大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・310『五月最後の朝』

2022-06-01 15:15:34 | ノベル

・310

『五月最後の朝』さくら   

 

 

 高校に入って変わったことはいっぱいあるけど、一番は通学の変化やね。

 

 やっぱ、電車通学は違うでしょ!? と、思われるかもしれへん。

 ところがちゃうんです。

 電車に乗るのは人生で初めていうわけやないし、南海電車も地下鉄も物心ついたころから乗ってるしね。

 一番の変化は自転車ですよ。

 家から堺東までの二キロほどを自転車で走って『スナックはんぜい』の駐車場に停めさせてもらう。

 むろん自転車は五歳くらいから乗ってるけど、毎日同じ道を走る云うのは人生で初めてやんか。

 最初はね、本名というか真名というかは30号線やねんけど地元では13号線いう名前で通ってる道を北に向かって走ってた。

 せやけど、家から13号線に出るには、東のごりょうさんの方に400メートルほど走らならあかへん。

 堺東て、家の北の方角やさかいに、なんや損してる気分。堺東に着いたら、今度は駅とは反対の西に向かって100メートルほど入らならあかんしね。合わせたら、500メートル損してる気分。

 せやさかい、時々、留美ちゃんと「あっちの方がええんとちゃう?」「こっちがいいよ」てな感じで道を変えた結果、時間にして一分ほど早なりました(^_^;)。

 ちょっと人生得した気分。

 昨日は、朝のうち雨が残ってて、テイ兄ちゃんに言うて車で行こかと思てたんやけどね。

「大した降りじゃないし、帰りは晴れるって予報だし」という留美ちゃんの説に従う。

 うちには血のつながった従兄やけど、留美ちゃんには、まだ遠慮がある。

 せやけど、それを言うたら、かえって留美ちゃんは意識してしもて負担になる。

「せやな、とっとと行こか!」と宣言して、ちょっと残念そうなテイ兄ちゃんをほって家を出発した。

「正解でしょ!?」

 ペダルをこぐ留美ちゃんは、ちょっと得意そうに自転車を並走させた。

 空はドンヨリで、時々、霧雨というかミストみたいな雨が顔とかまくった腕とかに当たって、風も微妙に向かい風で爽やか。制服は湿気るけど、明日から完全夏服の衣替えで、新品の夏服やさかいに、少々霧雨が染み込んでも気になりません!

「「おはようございます! 行ってきまーす」」

 ハンゼイのマスターに挨拶。

 駐車場にオキッパで駅に行ってもええねんけど、やっぱ「ケジメだよ」という留美ちゃんの意見で、毎朝ドアを開けて一言声を掛けていく。

 たいてい「お、おはようさん!」と一言もらって駅に向かう。

 時間にして五秒もかからへんコミニケーション。

 モーニングのお客さんには常連さんも居てて、そういう顔見知りさんからも「おはようさん♪」と声を掛けてもらうこともある。

「あ、ちょうどええ」

 今朝は、マスターに呼び止められた。

「「はい?」」

 二人声が揃うと「双子みたい(^▽^)」と、常連の女の人。

 うちらは全然似てへんねんけど「同じ制服着て自転車下りたばっかりで、きっと同じ呼吸してるからだよ」と留美ちゃんは言う。

 うちは、それだけやないと思う。お互い親の都合で二年前からは同じ部屋で、姉妹同然の暮らしをしてるから。それに、なにより、如来寺のみんなは暖かい。けど、言うたら、留美ちゃんは頬っぺた真っ赤っかになるさかい、言いません。

「今日は10時で店閉めるから、モーニング余ってしもて、よかったらサンドイッチ持って行って」

 そう言うて紙袋に入ったサンドイッチをもらった。

「あたしももらったのよ」

 常連さんも袋を見せはる。

「ラッキー!」「あ、ありがとうございます」

 お礼の言葉は揃いません(^_^;)。

 

「やったねえ!」

 ニマニマしながら駅へ。

「ちょっと多いよ」

「ほんまや、一人で二人分以上あるやんか!」

 食いしん坊のうちでも、ちょっと多い。

「メグリンにも知らせてあげよう」

「うん、そないしょ!」

 メールを打って、三十秒で返事が返ってきて――頼子さんたちにも声かけよ!――ということになった。

 そして、昼休みは期せずして『散策同好会臨時部会』的に、雨の上がった中庭でサンドイッチで昼ご飯。

 なんか、めっちゃラッキーな一日!

