大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:069『ローゼンシュタット・2』

2023-04-15 06:56:20 | 時かける少女

RE・

69『ローゼンシュタット・2』テル 

 

 

 ローゼンシュタットは町ぐるみバラの海に浮かんでいるように華やかだ。

 
 町の周囲だけではなく、町の中のちょっとした空き地にも花壇があって、色とりどりのバラが咲き誇っている。

「ようこそ! ローゼンシュタットへ!」「ブリュンヒルデさま!」「いらっしゃいませ!」

 歓待の声に目を向けると、家々の玄関先や窓辺にもバラの鉢植えやフラワーポットがひしめいている。

 町の中央は広場になっていて、居並ぶ人々によって、我々の四号は誘われていく。

「すごいバラの香り!」「バラだらけだ!」

 広場の噴水の飛沫が飛んでくると、それにもバラの香りがして、ケイトもロキも無邪気に喜んでいる。

 ロキがハッチから身を乗り出すので、ポチも飛び出してロキの周囲を飛び回る。ポチは幼生とは言えシリンダーなのでマズイと思ったが、可愛いシリンダーだと、町の人、とくに子どもたちには人気だ。

「ローゼンシュタットのバラは、この世の始まりに神さまがおつかわしになったという伝説がございます」

 溢れるようなバラに圧倒されている我々に、ミュンツァー町長が説明してくれる。

「バラをおつかわし?」

 人間っぽい言い方に、ヒルデが興味を持つ。

「はい、このムヘンの島が主神オーディンのご加護を被る以前の事、神のご加護を待てずに住み着いた我々の先祖を憐れに思召して、遣わされたのが、プリンツェシン・ローゼン、つまりバラの姫君でありました」

「待て、話の腰を折って悪いが、我が父オーディン以前の神とはなんだ? 父オーディン以前は、この地上はカオスであったはずだが」

「はい、オーディン歴2000年までは公にすることははばかられておりましたが、2000年紀に入って二十年。もう、お話いたしてもよろしいでしょう……始原の神もまたオーディンと申されました」

「父以前に?」

「はい、始原神オーディンは地上をカオスにでしか保持できなかったことを残念に思われて、名乗りを憚られました。その後、英気溢れる智謀の神が現れたので、その神を実の息子のように思し召し、始原神はオーディンの名をお与えになったのでございます」

「それが、父であると申すのか?」

「いかにも。始原神オーディンは、自分の加護が及ぶ前にムヘンの地に住み始めた人間たちを気にかけておられました。そこでプリンツェシン・ローゼンをおつかわしになったのでございます。神の系図で申し上げますと、ブリュンヒルデさまの義理の叔母にあたる女神さまでございます」

「叔母君にあたる女神か……」

「しかし、地上のカオスは姫のお手にも余ります。はじめは、このローゼンシュタットを足場にムヘンを平らかにしようと意気込んでおられましたが、とても叶わぬとお悟りになりました。一年かけて町と町の周囲を平穏に収めても、明くる年には元のカオスに戻ってしまいます。姫は、永久に町を護りムヘンに祝福を与えるには、その身をバラに変え、毎年数多のバラとして生まれ変わって守るしかないと決心なさったのでございます」

「素敵な話だ……!!」

 わたしたちも素敵に思ったが、ヒルデは過剰なほどに目を潤ませている。自分の境遇と重なってしまうんだろう。タングリスが愛しむような眼差しで後ろに立っている。

 どうも、我々が知らない秘密がある……ような気がするが、当人たちが言わない限り聞いてはいけないような気がした。

 
 町長が話を締めくくると、広場の奥まったところ、ひときわバラの植栽が行き届いた家が灯りに照らし出されて際立った。際立ち方は始まりの草原でペギーの店が現れた時に似ているが、ネオンサイン等の電飾が一切なくて、とても上品だ。

「とりあえずは、あの迎賓館でおくつろぎください」

 町長が手を広げて誘うと、広場に集まった人たちが迎賓館までの道を開けてくれる。 

 迎賓館といっても二階建ての民家風なのだが、背丈が高く、使ってある建材や手入れのされ方に念がいっている。

「実は、明日が四年に一度のプリンツェシン・ローゼンの降誕祭なのです。ことしの降誕祭にはオーディンの姫君が訪われると予言されたのです」

「予言?」

「はい、町の司祭であり一級魔導士であるゼイオン様が……」

 町長が対面の教会を示すと、オボロな人影が浮かび上がり、数秒で白髪に白の法衣を着た老人の姿になると、人々に祝福を与えながら迎賓館の前に至った。

 オオ……!!

