大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・7『百地芸能事務所・2』

2022-06-10 09:11:47 | 小説3

くノ一その一今のうち

7『百地芸能事務所・2』 

 

 

 油断はできないけど、単調過ぎると思った。

 

 勢いはあるけど、古書店の店内から本が飛んでくるだけの事。注意していれば避けられる。

 これで済むわけないよね。

 ビュン!

 今度は、道の反対側から飛んできて、店の中に投げ込まれる。

 ブン!

 次は店の中から!

 ビュン! ビュン! ブン! ビュビュン! ブン!

 不規則に方向が入れ替わる。

 でも、まだまだ大丈夫。投げてる奴は、なかなかの強さとコントロールだけども、直前に――投げるぞ!――って殺気を膨らませる。駅前で、男の子が屋上から飛び降りようとしたときの気配に似ている。

 だから、避けられる、問題はない。

 ブビュン!

 しまった! なんと、工事中のマンホールの穴から本が飛び出してきた!

 反射的に建物側に身を躱す!

 ズビュン!

 次は、工事車両から!

 思わず、開いていたシャッターの中に滑り込む! 

 タタタタタ! 道路側の前と後ろから、人が走る気配!

 まずいと思いながら階段を駆け上がる。古書店の共同倉庫なんだろうか、あちこちから古書のニオイがする。

 たくさんの本やグッズが積み上げられていて、さすがに、ここで襲われたら避けきれない!

 三階の階段を上がると風が吹き下りてくる、屋上が開いてる?

 ズサ!

 踊り場の階段を蹴って、開いているドアから一気に屋上に飛び出る。

 ガチャン! バサバサバサバサ……

 扉を閉めると、ダメ押しに投げられた本たちが、扉に当って落ちる音がした。

 それが止んで、屋上を観察すると、日よけの天幕の下にかなりの本が並べられている。

 虫干しかな?

 中には広げて干されている本もあり、中身が見える。

 その中の一冊。会議机の上に広げられている本に目が停まる。

―― 風魔忍者系図 ――

 ページの見出しがあって、その下に役小角から始まり、数代後に爆発的に子孫や係累が増加し、風魔小太郎に収束。そのまま、子孫や係累は丸く膨らんで尻すぼみになって、最後の一滴のように『風魔その』と、あたしの名前が記されている。

 お祖母ちゃんが言ったように、風魔忍者は役小角にはじまり、いったん衰えたものを直接のご先祖である風魔小太郎が盛り返し。それが栄えたのち再び衰え、全体としてひょうたん型になっていて、ひょうたんのお尻から垂れている最後の一滴が、あたし、風魔しのなんだ。

 しまった!

 気づいた時、本は、すごい殺気を漲らせて電気仕掛けのように閉じた。

 バタム! イテ!

 わずかに間に合わず、鼻を挟まれてしまうけど、反射が早かったので、挟み潰される寸前に抜くことができた。

 ここに居ちゃマズい!

 感じると同時に跳躍して歩道に着地すると、古書店街の外れの交差点を目指した。

 

 忍者アニメキャラの着ぐるみ二体がポケティッシュを配っている。

 

 通行人の流れを左右から挟んで、ポケティッシュ配るふりして狙う気マンマン。

 その向こう、下校途中の高校生の群れ。

 群れの中にウブなカップルが居て、微妙な距離を空けている。

 クク、隙あらば手でも繋ごうってか、クソ!

 思うと、横っ飛びに電柱をキック、着ぐるみの上方横を飛んでカップルの隙間を駆け抜ける!

 ビュン……なに!?

 油断した! 着ぐるみはカマセで、カップルがフェイクだ!

 カップルもジャンプして、男女の手が伸びてきて、あたしを掴まえようとする!

 セイ!

 気合いで胴一つ分抜いたけど、二人の手にジャージの下を掴まれる!

 逃げなきゃ!

 スポン!

 間抜けな音がしたかと思うと、体が自由になる、自由にスースーと……え!?

 ジャ……ジャージの下を取られてしまった! 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長
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漆黒のブリュンヒルデQ・021『ひるでの初詣』

2022-06-10 05:48:47 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

021『ひるでの初詣』 

 

 

 声をかけようと思ったがやめた。

 

 向かいの窓を一瞥して『バーカ』と口の形だけで言っておく。

 今から初詣に行くのだ。

 祖母からもらったリュックの中には去年のお札とお守りが入っている。神社に納めて新しいのを買うんだ。

 付いてくるかと思ったねね子は踏切が近くなっても現れない。

 まあ、学校に行くんじゃないんだからなと思いつつ、ねね子が付いてくるのが当たり前になっている自分が可笑しかった。

 芳子に声をかけても良かったんだが、大晦日から生徒会の面々と初詣のハシゴをやって、今ごろは爆睡しているだろうから、それも止した。

 踏切が見えてくる通りに出て、沢山の初詣の人たちの流れに乗る。

 日ごろは信心など無い人たちが、行儀よく三列になって鳥居をくぐる。

 たいていの人が鳥居の前で一礼し、心持ち石畳の真ん中を外して拝殿に向かう。石畳の真ん中は神が通るところで、人間は遠慮しなければならないという作法だ。

 しかし、その肝心の神さまであるおきながさんは、巫女姿で参拝客の道案内をやっている。こころなし若く見えるのは、巫女姿であることよりも、生き生きと人の相手をしているからだろう。