 せやけど、そうそう世の中うまいことは行きません……その話は、次回に。

 ああ、話す気力あるやろか……。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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鳴かぬなら 信長転生記 76『劉備玄徳、二将の落花狼藉を叱る』

2022-06-01 09:41:32 | ノベル2

ら 信長転生記

76『劉備玄徳、二将の落花狼藉を叱る』信長 

 

 

 やめんかっ!!

 

 蜀王劉備玄徳が一喝して、ようやく二将軍の剣舞が止んだ。

 広間の卓は、ことごとく壊れるかひっくり返るかしていて、卓の上に並べられていた山海の珍味やら満漢全席やらは、床の上にぶちまけられるどころか、壁や天井にまで飛び散って貼り付いたりシミを作ったりしている。酒の半分は二将軍と賓客たちの腹に収まったが、残り半分は甕や瓶子の破片にまみれて、広間の絨毯をビショビショにしている。

「魏と呉の賓客をお招きしているというのに、このありさまは何か!? 関羽・張飛は我が義兄弟ではあるが、外交の場においては、ただの武臣に過ぎない。臣であるならば、主の着席も待たずに盃を挙げるも無礼であろうに、かように、落花狼藉の所業、誠に許し難し! 衛兵長、この阿呆二人を捕縛して営倉にぶち込め! 沙汰は追っていたす!」

「あ、またれよ漢王……」

「これは、茶姫殿、大丈夫でござるか? 馬鹿が無謀な酒を勧めてご迷惑をおかけいたしました。酔いが覚めぬようでしたら、しばし御休息を。互いに国の大事を語るのですから、十全の体調で臨まねばなりますまい。もとより、この不始末は、漢王たるこの身も負わねばなりますまい、わたしは一両日は謹慎いたすことにしましょう。これ、魏の姫騎士とご家来集を客楼にご案内……」

「それには及ばぬ。わたしも鯨飲王と言われる魏王曹操の妹、兄ほどではありませんが、酒には強うございます。酒も、二将軍の剣舞に見惚れて一升五合あまりしか呑んで……であったな、備忘録?」

「は、一升と八合あまりでございます」

「そうか、ハハ、これくらいであれば四半時もあれば素面に戻ります。どうか、このまま席を変えてご挨拶させていただければと存じます」

「されど……」

「いかにも、ご挨拶の後には多少の国事について語り合うかもしれず、この姿ではご不安を持たれるのも無理はございません。つきましては、我が幕僚を二名同席させたいと存じますので、お許し願いませぬか?」

「いかにも、魏妹殿下は言葉もしっかりしておいでだ。ならば、お言葉に甘えて、ちょうど、呉の孫紅茶妃も来られております。ご家来二人も交え、しばしの歓談を……」

「紅茶妃……?」

「ああ、大橋公女です。今般めでたく王妃になられて、その御挨拶も兼ねての御来駕なのです。では、丞相、客人の先導を」

「承知いたしました、陛下」

 

