ライトノベルベスト
あろうことか友美はマスコミに露出してしまった。
むろん未成年なんで、仮名だし顔写真にはモザイクがかかっている。
だけど、こんなもの、関係者なら正体が直ぐに分かる。SNSに実名と顔写真が出ることに、さほど時間はかからなかった。
伸子の話では、ノンフィクションで本を出す企画も来ているらしい。現職教師と生徒の許されざる関係! センセーショナルだ。少なく見ても1万くらいは売れるだろう。1000円の本で、印税5%(上手くいけば10%)として50万円!
むろん良いことばかりじゃない。露出したことで社会的に叩かれることもあるだろう。
でも賛同してくれる人たちだって同じか、それ以上出てくるだろう。
友美のメールなんかを伸子が見せてくれた。伸子は大ごとになってビビっている。だから普段同じクラスにいても他人のふりをしている。オレは『落葉』で伸子は『登坂』で通っていて、伸子が停学になって担任と生指の梅本が来た時には、家中オレの痕跡が消され、存在しないことにもされた。
でも、その伸子がメールを見せたんだ。
二つのことが分かる。
伸子が相当まいっていることと、友美に文才があること。国語嫌いの劣等生が言うんだから、本当にうまい。下手なラノベを読んでいるより面白い。
友美は自信があるんだ。これをきっかけにライターになろうとしている。見た目も学校でベストテン入るくらいに可愛いから、そっちのほうでも狙っているかもしれない。
オレの伸子への忠告は、ただ一つだった。
「関わんな!」
伸子はあっさりと頷いた。正直、クラスで他人の関係になっていたことを、オレは喜んだ。
「トドム君、話があるの……」
ミリーが、目を潤ませて、そう切り出したのは、絵の仕上がった成人の日だった。この三か月で、ミリーはみるみるきれいになっていった。なんと表現したらいいんだろう。バカなんで上手く言えないけど、AKBの選抜の子がデビューしたときと卒業したときぐらいに違いがあった。
「なんだよ、オレは単に絵を描いただけだから、あんま難しい話は分かんねえよ。劣等生だしさ」
「ううん、こんなにあたしのことを見つめて、しっかり描いてくれたんだもの。トドム君なら分かってもらえる……いえ、もう気づいてる」
「え……」
「ほら、その顔。気づいてるんだ」
「いや、絵とか写真のモデルになると、大人びた魅力が出てくるもんだよ」
「トドム君は正直だね……あたしね……」
「ん?」
「早期老化症候群なの」
「え……?」
「去年の春に、保険に入るためにDNA検査して分かったの。ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群でもコケイン症候群でもない。老化の速度は人の三倍。あたし18歳だけど体は25歳ぐらい。二年もすれば30歳……10年すれば60を超えてしまう。長生きしても40歳がいいとこでしょう……」
「ミリー」
「このごろ老化の速度が早くなっているような気がするの……ひょっとしたら30まで持たないかもしれない」
「それで、オレに絵を……?」
「うん。自分の一番いい時の姿を残しておきたかったから……泣かないでよ。これでも希望を捨てたわけじゃないんだから」
「なんか治療方法はないのか?」
「そのために日本に来たの。日本の医療技術はすごいけど、規制が厳しくて自由な研究がでいない。でも密かに、この難病の研究をしている人がいるの。それにあたしは賭けているの」
「……治りそうなのか?」
「この三か月は上手くいかなかった。でも上手くいった」
「え、でも……」
ミリーは裸のまま、オレに抱き付いてきた……。
あくる日から、ミリーは学校にやってこなくなった。
出来上がったキャンパスはミリーの家だが、オレは、ミリーの了解を得て写真に撮った。
「……そうだったのか!」
思わず声になってしまった。授業中だったので先生に注意された。
伸子は、相変わらず他人顔。
ミリーは、ほんの数週間だったけど、理想的な大人の女になったんだ。それが上手くいったということなんだ。オレも初めて人を好きになった。
今は、三回目の落第にならないように励んでいる。
もう一歩踏み込めば、俺も伸子も相当ドラマチックになりそうなんだがな。
立ち止まれるときは立ち止まるのがいい。
ダメかな?
信子も俺も、いずれは、あれもこれも真正面から受け止めなきゃならない時がやってくるだろ。
それまでは……な。
まあ、劣等生の知恵とでも思ってくれ。
こんど会う時は、ちょっと長い話になるかも……ちょっと予感はしている。
落葉 留