 感嘆と畏敬のこもったどよめきが広場を満たし、

「初めてのお目通りの栄に浴します。ローゼンシュタットの司祭職を務めておりますゼイオン・タングステンでございます」

 静かに寄ってくると、ゼイオンはブリュンヒルデの前で片膝をついて名乗り、ごく自然にヒルデの手にキスした。

 なんだか、有名な宗教絵画を見ているように、広場は厳かな空気に満ちた……。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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鳴かぬなら 信長転生記 118『桃拾いの翁と媼』

2023-04-14 13:01:49 | ノベル2

ら 信長転生記

118『桃拾いの翁と媼信長 

 

 

 これはこれは神薙(かんなぎ)さま!

 

 村長らしいジジイが前に出て巫女服のあっちゃんを拝跪した。

 村人たちは、それに倣うように跪く者、蹲踞する者、地面に頭をこすり付ける者。いろいろの反応だが、完全にあっちゃんの方が偉いと判断している。

 まあ、あっちゃんの本性は熱田神宮の草薙剣で天照大神の分身でもある。神に仕える神薙と判断してもおかしくはない。

「そちが村長(むらおさ)であるな」

「はは、村長の桃拾いの翁、こちらは女房の桃拾いの媼でございます」

 こいつら、ひょっとして桃太郎の?

「わらわは、熱田大神に使える神薙である。大神様が『民草たちに難渋の兆しあり、疾く様子を見て参れ』とのご神意を被り、この地にまかり越した。これに従うは思金神(オモイカネノカミ)と毘沙門天に仕える神薙じゃ。安心して事の成り行きを話すがよいぞ」

「これはこれは……高天原最高の知恵の神、思金さまに、武神毘沙門天の神薙さままで。まことに畏れ多いことでございます」

「ジサマ、外では畏れ多い。うちの座敷にお招きいたしてお話を……」

「そうじゃそうじゃ、皆の衆。お話が済めば、あらためて集まってもらう。しばらくは家に戻っていてくれ」

 

 ということで、村の中で一番大きな村長の屋敷に向かった。

 屋敷には大きな桃の木が育っているのが塀越しに窺え、長屋門を潜ると、桃の木の幹は太々と逞しく、由々し気にしめ縄が巡らせてある。

「ここは、桃太郎ゆかりの村ですね」

 あっちゃんが切り出した。

「はい、お察しの通り桃太郎の村でございます」

「そして、わたしが桃の実を拾ってまいりました」

 やはり、桃拾いの二つ名はダテでは無かった。

「して、その桃太郎は? 村人の中には見えぬ様子であったが。申しにくいことかもしれぬが、我らは神薙、神の御心を戴しておる。隠さずに申してはくれぬか」

「はい……」

「それは……」

 あっちゃんは優しく聞くが、翁・媼とも言いにくそうに俯いてしまう。

「では、ワシから言おう。なに、推量じゃ。間違いがあれば言うてくれ」

 思金が身を乗り出した。

「村を攻めてきた鬼は○○○であろう」

「え、ご存知でしたか!?」

 思金が言うと、ジジイは目を剥き、ババアは両手を口に当ててのけ反った。

 さすがは思金、天照の知恵袋。

 だが、俺には○○○のところがよく聞こえない。

「はい、金太郎めが村を代表して掛け合いにまいりましたが、鬼どもは金太郎の首を切って村の田畑を早田刈りしてしまいました」

「鬼どもは、なにか申してはおらなんだかえ?」

「はい、ここは鬼の村にするから、村の者は全て立ち退くように……」

「鬼の村に?」

「はい、やっとここまでにした村でございます。先祖伝来の田畑、それをここまでに豊かに広げてまいった村の者の働きを思いますと、とても受け入れることは……」

「立ち退かねば、三日の後に村の者を皆殺しにすると……」

「お願いでございます、この地は熱田大神さまの御朱印地でもあります。なにとぞ、大神さまのお力を持ってお守りくださいますよう、これ、婆さんも」

「伏してお願い申し上げます」

「承知した。ただ、心得違いいたすな。ここは御朱印地ではない。御神領であるぞよ」

「これはご無礼を申し上げました(;'∀')」

「分かれば良し。ならば、さっそく鬼ヶ島に赴いて、話を付けよう。そなたたちも村人に話してやるがよかろう」

「「ははあ」」

「では参るか、思金、毘沙門」

 

 座敷を出るとあっちゃんは桃の木の前で立ち止まった。

 

「この桃の木は?」

「はい、桃太郎が種から育てた桃の木でございます」

「そうか、よい桃の実ができると良いな」

「「ははあ」」

 