「大橋って、この物語の作者?」

「それは大橋だ。ダイキョウと音読みする、孫策の妾の一人で、三国志きっての美女とされている。いつのまにか妃に……それも、外交の舞台に出してくるとはな」

「妃って、お妾さんの上等なやつでしょ、いくら美人だって……」

「孫策は戦の傷がもとで病気がちで、次代を担うのは孫権と言われている。しかし、孫権は、まだ幼い。今のうちに周りを固めておこうという孫策の考えだろう」

「しかし、紅茶妃って、きっと通称は茶妃だろうから、音がいっしょで、うちの茶姫と紛らわしい」

「ふふ、シイも『うちの茶姫』と呼ぶか……だいぶあてられてきたな」

「そ、そりゃ、今は魏の近衛のコス着てるからよ! コスに合わせてんの(≧Д≦)!」

「お、廊下の突き当り……」

 絶世の美女が、所在なげに渡殿の欄干に頬杖を付いている。

 いささか不調法だが、かえって、絶世の美女ぶりを親しみやすいものにしている。

 擬態か天然か……大橋・紅茶妃の第一印象は油断がならなかったぞ。

 

 

  •  主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃
  •  

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・012『いろいろある』

2022-06-01 06:24:17 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

012『いろいろある』  

 

 

 
 また歪んでる。

 
 豪徳寺の角でねね子と別れた帰り、郵便受けから夕刊を取り出して、門を潜ろうとしたら表札が歪んでる。

 きのうは、古い門がガタついて、開け閉めの振動で傾くと思っていたのだが、門はしっかりしている。

 直そうと手を伸ばすと微かに妖気を感じる。

―― あ、そうか、妖気があるから歪んでいると感じたんだ。見た目には傾いているだけだ ――

 妖精の気配に似ているが、どこか暗い印象。妖精がやったなら、見つけた時に子供が笑っているような振動を感じる。この表札には陰りしか感じない。

 
 そうだ。

 
 思いついて回れ右、小指の先ほどの小石を拾い、お向かいの二階の窓目がけて投げる。

 カチン

 ささやかな音がして、カーテンの隙間に片眼が覗く。

 出てこい! 口の形だけで言う。

 片眼の下に口が現れて―― いやだ ――口の形だけの返事が返ってくる。

 ほんの少しだけ魔法をかけると、一分ほどで幼なじみは出てきた。

「なに」

 久しぶり(と設定されている)の啓介は、くたびれたフリースにボサボサの頭。足には小母さんのサンダルをつっかけてる。

「うっわー、床屋に行ったらあ」

「散髪屋の回し者か」

「ほんと、ダメ人間になるぞ」

「説教だったら帰る」

「用件があんのよ」

「なに?」

「頭掻くな、フケが飛ぶ」

「うっせー」

「昔は可愛かったのになあ……それなりに」

「用件」

「ああ、うちの表札いじられた形跡があるんだけど、なんか見なかった?」

「見なかった」

「即答すんなよ。お向かいの幼なじみなんだから、少しは考えてみろよ」

「……わかんねーよ」

 予想した返答だ。でもいい、会話が成立していれば次に繋げる。おそらく妖は人の目には見えない。

 見えなくとも、伝えておけば、啓介は心の底で意識する。表札事件の解決にはならなくとも、啓介を外に出すきっかけになるかもしれない。

 ひるでは深慮遠謀な子なのだ。

「じゃ、なんかあったら教えて」

 一言投げて、うちに入る。

 
 ただいまあ

 
 おかえりなさーい

 祖母の返事だけがクラフト部屋から返ってくる。

 祖父は部屋で仕事をしているはずだけど、返事は返ってこない。挨拶と言うのは顔を見た時にだけすればいいと思っているフシがある。

 仕方がない、この二人は孫どころか子供もいないんだ。そこに、いきなり孫娘の設定で入って来たんだ。時間がかかるよな。

 
 無理は禁物。

 
 二階の自分の部屋に入って、ざっくり部屋着に着替えようと思った。

 上着を脱いでハンガーに手を伸ばすと、窓の外、通り三つ向こうの屋根の上を制服のままのねね子が走っているのが見えた。

 なにやってんだ、あいつ? 

 元来はネコなので、屋根の上くらいは走るかと思いなおすが、ねね子の後ろを良からぬものが走っている。

 ちょっとまずいか……。

 


☆彡 主な登場人物

武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
猫田ねね子             怪しい白猫の化身
門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
おきながさん            気長足姫 世田谷八幡の神さま
レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父

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