 目が合うと『あとでね』と口の形で伝えてくれる。

 
 ガラガラと鈴を鳴らして、お賽銭を投入。二礼二拍手一礼『今年もよろしく』とお願いして、納め所で去年のお札とお守りを返納。流れに乗ってお札売り場へ。

「お札とお守り……」

 言い終わらないうちに差し出される。慌てて二千円を差し出すと、巫女さんが笑った。

「ニャハハ」

「ねね子!?」

「ニャハ、ご奉仕ニャ(と言いながら、言葉の中身は『アルバイト』だ)。あっちから入ってニャ」

 社務所の横に小振りな鳥居がある。こんなところにあったか?

 思いながら鳥居を潜ると、そこは一面の白砂が敷き詰められ、歩くたびに、シャキッ シャキッっと清らかな音がする。四方は春霞がかかったように茫洋としているが、けして不快な感じではなく。この場に適度な潤いを与えているような気がした。

 目の前に向かい合わせの床几が現れ『掛けてちょうだい』と声がした。

 腰かけると同時に、向かいの床几に春霞が凝るようにして人が現れた。

 
 女の大魔神がいたら、こんな感じだという出で立ちだ。

 古風な装束の上から古代の挂甲(けいこう)をまとっている。兜は被らず、長い黒髪にキリリと鉢巻をしている。

「これが、わたしの正装。ほんとは、ジャージか巫女姿で人の相手してる方が性に合っているんだけど、お正月だからね」

「え……え? おきながさん!?」

「オキナガタラシヒメ。教科書的に言うと神功皇后だから、三韓征伐の時の衣装が正装なんでね……よっこいしょ」

 わたしの漆黒の甲冑もたいがいだが、おきながさんも相当重そうだ。

「大鎧の原型になった鎧で、馬に乗ることを前提に作られてるから。ま、それで、座ったまんまで失礼するわ」

 おきながさんは、ガチャリと音をさせ、意を決したように背筋を伸ばした。

 
 姫え~~~~~~~~~~~~!

 
 春霞の向こうから、甲冑を揺すりながらおきながさんを呼ばわる声が走ってきた。

 白髭の五月人形のような爺さんだ。

 背中に大荷物を背負い、おきながさんの前まで来ると荷物を背負ったまま平伏した。

「ただいま帰着いたしました、お申し越しの……グヘ!」

 荷物の重さに、最後まで挨拶できずに、のびた蛙のようにへたばってしまった。

「歳なんだから、がんばっちゃいけないって言ってるでしょ。まずは荷物を下ろして」

「はい、申し訳もございません……」

 わたしも手伝って、荷物を下ろしてやると、おきながさんがお爺さんを紹介した。

「わたしの古くからの家来で、武内宿禰(たけのうちのすくね)って言うの、わたしはスクネとか爺とか呼んでる」

「ひるで殿には初にお目のかかります、姫の守り役をつとめております。どうぞ、気軽に『すくね』とお呼び下され」

「縁あってこの世界に来たが、日も浅い、よろしく頼む」

「それが、例のものだな」

「はい、元日に間に合うように、特急でまいりました」

「そ、それは!?」

 
 爺さんが取り出したものを見てビックリした。

 それは、さっき思い浮かべた漆黒の甲冑であったのだ。こちらの世界に来るときに身の回りのものは消え失せて、やっとオリハルコンの剣一つを出べそとセットで召喚できるだけだった。

「正月だから、いっしょに記念写真撮ろうと思って、爺に取りに行かせてたのよ」

「ヴァルハラの城にですか?」

 よく父が許したものだ。

「爺は、こういう交渉事にはもってこいでね。さっそく着替えて記念撮影にしよう」

「は、はい」

 
 スクネの爺さんがカメラマンになり、もう、こちらでは身に着けることは無いであろう漆黒の甲冑に身を固め数十枚の記念写真を撮った。

 
「記念に、こんなものも作ってみましたぞ」

 爺さんが差し出したものは3Dプリンターで作った、わたしとおきながさんのフィギュアだ。ちょっと恥ずかしい(-_-;)

 そのあとは、式神の巫女たちが、一瞬で会場を作ってしまい、新年宴会になってしまった。

 おきながさんは、なにか言いたげだったが、とうとう言いそびれてしまったようだ。

 
 まあいい、通学で毎日通る世田谷八幡、折を見て話を聞こう。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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