大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・261『ソフィアのON・OFF』

2021-11-26 11:06:57 | ノベル

・261

『ソフィアのON・OFF』       

 

 

 ON・OFFの区別って大事だと思う。

 

 中学に入ったころ、お祖母ちゃんの勧め(ほとんど命令)で某国王女がやってるグループビデオチャットをやらされたことがある。

 ま、国際感覚と王族に相応しい『付き合い方』入門ということなのよ。

 王子とか王女というのは裏表がある。

 フォーマルな時は、ディズニー映画のプリンスみたいにお行儀いい王子が、ビデチャになったとたん、変態王子に大変身したりとか。赤十字だったかのフォーラムで立派なスピーチしたのを褒めてやったら『アハハ、ネコよネコ、他にやることないから完ぺきになんのよ』とおへそとノドチンコ丸出しで大笑いする王女とか。

 こいつら、アホか?

 そう感じて、半月で止めてしまった。

 あ、そいつらのON・OFFじゃなくてね。

 いや、世界のプリンス・プリンセスがパープリンなのは、日本も例外じゃないってのは、晴れて男とニューヨーク行っちゃった〇子さんで分かっちゃったけど。

 いや、だからね、そのパープリン王子・王女どもが呆れたのよ。

「うちの学校じゃ、授業の始めと終わりは、こんなんだよ」

 イラスト書いて、起立・礼・着席ってのを見せたのよ。

 すると、パープリン共が「なにこれ!?」「ナチスか!?」「信じらんねえ!」とか馬鹿にした。

 ああ、こいつらダメだ……そう思ったわたしの感性はまともだと思うでしょ?

 

 そのわたしが見ても「もうちょっと気楽にやりなさいよ」と思うのが、うちのインペリアルガード。

 

 みなさん、すでにお馴染みのソフィア。

 わたしより一個年上だと思うんだけど、日本ではガードのために、わたしと同じクラスで女子高生をやってくれている。

 日本語も一年足らずで、どうかするとわたしより上手い日本語をあやつるようになった。

 近ごろでは、軽く微笑んだりはするようになったんだけどね、まだまだ硬いんです。

 こないだ、お祖母ちゃんとスカイプで遠慮のないトークをしていたら、いつの間にか後ろに居て笑いをこらえていたりしてたんだけど、そういうのはビックリするから止めてほしい。

 もっと、日常生活でフレンドリーにね……と、思うわけです。

 お祖母ちゃんが寄こしてきた映像に『エリザベス女王と並んで座ってるメーガン妃が脚を組んでる』のがあった。

 わたしが見てもマナー違反。

 女王と一緒の時は脚を組んではいけない。すごく無礼な振舞いなのよ。正座されてる天皇陛下の前で胡座かいてるようなものって言えば分かるかしら。

 これを見た時にソフィー、いっしゅん固まった。

「ソフィーも無礼だと思うでしょ?」

「はい、相手が殿下でも、あとで張り倒します」

「え、張り倒されるの、わたし!?」

「殿下は、そういう無作法はなさいませんから。で、ございますよね?」

「は、はい(;'∀')」

 いや、目がマジで怖いから……。

 

 そのソフィアのことで、ジョン・スミスから一言あった。

 

「今度の休みに、ソフィアはフェニーチェ堺に行きます」

「え、ああ、いいんじゃない」

 ソフィアも、月に一回だけ完全なオフがある。

 ヤマセンブルグにも労働ナンチャラ法というのがあって、最低の休暇はとらなきゃならない。

 それをソフィアは一回もとったことがないので、まあ、めでたいお話。

「ご存知ですよね、フェニーチェ堺?」

「うん、堺市の市民ホールでしょ?」

 大ホールはキャパ2000人もあって、座席も四階席まであって、まるでパリのオペラ座みたいにごっついホール。

「いや、大ホールのイベントではなく、催事場で行われる展示です」

「え、展示?」

「はい……」

 

 ジョン・スミスがタブレットで見せてくれた『それ』を見て息をのんだ。

ゴルゴ13×堺市「さいとう・たかを劇画の世界」』

「え……」

 ゴルゴ13と言えば、ハードボイルドな国際的殺し屋の話だよ。

 それは、ぜんぜん問題ない。うん、ソフィアが公休日に何を見ようと自由よ。

 でもね、ゴルゴ13って、完全にON・OFFのない殺し屋だよ。

 わたしも、全巻読んだわけじゃないけど、ゴルゴ13がニヤケてくつろいでるとこなんて見たことない。

 でしょでしょ!

 もし、あれに憧れとかお手本とかを感じられたら……いや、感じてるのよ!

