大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・278『わたしたちの方向は決まった』

2022-06-17 09:52:00 | 小説

魔法少女マヂカ・278

『わたしたちの方向は決まった語り手:マヂカ 

 

 

 なんで関西弁!?

 

 二学期が始まって、学校の日常が戻ってくると、ノンコの関西弁は不思議がられた。

 大正時代にタイムリープしている間、ノンコは京都の野々村神社の娘だということになっていた。ご維新後に祖父の宮司が男爵に列せられ、孫娘であるノンコは女子学習院に入るために高坂公爵家にわたし(渡辺真智香)といっしょに下宿しているという設定だった。

 当面の目標は、精神を病み始めていた高坂家令嬢の霧子をサポートしていることだった。

 これは、特務の仕事ではなく、人知を超えた何者(神か悪魔か)かの意思、あるいは、千年の魔法少女でも理解不能の超常現象であるのかもしれない。

 それならば、ノンコは京都弁でなければおかしい……そう思い当たると、自然に京都弁になってしまったのだ。

「いやあ、なんや無理して東京弁喋ってたみたいで、京都弁に戻ったら、めっちゃ自然。もう、もとに戻らへんと思うわ(^▽^)/」

 まあ、ぶっ飛んだところのある奴だったので、調理研(特務隊員でもある)のメンバーだけでなく、クラスメートも自然に受け入れてくれた。

 なんと言っても、ノンコ自身、オタマジャクシがカエルになったぐらいの自然さで受け入れているのだから、ノープロブレムだ。

 

「ポチョキンも、あれ以来こーへんねぇ」

「ポチョムキンだ」

「ああ、そのポチョキン」

「うちも見たかったなあ、クマさん」

 ノンコは大塚駅組ではないので、ポチョムキンのブリッジに立っていたクマさんを見ていない。

 あれは、もうクマさんではない、クマさんの姿を借りた悪の提督だ。

「大正時代のことは分からないけど、いちど、関係者の間で共通理解というか、問題を共有しておく必要はない?」

 友里がまともな事を言う。

「うん、あんたたちは何カ月も大正時代で戦ってきたんだろうけど、友里やわたしは、昨日が今日になっただけだからね」

 清美が補強してくれて、わたしたちの方向は決まった。

「じゃあ、とりあえず、神田明神だ!」

 後ろから声がしたかと思うと、ブリンダが詰子といっしょに人数分のカフェオレを持っている。

「自販機の所で一緒になったから、持ってもらったワン」

「千駄木の短縮授業は終わってるだろ?」

 ブリンダは山手線の向こうの千駄木学園だ。

「おまえらが真剣に悩んでるってガーゴイルから聞いてな。早退してきた」

 カーカー

 見上げると、校舎に挟まれた中庭の上を人相の悪いカラスが舞っている。

「司令からの指示も神田明神からだ。いくぞ」

「脚はどうする?」

「飛んで行けば……ああ、飛べない奴がいるなあ」

 飛行石で飛べるのは正規魔法少女のわたしとブリンダだけだ。残りを電車で行かせては時間がかかり過ぎる。

 

「脚なら用意してあるよ♪」

 

 藤棚の陰からサムが顔を出す。サム=サマンサ・レーガンも準隊員だ。

「わたしは霊雁島(第七魔法艦隊司令部)に呼ばれてるけど、車はオートだよ。ほら、神さまの所に手ぶらというわけにもいかないだろうから、お供えにフライドチキンとフライドポテトも用意しておいたよ」

「ありがとう、サム!」

「あんたらの分も作っておいた。車の中で食べるといい。ほんとうはジャーマンポテトなんだろうけど、アメリカの田舎者だから、こういうのしか用意できなくてね。ごめん」

「いいよいいよ、車まで用意してもらって、こっちこそ……」

「帰還命令なのか?」

 ブリンダが優しい声を向ける。

「たぶん……アメリカもいろいろあるから。先輩みたいに嘱託だと自由もきくんですけどね」

「まあ、もう二百年もやれば、多少の自由はきくようになるさ」

 サムを見送って、校門を出ると車が小気味いいアイドリングの音をさせて待っていた。

 

「ちょっと、古くないか?」

 

 ブルン ブルブル……

 みんなを乗せて走り出したのは、大正時代でも見かけた、乗合自動車タイプのT型フォードだった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・028『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・2』

2022-06-17 06:06:59 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

028『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・2』 

 

 

 

