オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
112『キャシーへの手紙・文化祭』
秘密にしておこうと思っていたんだ。
だって、失敗するか、失敗しないまでも、とっても恥ずかしい思いをして一刻も早く忘れてしまいたいと願うに違いないから!
キャシー、このボクが役者として舞台に立ったんだぜ!
日本の高校がクールだってことは、いまさら言うまでもないんだけど。
そのクールな中でも一番クールなのがbunnkasaiだってことに異論はないだろう。
漢字で文化祭、なんか厳めしい字面で中国の文化大革命みたいだけど、意味はschool festivalとかCulture festivalだね。
国際生徒会会議の前にYouTubeでも見たけどさ、じっさい体験するとずっとスゴイよ!
まず匂いだよ!
こればっかりは動画では分からないだろ。
じっさいボクも本番になって感動したんだよ。
mogitenなんだけど、漢字で模擬店。refreshment boothのことでさ、いろんな食べ物のブースを生徒が出すんだよ。
たこ焼き、焼きそば、うどんヌードル、アメリカンドッグ、カレーライス、クレープ、お茶と和菓子
そういったブースが、朝からいろんな匂いをさせてるんだ。これで校門を入った時から雰囲気マックスさ!
この一週間は、自分たちの芝居のレッスンで目いっぱいだったこともあって、ほかの取り組みに目をやる余裕も無かったんだけど、二日間にわたる本番はしっかり楽しめたよ。
アメリカンドッグとポップコーンを買って校内を見て回ったんだ。
普段は制服ばっかだけど、この日は模擬店を出している生徒たちがいろんなコスを着てる。
まるでハローウィンのノリだ。
ハローウィンと言えば、USJやアメリカ村(衣料やアメリカ雑貨の店が多いミナミのブロック)でやってたけど、それはYouTubeで見てくれ。
コスで目を引いたのはメイド喫茶だ。
女の子たちがメイドのコスで「おかえりなさいませご主人様~(Welcome back home, Master)」をやってくれる。
本物のメイド喫茶に行ったら最低10ドルはかかる。ドリンクと食べ物いっしょなら20ドル。それが3ドルでいいんだ。
3ドルでパンケーキとコーヒーが出てくる。それでメイドをやってるのは本物のティーンなんだ。本物のメイド喫茶は10歳くらいサバを読んでるメイドさんもいるっていうから、ほんとに掛け値なしのキュートさだ。
カラホリ高校に限らないけど、日本の高校はとても設備がいいし清潔で、とてもカムファタブル。
そのカムファタブルにハローウィンかレーバーデイみたいな楽しさが加わるんだから、もうスゴイよ。
普段は穏やか……というか、ちょっと気力に乏しい生徒たちがイキイキしてるんだ。初めてボール(アメリカの高校の卒業ダンスパーティー)でダンスするときみたいにさ。
キャシーも言ってたね、ボブ(キャシーの兄)がボールでエリサと踊った時の事。
まるで男のシンデレラみたい!
みんなボブみたいな目になってるんだ。
別にダンスパーティーになるわけでもないし、こっそりとアルコールを飲んだりということもないし、スクールポリスの目の届かないところでドラッグやったりもないんだけど、とても楽しそうなんだ。
寝落ちする前に本題だ!
演劇部で『夕鶴』って芝居をやったんだ。
キャシーのパパは芝居に詳しいから聞いてみるといいよ、Jyunji kinoshitaの名作で、30年前にシスコでもオペラ版が上演されてる。
ようは、男に助けられた鶴が女の人に化けて恩返しに来るという話。
ボクは、鶴を助ける男の役をやったんだ。
日本語の台詞を覚えるのは大変だったけど、ボクの怪しい日本語でも通じたよ。
有名なストーリーだったし、英語版との二部構成だったことも幸いして、とっても共感してもらえた。
鶴の役はシカゴ出身のミリーがやった。
ミリーはプロポーションのことを気にしていてね。
鶴が男に無理強いされ、自分の羽を抜いてきれいな布を二度も織ってやる。
できた布を持って「あー、こんなに痩せてしまって」という台詞をとても気にしていたんだ。
ミリーは標準的なプロポーションをしているんだけど、日本人の標準とくらべると……でね。
そんなふうには思わないんだけど、こういうことは男のボクが言うと、どこかセクハラめいて聞こえてしまう。
で、結果的にはミリーの取り越し苦労で観客に笑われることもなく無事に終わった。
無事どころか、二回の公演ともスタンディングオベーションだった!
まだまだ書きたいんだけど、もう寝るよ。 お休み。