大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 78『天下三分の計』

2022-06-13 15:13:06 | ノベル2

ら 信長転生記

78『天下三分の計』信長 

 

 

 本当に酔っちゃったんだ……(-_-;)

 

 客楼にあてがわれた部屋に連れて行っても、茶姫はアルコール漬けのナメクジのようにグデングデンだった。

 呆れながらも、シイは甲斐甲斐しい。

「鎧のまま寝たら体に悪いよ……ニイチャン、ちょっと手伝って」

「着替えさせるのか?」

「鎧だけでも脱がせよう……」

 ガチャガチャ

「よし、持ち上げてるから、鎧を引き抜け……よいしょ」

 抱え上げると、酒臭さと女くささが立ち込め、転生して女性化したはずの俺でもクラっとくる。

「ああ、汗とお酒でグシャグシャ……体拭いて、全部着替えさせなきゃダメね」

「そうか、じゃ、ちょっと取りに行ってくる」

「うん、お願い」

 

『お召し替えなら、これに』

 

 廊下から声がして、出て見ると、検品長が行李を抱えて蹲踞している。

「あ、用意してくれていたのか」

「ああ、蜀の丞相さまが『お召し替えになるかもしれない』とおっしゃって、自分も用意だけはしていたのだが、客楼までは入れずに困っていたので助かった」

「さすがは孔明、やるなあ」

「それが、途中、兵部の倉庫を通ったんだがな……」

「忍んだのか?」

「いや、指定された経路がそうだった」

「武備が整っていたんだな?」

「ああ、一万の兵が一か月は戦闘行軍できる量だ。それも部隊別の仕分けもされていて、あそこを通過して、装備を整えるだけで出撃できる」

「得難い情報だ、酔いが冷めたらお伝えする」

 

「それは威嚇だなあ……」

 

 体を拭いて着替えさせると、半分覚醒した茶姫は結論付けた。

「むろん、その気になれば、すぐにでも一万の兵は繰り出せるぞという意思表示だ」

「でも、一万ぽっちじゃ、とりあえずの戦いはできても、攻め入るなんてできないでしょ」

 シイが口をとがらせる。

「蜀の倉庫は奥が深い、検品長は目に見えた分だけで話している」

「むー、使えないやつ」

「ちがうぞシイ少尉。輜重はリアリズムだ。目に見える装備や糧秣を正確に把握して準備輸送するのが任務。憶測でものを言わんのは、検品長が優れているからだ」

「それより、問題は、孔明が、大橋の話に膝を打ったことだ」

「美人姉妹を主従で分けたって話でしょ、ちょっとヤラシくなくない?」

「どうだ、我が主?」

「孫策は事実上の呉王だ、二人の美姫を独占しても文句を言う者はいないだろうが、不安と不満は広がる。孫策は色ボケの吝嗇王だとな。しいては第一の臣周瑜との関係にもひびが入る。仲良く分けたほうが聞こえがいいだろう……もう少し寝る。なあ……一人じゃ寂しいから、どちらか添い寝してくれ」

「「断る」」

「ふふ、戯言だ……戯言……」

 そう言うと、茶姫は布団に抱き付いて、再び寝てしまった。

 

「天下を三分いたしてはいかがだろう?」

 

 再開した談義の冒頭で孔明はぶち上げた。

「まあ、天下三分の計というわけですね(^▽^)」

 大橋がパチパチと手を叩く。

「いかにも、三という数字は安定を表します。そうだ、これをご覧ください」

 孔明は、飲み干した盃を持ち上げた。

「ご覧の通り、三国志の盃には三本の脚があります。そうだ、それを……」

 孔明は関羽と張飛の狼藉で剥がれ落ちた壁の一部を持って来させた。

「あの酔っ払いには困ったものですが、こういう役には立つ。壁の砕けは表面がガタガタでござる。ここに、底が平らな皿を置くと……」

 置いたさらに指を添えると、カタカタと揺れる。

「これに、四つ脚の肉皿を置くと……」

 これも一脚が浮き上がってガタついてしまう。

「しかるに、この盃は……ご覧のように、ズシリと安定いたしております」

「でも、道具の脚と国とがいっしょになるのかなあ?」

 シイが遠慮のないことを言う。

「同じです。我が蜀は、関羽と張飛、それに、この孔明という三脚の上に劉備玄徳という器が載って安定を保っております」

「ああ……」

 シイが納得の声をあげ、茶姫と大橋はニコリと笑っている。

 蜀にとって、関羽と張飛は両腕で孔明が頭脳という図を描かなくても、感覚的に理解できる。

「天下も、また同義。三国が互いを尊重し助け合っていけば安泰であるとは思えませんか。魏・呉・蜀の三国が鼎立してこそ、その脚の上に載せている天下という器は、三国合わせて数億の民を載せているのですから、これを覆すことは断じてできません」

