大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・314『改めて忠魂碑』

2022-06-14 13:45:20 | ノベル

・314

『改めて忠魂碑』頼子   

 

 

 ソフィーがすごいって云うのは何度も言ったわよね。

 

 三年前、はるかたちを連れてエディンバラからヤマセンブルグを周った時が最初だった。

 王室付き魔法使いの末裔で、通訳とボディーガードをやってくれた。

 通訳もボディーガードも専門の者が居て、あくまでも見習いだったけどね。

 日本語の最後に「です!」を付けるクセが抜けなくて、さくらは『デス ソフィー』って呼んだりしてた。

 でも、わたしの高校進学と共に日本にやってきて、本格的にご学友とガードを兼ねるようになってからの進歩は目覚ましい。

 学校でも、同じクラスで成績も優秀。「です!」の口癖も無くなって、ネイティブと変わらない日本語を喋る。わたしとの会話も校内では、ほとんどタメ口。呼び方も「ヨリッチ」なんぞと親し気で、この頃は、それさえ省略して「リッチー」とか呼ぶものだから、クラスメートも「リッチ」と「ー」抜きで呼んでくれたりする。ほぼほぼ王女の身分なんだけど、けしてリッチなわけじゃないんだけどね。

 校門を一歩出ると、呼び方は「殿下」に変わる。

 じゃあ、校門の敷居をまたいだ状態なら、どう呼ぶか実験したら「リッ下」って呼ばれた。逆に、外から校門の敷居を跨いでいるとね「殿チ」ですよ。

 

 こないだ、学校裏の神社から東に伸びてる『馬場』を散策部のみんなで走ってみた。

 

 その途中で、ソフィーは忠魂碑を発見して、今日はあらためて、お花を捧げに来ている。

「忠魂碑というのは、その地方で戦死された英霊をお祀りした神聖なものです。ほら、日本の総理大臣などが外国に行った時、真っ先に無名戦士の墓などに献花するでしょ?」

「ああ、安倍さんとか、やってたねえ!」

 お寺の子なのか、さくらがピンとくる。でも、自分の習慣じゃないから――握手は外国ではやるけど、日本ではやらない――くらいの感覚。

 だから、お花を捧げ、揃って頭を下げるのは、みんなドギマギ。

「大阪の第八連隊は、もっと誇りにすべきです」

 忠魂碑を背にソフィーはマナジリを上げる。

「「「はあ」」」

 みんなピンとこない。

「『またも負けたか八連隊 それでは勲章九連隊』と言ったものです」

「えと……それってぇ?」

 さくらが、間延びした質問。

「八連隊は大阪で、九連隊は京都でしたよね?」

 お父さんが自衛隊なだけあって、メグリンが答える。留美ちゃんはニコニコしてるけど、たぶん分かってない。

「大阪と京都の兵隊は最弱と言われて、子どもが手毬歌にして遊んだものです。そのくらい、戦闘をやらせると弱かったらしいです」

 おいおい、いま献花したばかりだよ(^_^;)

「あはは、忠魂碑の前で、そんなん言うてええねんやろかぁ」

「阪神タイガースといっしょです。みんな、タイガースにはめちゃくちゃ言うけど、真のところでは応援してるでしょ?」

「「「あ、ああ」」」

 タイガースの線で理解できるんだ(^_^;)

「それに、占領地で軍政をやらせると、日本で一番うまかったそうです」

「グンセイて、なにぃ?」

「ああ、占領地を治めること。配給とか治安維持とかインフラの整備とかね。現地の行政が生きている時は、その調整をやったり。災害地の復興や支援をやらせても、早くて確実だったそうです」

「そうなんだ……ソフィー先輩って、よく勉強してますよねえ」

 メグリンが感動する。まあ、こういう話題は日本人同士じゃやらないもんね。

 よし、ソフィーを持ち上げておこう。

「ソフィーはね、大きくなったらヤマセンブルグの国防大臣になるんだよ」

「「「すごい!」」」

 ところが、当のソフィーは――なに言ってんのよ――という顔をしている。

「うん? なんか一言言いたげね」

「ヨリッチ……いえ、殿下は、ヤマセンブルグ国防軍の最高指揮官になられるんですよ」

「え、そうなの?」

「帰ったら、ヤマセンブルグの憲法を勉強し直しましょう」

「アハハハ……」

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

  

 

 

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やくもあやかし物語・144『チカコ』

2022-06-14 10:23:20 | ライトノベルセレクト

やく物語・144

『チカコ』   

 

 

 またわたしの姿で……

 ちょっと辟易、ちょっと親しみ……そんな感じで、のっけに言ってしまった。

 

 夢の中に、二丁目断層がやってきたのだ。

「また、いずれって言ってただろ」

「でも、わたしと同じ姿かたちは気持ちが悪い」

「この姿が、いちばん気持ちが伝えやすい。我慢しろ」

「で、なんなの? あしたは一時間目が体育だから、しっかり寝ておきたいのよ」

「時間はとらせない」

「……チカコのことなの?」

「ああ、そうだ。これを見ろ……」

 断層が指を回すと、立派なお墓が並んでいるところに来た。

 重々しい塀で囲まれていて、広さは、小学校のグラウンドほどもあるんだろうか……御霊屋って言うの? 神社のお社みたいなのや、お墓を並べた石段みたいなの、その間には、古い公園みたいに木々が茂っていて全体の様子が知れない。

