大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・114『サーターアンダギー』

2022-06-18 15:15:34 | 小説4

・114

『サーターアンダギー』加藤恵 

 

 

 まあ、そうなるよね。

 

 電子ボードに780を781と書き換えるココちゃんの背中に呟いた。

 実は、サーターアンダギー中毒になりかけている。

 植樹祭のお土産にサーターアンダギーをもらってからツボにはまって、毎日二個ずつ食べている。

 サーターアンダギーは、沖縄のボール型のドーナツ。むやみに美味しいけど、カロリーが高い。

「レプリケーターなら、カロリーオフのも作れますよ」

 分かっていながら、ココちゃんは意地悪を言う。

 やっぱ、天然黒糖の手作りがいい! 

 レプリケーターでも、98%同質なのが作れるけど、全然違う!

「レプリケーターなら、一日6個食べても平気ですよ」

「ぜったい、本物がいいの!」

 言い張ると、ココちゃんは、ボードに食べた数を記録するようになった。

 まあ、半分ジョーク、半分は可愛いイヤミだと思って、放っておいたら、もう一年も続いている。

「でも、おかしくない? 今日で、ちょうど一年だから730個でしょ?」

「日に三つ食べた日があるんです」

「え、そんなの記憶にないよ!」

「都合よく記憶の改ざんをやってるんですよ。メグミさんも二十ン才なんですから、油断してると西之島の拡大よりも早くブタになりますよ」

「そうだ、わが西之島だよ! 北東区というのは妥当な線だと思うわよ」

「なんでしょうけどね……」

『EE計画』正式名称『西之島北東部新規総合開発計画』は、パルス鉱の輸出利益に後押しされて、飛躍的な発展を遂げた。

 そこで、新しく行政区として独立させて、さらなる発展を願って議会で決められた名前が『北東区』なんだ。

 議会では、東北区と北東区のどちらにするかというバカな論争をやっていたが、『東北というのは、本土の東北地方と被ります。東北というのは、単なる地方名ではなく、東北地方の人々の思い入れのある名前なので、控えたほうが良いであろうと思われます』という及川市長の意見で北東区に落ち着いた。

「なんか無機質な感じで、すこし残念です」

 ココちゃんは、天皇の姪という立場なので、それ以上に踏み込んだ不満は漏らさない。

 さる筋からは『火星に移るように進言してほしい』と言われているけど、わたし自身、相当のアマノジャクなので本人には言っていない。そううことは、皇族であっても――自分で決めなさい――だと思っている。

「あ、そろそろ時間だから、行ってくるね」

 午後は、市役所で開発評議会がる。ココちゃんが時間を確認している隙に、もう一個サーターアンダギーを摘まむ。

 パク……

 よしよし、敵は気づいていない(^▽^)/

 と思ったら、ガラスに映ったボードの数字は、しっかり782になっていた。

 

「メグミさんはバカな名称だと思っているでしょ?」

 早く着きすぎた会議室には、すでに及川市長が秘書も伴わずに、ひとり、完成度80%の開発地区を見下ろしている。

 前回も同様だった。時間にして、この三十分余りが、市長の短い休憩なんだろう。

 ドアを開けてから気づいたので、ちょっと申し訳なく思いつつも、横に並ぶ。

「お邪魔になりませんか?」

「いえ、話す相手があった方が、頭の中で整理できます。まあ、誰でもいいというわけではありませんが。『北東区』の名称に否定的だった人の方が話が面白いです」

 名称などどうでもいいと思っていたわたしは、つい曖昧な返事になる。

「ええ、まあ……」

「役所や役人は、平凡な方が安心するんですよ。希望や展望に満ちた名前だと警戒されます。ただでも、この島は『西之島開発特措法』によって、役所が口を出しにくい存在になっています。眼下に完成間近のオタカラ劇場が見えますが、規格も運営も、並みの市民ホールとは全然違います。歌劇やレビューに特化した大中小、三つのホール。大と中は運営の主体を孫大人の北大街に任せています。並の市民ホールでは、こうはいきません。ヒト、モノ、カネを柱に、世界をリードするカルチャー都市を目指すのには、本土からの援助は必要ですが、口は出させたくないですからね。なあに、事業がうまく行けば、自然発生的に別の名前が付きますよ。エデンとか、ニューアキバとか」

「ハハ、大昔のラブホかヘルスセンターの名前みたい」

「いや、そっちの文化的な能力はゼロですから、ま、そんな感じで通称名ができればいいんですよ」

 ホール以外にも、本土政府からの資金で作られている施設や開発地の説明をしてくれる。

 なるほど、こうやって説明することで、相手の反応で考えをフィードバックして、頭の中で、次のステップを考えていることが分かる。国交省の役人だったころは鼻持ちならない人だと思ったけど、市長としてはなかなかの采配ぶりだ。

