大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・313『馬場を走った!』

2022-06-09 15:27:16 | ノベル

・313

『馬場を走った!』頼子   

 

 

 う~~~ん、ちょっと無理ねぇ。

 

 院長先生は腕を組んで唸ってしまった。

 いえね、思いついたのよ。

 ほら、裏の神社(ペコちゃん先生の実家)から東に伸びてる道が昔の馬場だってわかったでしょ。

 神社の前の鳥居は二の鳥居で、馬場の向こうの端、600メートル先に一の鳥居。

 それが馬場の跡で、悠々三車線くらいの一本道が続いてる。

 馬場だから、当然馬が走ったわけよ。多分、お祭りなんかの神事で、奉納競馬って感じ。

 本当は馬で走ってみたいなんだけど、無理だから、人間で走ってみようと思ったのよ!

 むろん、散策部のメンバーでね。

 それで、散策部の顧問でもある院長先生にお願いの巻というわけです。

「どうして、無理なんですか?」

「だって、今は一般道なのよ。途中に信号のある交差点が二カ所あるし、とうぜん車も走ってるわけだし。高校の部活で交通規制までは、さすがにねえ……」

「あ、いえ、ただ走ってみるだけなんです。運動部が校外をランニングしますよね、あんな感じで、イチニ イチニって感じで風を感じるというか、昔を偲んでみるというか……」

「え? ああ、わたしったら、人間が馬の代わりに走って人間競馬をやるのかと思っちゃった!」

「いやあ、そんな大それたことは(^_^;)」

「それなら、普通の部活としてやればいいわ。いちおう校外だから、監督にはわたしが立ちましょう!」

 

 ということで、600メートル先の一の鳥居の下に、散策部五人が体操服で並んだ。

 院長先生も忙しいお方なので、スタート地点の一の鳥居までは学校のマイクロバスで送ってもらう。

 ペコちゃん先生のお父さんも神主のコスで、並んだわたしたちをお祓いしてくださったり。少し大げさっぽくなってきた(^_^;)。

「ヨーイ……ドン!」

 院長先生の掛け声でスタート!

 修道女みたいな院長先生と神主さんが見送って、小柄なさくらからバスケの選手みたいなメグリンまで、五人のJKが髪を靡かせて走るんだから、思ったよりも目立つ。なにより、五人揃って美少女だしね(アハハ)。所々で、写真を撮る人もいる。

 一番遅い者のペースに合わそうと申し合わせてあるので、ペースメーカはさくら……と、思いきやメグリン。

 そういや、運動部から声がかからないのは、病気があるからとか言っていたわね。

 まあ、そのメグリンでも、授業の準備運動で走るよりは速い。まあ、ノープロブレム。

 

 ちょっと感動。

 

 わたしたちって、基本、授業でしか走ったことが無い。

 走るのはグラウンドなわけで、直線距離は、せいぜい50メートル。でしょ、何年かにいちど体力測定とか体育祭とかで走るよね。200や400走る時は、グラウンドのトラックを走ってる。冬季の耐寒走だって、たいていグラウンドか、せいぜい学校の周囲。

 600メートルの直線を走るって、わたし個人としては初めての事。

 走り始めた時から、600メートル先に二の鳥居が小さく見えて、それに向かってひたすら走っていく。

 ちょっと感動……と、思わない?

 馬はどうなんだろう? ピシって鞭があてられて、走るという衝動が体に湧き上がって、真っ直ぐだから、馬にだって、ゴールの鳥居を意識したと思うのよ。ぐんぐんゴールが近づいて来て――オレ、走ってる! 生きてるぞ!――とか思うのかな?

 トラックコースのゴールとは全然違う。トラックだと、物理的なゴールは何度か通り過ぎてしまう。

 うっかりしてると、もう一周あるのに止まってしまったり、余計に走ってしまったり。つまり、真のゴールは頭の中にあるわけよ。たった今通過したけど、あれはゴールではなくて、もう一周先にあるんだとかね。

 人生の場合は、さらに分岐があって、どっちのゴールを目指すべきかって考える。

 わたしの場合、ほとんど決定だけど、ヤマセンブルグの王女としての人生。そして、日本人の女性としての平凡、うん、たぶん平凡だと思うんだけど、そういう普通の人生。ひょっとしたら、もっと別の人生……。

 ヨリッチ!

 ソフィーが手を伸ばして止める。

 あ、赤信号!?

 ゴールの鳥居ばっかり見ていて、交差点に差し掛かっていることに気付かなかった! 危うく、赤信号を突っ切って行ってしまうところだった(^_^;)。

 ゴールして、みんなに聞いてみた。

「ペース配分考えてました」と言うのは、メグリン。だよね、体の事があるから。

「『走れメロス』が浮かんでました」は留美ちゃん。さすがは文学少女。

「パン屋さんとケーキ屋さん、ちょっと曲がったとこにパスタ屋さんがあるのを発見!」さくらは相変わらず。

「忠魂碑を発見しました」と、まじめな顔はソフィー。

「帰りに寄ってもいいですか?」

 と、ソフィーが言うので、コースを戻って忠魂碑を見に行く。

 二階建ての軒先ぐらいはありそうな石碑の忠魂碑。

 ソフィーが真剣に礼をするので、わたしたちも倣ってしまう。

 揮毫は第四師団師団長 森なんとか(草書だから読めない)中将。

「ほう……」

 ソフィーが感心する。有名なんだろうか?

