大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・311『こいつは才能だと思う』

2022-06-02 15:17:45 | ノベル

・311

『こいつは才能だと思う』頼子   

 

 

 こいつは才能だと思う。

 

 こいつというのは酒井さくら。

 中学からの、わたしの後輩。

 客観的には、ちょっと厳しい人生を歩んできてるのよ。

 小学校の時にお父さんが失踪して、中学に入学すると同時に失踪宣告して……失踪宣告というのは法律的に死んだのと同じ扱いになる。七年間消息不明ってことが条件なんだけどね。

 そうして、さくらは、お母さんの姓になって実家である如来寺にやってきた。そして、越して二年足らずで、今度はお母さんが失踪。

 如来寺には、さくらのお祖父さんと伯父さん夫婦。従兄姉のテイ兄ちゃんと詩(ことは)さん。

 今どき、親類と言っても、そうそうあてになる世の中じゃない。それを、さくらは、生まれてからずっと如来寺の子だったみたいに愛されているし、さくら自身も、如来寺の子として屈託なく過ごしている。

 

 さくらにはオーラがあるんだ。

 

 本人に言ったら怒るかもしれないけど、人の輪の中に入って行くのが上手い。

 上手いだけだったら、ただの人たらし。

 さくらの生き方には、ほとんど打算というものがない。その時その時、周囲の人と泣いたり笑ったり、怒られたり恥をかいたり。その姿には、どこか愛嬌があって、人はさくらのことを放っておけなくなる。

 そういうさくらを友だちにしていたから、同級生だった留美ちゃん(榊原留美)が、これまたお父さんの仕事の都合で一人暮らしになったときも、如来寺でいっしょに姉妹同然に暮らさせるという芸当をやってのけた。

 留美ちゃんは、真面目な文学少女で、人交わりが苦手な子。秘めた好奇心や向上心には見るべきものがあるんだけど、リアルの生活で、それを活かせるような子ではない。一人暮らしを余儀なくされた二年前、さくらが居なければ、ちょっとミゼラブルな状況になっていたかもしれないと思う。

 歳の差四年の女の子が三人、広いお寺だとはいえ、如来寺が広いのは宗教施設であって、住人の生活環境は、そんなにぶっ飛んだ広さではない。そこで、うまくいってるのはすごいよ。

 恥ずかしがるから、本人には言ったことないけど、お風呂やトイレが他人と共用というのは、思春期の女の子にはハードルが高い。

「洗濯物とか、けっこう難しいんじゃないの?」

 部活の合間に、さくらには聞いたことがある。

「うん、三人で相談して、ブラとかパンツとか、イニシャル入れてます!」

 そう言って、楽し気にプリントの裏側に仕様を書いて説明してくれる。

 そのメモを後から見た留美ちゃんはユデダコみたいに顔を赤くして、さくらをぶつんだけどね。

 さくらが笑って、わたしも笑って、そして、留美ちゃんもつられて笑っておしまい。

 わたしのガードのソフィーは「さくらのアレは、諜報部員に向いてます」と、ちょっと羨ましそうにしている。

「諜報部員の資質は、いかに、自然に人の中に溶け込めるかなのです。溶け込めるだけではなく、空気のありがたさみたいな信頼を勝ち取れるかです」

 上司のジョン・スミスも言う。

 なるほど……わたしは頷いた。

 ソフィーは、ゴルゴ13に孫娘がいたら、こんな感じってだろうって女の子だからね。

 

 昨日もね、通学用の自転車を置かせてもらってる『スナックはんぜい』のマスターからいっぱいサンドイッチもらって――いっしょにサンドイッチランチしましょう!――って、嬉しそうにサンドイッチの写真を送ってきた。

 サンドイッチランチ、ちょっとモッサリだけど、ちゃんと韻を踏んでる。

「さすがは文芸部」

 ソフィーは感心するけど、さくらは天然です。

 そして、中庭の藤棚で、女子四人楽しくランチしたんだけどね、放課後になったら回復したお天気とは逆に落ち込んでる。

「どうした、午前中の曇り空全部呑み込んだみたいな顔して?」

「せ、せんぱい! どないしょ、ペコちゃんが中間のテスト結果くれたんやけど、二個も欠点あるんです!」

 成績伝票を見ると英語と数学が欠点。

 数学・38点  英語・37点

「なんだ、いくらでも挽回できる点数じゃないの」

 一年の初テストは、ほとんどゲタがない。ありのまま点けて、ありのままの実力を思い知らせるという聖真理愛学院の昔からの方針。

「せ、せやかて、留美ちゃんは欠点あれへんし! うちら、家でもいっしょにテスト勉強してたんですよ! ううん、うちアホやさかい、しっかり5%増しぐらいでやってたのにい!」

