大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・8『百地芸能事務所・3人の社員』

2022-06-16 09:15:16 | 小説3

くノ一その一今のうち

7『百地芸能事務所・3人の社員』 

 

 

 とっさに思いついてジャージの裾を引っ張ってみる。

 なんと、ジャージの裾が三十センチほども伸びた。

 店のショ-ウィンドウに映して見ると、ミニのワンピースになっている。

 これは、いざという時に、怪しげなジャージ姿から、ワンピース姿に化ける忍者のアイテム?

 胸にプリントされた『百』のロゴが伸びて、縦長の『白』のようになっている。上の横棒は、プリントが劣化して剥げ落ちて……単にぼろぎれ寸前になってただけ? 足元が地下足袋だから、ちょっと不思議なファッション。

 そうだ、ケモ耳とか付けたら、渋谷とかアキバなら通用するかもしれない。

 ウウ、しかし、ここは神田の古書店街だ。さっさと事務所に帰ることにする。

 

『さすがは風魔の二十一代目! 見事に躱したな!』

 

 事務所のドアノブに手を掛けるとカギがかかって、インタフォンから社長の声が響いた。

「早く開けてもらえませんか~」

 事務所に近づくにつれ、伸びたジャージが戻り始めている。

 カチャ

 もぉぉぉぉ

 小さくプータレながら社長室に入ると、頭だけ外した着ぐるみの姿の社長が汗を拭いている。

「あ、あれ、社長だったんですか!?」

「ああ、零細企業だからな、足りない分は社長がやる」

「じゃ、残りの着ぐるみと通行人も?」

「うん、狐とアベックはうちの社員だ」

 パサリ

「わっ!」

 目の前が暗くなったと思ったら、ジャージの下が頭に降ってきた。

「油断しちゃいけないなあ」

 振り向くと、もう一人の着ぐるみとアベックが立っている。

「あ、あなたたち!?」

「紹介しよう、狐の着ぐるみが『力持ち』だ」

 たしかに、着ぐるみの上からでも力はありそうだ。首の筋肉とかはプロレスラーみたい。

「あ、いまオレのこと男だと思っただろ」

「え?」

「うちで一番の古参だけど、立派なくノ一だ。化けることに関しては事務所でトップ。衣装・美術・特殊メイクが担当。仕事中は、みんな忍名で呼び合う。みんな『ち』で締める三文字から五文字でつけるのが習いだ。力持ち、なんか言ってやれ」

「四年遅れの覚醒だってな、モノになればいいが……まあ、励め」

「は、はい」

 なんかムカつくけど、取りあえず先輩だし、素直に返事しておく。

「その、男子高校生風の通行人が『嫁もち』」

 え、高校生で嫁もち!?

「あ、忍名。ちゃんと独身だよ。なんでもやるけど、マジックとかが得意かな? スタッフが落ち込んだりしたときには励ますとか、メンタル面でサポートすることもやってるから、困ったことがあったら、相談してね(^▽^)」

 なんだか、感じよさそう。

「ジャージの下を脱がそうって言いだしたのは、こいつだし『感じよさそう』なんて思わない方がいいわよ」

 女子高生が、可愛い唇をゆがめて言った。こいつも、見た目と違う(^_^;)。

「あれは、社長が『手っ取り早く結果を出せ』って言うから」

「嫁もち、今はお金持ちのタームだ」

「はい」

「ヨロ~あたし『お金持ち』。って、あたしが金持ちってわけじゃないからね。いちおう経理も担当。バイトのギャラとか、あたしの胸三寸だから、媚び売っといてね」

「お金持ちも一通りのことはこなすが、専門は情報だ。その、お前の忍名は……」

「『そのいち』でいきます!」

 変な忍名付けられちゃかなわないので宣言しておく。

「……まあいいだろう、風魔のそのいちだしな。まあ、遅咲きなんだ、今のうちに励め。じゃあ、テストの結果をもとにシフトと仕事内容を考えてやってくれ……あ、もうジャージの下履いていいからな」

「え、あ!?」

 気が付くと、上のジャージは、すっかり元の丈に戻っていた(#^△^#)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・027『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・1』

2022-06-16 05:37:05 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

027『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・1』 

 

 

 

 あなたーー賞味期限迫ってますよー!

 
 キッチンでお祖母ちゃんが叫ぶ。

「あ、ああ………(;'∀')」

 隠していた0点の答案が見つけられた中学生みたいな生返事をしてノッソリとお祖父ちゃんがキッチンに足を向ける。

 なんだか面白そうなので、わたしも行ってみる。

 シンクの下を覗きながらため息をつく祖父母は、少々子どもじみていてほのぼのする。

 しかし、シンクの下はほのぼのではない。

「どうしたの、激辛ラーメンで一杯じゃないの(*o*)!」

「ちょっと辛すぎるんで、ついついな……」

 
 お祖父ちゃんはインスタントラーメンが好きだ。

 お祖母ちゃんは、あまりいい顔をしないのだが、亭主の道楽の一種だと放置している。

「気が良すぎるんですよ、あなたは」

 お祖母ちゃんの話によると、こうだ……。

 
 去年の春に日韓関係が最悪になってきたころ、お祖父ちゃんの仲間が『韓国物産祭り』というのを開いた。意気に感じたお祖父ちゃんは、そこで韓国ラーメンを箱買いしてきたのだ。

 家に持ち帰って、作ってみたが、その辛さはお祖父ちゃんの辛さの概念を超えていた。

 そのために、一つ食べたっきり残ってしまったのだった。

「もう、処分するしかないわね」

 お祖母ちゃんは無慈悲だ。

「しかし、賞味期限だろ……消費期限じゃないしなあ……」

 お祖父ちゃんは煮え切らない。

「これ、ゴミ袋に入れたら目立っちゃうよ」

 老婆心ながら言ってみる。うちで一番若いわたしが老人相手に老婆心、ちょっと笑ってしまう。

「ほら、ひるでだって笑ってますよ」

「あ、お祖父ちゃんのこと笑ったんじゃ……」

 遅かった、世田谷自然左翼のお祖父ちゃんは傷つきやすい。なんかフォローしなくっちゃ(;^_^A。

「任せて、なんかレシピ考えてみるよ!」

「なんとかなるかなあ?」

 縋りつくようなお祖父ちゃんの期待に応えないわけにはいかない。

 
 この異世界に来てから妖の相手ばかりしているので、こういう人間的な問題は、なんだか新鮮だ。

 
 そうだ!

 最初に思いついたのはコロンブスの卵というか、コロンブスの激辛ラーメンだ。

「お祖父ちゃん、激辛とラーメンを分ければいいんだよ」

「え?」

 麺だけを茹でて、スープは冷蔵庫の中華出汁で作ってみた。

「普通に美味しいよ!」

 お祖父ちゃんの元気が戻った。

「あら、意外と麺はいけるじゃないの」

 お祖母ちゃんも一口食べて納得した。

「スープがもったいないなあ」

「あなたは完璧すぎるんですよ、捨てちゃえばいいじゃない」

「けど、なんだか裏切ってるみたいで……」

 仲間に会った時、お祖父ちゃんは心から「美味しかったよ!」と言いたいのだ。麺だけ食べて褒めるのは、真面目なお祖父ちゃんには心苦しいのだ。

「わかった、一晩考えさせて!」

 ドンと胸を叩いた二月最初の日曜日だった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする