大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト[女子高生ラノベ作家軽子]

2021-11-28 05:53:59 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『女子高生ラノベ作家軽子  




 軽子はこんな子だった。

 保育所の頃から人にお話しして、笑ってもらったり、驚いてもらったり、感動してもらうことが好きだった。

 でも、そんなに笑える話や、驚ける話、感動できる話が転がっているはずはなく、無意識のうちに話を作ってしまっていた。

 これで、話が詰まらなければ、人から「ウソつき少女」「オオカミ少女」「千三つ少女」などとバカにされていたはずである。

 だが軽子の話はおもしろい。

「キリンさんてかわいそうだね……」

 動物園に行ったとき、キリンの柵の前で涙を浮かべていた。

「軽子ちゃん、どうかした?」

 先生が聞くと、こう答えた。

「キリンさんはね、ふる里に残してきたお友だちや家族が恋しいんだよ。だから、あんなに首を長くしてふる里のことを思ってるの。でも叶わない願いだから、キリンさんは、一言も口を利かないで辛抱してるんだよ。キリンさんかわいそう……」

 そう想像すると、軽子の頭の中では本当になってしまい、一人涙を流してしまうのだった。

「でもさ、アフリカにいるキリンさんだって、首が長いよ」

 先生が頭を撫でながら、そう慰めてくれると、こう答えた。

「そりゃ当り前よ。みんな動物園に送られた仲間や、子供のことを思っているんだから」

 と、こんな調子であった。

 大きくなると、少し話が変わった。

「お父さん、キリンさんね、居なくなったお父さんのこと捜してるんだよ」

「ああ、知ってるよ。だからきりんさんは首が長いんだろ?」

 お父さんは高校生になった娘が、懐かしい作り話をし始めたと、ビールを飲みながら、いい加減な返事をした。

「違うわよ。キリンさんはね、そのために、ビールのラベルにお父さんの似顔絵を貼ってるんだよ。だから、ビールってキリンさんの涙で出来てるんだよ」

 これは、父が仕事の付き合いだと言って、毎日帰りが遅くなったとき、母の気持ちから作った話。お父さんは手にした缶ビールを持て余した。

 次の日は、ネットから野生のキリンが怪我をして保護され、やっと怪我が治ってサバンナに戻って家族と再会した記事をコピーして、テーブルの上に置いておいた。

 軽子の苗字は羅野邊であった。

 子供の頃は分からなかったが、ラノベというのはライトノベルの略であることを知った。軽子は、苗字が重いので、せめて名前は軽くという思いで親が付けた「軽子」と書いて「けいこ」と読む。

 この名前も、軽子はラノベに縁があると思った。

 デビューの仕方なんか分からないので、パソコンに思いついた話を書き溜めるだけだったが、ある日ブログの形で世間に発表することを思いついた。

 話は1000を超えていたので、USBに取り込んである。

 その中から10本、飛び切り軽くて面白い話を選び出し、ライトノベルベストという叢書名でアップロードしようとした。ブログの勉強もし、きれいなデザインのブログにした。

「よーし、これでOK!」

 軽子は勇んでエンターキーを押した。するとあろうことか、画面の文字は画面を抜けてユラユラと舞い上がり、空いた窓の隙間から空に昇って行ってしまった。

「ああ、軽すぎたんだ……」

 軽子が、その後ラノベ作家になれたかは定かではない……。


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