 この及川軍平の能力と人となりを読んでいた社長たち、三人の島のリーダーは大したものだと思う。

 かくいうわたしも、元とは言え、天狗党の幹部の一人。それをラボの代表者にしているんだ。

 まあ、ゆっくりと島の変化を見せてもらおう。

 あと、数分で会議が始まるところで、秘書からとんでもないことを知らされた。

「ちょっと、面倒なことになるかもしれません」

「確かに……」

 

 なんと、西之島の核(二百年前の噴火の拡大期以前からあった元の西之島)から、漢明国の遺物が発掘されたというのだった。

 ちょっとややこしいことになりそう……無性にサーターアンダギーが食べたくなってきた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源
  •  

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・029『受験生 福田るり子』

2022-06-18 06:29:39 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

029『受験生 福田るり子』 

 

 

 
 あ……起きなくていいんだっけ。

 
 いつもの時間に目覚めて思い直した。

 今日は週明けの第二月曜日、月に一度の休刊日だから新聞を取りに行かなくてもいい。

 でも、そのことではない。

 今日は学校の入試日で生徒は休みなのだ。

 普通の生徒なら儲けたとばかり二度寝をするんだろうが、女戦士の習い性、きっちりと目が覚めてしまう。

 
 祖母といっしょに庭の手入れをして、家族三人で朝食。

 表を掃きながら向かいの窓からチラ見している啓介を冷やかす。先月は家の前の道路で掃除の真似事をするくらいの事はしていたのだが、ここのところの寒さを理由に出てこようともしない。情けない幼なじみにジト目の一つもをかましてやろうと思ったが……。

 あれ?

 啓介の視線が微妙にズレている……視線の先を探ってみると、地面に落ちた電柱の影が太っている。わたしの位置からは見えないが、向かいの啓介のところからは影の本体が見えているのだ。

「なんの用だ、ねね子」

「み、見つかったニャー(^_^;)」

 私服のねね子が出てきた。メンズなのだろうか、大き目のブルゾンが可愛い。

「なんの用だ」

「あ、えと、学校について来て欲しいニャ」

「今日は入試で休みだぞ」

「いや、その、だからなのニャ(^_^;)」

「んん?」

 ねね子は二階の啓介が気になるようで、あまり込み入った話はできない様子だ。

「分かった、だけど、入試だから校内には入れないぞ」

「あ、それでいいニャ!」

 可愛くガッツポーズ、啓介が胸キュンになった気配。わたしにはまだまだ出来ないJKらしさだ。思いっきりのガンを飛ばしてから、ねね子と学校へ向かう。

 
 豪徳寺を周り切って踏切が近くなると、受験生たちが様々な中学の制服で学校を目指しているのに出くわす。

 
「あの子たちに比べると、ねね子でもお姉さんに見えるなあ」

「これでも、春からは三年生なのニャ!」

「ハハ、すまん。で、用事は、あの子たちの中か?」

「うん……あの子なのニャ」

「ん……」

 それは福田芳子に似た少女だった。少し小柄で、目尻に力があって、ねね子とは違ったタイプの猫顔が受験生の列に窺えた。

「ねね子の仲間か?」

 妖だろうことは見当がついたが、害意が無い。先日の梨本明子さんに似た空気を帯びているが、彼女よりは胡散臭い。

「芳子の妹ということになっているニャ、福田るり子ニャ」

「妖なら、真名を付け昇華してやらねばならないが」

「待って欲しいニャ、るり子はなにやらありそうなのニャ」

「具体的に言え」

「言えないから、実物を見に来てもらったニャ。るり子には手を出さないで欲しいのニャ」

「だから訳を言え!」

「く、苦しいニャ(≧Д≦)」

「すまん、つい首を絞めてしまった」

「ねね子の勘ニャ、ほら、雷が落ちるのが分かったような勘ニャ」

 ねね子の勘で井伊の殿様も命拾いしたし、わたしも無事にこの異世界に来られた。

「そうか、じゃ、しばらくの間だけな」

「よかった。ウンと言ってくれなかったら、今度は落雷するところに誘おうと思ってたニャ」

「やったら殺す」

 ゴツン!

「フニャ!」

 

 受験生たちを見送っていると、いい匂いがしてきた。

 神社の鳥居の向こうでおきながさんが焚火をしている。どうやら芋もいっしょに焼いているようだ。

 ねね子と一緒に焼き芋をごちそうになって家に帰った。

 朝からの焼き芋で、胸がもたれるかと思ったが、ちゃんと朝ご飯も食べられた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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