「そうですよね! いま気づきましたが、三国の街の多くは『盃』の字が充てられておりますよね! 豊盃とか酉盃とか!」

「良いところに気付かれたな、大橋殿。街とは民と法と産によって出来ております。古来より、盃は三脚。古の知恵者も、そのことに気付いて名付けたのでありましょう」

「もう一つ、いいだろうか」

 茶姫が、ほのかに酒の残る顔を上げた。

「傾聴します、茶姫殿」

「三国鼎立ということは、四本目の脚を許さぬということでもあるよな?」

 孔明と大橋が笑顔のまま固まった。

「いかにも、そこが最も肝要なところなのです、茶姫殿。天下の安定を覆す第四の脚が現れた時は、三国共同して、これに当ります」

「つまり、三国の攻守同盟ということであり、防ぐべきは三国内の脚ばかりではなく、外に脚を求めて、自分たちの脚を肥え太らせることも戒めるということであると?」

「我々は、茶姫殿の扶桑打通行軍を相互不可侵の宣言であると理解しております……ということでご理解いただけましょうや?」

「承知」

 茶姫は左手で右の拳を包む拱手(きょうしゅ)の礼で、これに応えた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
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漆黒のブリュンヒルデQ・024『校舎裏の焼却炉』

2022-06-13 06:28:13 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

024『校舎裏の焼却炉』 

 

 

 
 ダメもとで校舎裏の焼却炉に行ってみた。

 こないだチラ見した時には投入口のハッチには鎖が巻かれて使用禁止の札が掛かっていたように思う。

 あれ?

 非常階段の脇から覗く煙突から煙が出ている。

 近くまで行くと、投入口が半開きになっていて、チロチロと炎が立っているのが見える。

 長年使われていないはずなのに、通気口はきれいに掃除されていて、炉の中は様々なゴミが陽気な音を立てて燃えている。

 いいのかなあ……?

 逡巡していると、後ろから声が掛かって、不覚にもドキッとした。

「今日は特別だから、燃してもいいよ」

 作業着姿の技能員さんが火かき棒を持って立っている。

「いいんですか?」

「ちょっと待って……」

 技能員さんが火かき棒で炉をかき回して隙間を作ってくれる。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、焼かせてもらいます」

 バサバサ……ボウッ!!

「若い子たちの悪気(あっき)はよく燃えるねえ……」

「うん……でも、すぐに燃え尽きる」

「悪気は早く焼き清めるに限るね」

「底になってるのはなかなか燃え尽きないのね……」

「古い悪気は石炭みたいでね、火の付きは悪いけど、燃え始めると、いつまでも燃えている。だからね、燃え尽きるまでは目が離せない」

「そうなんだ……」

 
 並の人間が悪気を燃やせるわけなど無い、無いどころか悪気を認識できるわけなど無いのだが、この時は不思議にも思わず廃棄された椅子に腰かけてしまった。


 技能員のおじさんと悪気が燃える炎を眺める。グラズヘイムでやった冬至の火祭りを思い出す。

 一年溜まった穢れを依り代に籠めて王宮の広場で焼くのだ。盛大に燃えるほど来年の実りが大きいとされていた。

 心地よい火照りに眠気がさしてくる。おじさんも同様で、火かき棒を杖にしたまま舟をこいでいる。

 おじさんの姿が変わってきた……作業服は古式ゆかしい甲冑になって、豊かな白髭が鼻の下を覆う。

「あ……スクネ?」

「あ、これはしたり。つい居ねむって本性を晒してしまいましたな」

「スクネが技能員さんだったのか」

「巡回しております。世田谷のあちこちを周って溜まった悪気やあれこれを清めるのが仕事ですわ、アハハハ。正月の三が日は姫の元に戻って休みを頂いておりました」

 おきながさんのところで、写真を撮ってもらったのは、その休みの時だったのだろう。つい先日の事なのに懐かしく思い出す。

 
「実は、ひるで殿……」

 
 いつのまにか、わたしの方が眠ってしまっていた。スクネが優しいまなざしを向けている。

「姫が申されましたな……妖どもを懲らしめた後は名前を付けてやってほしいと」

「ああ。もう八人ほどになるかなあ、懲らしめてやると自然に名前が浮かんできてな。自分で言うのもなんだが、いい名前を付けられたと思う」

「妖の多くは戦争で焼け死んだ者たちです。名前の確認も出来ぬままに、あるいは、名前もろとも容も残さずに燃え尽きた者たち……七十余年の年月の間に妖になってしもうた、そういう者たちに名前を取り戻してやって欲しいと言うのが姫の願いなのです」

「そう言うことだったのか……みんな、自然な名前だったのは、そういう訳か。それならそうと、おきながさんも言ってくれればいいのに」

「言いづらかったのですよ……なんせ数が多い」

「どのくらいになるのだ?」

「ざっと、十万」

「十万!?」

「はい、だから言いそびれておられた。この爺からもお頼みします。どうか、妖たちに名前を取り戻してやってくだされ」

「あ、ああ。しかし十万とはなあ……」

「及ばずながら、この爺もお手伝いをいたしますれば……東京は古い都ですので、戦災以外の妖もわだかまっております。全貌は、この爺も姫も掴み切れてはおりませぬがなあ」

「この異世界に来たのは、そういう役目があっての事なのか……」

「そこまでは分かりませぬが、いえ、お伝え出来てホッといたしました。さ、炉の中にイモを仕込んであります……よしよし、これなど食べごろ。お一つどうぞ」

 スクネは仕込んでおいた焼き芋をくれた。

 思いのほかおいしくて、ハフハフと食べているうちにスクネの姿は消えてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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