大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』

2022-06-15 09:49:55 | 小説6

高校部     

12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』 

 

 

 

 ちょっと未来に行ってみよう。

 そう言って、先輩は魔法陣を稼働させた。

 

 シュビーーーン

 

 魔法陣はいつもと違う、なんだかすりガラスを爪でひっかくような、嫌な音をさせる。

「本来は過去に向かう設定だからな、未来に行くのは抵抗が大きい……」

 グガガギガガギィィィィィ……

 すごく嫌な音をさせて魔法陣は停止した。

 なぜか先輩は恍惚とした表情だ。

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、すまん。嫌な音なんだが、てっぺんまで行って痺れる感じはクセに……なったらダメだぞ!」

「な、なりませんよ(-_-;)」

 ドガ!

「ツッゥゥゥ!」

 一歩踏み出そうとしたら、見えない壁に、したたか鼻をぶつけてしまう。

「やっぱりな……覗けるだけで、出ることはできないんだ」

 言われてみれば、いつもの『また来て四角』が無い。

「こっちだ」

「ちょ、近すぎ……」

 先輩が体の向きを変えると、体のあちこちが接触してしまう。

「無理して、ここまで来たからな、可動面積は電話ボックスほどしかないようだ。いくぞ……」

「先輩、お尻が……」

「尻は誰にでもあるもんだ、気にするな」

「…………」

 

 着いた先は……ボクが卒業した小学校だ。

 なんとか、先輩との間に五センチほどの隙間を空けて校門の前にたどり着く。

 五年生の時に新築された校舎は、そのままなんだけど、ひどくくたびれている。

 窓のいくつかには『さわってはいけません』と一年生でも分かる注意書きが貼ってある。

「このころの要市は、かなり貧乏なようだな」

 一階の廊下を進んでいくと、先生らしい人とすれ違ったけど、咎められない。

「よっと」

 先輩が横に脚を出すんだけど、後ろの先生の脚は引っかからない。

「見えないし、すり抜けてしまうようだな」

「引っかかったらどうするんですか!」

「だから二人目にした。倒れてもスキンシップになるだろ……この教室にしよう」

 それは六年生の教室で、歴史の授業をやっている。

「ほう、やっぱり、全員前を向いてメダカの学校なんだ」

「授業って、こういうもんじゃないんですか?」

「平成から令和にかけては、いろいろ試されてな。教室の壁を取っ払ったり、机を自由に置かせたりしたもんだがな。やっぱり、これがいちばん落ち着くんだろう」

 黒板は、とっくに電子黒板になって、児童の机には仮想インタフェイスが立ち上がって、黒板と同じ内容が映し出されている。

「おい、ちゃんとノートをとってるぞ!」

「ほんとだ!」

 インタフェイスこそ仮想だけども、机に広げられているのはリアルノートだ。

 子どもたちは、ボクの時代と変わらないシャーペンでノートに書いている。

「見ろ、あの子は鉛筆だぞ!」

「ほんとだ!」

 見渡すと、鉛筆を使っている子が四人、中には、肥後守で削っているような子も居て、とても新鮮だ。

「校舎はボロだけど、なかなかいい感じですね」

「問題は黒板だ」

「え?」

 黒板を見ると、ちょうど日本の古代を教えているところで『憲法十七条』と『冠位十二階』が書かれて、その横には見慣れた顔が写されている。

 厩戸皇子(うまやどのみこ)

 顔の下のは、そう書かれている。

「この人は、用命天皇の皇子で、朝廷の制度改革の中心になった人です。一説に寄るとお母さんの妃が宮中見回りの途中、馬小屋の前で産気づいて馬小屋で生まれたとか、十人の話をいっぺんに聞き分けたとかという伝説があります」

「キリストと同じだ……」

「ユダヤ教にも似た話が……」

「イスラムにも……」

 子どもたちから囁き声が聞こえる。

「そうですね、いろんな説や教えが影響していると思われます。だいたい、天皇の皇子が馬小屋で生まれるはずはないし、AIでもなければ、十人の話をいっぺんに聞けるはずもありません」

 そういうと、先生は厩戸皇子に大きなバッテンを上書きした。

 子どもたちがケラケラと笑う。

「つまり、国にとって重要な改革だったので、こういう人物を仕立て上げたんですねえ。だから、大事なことは、そういう改革が行われたという事実の方です」

 聖徳太子を否定しちまった……。

「じゃ、厩戸皇子という人はいなかったんですか?」

 利発そうな女の子が聞いた。

「いい質問ですね。厩戸皇子という皇子は存在しました。でも、伝説で云われてるような偉い人ではなかったと思われます。ほら、令和の昔に仮想アイドルというのがありましたね。いまもあるけど、そういう仮想アイドルにも誕生秘話とか成育歴とか設定されるでしょ。そんな感じかな」

 ああ……バーチャルアイドルと同じにしちゃった。

「やはりな……よし、修正作業は次の機会でやることにしよう」

「もう、未来に来ることはないんですよね」

「いや、でも、次はもっと快適に来られるように工夫しよう」

「は、はあ……」

 帰りは、そのまま魔法陣に戻れたので、ま、いいか……(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・026『初めての豪徳寺』