 ジョン・スミスが、わざわざ知らせてきたってことは、そういうことなのよ。

「これは、対策が必要ね……」

 

 ジョン・スミスが静かに、でも、しっかりと頷いた……。

 

 

 

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ライトノベルベスト・〔赤線入りのレシート〕

2021-11-26 06:44:36 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
赤線入りのレシート〕  



 赤線入りのレシートで渡された。

「ちょっと、レジロールどこかしら!?」

 パートのオバチャンが怒鳴ったけど、お客のわたしは両脇に赤い線の入った「おしまい」を示す印が付いたまま。

 わたしは、中学までは演劇部に入っていたけど、高校の演劇部は一年の連休明けから足が遠のき、学期末には正式に辞めた。理由はいろいろあるけど、大まかに言うと、高校の三年間を預けるにはお粗末だと思ったから。

 今は帰宅部二年生。お芝居はたまにお父さんが連れてってくれる。

 まともに観に行ったら一万円を超えることもある一級品の劇団の芝居を、近隣の市民会館のプロジェクト事業などで安く観られるのを見つけては、お父さんがチケットを取ってくれて、この二年で二十本ばかり観た。劇団四季とか新感線とか一級品の芝居はビデオで録画したのを観る。

「卒業しても、その気があるんなら劇団の研究生になればいいさ」

 と、往年の演劇青年は言ってくれる。で、三年生目前のわたしは受ける劇団の絞り込みの段階。一時は高校生でも入れるスタジオや劇団を受けようかと思ったけど、お父さんの意見で、高校を出てからにということにした。それまでは、戯曲を読んで、芝居を観るだけでいいということになっている。

「それよりも、高校時代は好きなことをやっていればいい」

 と、かなり自由にさせてくれる。

 わたしは、オープンマインドな人間じゃないので、一年の秋ぐらいまでは芝居を観る以外ボンヤリした女子高生だった。

「これあげるから、好きなようにカスタマイズしてごらん」

 誕生日にドールの素体というのをもらった。

 体の関節が人間と同じように動くプラスチックとビニールでできた人形。

 人形なんて、子どもの頃のリカちゃん人形以来だ。素体と言うのは、人形は裸のまんまで、首さえない。

 別に二万円を現金でくれて、それで自分の好きなヘッドやウィッグ、アイ、ツケマ、衣装なんかを買って人らしくしていく。

 やってみると、これが面白い。カスタムする以外に自分でポーズを付ける。ちょっとした体の捻り方、手の具合などで人形の表情だきじゃなくて、感情そのものが変わってしまう。この面白さは、やった人間でないと分からないだろう。

 気づいたらハマっていた。人を観察してドールで再現してみる。すると、今までのドールでは限界があることが分かる。

 わたしはドールのためにバイトまでするようになった。

 そして、二年の終わりごろには、男女含めて五体のドールが集まった。中でも圧巻は完全に自分の体形を1/3にしたマコ。わたしの真子をカタカナにしたわたしの分身。これでポーズをつけると他の理想的なプロポーションをした人間のようにはいかないことを発見。

 ドールの足の裏には磁石がついていて、付属の鉄の飾り台にくっつけるんだけど、やはり姿勢によってはできないものがある。

 ドールの撮影会で知り合ったSさんがホームセンターで売っている簡単な材料で人形の飾り台ができることを教えてくれて、その材料を買ったところで、出た。

 赤線入りのレシートが……。

 こないだ、ドールたちの手入れをしていると、暖房の効きすぎか、半分眠った感じになってしまった。

 マコが、トコトコと寄って来て、わたしにささやいた。

「真子、赤線入りのレシートが出たら、死んじゃうからね」

「え……」

「あたしたちを可愛がってくれるのは嬉しいんだけど、そういう落とし穴があるの」

「赤線入りって、めったに出たりしないわよ……」

「でもね……もし出たらね、破っても捨てても、消してもダメ、三時間以内に死んじゃう」

「どうしたらいいの……?」

「それはね……」

 そこで意識が無くなった。マコはなにか対策を言ってくれたんだけど、夢のように忘れてしまった。

「ねえ、マコ、どうしたらいいの?」

 家に帰って、マコに聞くが、マコはただじっとしてお人形様のまま。

「あああ……あと三十分で三時間だ」

 その時、わたしは閃いた。修正ペンを持ってきて、レシートの両側の赤線に……してみた。

 三時間たっても死ななかった。わたしは、赤線に白い区切りを点々と付けて紅白のお目出度いレシートにしたのだった。

 ほんとだよ。面白くなかったかもしれないけど。

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