「八連隊が所属していた師団です!」

「有名な連隊です!」

「「「「ほう……」」」」

 みんなで感心して、石碑の忠魂碑を見上げる。

「どんなに有名なの?」

「日本で、いちばん弱かった連隊です!」

 ズッコケてしまった!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

  

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ピボット高校アーカイ部・11『市長の娘の死亡記事』

2022-06-09 10:02:35 | 小説6

高校部     

11『市長の娘の死亡記事』 

 

 

 かわいそうに。

 

 叔父さんは、三面の、お祖父ちゃんが目を落とした同じところを二秒ほど見て新聞を畳んだ。

 新聞の下の方に小さな死亡記事が載っている。

 戦後初の市長さんの娘さんが老人ホームで亡くなったんだ。上皇陛下と同い年のお婆ちゃんで、職員さんが朝食に出てこないお婆ちゃんの部屋をノックしたら、すでに亡くなっていたそうだ。

 父親である市長の没後、嫁ぎ先を出されたお婆ちゃんは、再婚することも無く東京へ出て紆余曲折のあと故郷の要市にもどり、職を転々として、二流の老人ホームに入っていた。

「親の因果が子に報いってやつだな」

 心無い独り言をお尻を傾けながらこぼす。

「隆二、屁をひる時は風下でやれ」

 お祖父ちゃんは、湯呑を持って避難する。

「あはは、ごめん(^▽^)/」

 で、もう――かわいそうに――は忘れている。

「お前んとこの新聞はいつまでもつんだ?」

「まあ、十年は大丈夫だろ。天下のA新聞だからな」

「十年のあとは?」

「潰れるね。でも、オレ、五年で定年だし。ましな老人ホーム入れるくらいの金は残るさ。じゃ、帰るわ。鋲、予備校には行けよ。ピボットじゃ、ろくな大学行けないからな」

「……うん」

 そんな余裕ない……という憎まれ口は呑み込んで、曖昧な返事を返しておく。

 叔父さんが帰って十分ほどすると、お祖父ちゃんは年代物のショルダーを、昔の中学生のように引っかけて出かけて行った。

 

 

「今日は、昭和四十年に飛ぶぞ」

 魔法陣に修正を加えながら先輩が言う。

 魔法陣も、時々は手を加えなければならないものらしい。

「どうやら、四角で安定したようだな」

 来るたびに修正していたゲートも、ちょっと三角の折り癖を残してはいるけど安定した。

 もう、体を張って直さなくてもいいと思うと、ちょっと寂しい?

 い、いや、そんなことはない(#'∀'#)。

 

「あれ、新聞社ですね?」

「ああ、全盛期のA新聞だ……校閲部は……七階だな」

 そう言って指を振ると、僕と先輩はエレベーターも乗らずに新聞社の七階に向かった。

「先輩……ダサイですね」

「そういう鋲も……」

 先輩は、化粧っ気のないヒッツメ頭に度のキツイ近眼鏡。僕はグレーのズボンにワイシャツ、ネクタイは第一ボタンと第二ボタンの隙間にねじ込んでいる。二人とも黒の腕カバーをしていて、昔の事務職のコスだ。

「刷り原(校閲が済んで、版が組める原稿)あがってます?」

「ああ、その校了箱」

 年長の校閲科長が顎をしゃくる。壁の月間校閲表に受領のハンコを押す。

「持ってきまーす」

 ガチャン

 ドアを閉めて廊下を戻って階段を下りる。行先は、地下にある印刷工場だ。

 僕と先輩は、A新聞の校閲と工場を結ぶ、工場事務だ。

 毎日、校閲の済んだ原稿を版に組む準備の仕事。

「エレベーター使わないんですか?」

「ああ、原稿に手を加えなくちゃな……あ、これこれ」

 先輩が目に止めたのは、市長に関する記事だ。

「……市長は、ぶら下がり会見のあと、記者の呼びかけにも応えず、完全に無視して会見会場を立ち去った……」

「どうだ?」

「なんか、ひどい市長ですね」

「これが、こないだ助けた市長の三十年後だ。それまでに、いろいろあって、これで市長は失脚する」

「あ、そうなんですか……」

 記者相手に傲慢な態度をとったんだ、そういうこともあるのかもしれない。

「フフ、仕方がないと思っただろ」

「子どもの頃の市長知ってますからね、ちょっと残念かな」

「もう一度読んでみろ」

「……あ、なんかしましたね」

 字数は変わらないが、中身が変わっている。

「どうだ?」

「これは……」

 

