大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・078『落盤事故』

2021-11-08 14:15:39 | 小説4

・078

『落盤事故』 加藤 恵    

 

 

 ドオオオオオオオオオオオオン

 

 お岩さんを手伝って、朝食の準備をしていると、遠雷のような音がした。

「落盤だ!」

 お岩さんの手が停まる。

「うち(氷室カンパニー)だろうか……」

「どこだろうと、島で起こった事故だ……ここしばらくは無かったんだけどね」

 ドタドタドタ!

 猿のようにハナが駆け込んできた。

「A鉱区で落盤! 人手が足りない、来て!」

「うん!」

 それだけで、ハナと一緒に食堂を飛び出した。お岩さんはキッチンの火を消して救護所に向かった。

 外に出ると、ベースのみんなが走っている。

 大方は、わたしと同じでA鉱区へ向かうけど、何人かは自分の持ち場へ、おそらくは災害時の非常配置が決まってるんだ、動きに無駄が無い。

 ガッシャンガッシャン

 四足獣的に形態変化させたニッパチがシゲさんを乗せて追い越していく。

 災害時に不謹慎かもしれないけど、ひどく統制が取れていて小気味いい。

 A鉱区の入り口が見えるところまでくると、村とフートンの即応機動車まで来ている。

 ベース同士の連携もいい。

「落盤は第二層と第四層、第二層はニッパチで向かって、村の機動車は坑口で待機しておくれ。第四層は北側から回り込まないと入れない」

 社長がトロッコの上で指揮を執っている。

「それなら、オレがフートンの機動車でまわる!」

 手を挙げたのは、村のサブ。言うと同時に機動車のハッチが開けられ、村と会社のメンバーが機動車の後ろに付く。

「四層には、擬態率五以下の者が付き添っておくれ」

 社長の言葉に、救護隊全体に緊張が走る。

「社長、ガスですか!?」

 メガネの技師が声をあげる。

「いや、念のためだ。さあ、両方とも取り残されてる者たちがいる、一刻を争う、よろしく頼むよ」

 オオーー!

 全員、気合いで応えると、それぞれの事故現場に向かう。

「僕たちも四層に向かおう」

 いつの間にか兵二が横に来ていて、わたしを誘った。

 わたしも兵二も新参者だけど、扶桑幕府の近習筆頭と天狗党、判断と動きに無駄が無い。

 狭いように見えてベースは広い、回り込んだ北側は、まだ足を向けたことが無い窪地にあった。

 え、どうして?

 戸惑いが最初に来た。

 あれだけ急いだ救助隊が、くぼ地の縁で立ち止まっている。

「なんで、停まって……」

「ガスだ」

 さっきのメガネ技師が呟くように言った。

「ガス?」

「ああ、パルスガス……ロボットや義体化の進んだ者は、踏み込めない」

 噂には聞いた事がある。純度の高いパルス鉱石が採れるところに発生するガスで、義体やロボットの神経系に致命的なダメージを与える。

「みんな下がれ! ガスの濃度が400PPMを超えている!」

「堀越さん、ダメかな?」

 第二層の現場から駆け付けてきた社長が技師に聞く。

 とんでもない状況なのに、先に表に出た者にお天気の様子を聞くように冷静だ。

「義体化率20%以下か、神経系の義体化をしていない者なら……」

「それは難しいね、島の住人には、ちょっと居ないんじゃないかなあ」

「耐腐食性の防護服が要ります」

「それなら防災倉庫……あ……」

 社長が目を向けた先には、爆発のショックで崩れた岩の下になった瓦礫が見えた。

「他のを取りに行かせてますが、すぐに人を向かわせた方がいいです」

「僕が行きます」

 兵二が進み出た。

「きみは、村の……」

「火星人です、義体化率ゼロの生身です」

「いいのかい、まだ、ここに来て日が浅いだろ?」

「事態は一刻を争います、違いますか?」

「しかし、きみ一人じゃ」

 技師も止めに入る。

「わたしも行きます」

「メグミ、きみは義体化してるでしょ」

「神経系はいじってません、普通の防護服と酸素があれば大丈夫です。坑内の様子はニッパチをいじった時にメモリーを見ています」

「よし、じゃ、五十分を目途に」

「いえ、二時間はやれるわ」

「いや、戻って来る時間を考えたら、それが限度。そのころには、準備も整うだろうから。いいね?」

「「了解!」」 

 

 二分で必要な機材を整え、兵二と二人、すり鉢の底のような坑口を目指した……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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普通科高校の劣等生・1『魔法科高校じゃねえんだ』

2021-11-08 05:29:35 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
普通科高校の劣等生
1『魔法科高校じゃねえんだ』   
 