 お墓には、文字の刻まれたのや、石碑が付属していたりするんだけど、字が難しい。

 ~院とかが多いんだけど、~院なんて、病院とか修道院とかしか浮かんでこないし。

「こっちこっち!」

 断層は、さっさと行っちゃって、木とお墓の向こうから手を振ってる。

「ここって、歴史上の人物とかのお墓?」

「うん、徳川家累代のお墓」

「徳川!?」

「えと……これだ、これ」

 断層が指差したのは、石段の上、神社の玉垣みたいなのに囲まれた二つのお墓。

「向かって右側が、家茂(いえもち)くん、左側が奥さんの和宮さん」

「ああ、なんか歴史で習ったかも(^_^;)」

 徳川さんなんて、家康と水戸黄門ぐらいしか知らないし。

「和宮は、天皇さんの娘で、京都から嫁いできたんだよ」

 なんか、呼び捨てしてるし。

「すでに婚約者がいたんだけどね、婚約破棄させられて十四歳で江戸にやってきた」

「十四歳……わたしと同い年だ」

 結婚は法律的にも、たしか十六からだよ。十四なんてありえない。

「だよね、和宮自身、そう思ってた」

「いやいやお嫁さんになったの?」

「まあね……明日は江戸に入るという前の日に、ボクの目の前で休憩したんだ。ほら、ペコリお化けが出るあたり」

「ああ、坂を上りきったところ」

 越してきたころ、大きな家が取り壊し中で、ガードマンの格好したペコリお化けに会ったのが、あやかし付き合いの始まりだった。

 

 ちょっと懐かしい。

 

「ちょっと可哀そうに思ってな、助けてやることにしたんだ」

「婚約破棄とか!?」

「それはできない。天皇が決めたことだからな」

「じゃあ?」

「ちょっと、お墓を透視しよう……」

 断層といっしょにお墓を見ると、お墓の中で左側を下にした和宮さんが見えた。

 とっくに骨になってるけどね(^_^;)。

 あれ?

「気が付いた?」

「うん……左手首が無い……え!?」

「そうだよ」

「でも、でもでも、うちのはチカコだよ、和宮じゃないよ!」

「和宮の真名は親子と書いてチカコなんだ。皇族のお姫様って、いまでも~宮~子だろ。秋篠宮真子とかさ」

「あ、ほんとだ……」

 そうだよ、チカコが最初に現れた時って、左手首だけだった!

「左手に思いを込めて、それを預かったんだ。左手に青春させてやることにしたんだ。それで百ン十年後の去年、やくもに預けたってわけさ」

「で……どうするの?」

「ありがとう……やくもは、十分親子に青春させてやってくれたよ」

「それって、つまり……」

「うん、帰してやっておくれ」

 断層は、とっても思いやり深い笑顔で、やさしくお願いするように首を傾げた。

 わたしと同じ顔で……でも、わたしには、まだできない笑顔で……。

 

 あくる朝、目が覚めると、机の上のコタツには、御息所だけが寝息を立てていて、チカコの姿は無かったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・025『ねね子の正体』

2022-06-14 06:41:37 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

025『ねね子の正体』 

 

 

 

 ねね子はおきながさんの眷属なんだな?

 
 のっけに聞いてやると、通学カバンを胸に抱えて黙ってしまった。

 仮病で休んだのは悪気(あっき)を恐れての事なんだろう、責める気はなかったが、ちょっと意地悪してやりたくて、登校途中に出遭うと同時に質問したのだ。

 ねね子も妖に違いなく、妖と言うのは容易に素性を明かすものではない。それを聞くのはちょっと意地悪。

「それは『おまえのウンコの臭いをかがせろ』と言うくらい恥ずかしいことニャ」

「な、なんだ、その例えは!?」

「ねね子は、ただのネコなのニャ」

「ただのネコが人に化けるか」

「化けるニャ、長生きすると化けるニャ」

「いったい何歳なんだ?」

「むかし、お江戸に公方様がいらしたころニャ」

「ほう」

 江戸の公方様と言えば徳川将軍、その時代は二百六十年ほどになる。ざっくりしすぎているが、まあいい。

「このへんの木の下で雨宿りしてたイケメンが居たニャ♡」

「惚れたのか?」

「そーゆうんじゃニャクてえ! 分かったのニャ、もーすぐ雷が落ちるって!」

「かみなりか……」

「それで、こっちにおいでって知らせてやったニャ」

「こんな感じか?」

 記憶にあるオイデオイデの仕草をしてやった。

「そ~ニャそーニャ(^▽^)」

「そこが、たまたま豪徳寺の山門だったんで、そのイケメンは豪徳寺に恩義を感じてニャ、豪徳寺のあれこれ世話をしてやることになったニャ」

「わたしも、ここに来る寸前、ネコに落雷から救われたんだぞ」

「それは、良かったニャ!」

 
 そこまで話すと、背後に気配を感じた。

 振り返ると、わたしたちと同じ制服のお下髪が立っている。

 
「なにか用?」

 お下げは、ただニコニコと笑っているだけだ。

 面と向かってみると人の気配ではない。お下げの足元には影が無いのだ。

「妖か?」

 プルプルプル

 お下げは、とんでもないという風に首を振った。怪異と感じたねね子は、早手回しにわたしの後ろにへばり付いている。

「そうか……おまえは高田淳子だ」

「……高田……淳子」

「そうだ、それがおまえの名前だ」

「嬉しい……やっと思い出した!」

 
 満面の笑みを浮かべて高田淳子は通学路を正面から照らす朝日に溶けていった。

 
「この道をまっすぐに日が上るのは年に一回だけニャ(o^―^o)」

 あっさりと済んでしまったが、奇跡に近いことをしたのかもしれない。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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