大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・14『螺子先輩の正体・1』

2022-06-27 10:06:41 | 小説6

高校部     

14『螺子先輩の正体・1』 

 

 

 あれから、先輩の顔がまともに見られない。

 

 ほら、プールの壁が壊れて、その……不可抗力で先輩のお尻を見てしまってから。

 部活は一回あったんだけど、また、ポッペのケーキとか食べて喋っただけで終わってしまった。

 そのあとは二日続けて部活は休み。

 先輩も女の子だ、不可抗力とは言え見てしまったんだ、いちどきちんとお詫びを言って仕切り直しておかなきゃと思った。

 

 あ!

 

 そんなことを思いながら廊下を歩いていると、窓から旧校舎に向かっている先輩の姿が見えた。

 チャンス!

 階段を下りて、旧校舎に向かおうと思ったら、階段の途中で中井さんに呼び止められる。

 ほら、女子の保健委員が休みなので、僕が付き添って保健室に行ったクラスの女子。

「田中君、あの時はありがとうね。清水さん(女子の保健委員)は休みだし、あのままじゃ、教室で倒れてたよ。保健室の先生も、よくやってくれたって褒めてたし……」

「あ、いや、保健委員なんだし、ドンマイドンマイ(^_^;)」

 もう一言二言と思うんだけど、僕も旧校舎に急いでる。

 不器用な笑顔をのこして、階段の残り二段は飛び降りて旧校舎を目指す。

 

 ガッシャーン!

 

 明るいところから、急に暗い部室に入ったので、マネキンを引っかけて倒してしまった。

 先輩は部活中は、旧制服のセーラー服に着替えて、正規の制服はマネキンに着せている。そのマネキンを倒してしまったんだ。

 ウ……

 マネキンは、膝をついたうつ伏せの姿勢で倒れている。

 つまり、スカートがめくれ上がって、お尻が剥き出し(#'∀'#)……。

 え?

 脚の付け根に傷跡が……プール事件で見てしまった、あれといっしょだ。

 それまで、あっちの世界で見えてしまった時には、傷跡やあざとかは見えなかった、無かったんだ。

 

 じゃ、これは……。

 

「そんなに見つめるな、恥ずかしいじゃないか」

 斜め横から声がしてビックリした!

「せ、先輩!?」

 魔法陣のところに先輩が現れていた。

 ツカツカとマネキンに寄ると、スカートを直して腋の下に手を入れて持ち上げ、スタンドに戻した。

 

「見られたからには仕方がない、説明するから、そこに座ってくれ」

「は、はい」

「急なことで、お茶も無いが、辛抱してくれ」

「い、いいえ」

「実は…………」

「はい?」

「わたしは……ではないんだよ」

「え?」

「に……ではないんだ」

「え、えと?」

「大きな声では言えない、ちょっと寄れ」

「は、はい……」

 う、先輩の息がかかる。

「実は……人間ではないんだ」

「はい?」

「人形だ!」

 スポ

「ええええ!!」

 先輩は、両耳のあたりを手で挟むと、ヘルメットを脱ぐように首を外した。

「実はな、ボディーは二つあるが、首は一つしかない。そういう人形なんだ」

「あ……えと……首だけで喋られると、勘が狂います……」

「あ、そうだな……よいしょっと」

 首をはめると、手で360度まわしてから落ち着いた。

「…………(;'∀')」

「回さないと、ロックがかからないんでな。まあ、見慣れてくれ」

「は、はい……」

「一度に話しても、理解できないだろうから、少しずつな……わたしは、このピボット高校と同時に作られた。このピボット高校を基地として次元や時空の歪を直すための人形、アンドロイド、流行りの言葉ではオートマタかな」

