚いた。

 カップ麺の蓋が、スーパーで見た時のとは違っていた。

 店員さんの顔は憶えてないのに、カップ麺の蓋を憶えているというのはどうよ……というのはスルー。

 蓋には、それぞれ漢字が書かれていた。

 

 仁  義  礼  智  忠  信  孝  悌

 

 じん ぎ れい とも……?

 わたしには読めない字もある。

「南総里見……」

「……八犬伝よね?」

 二人には分かっているようだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所

 

 

 

 

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普通科高校の劣等生・2『俺の特技』

2021-11-09 05:52:15 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
普通科高校の劣等生
2『俺の特技』   




 オレには魔法とは言えないけども特技がある。

 ここ一発と言うときに、相手の心が読める。確率で言うと85%ぐらい。だから特技と言っていいと思う。

 でも、念のため繰り返しとくけど、いつも読めるというわけじゃない。いつも読めたら落第なんかしない……いや、ちょっと違うな。

 カッコつけるわけじゃないけど、試験の時に人の心を読もうとは思わない。実力じゃないのに優等生の心から答えを読んでまで合格点を取ろうとは思わない。だから、素直に欠点を取る。ここまで読んでくれた人は、オレの事をシニカルな反体制的な人間と尊敬してしまうかもしれない。オレは、そんな尊敬に値するような人間じゃない。いや、ほんと。

 気ままなんだという自覚もある。

 去年の学年末テストでも、親友の高砂澄人からノートを借りた。いっちょ前の悪あがきだ。

 でも、澄人のマメな性格を表す字やノートの美しさには感動したが、書いてある中身の無機質さにはゲンナリした。国語にしろ英語にしろ、生きた言葉をどうして死体を解剖するように無意味にいじくりまわすんだろう。「You」をスラングでは「u」と縮めて表現する。プレステのチャットで覚えた数少ないオレの英語の知識。

 でも、オレは感動した「You」も「u」も発音すれば大差はない。会話にもスピード感が出る。ただ、アメリカにもシャワーみたく言葉を発してないと落ち着かない人間はいるんだなと思った。

 会話っていうのは、間があってこその会話だと思う。「なるほど」「そうなんだ」「だけどな」などと考えながら会話していると、自然な間が空く。だからこそ人間と言うのは共感して友達なんかになったり、恋人や夫婦になったりする。

 ラインやメールも同じだと思うんだ。

 やりとりに隙間ができるのが嫌だから、絶えず返事を打たなきゃならないハメになる。だから、オレは、ある時期から携帯を止めた。パソコンはやっている。メールは、そこで受ける。パソコンは持ち歩くもんじゃないから「なんで、直ぐに返事よこさないのか!」などと責められることはない。

 あ、オレが聖人君主でないことを言っておかなきゃ。

 澄人からノートを借りて、オレはしばらくホッポラカシだった。ノートの中身の無機質さもあるけど、やっぱオレの気ままなんだと思う。

「トドム(留)そろそろノート返してくれないか」

 澄人は遠慮がちに言った。これに、オレはとんでもない返事をした。

「澄人は、このノートが無くても進級できるだろうけど、オレはこのノートが無ければ落第するんだ!」

 言いながら、オレは『走れメロス』のメロスに仮託した太宰治の言い訳のような気がして、受話器を置いた後すごい自己嫌悪に陥った。澄人は、メールじゃなくて固定電話で話してくれた。オレは澄人らしい距離の取り方だと思い、かつ反省した。

 オレは、直ぐにノートを持って……澄人の家にチャリを飛ばした。

「いいのかよ、トドム?」
「大丈夫、大丈夫、そこのコンビニでコピーしてきたから。最初から、こうすりゃ良かったんだよな、アハハ」

 そう言って、オレはA4の紙袋を澄人に見せた。

――トドム、見栄張りやがって――

 澄人の心が読めてしまった。だけど、澄人は「そっか、そうだよな。がんばれよ」としか言わなかった。
 オレの見すぼらしい自尊心を、澄人は笑顔で労わってくれた……。

 そうそう、オレの親が離婚したのに同じ家にいるってこと話してなかったよな。

 うちの両親は、オレが小5の時に離婚した。オレは親父に、妹の伸子はお袋に引き取られることになった。

「兄ちゃん!」

 妹は、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしてオレに抱き付いてきた。オレもきつく抱きしめて泣きながら妹の髪をグシャグシャにした。

 でも、あてにしていた実家にもどることができなくなって、お袋は、そのまま居続けになった。

 親父とお袋が、こうなるのには数年の確執があった。オレは保育所のころから感じていた。「ただいま」「おかえり」という何気ない言葉にも親の気持ちを推し量る子になった。オレが人の気持ちを読めるようになったのは、このへんに原因があるのかもしれないな。

 お袋は、そのまま居続けた。で、いつの間にか離婚状態は解消してしまった。いっそ元に戻ればと思ったが、言いだせば、今度こそ本当に別れてしまいそうで、オレは言えなかった。親父もお袋も、それを恐れて休戦みたいなバーチャルな平和な家庭を続けていた。

 ああ、なんか話がマジっぽい。今度は、もっと真っ当な劣等生の話すっから!

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