大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・276『位相変換した! してない!?』

2022-06-05 10:18:43 | 小説

魔法少女マヂカ・276

『位相変換した! してない!?語り手:マヂカ  

 

 

 ウワ! ドスン!

 

 目が覚めると、目の前にお尻があって、ビックリしてベッドから転がり落ちてしまった。

 イテテ……

 身を起こすと、詰子がお気に入りのパジャマの体を丸めて寝ている。

 寝相が悪くて足と頭が逆になっているんだ。

「ああ、目が覚めたんだ」

 背中から声がしたかと思うと、姉の綾香がトーストを齧りながら半開きのドアから顔を出している。

「夕べ、ドスンて音がしたら、真智香の部屋に詰子が戻っていてな。寝ているというか寝ちまってるんで、着替えさせて真智香の横に放り込んだんだぞ。お姉ちゃん、もう仕事いくから……」

「ちょ、お姉ちゃん……」

 リビングに出ると、我が姉は、パンプス履いてドアノブに手をかけている。

「あ、日付はリープした翌日になってるから、あと、よろ~」

 バタム

「行っちゃった……」

 カレンダーを見ると、確かに、原宿で大正時代に飛んだあくる日だ。

 原宿に戻って、高坂家の跡地である東郷神社に寄って、リープしたことをしみじみ噛み締めたんだけど、やっぱり、頭も体も完全には戻っていない。

「詰子、そろそろ起きなよ……」

 改めて驚いた。ベッドが微妙に大きい、セミダブルだ。

 ああ…………さらに観察すると、部屋も少し広くなっているのでベッドが大きくなっているのに気付かなかったんだ。

 念のため窓を開けて、表の様子を窺う。建物自体が拡大したのでも道幅が狭くなったわけでもない。

 どうやら、綾香ネエが魔法を使ったようだ。

 綾香ネエの本性は地獄の番犬ケロベロス。位相拡大魔法(周囲に影響を及ばさずに、対象物の寸法を変える魔法)を使ったんだ。

 ということは、これからは、詰子と同じ部屋で暮らせというわけだ。

 詰子の本性は、西郷さんの猟犬だ(上野の銅像の横でお座りしてるやつ)。いつも仲間の犬といっしょに寝起きしていたはずで、一人にしてやるのは可哀そうだと、綾香ネエは判断したんだろう。

 まあいい、詰子も大正時代では大活躍してくれたんだ。

 

「行くよ」

 朝ごはんも終えて詰子を急かせる。

 ガチャン

 お向かいさんと同時にドアを開けて、またビクッリ。

「ブリンダ!?」

「あ、マヂカ!?」

 ブリンダは、部屋ぐるみ位相変換……ではなくて、位相転移させられたようだ。特務師団が出撃するときも、この魔法を使う。出撃の様子を見せるわけにはいかないからね。

 ブリンダはドアを開ける直前までは自分の家に居たという顔をしている。

「フフ、これは、なにか起こる前兆かもですね(^▽^)」

「喜ぶな猟犬」

「ムー、詰子は、もう猟犬じゃないです」

「で、詰子、虎ノ門はどうなったの?」

「うん、難波大助は道路工事に紛れて爆薬を仕掛けていたんだ。ノンコが気づいて、建物の二階で爆破スイッチを押す寸前に霧子が飛び込んで取り押さえて未遂で終わったんだよ」

「爆発はしなかったのね?」

「したよ。でも、車列はノンコが体張って停めてたから、何事も無かったと思う」

「……そのようだな。ネットで検索しても同じ内容が出てくる」

「よかった……」

 わたしも自分のスマホを見て安心する。

 

 あ、みんなあ!

 

 大塚台公園まで来ると、交差点の向こうで友里がピョンピョン飛びながら手を振っている。

 そうだ、友里とは原宿でジャンプして以来だ。

 こちらの時間では、たった半日しか経っていないけど、準魔法少女の友里には、その半日の間に大変なことが起こっていて、時間経過も半日どころではないことが分かっているんだ。日光大冒険のパートナーは友里だったしな。

「あれから、司令に聞いて『大丈夫だ、心配するな』って言われてたんだけどね、連絡とったらブリンダまで消えてしまったし、めちゃくちゃ心配だった。よかったよ、みんな無事でぇ!」

 信号が青になるのももどかしく、友里は横断歩道まで飛び出して、三人を抱くようにして喜んでくれる。

「あ、ありがとう。でも、歩道に行こ(^_^;)」

「う、うん。調理研で帰還のお祝いしなくっちゃね」

「うわ、なんかご馳走作るんだよね!」

「詰子、ヨダレヨダレ」

「あ、ジュル」

「もう、子どもかよ」

 ブリンダがティッシュで拭いてやって、四人で懐かしく笑ってしまう。

 

 ゴゴゴゴゴ

 

「「「「え?」」」」

 突如、聞き覚えのある轟音が空蝉橋の方から聞こえてきた。

「なんで……?」「あれえ?」「なぜだ!?」「見えてる!?」

 空蝉橋の向こうから、特務師団の高機動車C58が位相変換もせず、轟音を上げて豊島区の空に駆けあがっていく!

