せやさかい・314
ソフィーがすごいって云うのは何度も言ったわよね。
三年前、はるかたちを連れてエディンバラからヤマセンブルグを周った時が最初だった。
王室付き魔法使いの末裔で、通訳とボディーガードをやってくれた。
通訳もボディーガードも専門の者が居て、あくまでも見習いだったけどね。
日本語の最後に「です!」を付けるクセが抜けなくて、さくらは『デス ソフィー』って呼んだりしてた。
でも、わたしの高校進学と共に日本にやってきて、本格的にご学友とガードを兼ねるようになってからの進歩は目覚ましい。
学校でも、同じクラスで成績も優秀。「です!」の口癖も無くなって、ネイティブと変わらない日本語を喋る。わたしとの会話も校内では、ほとんどタメ口。呼び方も「ヨリッチ」なんぞと親し気で、この頃は、それさえ省略して「リッチー」とか呼ぶものだから、クラスメートも「リッチ」と「ー」抜きで呼んでくれたりする。ほぼほぼ王女の身分なんだけど、けしてリッチなわけじゃないんだけどね。
校門を一歩出ると、呼び方は「殿下」に変わる。
じゃあ、校門の敷居をまたいだ状態なら、どう呼ぶか実験したら「リッ下」って呼ばれた。逆に、外から校門の敷居を跨いでいるとね「殿チ」ですよ。
こないだ、学校裏の神社から東に伸びてる『馬場』を散策部のみんなで走ってみた。
その途中で、ソフィーは忠魂碑を発見して、今日はあらためて、お花を捧げに来ている。
「忠魂碑というのは、その地方で戦死された英霊をお祀りした神聖なものです。ほら、日本の総理大臣などが外国に行った時、真っ先に無名戦士の墓などに献花するでしょ?」
「ああ、安倍さんとか、やってたねえ!」
お寺の子なのか、さくらがピンとくる。でも、自分の習慣じゃないから――握手は外国ではやるけど、日本ではやらない――くらいの感覚。
だから、お花を捧げ、揃って頭を下げるのは、みんなドギマギ。
「大阪の第八連隊は、もっと誇りにすべきです」
忠魂碑を背にソフィーはマナジリを上げる。
「「「はあ」」」
みんなピンとこない。
「『またも負けたか八連隊 それでは勲章九連隊』と言ったものです」
「えと……それってぇ?」
さくらが、間延びした質問。
「八連隊は大阪で、九連隊は京都でしたよね?」
お父さんが自衛隊なだけあって、メグリンが答える。留美ちゃんはニコニコしてるけど、たぶん分かってない。
「大阪と京都の兵隊は最弱と言われて、子どもが手毬歌にして遊んだものです。そのくらい、戦闘をやらせると弱かったらしいです」
おいおい、いま献花したばかりだよ(^_^;)
「あはは、忠魂碑の前で、そんなん言うてええねんやろかぁ」
「阪神タイガースといっしょです。みんな、タイガースにはめちゃくちゃ言うけど、真のところでは応援してるでしょ?」
「「「あ、ああ」」」
タイガースの線で理解できるんだ(^_^;)
「それに、占領地で軍政をやらせると、日本で一番うまかったそうです」
「グンセイて、なにぃ?」
「ああ、占領地を治めること。配給とか治安維持とかインフラの整備とかね。現地の行政が生きている時は、その調整をやったり。災害地の復興や支援をやらせても、早くて確実だったそうです」
「そうなんだ……ソフィー先輩って、よく勉強してますよねえ」
メグリンが感動する。まあ、こういう話題は日本人同士じゃやらないもんね。
よし、ソフィーを持ち上げておこう。
「ソフィーはね、大きくなったらヤマセンブルグの国防大臣になるんだよ」
「「「すごい!」」」
ところが、当のソフィーは――なに言ってんのよ――という顔をしている。
「うん? なんか一言言いたげね」
「ヨリッチ……いえ、殿下は、ヤマセンブルグ国防軍の最高指揮官になられるんですよ」
「え、そうなの?」
「帰ったら、ヤマセンブルグの憲法を勉強し直しましょう」
「アハハハ……」
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
- ソフィー 頼子のガード
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン