大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

普通科高校の劣等生・9『伸子の友情 友美の打算』

2021-11-17 07:22:34 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
普通科高校の劣等生
9『伸子の友情 友美の打算』   




 人の口に戸は立てられない。

 伸子の停学の原因……エスケープしてまでの鈴木友美の話は、あくる日には密やかな、そのあくる日には公然とした噂になってしまった。

 高校教師が生徒と性的な関係。問われる教師のモラル!

 そんな見出しで新聞、テレビ、ネットなどで流れてしまった。

 陣内先生は、管理職を飛び越えて、教委から事情聴取をされた。世論の高まりからいって当然だろう。劣等生でも、これくらいは分かる。

 家庭訪問したときの八重桜・梅本両先生の事情聴取は見事だった。暗に知っているというカマをかけて伸子に迫っていた。

「先生たちは、知ってるんだ。ただな、伸子。友美との友情を考えるんなら、伸子の口から言うべきだと思う」

「そうよ。お腹の赤ちゃんは日に日に成長して、ほうっておいたら……その、取り返しのつかないことになるわ。友美さんも、伸子に結論を言って欲しかったんじゃないかな」

「そうだ、人間、相談するときには結論を持っているんだ。伸子は、なにも答えてはやれなかったんだろ、そうだろ?」

「伸子、あなたの一言で、全ての歯車が回り始めるのよ。友美さんを前に進ませてあげて。ね」

 こういう時の八重桜さんは役者だ。このあとの数秒の沈黙の後に、伸子は泣きながら全てを喋った。オレは劣等生の勘から、先生たちは、まだ確信するには至っていないと思った。

――まだ喋るな、伸子!――

 オレの本音は、それだった。

 陣内先生は懲戒免職になった。まあ、当然だろう。

 だが、この話にはどんでん返しがある。

 友美は想像妊娠だった。

 性的な関係があったのは確かだが、友美は、それを想像妊娠にまで広げて、陣内さんに結婚を迫った。ティーンにありがちな暴走だ。

 陣内さんは、はっきりした答えを言えず、それが友美の暴走を飛躍させた。

 伸子をエスケープという非日常的な状況に置くことで告白、悲劇のヒロインになった。あとは伸子に熱烈な同情をしてもらい、自己陶酔を深め、陣内さんの気持ちを引き付けたい。

 そのことが、どんな結果を生むかまでは想像していない。

 想像妊娠は、関係者の中で秘密にされた。結局陣内さんが一人ワリ喰ってクビ。

 オレは、友美のしたことは遠慮気味に言っても間違っていると思った。

 言うのも癪だけど、友美は女子100人を集めたら5番目くらいには入る美人だと思う。着やせするタイプで、細めの顎にパッチリお目目に涙袋。目の位置が標準より下にあり、自分でもモテカワ美人の自覚がある。そして成績もいい。

 でも、こんな子は学年に二三人、学校全体だと10人ほどはいる。

 友美は、意識の底には沈めているけど「もっと注目されたい」という気持ちがあったんじゃないかと思っている。

 こんなことを言っちゃお袋に悪いけど、お袋は若いころは友美に似たモテカワ美人だった。

 悪人とまでは言わないけど、親父は、これに引っかかった。

 夫婦の事はお互い様だと思っている。

 だけど、お袋は若いころにイケてたところがマイナスになってきているんだ。

 頬のプックリは人より深い豊齢線になってきたし、涙袋は、いささか垂れてきて、ただの厚ぼったい目になってきた。髪も腰が弱くなり、ブローするのに時間がかかるようになった。

 でも、怪物というほどではない。微妙に若作りしすぎのオバサンというレベル。

 オレが思うに、親父はお袋の見場の衰えは、そんなに気にしていないと思う。

 ただ、それに抵抗し、自分にイラつき、時に八つ当たりされるのがやなんだと思う。その心の貧しさが離婚の要因の一つだったと思う。ま、今は開き直ってるので、それなりに親しい同居人としては認め合ってはいるようだ。

 友美は賢い子だから、そういう先のことまで分かっちゃうんだろう。

 高校で10人に一人だから、大学に行ったら100人に一人、大人になったら、ちょっとイケてる程度。それを見越して、自分を女として差別化が図りたい。そんなとこだったと思う。一昔前だったら女として傷になることが勲章になる。ちょっとため息だ。

 予想通り、友美は他の子とは違う目で見られるようになった。伸子は、いいダシに使われたんだと……劣等生の兄貴としては同情してやろうか……と、思ったけど、やめた。

 理由は、あれから友美と、いっそう仲が良くなったことで想像してほしい。

 クリスマスが近くなってきたころに、ミリーの絵は、八割がた描き終っていた。

 並のヌードの絵なら完成だ。

 ただ、ミリーは、描いていくにしたがって美しさが深まっていく。

――オレ、惚れちゃったかな?――

 とも思った(なんせ、親父の息子だ)。

 だけど、生意気だけど、絵描きとして見ても、ミリーは急速に完成された女になりつつあった。

 そして、年明けには、大きな展開が待っていたのだ……。


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