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・016『表札をとる女』

2022-06-05 05:37:31 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

016『表札をとる女』  

 

 

  雨が降るぞ。

 思わず言ってしまった。

 

 表に出ると、啓介が掃除しているのだ。

 いつもは、小母さんが家の前を掃いている。

「お、おまえのためだ」

「ほう」

 つい、意地悪な微笑みになってしまう。

「じつはな……」

 思い切り顔を寄せてくる。幼なじみだからの無作法、ちょっとは戻ったか……と思ったら、磁石が反発するように距離を戻す。

 反応で分かる、わたしの匂いだ。朝シャンと十七歳の女の子の匂いにクラっときたんだ。

「早く言え」

 気づかないフリして、こちらから寄せる。

「ひょ、表札が動くのを見たんだ」

「動いただけか?」

「気配が、気配がしたんだ。だれかが、おまえんとこの門に近づいて表札に触ってる」

「姿を見たか?」

「いや、気配だけだ。気配だけだけど、北の方から来て表札を触ったあとで豪徳寺の方へ行った。夜明け前だ」

「そうか、ありがとう」

 啓介の肩に手を置いて礼を言う。肩越しに玄関が見えて、戸の隙間から小母さんが微笑んでいるのが分かる。

 小さく微笑んで小母さんに挨拶して学校に向かう。

 
 あくる朝、裏の戸口から出て、うちの門が見える角で気配を殺す。

 
 通りの突き当りから滲み出るように人影が現れる。まさに人影、ボーっとしたシルエットだ。啓介は、これを感じたんだ。

 目を凝らすと、モンペに防空頭巾の女だと分かる。

 防空頭巾に隠れて表情までは読めないが、若い女だ。上はセーラー服の上にちゃんちゃんこ、肩にはズックの鞄をかけている……この時代の人間じゃない、妖(あやかし)だ。

 女は、通りに面した家々の表札を見ている。

 わたしの家の前まで来ると、立ち止まって表札に手をかけた。

『……まだ取れない』

 そう言うと、表札を睨んだまま後ずさりして、ため息をついて歩き出した。

 わたしの前を通ると、豪徳寺の方角へ向かった。

「ちょっと待て」 

 声をかけると、ビクッとして振り返る。

「なんで表札をとる」

 ズックの鞄には表札がいっぱい詰まっている。

『欲しいの表札が、貴女の家のを取ったら満願なの』

 意味不明だが、女から受けるオーラは剣呑なものだ。見過ごすわけにはいかない。

「成敗する」

 決心すると、右の手の平に実感。オリハルコンが光をまとって実体化する。

『い、いやあああ』

 オリハルコンを上段に構え、一気に間合いを詰める。

 妖とは言え、一撃で仕留めてやらなければ哀れだ。

 ん?

 胸には、葉書ほどの布が縫い付けてあって、住所、氏名、血液型の項目があるが、いずれも滲んでしまって読めない。

「おまえの名前は?」

『……分からない』

 魂の底が抜けたような声で言う。

 とたんに成敗する気が失せ、オリハルコンが光を失う。

「……名前を付けてやろう」

『ふぇ?』

「お前は、安西信子だ」

『あんざいのぶこ……安西信子なの?』

「そうだ」

『……嬉しい』

 嬉しそうに微笑むと、女は数えきれないほどの光の粒になって空に昇って行った。

 ガチャガチャガチャ

 数十枚の表札が地面に残され、拾い集めて警察に届けた。


 警察の帰り道、オリハルコンが現れた不思議を思う。

 三億円の妖を相手にした時には、我が愛刀のオリハルコンは現れなかった。

 エイ

 小声で掛け声を発しながら小さく手を振る……オリハルコンは現れない。
 でも、さっきは現れたんだ。気を取り直して繰り返してみる。

 ……エイ!……エイ!……エイ!

 シャキーン

 小声だったせいか、果物ナイフほどの大きさで現れた。人通りのあるところでははばかられるので、すぐに消して、豪徳寺のわき道に入ったところで、本格的にやってみる。

 セイ!!

 シャッキーン!

 見事に我が佩刀は具現化したぞ!

 しかし、かすかに腹部に違和感。

 ウ……オリハルコンの具現化は、出べその出現とセットになっているようだ(^_^;)

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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