大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 77『酔っ払いの茶姫 カマトトの大橋真に迫る』

2022-06-07 15:20:41 | ノベル2

ら 信長転生記

77『酔っ払いの茶姫 カマトトの大橋真に迫る』信長 

 

 

 コウチャン……と呼んでいただければ嬉しいです。

 

 エクボを浮かべてはにかむ大橋・紅茶妃は、戦略的可愛さだ!

 さっき、客楼の欄干に頬杖ついていたアンニュイはどこへやら、会談の席に着いた紅茶妃は初御目見えの時の蘭丸のように赤くなっている。

「お楽になされよ、大橋どの、いやコウチャン。期せずして、三国の次席が顔を合わせるのです。胸襟を開いて語らねば実を結ばぬ」

「それがダメなのですよ我が主。主は固すぎます。ただでも主は国主なんです。茶姫さん、紅茶妃……いや、コウちゃんよりも一個上のお立場。だから、ここは同格の丞相である孔明がお相手をするんです。顔出しが済んだら、さっさと執務室にもどってください。関羽・張飛の沙汰書とか書かなきゃならないでしょ」

「あ、忘れていた」

「仮にも、蜀の二大将軍を獄に繋いでいるのです、手続きはきちんとしてください」

「そうであったな、桃園の誓いのころのようなドガチャガでは示しがつかぬ。では、みなさんとは後ほど」

 慇懃に礼をすると、劉備は小姓一人を連れて亭(ちん)を出て行った。

 何事にも慇懃実直な劉備玄徳が居ては会談が硬くなりすぎるし、ただ一人国王であっては、話にも遠慮が出るだろうと孔明が提案して、城の中庭の亭(ちん=壁のない休憩所)で卓を囲んでいる。

 我が主・曹茶姫は、宴会の酒が抜けきっていない……ことを口実に、俺とシイが付き添っている。

 要は、遠慮なく、魏・呉・蜀、三国の本音をぶつけ合おうという会談だ。

 おそらくは、茶姫の転生国南辺打通が効いている。

 一万余の騎兵が、新式の装備に新式の鉄砲を担いでの進軍。信玄と謙信が自ら偵察に出た以上の関心があるに違いない。

 かと言って、三国志の国王が三人とも騒いでは、いかにも軽々しく鼎の軽重を問われかねない。

 そこで、ナンバー2同士の気の置けない鼎談という形式にしたのだ。紅茶、いやコウちゃんのアンニュイめかした緊張も演技っぽい。まだ少女の面影を残す成りたて呉妃に恥をかかせてはいかぬとか、国王玄徳と丞相孔明と示し合わせることまで読んでいるとしたら、呉の新妃もなかなかの狐だ。

 そして、それさえ読んで関羽・張飛の誘いにのって酔っぱらった我が茶姫はすこぶる付の大狐だ。まあ、そのお蔭で、俄か近衛騎兵の俺が同席できているわけだがな。せいぜい、新米らしくコウちゃんと新米比べといこうか。

「いやはや、茶姫さんのモデルチェンジは、この田舎の成都でも評判ですよ。孔明感服つかまつりましたぞ」

「はいコウチャンもですぅ! 建業(呉の都、いまの南京)にも噂は伝わって、孫権さまが『ぜひ、自分で見たい!』とおっしゃったのですが、孫策さまが『いずれは国王になる孫権が出向くのは軽々しい』とおっしゃって、新米妃のわたしならば、ちょうどいいし、コウちゃんの勉強にもなるだろうと……」

「ヒャヒャ、これは痛み入ります、えと……少佐、貴様が語ってみろ」

「え、俺、わたしが?」

「酔いが抜けておらぬ、ニイが言うことに違うことがあれば、その時その時に注釈をつける。だいじょうぶ、酔っても脳みそは起きておる……」

「あ、ヨダレ、もう茶姫さま~」

 シイが甲斐甲斐しくヨダレを拭いてやる。

「これは、羨ましき主従関係。我が主玄徳は、全くの謹厳居士で、デレルということがありません。その分、関羽と張飛がハメを外し過ぎて……いやはや愚痴が出てしまいますなあ。近衛騎士の職丹衣少佐ですね、あなたの噂も聞いております。どうぞ、茶姫殿の頭脳として遠慮なく語ってください」

「あのぅ、お二人は姉妹なんですよね!?」

 コウちゃんが目を輝かせる。

「はい、こちらは妹の市衣少尉です。縁あって姉妹で召し抱えられております」

「わたしも、縁あって妹の小橋(しょうきょう)と共に呉王のお世話になって……」

「なにぃ、姉妹ともども独り占めに!?」

 茶姫が、わざとらしく絡む。

「え、あ、小橋は周瑜の妻で、あ、その……そんな意味では(;'∀')」

 フルフルと手と首を振る。演技なのだろうが、反則的可愛さだ!