 一晩考えた答えは豆乳だ。

 
 べつに本を読んだりネットで調べたわけではない。冷蔵庫の中身を思い浮かべて、一つ一つ想像してみたのだ。

 バター 味噌 蜂蜜 ガムシロップ ヨーグルト 牛乳 オレンジジュース 生姜 醤油 ソース

 そして豆乳

 根拠があったわけじゃない、なんとなくの勘だ。

 この異世界に来て、直感で結論を出せるほどの経験値は無い。

 戦いと同じだ、難敵に当った時、いちいち考えているわけではない。考えていたらやられてしまう。

 刃を交わした時、斬撃をからくも躱した時、敵の槍が鎧の胴をかすめた時、ふと衝動が湧いてくることがある。切ったり、突き上げたり、薙ぎ払ったり、いろいろだが、閃いたもので対応する。

 辺境の魔王を倒した時、一瞬風が吹いた。実際に吹いたわけではないだろうが、あれが閃きの瞬間だ。次の刹那、魔王は血しぶきを上げて倒れていった。

 あの時と同じ感覚なんだ。

 ラーメンが煮えて粉末スープを投入、一瞬で鍋の中が真っ赤に染まって泡立つ。湯気を被っただけで目に刺激がある。

 そこで、コップに1/3の豆乳を投入……べつにシャレているわけではない(^_^;)。

 とたんに蒸気が大人しくなる。

 仕上げに溶き卵を入れてひと煮立ち。

 
「おお、これなら食べられるよ!」

 
 お祖父ちゃんが喜んで、お祖母ちゃんが目を細める。

 これで、お祖父ちゃんは「ほんとうに美味しかった!」と正直に物産会の人たちに言えるだろう。

 わたしも祖父孝行ができて気分がいい。

 

 社会科準備室にノートを運んで行った帰り、階段に差し掛かったところで風を感じた。

 階段の上は踊り場を曲がって屋上に通じている。屋上に通じるドアは普段は締め切りになっていて、窓でも開いていない限り風が吹き込むことは無い。

 階段を上がってみると屋上へのドアが小さく開いている。なんだか誘われたようだが、まあいい、妖ならば相手にしてやる。

 少しだけ気負って屋上に足を踏み入れると案に相違して人影は無い。

 ちょっと気にしすぎかな……

 風は冷たいが、その分空気は澄んでいて、西の空には小さく富士の姿さえ見える。世田谷から富士山を拝める日がどれだけあるかは分からないが、かなり運が良くないと見られないことだと想像はつく。

 東京の空が澄んでいて。富士山のある静岡県まで雲一つないことが条件だ。

 ラッキー

 女子高生らしく小さくガッツポーズをとってみる。

 激辛ラーメンの時と同じくらいに嬉しくなる。

 
 真白き富士の気高さを~心の強い盾として~♪

 
 小さな歌声に振り返る……あいかわらず人影のない屋上。歌声も消えてしまう。

 でも、かすかな気配を感じて、死角になっている階段室の脇を覗いてみる……。

「「あ」」
 
 同時に声をあげてしまった。

 階段室の陰には李明子がいた。クラスメートの大人しい子だけど、ときどき機嫌よく鼻歌を口ずさんでいる。

「なんだ、李さんか」

「ハハ、見つかっちゃった(n*´ω`*n)」

「なんだか古い歌ね」

「アハ、富士山がきれいに見えるとね、つい。あ、ナイショよ、めったに歌わないから」

「うん、ごめん、じゃましちゃったわね」

 李さんは恥ずかしそうに笑って、わたしは小さく手を振っておしまい。階段室にもどると、又小さく歌声が始まる。

 そっとドアを閉めて、おしまい。

 エピソードとも言えない小さな出来事。

 これっきりならね。

 
 三日続いて、これが起きた。

 
 三日目は晴れてはいたが富士山は霞んで見えなかった。

「あ、たった今まで見えていたのよ(;'∀') その……その……」

 可愛くうろたえる李さん……気づいてしまった。

「李さん、影の向きが逆」

「え? え、あ、しまった!」

 西日を浴びているのに李さんの影は西に向かって伸びている。

「李さん……ひょっとして、妖?」

 妖なんだろうけど、ちょっと違う。探っても『李明子』という名前がしっかり浮かんでくる。李明子というのは彼女の本名だ。妖ならば名前を持たないはずだ。

「その名前は一度も使ったことが無いわ」

 李明子、りあきこ、むこうの読み方でリ・ミョンジャ。

「あ、そうか……梨本明子さんなんだ」

「そう そうよ、わたしは二つの名前が無いと落ち着かないの」

 李さんが微笑むと、影はきちんと東側に伸びるようになった。

 ありがとう

 そして、お礼の一言を残して李さんは消えてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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