大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・145『日曜の朝 突然のひとりぼっち』

2022-06-20 08:58:29 | ライトノベルセレクト

やく物語・145

『日曜の朝 突然のひとりぼっち

 

 

 目が覚めると、ちょこっとだけ体に力が入る。

 

 起きて学校に行かなきゃと思うんだ。

 あ

 そうだ、今日は日曜日……とたんに、少しだけ入れた力が抜ける。

 目玉を動かして机の上を見る。

 1/12サイズの六畳の上にはコタツがあって、御息所の脚が覗いている。

 いつもだったら、チカコと二人で首だけ出して寝てるんだけどね。

 チカコがいないもんだから、御息所は悶々として、まるでコタツ被ったみたいにして寝てる。

 

 オズの魔法使いにあったよね、こういうの。

 

 ドロシーが、竜巻に巻き込まれて家ごと吹き飛ばされて、ドスンと落ちたら、それが悪い魔法使いの真上。

「キャ、どうしよう、人を押しつぶしてしまった!」

 ところが、マンチキンの住人やら南の魔女のブリンダとかがやってきて教えてくれる。

「それは、みんなが困っていた西の悪い魔女ですよ。ドロシーがやっつけてくれたんでみんな喜んでるわ」

 それで、今度は東の悪い魔女をやっつけに行くってドラマが始まる

 そのとき、ドロシーの家に押しつぶされた西の悪い魔女みたいだ。

 

「だれが、魔女だってぇ?」

 

 御息所がぶちゃむくれの首を出して文句を言う。

「寝れなかったんだね」

「フン、お前こそ……」

 そう言うと、完全にコタツの中に潜ってしまった。

 

 コタツの向こうには、チカコが依り代にしていた『妹が憎たらしいのには訳がある』の幸子。

 命の灯が消えて、ほんとうにただのフィギュアに戻っている。

 

 プルルルル

 

 黒電話が鳴って、ビックリして受話器を取る。

「もしもし……」

『交換手です、やくもさん、お城の方に来ませんか?』

 そうだ、部屋の中の仲間は、みんな神保城に行ってるんだ。交換手さんも紺の制服で実体化していたんだ。

「うん、すぐに行く!」

 電話を切るとコタツを持ち上げて、本格的に御息所を起こす。

 あれ?

 御息所の姿が無い。

 ウ~~ン(*≧m≦*)

 コタツをひっくり返すと、コタツの脚に両手両足を突っ張らかして御息所が貼り付いている。

「お城に行くよ」

「わらわは、行かぬ」

「勝手にしなさい!」

 ドスン

 乱暴にコタツを置くと、メイデン勲章改・Ⅱを取り出す。

 

 ジィーーーーーーーーーーーーー

 

 あれ?

 いくら見つめても、お城に行ける兆しがない。

 なんで?

 

 ジッィーーーーーーーーーーーーー!

 

 穴のあくほど睨んでもダメだ。

 

「ねえ、ちょっと!」

 コタツの御息所に声を掛ける。

 え……?

 気配がしないので、もう一度コタツを持ち上げる。

 コタツの敷布団にも、ひっくり返したコタツの裏側にも、御息所の姿が無い。

 

 え……どうしよう……

 

 部屋のグッズたちは、みんな神保城の方に行ってしまってるよ。

 部屋は、まるで越してきた時みたいに寂しくなってしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・031『ひるでの散歩・2』

2022-06-20 06:13:55 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

031『ひるでの散歩・2』 

 

 

 
 道を外れてみた。

 と言っても、人の道を外れて悪さをするわけではない。

 いつも豪徳寺の外塀に沿って学校に行くだけなので、道を変えてみようと思ったのだ。

 散歩なのだから気ままに歩くのがいい。

 
 通学路の反対方向に歩いてみる。

 
 しばらく歩くと二人の妖に出遭った。

 気づかなければすれ違うとか追い越すとかで済ませたのだが、怪しさ全開なので捨て置くことも出来ずに『須藤功(すどういさお)』と『中西絹子』と名付けて成仏させた。

 道を変えて、さらに進むと何十人という妖の気配。

 目を凝らすと、気配は国民服やらモンペ姿に実体化し、わたしに気づくやいなや、猛スピードで逃げ散っていった。

 スッテンコロリン

 学生服にゲートルを巻いた妖が転んだので近寄ってみる。

「どうして逃げる?」

「ひるでに捕まったら食い殺されると言う噂だ」

「どこでねじ曲がったんだ、わたしは妖を喰ったりはせん。本来の名前を付けてやって成仏させるだけだ」

「そんなこと信じられるか、おまえは人食いだ!」

「やれやれ、ならば、そう思っておけ。こっちも行く先々で妖に関わっていては身が持たんからな。一つ聞きたいんだが、ここいらへんで妖に出遭わずに済むところはないのか?」

「そ、それなら……」

 
 そいつは北東の方角を指さした。

 
 足を運んでみると、都立高校の塀が伸びているところに出た。

 旧制中学から発展したもので、校舎こそは今風だが、塀の基礎部分は戦前からの遺構のようだ。

 さらによく見ると、一部には度重なる空襲から免れた施設もあるようで、旧校舎の一部は昔の面影を留めている。

 おや?

 ゴミ収集のために塀の一部が丈の低いシャッターになったところがある。『駐停車禁止』の札が掛かったシャッターの内側で、なにやら話声が聞こえる。

 人の言葉ではないが、なにやら苦情や不満を言っているようだ。

 慣れてくると、その断片が人語に変換されて聞こえるようになる。

 
 月に二回だけ 一回だけよ 最初の一回だけ 処女なのに 童貞なんだぞ このまま せめて一回だけでも

 
 なんだか、すごい内容だ。

 少し深く透視してみる。

 ん? この学校の先生だろうか、数人の大人が寄ってきた。そして、処女と童貞を選んで戒めを解いてやっている。

 嬉しい! 助かった! 希望だ! 希望の光だあ!

 さらに透視を強くしてみる。

「便覧と辞書ぐらいはね」「地図だって買えば五倍くらいの値段だ」「真っ新だけで一クラス分くらいある」

 
 分かった。

 卒業する三年生が残していった教科書たちだ。

 昨日が登校日だったようで、ロッカーを空けさせるために、不用品を捨てさせたんだ。

 不用品の大半が教科書で、中には氏名も書かれず、一度も開かれることが無かったものもある。教科の先生たちが、そういうものを集めて、忘れた生徒の為に予備としてピックアップしているんだ。

「先生、あたしたちもいいですか?」

 真面目そうな女生徒が数人やってきて、不運な教科書の救済に参加した。文芸部と地歴研究部のようだ。部活としては絶滅危惧種だ。

 よかった、何十冊かは助かりそうだ。教科書もぞんざいに扱えば質の悪い付喪神(つくもがみ)になるからな。

 
 少しホッコリして、その場を離れた。

 明日あたりは、春一番が吹くかもしれない。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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