 黒のミニワンピで、大剣を振り回す銀髪のゲームキャラを思い浮かべた。

「うん、そういう感じだ。ソウルはヘッドにあるんでな、時々ボディーを付け替えるわけだ。ボディーは二体とも同じ能力なんだが、そっちの方はちょっと前に痛めてしまってな、戦闘のときは、このボディー。日常生活はそっちと切り替えている。しかし、そっちは、日常の動作にも不具合が出てきたようで、こないだの水泳の授業では、よろめいて、鋲にあられもない姿を晒してしまった。そろそろメンテナンスだ」

「た、大変なんですね(^_^;)」

「他にもあるんだが、いっぺんに説明すると混乱するだろ。ま、おいおいとな」

「は、はい」

「騙して参加させたようで申し訳ない。鋲は能力が高いんでな、実は、最初から狙ってピボットに入ってもらった。これは、要の街……いや、日本、世界のためだ。如いては君のためにもなることなんだ、まだまだ疑念も疑問も解けないだろうが、よろしく頼む!」

 深々と頭を下げる先輩。胸当てのホックが外れていて胸の上半分が見えて……なんにも言えなかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・038『琥珀浄瓶・5』

2022-06-27 06:07:46 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

038『琥珀浄瓶・5』 

 

 

 
 効き目があったのは、ほんの三十分ほどでしかなかった。

 
 琥珀浄瓶は、再び蠕動に似た動きをして東京の上空に蟠った。

 この化け物は三十分で数百億匹の猫の名前を消化してしまったのだ。

 携帯基地局も電源が落ちたままなので、スマホを通じて人の名前が奪われることもなくなったがな。

 
 終わったと思った琥珀浄瓶との戦いは膠着状態におちいった。

 
「おまえ、学校は休め」

「なんでニャー?」

「だって、おまえ……」

 いつものように豪徳寺の角を曲がったところで待ってくれていたねね子だが、耳と尻尾が出てしまっている。よく見ると、鼻の下から左右で六本のヒゲが出たり入ったり。

 名前を失ったことで、力が衰えて、完全な『猫田ねね子』に化けていることができていないのだ。

 
「すまんが、しばらく預かってくれ」

 
 踏切を渡って鳥居が見えて、ねね子を世田谷八幡に預けることにする。

 鳥居の前で用件を伝えると、少しあってスクネ老人が赤ん坊を背負って現れた。

「承知いたした。三十分とは言え、琥珀浄瓶を停めてくれた殊勲のねね子、十分なことはできないがお預かりいたそう」

 スクネ老人は、ねね子の顔の前でトンボをとるように指をクルリと回した。

 すると、ねね子は、たちまちのうちに三毛猫の姿になってお座りした。

「にゃんこ にゃんこ」

 背中の赤ん坊が嬉しそうに声をあげる。

「その赤ん坊は?」

「誉田別尊(ほむたわけのみこと)でござる」

「誉田別尊……そこの由緒書きにある応神天皇?」

「オキナガ姫がお隠れになっておられるので、いささか若返ってしまわれた」

「ジイジ、にゃんこ、にゃんこ」

 赤ん坊が手を出すと、ねね子はフワリと浮き上がって赤ん坊の手の中に収まった。

「可愛がっておやりなされ。これこれ、ヒゲを引っ張ってやってはなりません……ウッ、ジイのヒゲもなりませんぞお!」

「ハハ、はやく片づけなくてはな」

「いかにも、わしのヒゲがもたぬわ」

「ヒゲのないスクネ老人もいいかもしれない……意外にいい男だったりするかもしれないな」

「ハハハ、年寄りをからかうものではござらぬわ」

「では、わたしは学校に行く。しばらく頼んだぞ」

「かしこまりもうした。しかし、ひるで殿、残りは、あと二十四時間でござるぞ」

 老人の目が覚悟を促す。

「分かっている」

 

 そうなのだ、もう二日が過ぎた。

 この24時間で片づけなければ、おきながさんは二度と帰ってこられなくなる。

 妖雲に一瞥をくれると、コキっと首を慣らして学校へ急ぐ。ねね子が付いていないことをことを除けば、いつもの朝のひるでであった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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