「ハハ、大きな意味で呉王の世話になられたということでしょう、分かっていますよ、孫策さんは、姉妹二人ともを独り占めにするようなお方ではないでしょう」

「は、はい、そうなんです。独り占めはいけないことですぅ」

 ポン

 孔明が膝を叩いた。

「それは、示唆に富んだお言葉ですよ、コウちゃん!」

「え、え、いまのがですか!?」

「はい、その通りです。あ、いや、わたしとしたことが、少佐の話の腰を折ってしまった。どうぞ、語ってください」

「はい、我々は一万の騎兵部隊ですが輜重を伴っておりません。輜重は逆回りのコースで洛陽に返してあります」

「えと、シチョウって市長さんのことですか?」

「これは失礼、少佐、説明してあげてください」

「はい、輸送部隊のことです」

「ああ、ロジスティックのことね」

「いかにも、輜重を伴わぬ騎兵は、三日も持ちません。食料も弾薬も背嚢に入れている分だけですから」

「しかし、その分、全力で駆けることができる。つまり、部隊のスペックが内外に示せるし、なによりの行軍訓練にもなる」

「おお、さすがは孔明殿」

「茶姫さん、起きてます?」

「………………そ、そう………」

「そう? 寝言ですか……」

「曹操陛下へのアピールが一番なのだと思っています」

「ほう、魏王への?」

「はい、騎兵というのは、歩兵と違って職業軍人です。給与も支払ってやらねなならず、日ごろから調練が絶やせません、馬と武器の手入れもなかなかで、いわば金食い虫。部隊の創設までは茶姫師団長の手でできますが、維持管理には国費が必要です。つまり、曹操陛下の了解と後押しがなければ続きません」

「なるほど、深慮遠謀なんですねえ……たしか、魏の輜重の司は兄君の曹素さんでしたね?」

「いかにも、輜重司令の任についてはおられますが、なかなか勇武の将であろうと拝察しております」

「お噂はかねがね、今回は、酉盃においてもご発展が過ぎ、茶姫殿が諫言なされたとか。この蜀におりましても聞こえております」

「あのう、ご発展とは?」

 コウちゃんがカマトトぶって首をかしげる。

「それは……ゴニョゴニョゴニョ……」

「ま、そんなことが(#°д°#)!?」

「その折り、身を挺して女たちを救ったのが、この職姉妹。茶姫殿は二人の類まれな武技と才を愛でてブレーンとなさっておられるのです」

 こいつ、蜀の田舎に居りながら、どこまで情報を握っているんだ。

 いかん、シイの目つきが険しくなってきた。

「ウ~、ちょっと気分悪くなってきた、あ、吐きそう……」

「茶姫さま!」

 茶姫が、吐きそうになって肩に寄り掛かってくる。

「暫時、中座いたします。シイ、肩を貸せ!」

 二人で茶姫を担いで亭を出る。

 念の入ったことに、茶姫は、そのまま客楼で寝てしまった。

 いやはや、三国志というのは予想以上に虚々実々の伏魔殿だ。

 茶姫を看病しながら思った。コウちゃんが「独り占めはいけないことですぅ」と口を尖らせたとき、孔明はポンと膝を叩いたぞ。孔明の奴、なにを考えて……。

 えい!

 シイは、蜀に来てからの事を紙飛行機にしたためると、高楼の欄干から飛ばした。

 紙飛行機は、函谷関からの上昇気流を受けて、みるみるうちに高みに飛んで視界没になったぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・018『スイカをぶら下げたおっさん』

2022-06-07 06:15:52 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

018『スイカをぶら下げたおっさん』 

 

 

 

 ねね子にはクセがある。

 
 時々、右のこめかみのあたりを掻くのだ。

 右手をグーにして、親指の第二関節のあたりで掻くのだ。爪で掻くと傷を付けたりするので親指の第二関節にしているのだろう。

 その仕草が、なんだかネコが顔を洗っているようなので、クラスのみんなからも「かわいい!」とか「もえ~!」とか言って可愛がられている。

 これをやっていると、人が集まって来る。

 可愛い仕草をしているネコを、つい構いたくなる女子の特性と言っていい。

 
 よし、今のうちだ!