 会見の終わった市長を記者が呼び止めた。

「市長!」

 市長は振り向くが、十数人いる記者は誰一人声を上げない。

 二秒ほど待って、市長は背を向けて歩き出す。

「市長!」

 再び声が掛かって、市長は振り返る。

 やはり、声をあげる記者はいない。

 市長は無表情のまま踵を返す。

「市長!」

 三度声がかかるが、今度は振り返らず、そのまま立ち去ってしまった。

 

「これって……?」

「そうだ、市長が記者の呼びかけにも応えず立ち去ったのは事実だが、それは三回目だ。二回振り返らせて無視したのは記者たちの方だ」

「これ、小学生のイジメと同じですよ」

「一事が万事、こんな調子だ。マスコミは腐ってるが、全部を直す力はアーカイ部にはない。この記事が要になると思ってな」

 話しているうちに、地下の工場に着いた。

 数ある偏向記事の、そこだけを変えて、僕と先輩は部室に戻った。

 

「いやあ、昔の支持者がけっこう集まってなあ、いい、お通夜だった。市長は功罪半ばする人だったが、要の街に愛情を持っておられたのは、みんな分かっていたんだな。ちょっと嬉しくなった」

 お祖父ちゃんは、市長の娘さんのお通夜に行ってきたんだ。

 そして、ちょっとだけ、市長への認識も要の歴史も修正されたようだ。

 叔父さんの新聞社も、予想より半年ぐらいは長持ちするかもしれない。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・020『集金さんと追う男』

2022-06-09 06:15:11 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

020『集金さんと追う男』 

 

 

 

 ピンポ~~ン

 ドアホンが鳴ったので、いいところに差し掛かった文庫にしおりを挟んで通話ボタンを押す。

 
 はい。

『こんにちは、〇旗の集金です』

 定年後十年はたったであろう、白髪交じりの元教師という感じの集金さんがモニターに映っている。

「いま、いきます」

 そう返事して、月間購読料の入った封筒を持って門まで出る。

「ご苦労さまです、えと……3497円ですね」

「はい……たしかに。領収書です」

「たいへんですね、だいぶ寒くなってきましたから」

「いえいえ、武笠さんはお変りもなく?」

 わたしも武笠さんなのだが、集金さんは祖父母の事を聞いているのだ。

「はい、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、あの齢でも仕事に恵まれて楽しそうです」

「それは良かった、人間、仕事をやっているのが一番ですからね。あ、えと……じゃ」

 不器用な笑顔を残して集金さんは去っていった。先月は自転車で周っていたのに、今日は徒歩だ。遠ざかる後姿が微妙にギクシャク。

 脚を痛めて、自転車を控えているんだ。

 集金ぐらい祖父自身が出ればいいと思う。まあ、孫娘のわたしを間に立てることでプライドを支える一助になっているし、集金の相手をすることで孫娘の社会性を培っているという意識もあるのだろう。

「お向かいの敬ちゃんもあんなだしね」

 向かいの啓介が引きこもっていることを引き合いに出して正当化する。微妙な優越感がしのばれる、微苦笑することで返事に替える。

 門の脇に貼ってある『安倍政治を許さない』がはがれかけている。陳腐この上ないポスターなんだけど、祖父母のアイデンテティーオブジェの一つなので、画びょうを取りに行って補強する。

 お尻のあたりに視線を感じる……振り返ると、向かいの窓に啓介の片眼。

 バーカバーカ バーーカ

 口の形だけで言ってやる。

 チ、引っ込んじまいやがった。

 ん?

 電柱の陰に人影……どうやら〇旗の集金さんを追っている。

 で、こいつ……人の姿はしているが、妖だ。

 カーキ色の国民服、帽子を目深に被って、足音も立てずに集金さんが集金を終えると、同じだけ距離を取って身を隠す。

 
 集金さんが五件目の集金を終えたところで呼び止めた。

 
「それぐらいにしておけ」

「お、おまえは」

「おまえが付けてると、集金さんは、ますます体を悪くする」

「おまえは、あいつの正体を知っているのか?」

「〇旗の集金さんだ、うちも古くからの付き合いだ」

「◇産党だぞ」

「そういうあんたは?」

「とっこうだ」

「ああ、飛行機に爆弾積んで敵艦にぶちあたる」

「その特攻じゃない」

「知ってるよ、特別高等警察」

「おそれいったか」

「そんなものに興味はない。お前の名前、言ってみろ」

「そんなもの、人に明かせるか」

「いつも特高で済ませてるから、忘れたんだろ、自分の名前」

「バカ言え、オレは……その手に乗るか」

「忘れたんだな」

「お、おまえごときに言う必要は無い(;'∀')」

「おまえは、伊地知虎雄だ」

「う……」

 一声唸ったかと思うと、伊地知は、隠れていた電柱の影に溶け込むように消えてしまった。

 消える寸前、そいつの顔が歪んだ。

 安心した笑みのようにも不覚を取った苦笑いのようにも思えた。

 
 集金さんは五件目の集金を終えると、普通に歩きだした。自分でも不思議なようだが、心も軽くなったのが後姿でも分かった。

 今年も残すところ三日だ。

 帰って文庫の続きを読もう。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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