大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・13『たまにはこんな部活も でも事故には注意』

2022-06-21 10:27:01 | 小説6

高校部     

13『たまにはこんな部活も でも事故には注意』 

 

 

 部活以外で先輩に会ったことが無い。

 

 一年と三年では校舎が違う。

 昇降口は全学年共通だけど、三年生は、廊下を挟んだ向こう側の島だし、そもそも登校時間が違うのだから、意識的に待ち伏せでもしない限り会うことは無い。

「体の中を流れる赤血球みたいなもんだな」

 ポッペの新製品だというミニジャムパンを食べながら先輩が答える。

「赤血球ですか?」

 千切ったジャムパンを手に持て余したまま聞く。

「ああ、わたしと鋲は、学校という体を巡る赤血球だ。だが行き先が違う。わたしは脳みそで、鋲はお尻の方だ。だから出くわすのは、一巡して心臓に戻った時ぐらいだ。心臓にあたるのが、この旧校舎の部室だな」

「ああ、部室が心臓というのは、そうかもしれませんねぇ……」

 人づきあいが苦手な僕は、部活以外では、ちょっとドンヨリしている。

「そうだろ、部活で気持ちを洗い直して、お互い日々の学校生活を乗り越えてるんだ」

「アハハ……」

 おたがい赤血球というのはいいんだけど、どうして先輩が脳みそで、僕がお尻なんだ……は聞かない。

「人間の体は37兆個の細胞で出来ていて、赤血球もその細胞の一つだ」

「あ、そうですね。アニメで、そういうのありましたよね」

 僕は、あのアニメの擬人化された赤血球が好きだ。

「いや、わたしは赤血球というより、血球を育てて、外敵もやっつけるマクロファージかな?」

「ああ、あの保育所の先生って感じはいいですね」

「そうだぞ、その37兆分の1の確率で出会っているんだから、この縁は大事にしなければな……」

「そ、そうですね」

 ガブリ

 勢いよく二つ目のジャムパンに齧りつく先輩。

「ウ……」

 ジャムがはみ出して、先輩の口の横についてしまう。

 ちょっと無邪気な吸血鬼という感じになった。

「ヒ、ヒッヒユ、ヒッヒュ」

「ああ、ティッシュですね」

 ヒッヒュでティッシュが分かるんだから、僕も、だいぶ先輩慣れしてきたようだ。

「あ、もっらいない……」

 先輩は、ティッシュを受け取る前に、指でジャムを拭って、拭った指を舐める。

 あ……なんか、反則……。

「ポッペのジャムはドイツから輸入したもので、値段の2/3はジャム代なんだぞ。もったいないだろ」

「あ、あははは」

 先輩は、見かけと言動が、まるで違う。

 身のこなしが奔放で『さよなら三角』を『また来て四角』に直す時や、桃太郎の時など、ちょっと口では言えないようなところまで見えたりする。

 さっきも言ったけど、そんな先輩を部活以外で目にすることはほとんどない。

 その日は、けっきょく、魔法陣に足を踏み入れることも無く、先輩と喋っているだけで終わってしまった。

 

 ちなみに、僕は保健委員をやっている。

 

 保健委員はなり手が無い。

 高校生にもなると分かっている。保健委員と云うのは一学期が大変なんだ。

 発育測定では、記録を取ったり書類を整理したり、けっこう仕事が多い。検尿を集めて保健室に持っていくのも一学期。指定のビニール袋に回収するんだから汚いということはないんだけど。クラス全員のがリアルに入っているわけだから、ちょっとね。

 他にも、授業中体調不良の者が出たら、保健室まで付き添って行かなければならない。

 その日は、女子の保健委員が休みなのに、女子で体調不良の者が出た。

「保健委員、付いていってやれ」

 先生に言われて、仕方なくついて行く。肩を貸すのも大げさだし、まあ、無事に保健室に着くのを見届けて、保健室の先生に事情を説明する。

「ちょっと、廊下に出てて」

「はい」

 まあ、女生徒が体調不良で来たんだから、廊下に出されるよな。

 廊下の窓を開けると、すぐ目の前がプールの壁だということに気付いた。

 開けると、同時に水の音やら歓声が聞こえてくる。

 どうやら、三年女子の水泳の時間のようだ。

 なんだか、バツが悪くて、保健室前の掲示物に目を移す。

 いろいろ、健康に対する注意とかかいてあるんだけど、ろくに目に入ってこない。

 まあいい、こういう状況なら、バツが悪くて当たり前。

 視力検査表が貼ってあるので、片目を隠して一人でやってみる。

 あ、近すぎる。

 目いっぱい下がって、背中を向けたまま、窓から上半身を出すようにして検査表を見つめる。

 

 ドン! キャー!

 

 なにかぶつかるような音と悲鳴がして振り返る。

 

 あ……

 

 なんと、プールの外壁の一部が外側に外れてしまっている。

 ビックリして、外を見てる三年女子たち。

 その視線を追うと、眼下に水着のお尻が……。

「アイタタ……」

 スィミングキャップも外れてしまって、髪を振り乱して振り返った顔は、見慣れた先輩!

「す、すみません(;'∀')!」

 悪いはずもないんだけど、ペコリと謝ってしまうと、大急ぎで窓を閉める。

 あ、でも助けなくっちゃ!

 思って振り返ると、すでに体育の先生が救助を始めている。

 僕は、壁に背中を預けたまましゃがみ込む。

 先輩の白いお尻がフラッシュバックする。

 逃げ出したいんだけど、逃げると、こっちが悪いみたいだし、だいいち、保健室からクラスの女子は、まだ出てきていないし。

 ……え?

 ちょっと違和感。

 フラッシュバックしたお尻には、付け根のあたりに、ちょっと目立つ傷跡があった。

 部活中に、不可抗力で何度か目にしてしまったけど、先輩には、あんな傷跡は無かったんじゃないか……?