「仕方ない。勉強に関しては、さくら、脳みその皴が留美ちゃんよりも少ない」

「ええ、そんなあ~(;゚Д゚)」

 ソフィーに言われて、ムンクの『叫び』みたいに両手で頬っぺたを挟んで揉む。

「脳みそは、頬っぺたじゃなくて、頭にある。揉んで皴が増えるなら手伝ってあげる」

「うん、手伝うてえ!」

 ソフィーは、ポーカーフェイスでさくらの頭をグリグリ。

「イタ、イタタタ……あ、でも、皴が増えていく感じ……する……イタタ……」

 留美ちゃんと二人でお腹を抱えた。

 で、散策部の部活を兼ね、みんなでペコちゃん先生の神社に足を運んで、さくらに学業御守りを買ってやりました。 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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やくもあやかし物語・142『神保城・2』

2022-06-02 07:45:32 | ライトノベルセレクト

やく物語・142

『神保城・2』   

 

 

 どこかで見たことがある……

 

 神保城のあちこちを探検して思ったよ。

 大きなお城なんだけど、窓とかバルコニーから見える尖塔とか櫓とか。大手門入ったとこの広場の具合。全体としてコの字型に配置されてる建物とか。

 それに、なによりお城から見える景色っていうかロケーション。

 お城は独立した峰の頂にあるんだけど、峰は背後にも繋がって大きな山になって、そこから滝が流れてて、お城を取り巻く天然の堀になってる。

 堀は、お城を取り巻いたあとは下流に流れて、ふもとの街を潤して湖に流れ込んでいる。

 

 これって、ノイシュバンシュタイン城だ。

 

 ちょっと舌を噛みそうな名前なんだけど、わたしは正確に覚えてる。

 だって、ノイシュバンシュタイン城は、ディズニーのシンデレラ城のモデルなんだよ。

 子どもの頃、ディズニーランドに行きたくって、絵本とか動画とかをよく見ていた。

 ディズニーランドっていえば、ゲートを入ったらワールドバザールを抜けて正面に見えてくるシンデレラ城だよ。

 それで、シンデレラ城のことをいろいろ調べた。

 そしたら、シンデレラ城は、本当は眠れる森の美女のお城がモデルだって分かった。

 それが、なんでシンデレラ城になったか? 多分ね、眠れる森の美女よりもシンデレラの方がメジャーだから。

 それに、眠れる森の美女城って言いにくい。シンデレラ城の方がだんぜん言いやすいでしょ。

 そのシンデレラ城のモデルになったのがノイシュバンシュタイン城って言われてる。

 それを知ってからね、ノイシュバンシュタイン城の写真を学校の図書室で発見した。

 それは、二か月で一枚めくる式のカレンダーだったから、図書の先生に「つぎ、めくる時にください!」ってお願いしといた。

 そして、お城の写真のとこだけにして机の前に貼っておいたんだ。

「やくも、ドイツに行きたいの?」

 お母さんが、笑いながら聞いた。

「あ、とってもファンタジーだから、図書の先生に言って、もらったの!」

 シンデレラ城にしなくてよかったと思ったよ。

 だってさ、シンデレラ城を張っていたら「やくも、ディズニーランド行きたいの?」ってお母さんは聞いてくる。

 ほとんど鍵っ子だったわたしに、お母さんは引け目感じてて、ちょっと無理してもディズニーランドに連れてってやろうと思うよ。

 ディズニーランド行ったら、親子二人の一か月分の食費代が飛んで行ってしまう。

 

 だから、ノイシュバンシュタイン城。

 

 それが自分のものになったんだから、これは、もう興奮ですよ。

 どこに行くにも、長い廊下とか階段とかがあるんだけど、それはそれで3Dラビリンスって感じでおもしろい。

 部屋の仲間たちも等身大になったり擬人化したりして、好き好きにお城の中を歩き回ってるし。

 アノマロカリスは立派な鎧を着た将軍みたいだし、交換手さんは女逓信大臣とか言って、城内に電話回線張り巡らすのに熱中している。イモニク(妹が憎たらしいのには訳がある)のキャラたちもあちこちに散らばって自分の部屋を確保して、御息所は、勝手に二部屋ぶち抜いて平安時代風にしてしまうし。

 

 あら?

 

 ちょっとくたびれて、尖塔に登ってみると、凸凹の胸壁に頬杖付いてチカコがタソガレてる。

「チカコ、くたびれた?」

「ちょっと、お城って苦手」

「そうなんだ……」

 いつもは1/12のフィギュアの姿だから気にならなかったけど、等身大になると、なんだかリアルにアンニュイってか、寂しそう。

「ちょっと、遊び過ぎたから、もう家に帰ろうか?」

「いいわよ、みんな楽しそうだし」

「だって、だいぶ時間もたっちゃったし」

「やくも、聞いてなかったの?」

「なにを?」

「神保城にいる間は、リアルの世界では時間は経たないのよ」

「え、そうなの?」

「ハハ、もう、ここに三日もいるのよ」

「ええ! そうなの!?」

「フフ、ほら、やくもだって楽しいから時間のたつのも忘れてる」

「アハハ、そうなんだ」

 

 その後は、なんとなく話が途切れてしまって、わたしは階段を下りて広間に戻る廊下に出たよ。

 