 
 ねね子の周りに人が集まったのを幸いに、カバンを持って教室を出る。

 付いてくる者を袖にする薄情者ではないが、自然な流れであれば一人で帰りたい。去年は芳子と一緒になることが多かったが、生徒会役員になった芳子の放課後は忙しい。

 昇降口でローファーに履き替えて正門を目指す。

「ニャハハ、奇遇なのニャ!」

 正門を出たところに、もういる。

「おまえなあ」

「放課後は、みんな部活とか塾とかがあるニャ。華の高校二年生ニャ」

 いつもの下校になった。

 世田谷八幡の鳥居が見えてくる。いつものようにおきながさんが掃除をしている。

 おばさんのナリはしているが、神さまだ、頭を下げるだけだが挨拶をしておく。

 すると、おきながさんがねね子のように右手のグーでこめかみを掻く……いや、オイデオイデ?

 わたし?

 自分の顔を指さすと、チガウチガウ。あ、ねね子か。

 チ

 舌打ちが聞こえたような気がしたが「なんですかニャ~おきながさ~ん(^▽^)/」と、スキップしながら鳥居に向かった。

 鳥居の傍まで行くと、ねね子はネコの姿に戻っておきながさんに抱き上げられ、右の前足を持たれてバイバイさせられると、鳥居の内に連れていかれた。

 やっと気楽な一人下校になった。

 踏切が見えるところまで出てくると、スイカをぶら下げたTシャツ姿のおっさんが見えた。

 わたしの前を横切って東急と並行している道を小走りで去っていく。

 この時期にスイカにTシャツだと?

 小走りの背中を見ると、ぶら下げていたのを胸に抱える。スイカは見えなくなったが、瞬間見えたスイカは人の首に変わっていた。

 キャーーー

 反対方向で悲鳴が聞こえた。チラ見すると、O学園の女生徒が倒れていて、同じO学園やらうちの生徒やらが取り巻いている。

 
 あいつ、妖!

 
 見定めると同時に駆けだした。

 おっさんも全力疾走になる。

 お互いにこの世の者ではないので、あっという間に新幹線並みの速度になって、小田急線の豪徳寺駅の近くまで駆け抜けた。

 直進と思ったが、戦場で鍛えた感覚が『敵は脇道に入った』と警告している。

 一筋余計に直進したところで左に折れる。敵を惑わすためだ。

 左手は、広い墓地になっている。

 敵はスイカを抱えたまま、墓地の中をうろついている。気にしているのは東側、たった今、わたしが直進した道だ。

 
「おい、スイカを見せろ!」

 
 後ろから声をかけると、ビックリしたおっさんは立ち往生してしまった。

「い、いや、これは違うんだ(;'∀')」

「違うかどうかは、わたしが判断する。見せろ!」

「あ、あ……」

 観念して、おっさんは捧げ持つようにしてスイカを示した。

 それはO学園の女生徒の首だ。

 ただ、厳密な意味での首では無くて、首に凝縮させた女生徒の魂だ。

 まだ三十秒もたっていない。今なら間に合う。

「寄こせ!」

 首を取り上げると、わたしは地を蹴って飛び上がった。

 宮の坂駅に戻ると、倒れた女生徒を介抱する女性駅員と心配げに見守る人たちの輪が見えた。男性駅員がAED(自動体外式除細動器)を抱えて駅舎から出てくるところだ。

 AEDを使うと、衆人環視の中で裸の胸を顕わにされる。

 間に合え!

 上空から首を投げおろした。

 ズボっともゴホっとも聞こえる音がして、首は女生徒の体の中に吸収され、同時に呼吸が戻った。

 
 なんとか間に合った。

 
 その夜、気配に目が覚めて、窓から窺うと、門の前におっさんが立っている。

 害意も敵意も感じられないので、窓から静かに下りて行った。

 話をすると、もうこんなことはしないから名前を付けて欲しいと言う。

「お前もか……お前は、中村重一(なかむらしげかず)だ」

「あ、ありがとうございます」

 おっさんは、何度も頭を下げて去っていった。

 向かいの窓に気配。

 啓介の視線を感じる。

 おっと、パジャマのボタンが外れている。不自然にならないように前を掻き合わせて門から家に入った。

 カランコロン

 ドアのカウベルが鳴ってしまい、起きだした祖父母に説明するのに苦労した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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