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・032『ま、間違えた!』

2022-06-21 06:01:42 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

032『ま、間違えた!』 

 

 

 
 楽勝だったニャあ!

 グビグビグビ……

 
 国語の試験のあと、ねね子は爽やかに言い放って、風呂上がりのオッサンのようにペットボトルのお茶を飲み干した。

「ほう、余裕だな」

 からかってやりたくなって空いている前の席に腰を下ろす。

「苦手な漢字をがんばったから完ぺきニャ!」

 近ごろの高校生はロクに漢字が読めないというので、漢字熟語の読みやら意味を問う問題が半分近くだったのだ。クラスのみんなが呻吟していた問題を言ってやる。

「『嬲』は分かったか? みんな苦労していたようだが」

「簡単、『三角関係』ニャ!」

「え……なるほど、男二人に女が一人だもんな。でも、二股とか両天秤とも読めないか?」

「え? そうニャのか?」

「まあいい、じゃ『湯湯婆』は?」

「『ユバーバ』にゃ! 『千と千尋の神隠し』に出てくる風呂屋の魔女ニャ!」

 間違いだが愉快だから笑って済ませる。正解は『ゆたんぽ』だがな。

「これはどうだ『美人局』」

「『びじんきょく』! 美人が多い郵便局のことニャ!」

「クッ(正解は『つつもたせ』だ)」

「ひるでも笑っちゃうくらい優しい問題だったニャ」

「『準備万端』は?」

「『じゅんびまんたん』ニャ!」

 アハハハハハハハハハハ!

 いつの間にかクラス中が耳を傾け、教室は笑いの渦になってしまった(^_^;)。

 
 その帰り道、駅の近くでヘバッているOL風を見かけた。

 
 目についたときは電柱に寄り掛かっているだけだったが、直ぐに腰が折れ、電柱を背にくず折れてしまう。

 ……妖か?

 数秒後には確信になった。

 通行人が彼女の存在に気づかずに、そのまま通っていく。通行人は彼女に躓くこともなく、CGのポリゴン抜けのように、何事もなく通過していく。

『おい、何をしている』

 人を待っているふりをして心で語りかける。

『見えるの? わたしが?』

『見えてる、こんなところでグズグズしていたら、他の妖に食われてしまうぞ。おまえ、見るからに弱弱しいからな……おまえ、死んで間もない霊体か?』

 そいつの胸の中には、魂の抜け殻が卵の薄皮のように、ヒラヒラと揺れている。上空を仰ぐと青白い魂がガス圧の足りない風船のように中空で漂っている。

 ただ、肉体と魂を繋ぐ緒は切れてしまっていて、凧の足のようにそよいでいる。元に戻ることは無いだろう。

『わたし、字を、字を間違えてしまった……』

『どういうことだ』

『男が憎くて自殺をしたのよ、ついさっき……男は、わたしの恋人だったけど、こともあろうに妹に手を出しやがって、わたしを捨てたのよ。もう、妹のお腹には男の赤ちゃんができているし……だから、だから、遺書に書いてやった「祝ってやる」って』

 プ(`艸´)

 爆笑するところだった。字は『祝』だが、心情は『呪』だ。爆発する気持ちのままに呪いの遺書を書いて、肝心の文字を間違えて、魂が抜けてから気が付いたという抜け作だ。

 強い想いで書かれた文字は力を持つ。正しく『呪』の字が使われていれば、相当霊力の強い、例えばおきながさんのような神さまか、能力者によらなければ解呪できない。

 しかし、真逆の『祝』を書いてしまっては、文字の力によって、強い祝福を与えてしまうことになる。

『これを見て観ろ』

 そいつの眼前にバーチャルモニターを出してやった。

『なに、これ?』

『ちょっと未来の映像が映る。まあ、見てろ』

 動画の画面を早回しにするようにカーソルを動かしてやる。

 そいつの妹は男と結ばれて、無事に家庭を持ち女の赤ちゃんを産む。

 すくすくと赤ちゃんは成長し、そいつと同じくらいの女性に成長する。そこで停止にしてやった。

『え……わたしにソックリだ』

 そう、赤ちゃんは妹の強い願いで亡くなった姉の名前を受け継いで、女にソックリの女性に成長するのだ。

 そして、巻き戻してやると、数か月前に、女は男にひどい仕打ちをしている。仕打ちをした本人は、それほどの事とは思わずにいたのだが。男を慰めてくれた妹と結ばれたと言うのが真相だ。

『そ、そうだったんだ……』

『字を間違えて良かったな』

『う、うん……でも、わたしは、どうしたら……』

『しかたがない……』

 そいつを抱き上げて、数十メートル上空に向かう。

 さっきまで魂が漂っていたところは、あの世への通路が出来ていて、魂を呑み込んだところだ。

『本当は自力で、ここに入らなきゃいけないんだがな……さ、向こうへ行け』

『あ、ありがとう……あなたは?』

『主神オーディンの娘にしてブァルキリアの主将 堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士 ブリュンヒルデ……という』

『ブリュンヒルデ……ごめんなさい、もう一度』

『二度は言わん。向こうの世界で祝福のあらんことを』

 通路は閉じて、わたしは地上に降りた。

 
「ごくろうでした」

 
 降り立った道路には、いつから居たのかおきながさんのところの武内宿禰(たけのうちのすくね)が笑顔で立っていた。

「スクネさんか」

「武内宿禰、しっかりと見届けましたぞ」

「な、なにを見届けたと言うのだ(;^_^A」

「今日は縞柄でござったな」

「ん…………こ、こらあ!」

 拳を上げようとしたら、カラカラと笑い声だけ残してスクネは消えていた。 

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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