「やくもさま」

 メイドさんがうやうやしく頭を下げる。

「あら、アカメイドさん」

「はい、本日より、神保城に出向するように仰せつかってまいりました」

「あ、そうなんだ(^_^;)」

 なんか、至れり尽くせりで、ちょっと怖くなってきたかも。

「アオメイドさんは?」

「はい、来客がありましたので対応して……あ、参りました」

 アオメイドさんが、ちょっと急ぎ足でやってきた。

「やくもさま、お客さまでございます。第一応接室にお運びください」

「あ、ありがとう。どなたのなの?」

「一丁目のご近所の方です」

「あ、うん」

 それだけを聞いて、それ以上は気いちゃいけない感じがして、第一応接室に向かったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・013『ねね子危うし!』

2022-06-02 06:18:34 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

013『ねね子危うし!』  

 

 

 
 バタン!

 窓を全開にすると三つ向こうの屋根の上を目指してジャンプした!

 あ……

 思ったほどの飛距離が出ない。

 
 学校で二つ尾の犬と猫を追いかけた時はいけたのに……そうか、あれは、塀に飛び移るとか、ほんの僅かのジャンプだった。

 ひるでの身では、屋根三つ分は能力を超えるのか……。

 思い当たっているうちに体は降下していく。上着を脱いだだけの制服姿なので、スカートが翻って、ほとんどオチョコになっている。並の女子高生ならば「キャーー!」とか悲鳴を上げ、前を押えて落ちていくんだろう。

 だが、それはみっともない。せめて、体操競技のフィニッシュのようにきれいに決めよう。

 Vの字に手を挙げ、両足をきれいに揃えた。

 あ……

 なんと、啓介の部屋の窓の真ん前を落ちているんだ。

 まあいい、啓介は引きこもり、めったに窓の外を見ていることなど……目が合ってしまった!

 なんで……そうか、表札の件で見ておいてくれと言ったのは、ついさっきだものな。

 ピンク……刹那、啓介の思念が飛び込んでくる。

 ズサッ!

 蹲踞の姿勢で着地すると、そのまま地面を蹴って、三つ向こうの通りを目指してダッシュ!

 見上げた屋根の上には、ねね子の姿も良からぬ者の姿も見えない。ジャンプ力が足りない分、時間を喰ってしまった。

 瞬間立ち止まって意識を集中。戦場で敵をロストすることはままあることだ、諦めなければ道はある。

 あそこだ!

 戦う、あるいは逃げるにしても、ねね子ならば、敵に一撃を食らわせて時間を稼ぐだろう。

 広い場所に出る可能性が高い。インストールされているマップから直近の公園と目星をつけた。

 
 居た。

 
 中央の虫食いリンゴのオブジェを軸に対峙して、ねね子と良からぬ者はジワジワと周っている。

 ねね子は押され気味だが、臆することもなく一撃を加えるタイミングを計っている。

「ねね子!」

 一声叫んで良からぬ者の注意を引き付ける。攻めるにしろ逃げるにしろ貴重な一瞬になるはずだ。

 ニャン!

 ねね子はジャンプして、良からぬ者との間合いをわたしと同じにした。敵は、どちらを相手にすべきか迷いが出る。

 良からぬ者の表情が読めない……やつには顔が無いのだ。全身、白……というよりは褐色に近い地肌に数字の0と3がまだら模様のように散りばめられている。こいつは二股の犬猫の比ではないぞ。

 ゆっくりと腰のオリハルコンを……無い!?

 そうか、ひるでの身では一切の武装が無いのだ。敵は、組みしやすしと判断して跳躍してきた!

 グォーーーー!!

 背後に飛んで、コンクリート塀をキックして、敵の側背に蹴りを入れる! 同時にねね子も蹴りを加える! いい呼吸だ!

 ズゴーーーン!!

 両側背から強力な蹴りを受け、良からぬ者は吹き飛ぶと、公園の隅まで転がって尻餅をついた。

 反撃を警戒したが、即座に不利と判断したのだろう、屈伸すると後ろ向きにジャンプして姿をくらませた。

 
「しつこいやつだったニャ、どうも、ありがとうなのニャ」

「いったい、あれは、何者なのだ?」

「三億円なのニャ」

「三億円?」

「ハイニャ。東京には三億円がからんだ事件が三つもあってニャ、その悪意が凝り固まって具現化した妖なのニャ」

「妖なのか」

「会社で言えば課長級かニャ?」

「中間管理職か……なんでまた、そんなのに追いかけられてるんだ?」

「ねね子を攻めれば、ひるでが出てくると踏んだのニャ」

「わたしか?」

「うん……でも、ちょっと疲れたのニャ。ハフーー 説明は明日ニャ」

 そう言うと、公園の出口へ歩き出したかと思うと、五六歩で耳と尻尾が生えて、公園を出た所では、すっかりネコに戻って駆け去っていった。


☆彡 主な登場人物

武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
猫田ねね子             怪しい白猫の化身
門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父

 

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