2022-06-15 05:55:21 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

026『初めての豪徳寺』 

 

 

 

 この異世界に来て初めて豪徳寺に行った。

 あ、ここで言う豪徳寺は地名ではなくて、地名のもとになった、そもそものお寺の事だ。

 おきながさんの世田谷神社には何度も行った。おきながさんが御祭神でありながら、そのへんのおばさんのように門前を掃いているものだから、自然に挨拶を交わし口を利くようになった……つまり、知り合ったおばさんがたまたま神さまだったので、庭先にお邪魔するような気軽さで境内にも足を入れるようになった感じ。近所付き合いが広がった感じだな。

 登下校の半分は豪徳寺の塀沿いを歩いている。往きは右側、帰りは左側に塀がある。塀しか見えない。それにたいていはねね子か芳子がいっしょで、塀の中を意識することが無い。

 意地悪でねね子に正体を聞くと、雨宿りのイケメン武士が落雷に遭いそうなので「こっちにおいで」と誘ったのが豪徳寺の山門。それで恩に感じた武士が豪徳寺の世話をするようになったということで、ねね子自身の関りについてははぐらかされた。

 暗に――そういうことには興味を持つニャー!――という意思を感じる。

 興味を持つなと言われれば興味を持ってしまうのが人情だ。

 思い立って、放課後、豪徳寺の境内に足を踏み入れてみた。

 世田谷八幡の五倍はあろうかという境内は緑が豊かだ。山門を潜って緑の中を五十メートルほど進むと、最初のお堂が見えてくる。外からの雰囲気とは違ってお堂はコンクリート製のよう、戦災で焼けて再建されたものだろうか……その向こうに見えるより大きなお堂も同じような様子だ。

 左側は広い墓地が広がっている気配。あまり墓には興味はない。

 外から窺えた深淵さとは裏腹に、中は広い敷地を擁した普通のお寺という印象。

 ところが、奥に進むと様子が変わった。

 聞き慣れた囁き声がワシャワシャ……それも尋常な数ではない。

 お寺の中にもう一つお寺があるという感じで一画が区切られていて、開け放たれた門を潜ると……なんと、ねね子でいっぱいだ!

 招福殿としるされたお堂の周囲には棚が設えてあって、その棚の上や灯篭の中、数千の猫バージョンのねね子がひしめいている。

 おおーーー!

 感嘆していると、さらに大勢のねね子の気配、お堂の屋根の上、床下、木々の小梢などに数万、数十万に増殖していくではないか!

 すごい!

 思わず叫んでしまった。

 ニャ!?

 すると、それまでワシャワシャさんざめいていたお喋りがピタッと止んで、数十万のねね子が一斉にわたしの方に顔を向けた。

 しまったのニャーー!!

 数十万のねね子は瞬時に合体して、いつもの人バージョンの姿に戻った。

「アハ、アハハハハ……ひるでに楽屋裏を見られてしまったのニャ(^_^;)」

「そうか、ねね子は招き猫だったんだな!」

 
 不思議だ……なぜ、こんなことに気が付かなかったのだ。豪徳寺の招き猫なんて、日本の常識、いや、世界に認められたラッキーアイテム、ハッピーキャットではないか。この二か月、なぜ気が付かなかった? 思い至らなかった?

 
「招き猫はたいへんなのニャ~(;^_^A。日本中、世界中の願いが寄せられるのニャからな。豊かになりたい、幸せになりたい、丈夫になりたい、頭良くなりたい、人気者になりたい、いろいろニャ。そんで、豊かとか幸せとか丈夫とか、言葉にしたらみんないっしょだけど、それぞれ違うニャ。一万円で豊かだと思う人もいれば、三億円でも足りない人もいるニャ。そんで、お金を持つことが幸せかと言うと、そうでもなかったりとかニャ。幸せにしてあげたつもりが不幸にしてしまったりニャ。そんな悩み多きねね子の近所に来たのがひるでニャ。スクネの爺ちゃんに聞いただろうけど、ひるでには大変な使命があるニャ。ひるでを助けたらねね子のスキルも上がるって、神さまも仏様も言うニャ」

「そうだったのか……」

「でもニャでもニャ、ひるでを助けてやるというのは恥ずかしいニャ(n*´ω`*n)。てか、経験から言うと、ねね子の手助けは、裏目に出ることもあってニャ、正面切って言うのはニャアって感じニャ。だから、ひるでが豪徳寺や招き猫に興味持たないように……その、いろいろとニャ」

「ちょっと鬱屈……」

「言うニャよ、それにニャ、ひるでと学校とか行ってると楽しいニャ。なんか、人助けなんかどーでもよくなって、ずっとこういうのでもいいかニャって……えと、くじけてしまいそうだから……ああ、もうここのことは忘れてほしいニャア~!」

 ポン

 音とともにねね子は消えてしまい、招福堂の周囲は、元通り招き猫の置物でいっぱいになった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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