大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・259『体育祭の前日の視聴覚教室にて』

2021-11-21 11:19:31 | ノベル

・259

『体育祭の前日の視聴覚教室にて』       

      

 


 その学校のグラウンドは西側に丘がひかえていて、その境目は草が生えているだけの法面(のりめん)になってる。

 その法面の天辺に数十人のオッサン・オバハン・ニイチャン・ネエチャン・ジイチャン・バアチャンがゴザやらムシロやら風呂敷包みを持ち、険しい表情でグラウンドを見据えてる。

 中には、ねじり鉢巻きをした者や、ゲートルに地下足袋で足許を決めてる者もいてて、なんや、これから殴り込みでもやるんかいなという殺気に満ちてる。

 折しも、東側の校舎の向こうから朝日が昇ってきて法面の一同を茜に照らし出した。

「待てぃ」

 朝日に刺激されて、前のめりになったニイチャンをニッカポッカのズボンの上に法被を羽織ったオッサンが制止。

 オッサンの制止が無かったら、みんな前のめりニイチャンにつられて、鵯越の義経の軍勢のように法面を駆け下っていたやろ。

 今や遅しと固唾を呑んでると、校舎から燕尾服の下は、軍隊時代の軍袴(ぐんこ)にゲートルを巻き上げたオッサンが出てきて、グラウンドの真ん中に立った。

 右手にはピストルが握られ、左手は懐に銀鎖で繋がれた懐中時計を持ってる。

 朝日が校舎の屋根の風見鶏に差し掛かったとき、オッサンの号砲が放たれた。


 ドオオオオオオン!

 ウワアアアアアア!


 法面の数十人が、鬨の声をあげて一斉に駆け下って、砂煙をあげながら、ゴザやらムシロやらを我先に布いて陣地を構築していく!

 あちこちで、陣地の取り方でもめそうになるけど、燕尾服と法被にニッカポッカのオッサンがさばいて収めていく。

 なんとか落ち着き始めたころ、滲みだすようにタイトルが現れる。


『昭和二十八年度 ○○村立山里小学校運動会』


 なんと、68年前の運動会の記録フィルム!

 当時、小学校の運動会は地域のビッグイベント。

 みんな、前の晩からお弁当を作り、足許を地下足袋やらズック靴の戦闘態勢で固め、薫風に、日の丸やら万国旗が風になびき、紅白のお饅頭まで出ようかという、秋晴れの朝。上半身は羽織やモーニングの村長・校長。一般の父兄(当時は保護者の事を父兄と言ったらしい)は背広の上やら、おニューのカーディガンで決めてる。

 グラウンドは、日の出と同時に開放されるんで、みんな、丘の法面に集まって、校長の合図と共に陣取りの勢いで自分の家の場所をとる。

 競技になると、もっとスゴイ!

 まさにオリンピック!

 声をからしての声援はもちろんのこと、笛や太鼓はもちろんのこと、村長のオッサンは法螺貝まで吹く。

 ブオ~ ブオ~ ジャンジャンジャン!

 子どもらも、紅白の鉢巻締めて、足許は運動靴はチラホラで、なんと白の地下足袋。

 男の子は、白の短パンやらトレパン、女子はカボチャパンツを黒く染めたような提灯ブルマやおまへんか!

 徒競走でドンベになった子は、なんと、そのまま走って去っていく。きっと恥ずかしいんやね、整理係りの六年女子のオネエチャンが追いかけて、慰めながら連れ戻す。

 借り物競争で引っ張り出された教頭先生のカツラが風になびいて、グラウンドいっぱいの大爆笑。

 棒倒し  玉入れ  一年生のお遊戯  五六年生のマスゲームやらダンス  PTAリレー

 
『テレビもネットもスマホも無かった、だけど、みんな、こんなに楽しかった!』

 テロップは、春日先生の字や。


 続いて出てきたんは『昭和六十二年度 府立○○高校体育祭』

 校舎は見たことある。

 大阪市内にある偏差値の高い戦前からあるらしい、名門府立高校。

 オオオ……

 男子が小さくどよめく。

 百インチモニターに映し出されたんは、入場行進やねんけど、女子がみんなブルマ!

 カボチャと違て、伝説のピッチピチブルマ。

 モオオ

 女子たちが眉をひそめる。

 まあ、両方とも分かるけどね。

「これから競技や、ちゃんと見ろよ」

 春日先生がたしなめる。

 生徒の数がめっちゃ多い……思たら『一学年12クラス 全校生1580名』とテロップが出てきた。

 うちらの中学校の倍以上。

 生徒会長が開会宣言。

「ゼッケン、春日……」

 留美ちゃんが呟く。

 こ、これは、まだ、髪の毛フサフサの、若かりし頃の春日先生……思たら、早回しになる。

 競技もマスゲームも、応援合戦も、みんなスゴイ。

 和太鼓が八つほど並んで、法被姿の三年男女が太鼓の演武。

 男子は太鼓で、女子は竹を叩いてる。

 途中で、男子はハッピを脱いで猿股にサラシですわ。腋の毛ボウボウで、留美ちゃんは目を伏せてしまう。

「このあくる年から、女子もやらせろ、いうことで女太鼓が増えた……」

 解説なんか思い出なんか分からん呟きの春日先生。

 うちは、女子の腋の下が心配になった。

「女子はTシャツ……」

 行き届いた独り言の春日先生。

 後ろの方でペコちゃん先生が、プっと噴いた。


 ダラダラとすんません。

 今日は、朝から二年ぶりの体育祭やねんけど、校区からコロナの陽性者が出たいうことで、生徒席やら保護者の観覧席が大幅な変更で、ちょっと盛り下がりそう。

 で、春日先生の発案で『昔の体育祭』という動画を視聴覚室で観てる。

 まあ、楽しみ方の精神を学ぼうっちゅうこっちゃね。

 我らが、学年主任も、ちょっとフラストレーション。

 体育祭本番の事は、又いずれ。

 取りあえずは、快晴の運動会日和ではあります。

 