 魔法科高校の劣等生ならカッコがつく。

 普通科高校の劣等生では洒落にならない。
 
 敬遠されて、同情もされないし友情も持ってもらえない。
 
 イジメられるようなことは無いが、話しかけられることもほとんど無く、どうしてもって時は敬語になる。
 
 うっかり掃除当番を忘れて帰りかけた時など「あ、掃除当番なんですけど……」
 
 それも目線を外してな。
 
 気づまりなお客を相手にする感じだ。
 
 でも、オレはあんまり気にしない。並の劣等生じゃない。なんせ、学年でたった一人の留年生だ。三学年を通じて成績が原因で留年しているのはオレ一人だから、もうスコブル付きの劣等生。

 昨日、二回目の修学旅行から帰ってきた。
 
 そうだ、オレは二回目の二年生をやっている。

 二回行って分かった。
 
 修学旅行は前回と同じ沖縄二泊三日。組合の先生には悪いが、反戦学習の修学旅行は止めた方がいい。理由は書くと長いのでよす。ただ一言、あの戦争を反戦の立場からだけ教育すると、日本人やってるのが嫌になる。
 
 だいたい、オレは学校の教師を尊敬してない。
 
 東京大学を出た先生が二人いる。一人は数学、一人は国語。数学はご丁寧に去年も今年もいっしょ。二人とも落第した最初の授業で、オレの顔を見て驚いていた。
 
 留年生は進級判定会議ってので、時間をかけて審議される(落ちた時、担任が『いったいどれだけの時間をおまえの審議にかけたか!』と恩ぎせがましく言っていた)にもかかわらず、オレのことを覚えていない。学校でたった一人の落第生なのにな。

 魔法科高校じゃないから、魔法は使えないけど、並の生徒には見えないものが分かる。

 東大出て、公立高校の教師ってドーヨ。

 能無しを絵にかいたようなもんじゃん。
 
 教育改革の志高く、あえて教師をやったというのなら、まだ尊敬の余地はある。でも、学校で、ただ一人落第した生徒も憶えていないようじゃ、会議もロクに聞いていない証拠じゃねーか。

 社会科でM大学を出た先生がいる。
 
 M大は近在でも最底辺の大学で、教員採用試験に通るような学生は、まずいない。
 
 この先生は高校でも大学でも落第し、講師を三年やってやっと採用試験に通った強者だ。
 
 最初の授業は感動した。講師二年目の春にお父さんが亡くなり、切羽詰って勉強したら通ったという一発屋。

 授業の最初にゼロの概念について教えてくれた。映画の『永遠のゼロ』から脱線しての話だった。

「100-100はゼロだ。1億にゼロを掛けてもゼロだ。そして、ゼロを目に見える形では見ることができない。でも感じることはできるよな」
 
 先生は、そう言って教卓の上を示した。
 
「何もない。これは無だ。でもここに、一本のチョークを置く。ここにマイナス1チョークとする(チョークをどけた)……何もない教卓に戻ったが、これはゼロだ。無と似てはいるが、マイナス1というドラマがあったという点で決定的に違う。分かるかなあ……ここにX=1 Y=1の点がある。ところが、点と言うのは面積を持たない。だからここに描いた点は座標軸を示す記号に過ぎない。どう黒板に描いてもパソコンのモニターに出しても面積をもってしまうからな。面積のあるものは点じゃない。この点を目に見えるように示すことは不可能なんだ。しかし、君たちはゼロも、この点も頭の中では明らかに認識できる。出来たな!? これが物事を理解するということだ! 出来たということは高校生として十分な能力があるということだ!」
 
 ロジックの技なんだろうけど、この説得力には感心した。しかも天下の劣等M大学の出身なのだ!

「……今年も同じ話してたね」

 妹が、家に帰ってからうんざり顔で言った。
 
 ちなみに妹とは同じ学校の一年違い……つまり、落第してからは同じ学年。しかも同じクラスになってしまった。M大学の先生は選択授業が違うので、オレは今年は受けていない。M大学の先生の評価は、オレの中でワンランク下がった。

 ちなみに、妹とはクラスでは他人の顔をしている。親が離婚しているので苗字が違う。妹が入学したらバレるかと思ったが、学校は苗字が違うということで、他人と思っている。学校に出した書類には同じ住所になっているのに。学校がいいかげんな証拠。
 
 あ、なんで妹がM先生の事を知っているかというと、M先生に感動した時に妹に話したからだ。
 
 まだ苗字がいっしょの兄妹やってた時にな。

 え、なんで親が離婚したのに住所がいっしょ? 鋭いツッコミ!

 それは、また明日。 
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