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ライトノベルベスト・『きれいなペンダント』

2021-11-21 06:29:45 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
きれい  




「きれいなペンダントしてるなあ」

 そんなオタメゴカシを言って、お父さんはいつものように沖縄に行った。

 お父さんは、沖縄に土地を持っている。150ほどと、人に聞かれたら言っておく。

「へえ、大したもんだ!」

 と、たいていの人はびっくりしてくれる。

 エメラルドグリーンの海を臨む高台の上に150坪もの別荘を持っている。そんなふうに人は誤解してくれる。

 正しくは150平方mm、ほとんどハガキの大きさの土地……。

 お父さんは『あ』の付くものが嫌いだ。

 安倍、安保、アメリカとかね。

 だからアメリカが沖縄に基地を持っていることが許せない。同じ感性の某政党をいまだに支持している天然記念物。

 5月15日、6月23日、8月15日は、お父さんが大張り切りする日。他に年に何度も沖縄に行って自称「がんばっている」沖縄に二つしかない新聞社の人たちとも仲良しのようで、基地反対のデモや集会では沖縄市民の一人としてよく写っている。あんまりよく写っているので、某週刊誌の記者が質問した。

「あなた、東京の活動家の○○さんですね?」

「う……そ、そうだ。ぼくは本土の一市民として反米闘争、反基地闘争に共闘しているんだ!」

 N放送やA新聞などは、ほんの百人ほどの反対集会を何十倍にも水増しして報道している。たまに千人ほど集まることもあるけど、かなりお父さんみたいな人が集まってる。基地で働いてる人や、基地賛成の人もいるけど、この人らの声がマスコミにのることはほとんどない。

 嘉手納基地の近くの小学校の移転計画が本気で出たことがある。信じられないけど、よってたかって、この移転計画は握りつぶされた。その移転反対運動の中心にお父さんもいた。

「移転すべきは米軍基地で、小学校ではない!」と主張してる。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 
 娘としては、家の近所の問題や、家のことに気を使って欲しい。

 

 近所で野良猫が増えて困ってる。お父さんは知りません。

 街で、若い女性の拉致事件が3件も起きました。あたしも女子高生なんだけど、お父さんは「お前に限ってそれはない」と笑っておしまい。わたしは去年の学祭でも準ミスに選ばれているんだけど、一応。

 筋向いの家が火を出して半焼。信じられないけど、お父さんは、この事実さえ知りません。関心がないんです。

 一回だけ、お父さんをおちょくりました。

「お父さん、近所の某空港で、オスプレイの離発着訓練やるのよ」

 お父さんは、顔色が変わりました。さっそく仲間に電話して訓練日には、数十人で反対運動に行きました。

 意気揚々と帰ってきたお父さんに、プリントアウトした資料を渡しました。

 オスプレイの、ここ十年ほどの事故記録です。警察が使っているヘリコプターよりも低い事故数です。

「……なんだ、アメリカの資料じゃないか、あてになるか」

「その下の中国語のは、人民解放軍の資料。同じ数字が出てるよ」

「……」

「そのまた下は○○島の住民の人たちのオスプレイ配備嘆願書。島で急病人が出るとオスプレイだと、ヘリの半分の時間で運べるんだって」

 無言のお父さんをしり目に、あたしは、その日の反対闘争のことを写真と資料付でブログに載せました。アクセスは200ほど、日本人は、元々無関心だということが、よく分かりました。

 弟が、ずっと不登校だけど、なにも言いません。家のことは、お母さんと、あたしに丸投げです。家庭内安保のただ乗りです。

 先日は、弟をなんとかしてやろうと思って、家の外に引きずり出して大げんか……正確に言うと、引きこもりで体力がない弟を、見かけの割に力も根性もあるあたしがボコボコにしてやりました。

 そして学校の先生と児童相談所の人にも直ぐに来てもらって、膝詰で話をしました。

 グズグズしながらも弟は「近所の野良猫が怖い」と言いました。ここんとこアメリカ大統領の報道官並に言葉を選んで語っています。そこんとこよろしく。

 どうも弟は野良猫の雌ボスが、特に怖いらしく、人間のくせに猫のパシリまでやらせられていたようです。

 あたしは、仲間といっしょに雌猫のボスを捕まえて、「保健所」ではなく、近くの山の中に連れて行って殺処分しました。

 動物愛護のうるさい人も居てるんで、その場で焼きました。生き物と言うのは90%近く水分で出来てるんで、なかなか焼けません。薪を集めては何回も焼きました。最後は真っ黒に焼けたのをバラバラにして別々に焼きました。丸半日かかりました。

 こんどは見事に焼けたので、無理やり弟を連れ出し見せてやりました。

「もう、怖くないだろ?」

「う、うん……」

 弟の喉かコクンと動きます。

「なんだ、震えてるの?」

「ちょっと寒いかも……」

「お姉ちゃんが、温めてあげよう……」

 丹念に、弟を温めてやりました。

 そして……喉の骨がきれいに見えたんで、水で洗ってペンダントにしました。

「かわいいペンダントしてるな!」という最初のお父さんの言葉につながります。

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