 村長は、さっそく村人たちを集めている。

 それを尻目に我々は村の入り口に戻った。

「あっちゃん、俺に気を使ったな?」

「え、そう?」

「御朱印地とは、家康の幕府が朱印で認めた土地のこと。俺は神領として神社の支配を認めてやっていたからな」

「あ、あはは、ちょっとカマシてやりたくなった的な?」

「そうか。で、なんで俺が毘沙門なんだ。毘沙門は謙信のトレードマークだろ。だいいち男の神だし」

「ここはお伽の世界よ。リアルの真名はそぐわないし、隠密した時の織丹衣(しょくにい)では通じないでしょ。個人的にも毘沙門好きだしぃ。ほら、『ノラガミ』の毘沙門なんてステキなツンデレだしぃ」

「……で、あるか」

「おや、金太郎の首が?」

 思金の指さした晒木には、もう金太郎の首は無かった。

 我々の話に安堵した村人が引き取って葬ることにしてやったのだろう。

 人間安心すれば、他人への気配りや優しさも持てるというものだ。

「さあ、さっさと行くか……ん?」

 晒木から目を戻すと、二人の姿が無い。

『わたし刀でいくから!』

『儂は勾玉じゃ!』

 なるほど、腰の刀は草薙剣だし、首からは勾玉が……どうして肌着の下にいるんだ!?

『歳をとると温もりが恋しゅうてなあ……少し小さくはないか?』

「こ、こら! 揉むんじゃない(;゚Д゚#)!」

 

 ピーーーヒョロローーー

 

 トンビがクルリと輪を描いて、俺たちは鬼ヶ島を目指した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

 

 

 

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RE・かの世界この世界:068『ローゼンシュタット・1』

2023-04-14 06:54:20 | 時かける少女

RE・

68『ローゼンシュタット・1』テル 

 

 

 どっちが早かったのか……

 
 峠に差し掛かったところで「停まれ」とヒルデは命じた。

 同時に四号は停車した。

 
 当たり前なら、車長であるヒルデが命じて、即座に操縦手であるタングリスがブレーキを踏んだということなんだけど、すこし違うのだ。

 タングリスは、自分の判断で停車している。同時にヒルデも判断して命じている。

 四号は一匹の像が耳をそばだてるようにして停止した。

 具体的な変異や脅威を感じたわけではない。戦慣れした二人が同時に反射的に反応したことに車内に緊張が走る。

 五人の乗員は息を潜め、クリーチャーのポチもロキのポケットに潜り込んでしまった。

 

 ブルブルブルブルブル…………マイバッハV12エンジンの音だけが車内に響く。

 

「エンジンを切れ」

「エンジン切ります」

 ブリュン……

 四号はヒルデの真名の前半分を呟くようにしてなりを潜めた。

「え? どうかした?」

 付き合いの浅いロキには分からないようだ。

 
「Cアラームが反応したような気がしたんだ」

 
 ヒルデはCアラームを見つめる。Cアラーム(クリーチャー警報装置)は砲塔の天井にぶら下げてあり、砲手であるわたしの視界にも入っているのだが、アラームの反応には気づかなかったというかアラームは反応していないと思う。装填手のケイトも怪訝な顔をしている。

「タングリスは?」

「いや……ちょっと気配がしたもんでな。気のせいでしょ、進めてよろしいか?」

「ああ、前進しよう」

 ヨッコラショと動き出すと、バラの香りが車内にまで入り込んできた。

 そして、峠が下り坂になった瞬間、バラの花で溢れかえったローゼンシュタットの町が広がってきた。

 

 うわあ! 

 

 ロキが歓声をあげ、みんなも、それぞれのペリスコープや貼視孔から外を覗く。

 荒れ地同然の草原や灌木ばかりの、ゴルフで言えばラフやベアグランドのようなところばかり走ってきたので、お花畑のようなローゼンシュタットの町はため息が出そうなほど新鮮だ。

 
 パパパパーン!

 
 町の入り口に差し掛かると可愛い花火が打ち上げられ、『熱烈歓迎ブリュンヒルデ御一行様!』の懸垂幕が教会の尖塔に掲げられた。

 ハッチを開け、恐る恐る首を出す。

 

「ようこそ、お立ち寄りくださいました! ローゼンシュタットの町を代表いたしまして、町長のミュンツァーがご挨拶申し上げます!」

 

 同時に、町のあちこちから大人たちや子どもたちが現れて、バラの花びらを撒きながら歓待してくれた。

「い、いやあ……(^_^;)」

 戸惑ってしまった、我々は巡回警備の分遣隊ということになっている。いわば、ただのパトロールだ。

 どこの世界にパトロールを町ぐるみで歓待するところがあるというのだ。それも本人には内緒の誕生パーティーを開くように息を潜めて?

 ケイトとロキは無邪気に喜んでいるが、我々は当惑するばかりだ。

「承知しております、ですから、お名前の下の敬称は記しておりません」

 ……なるほど、ブリュンヒルデの下には『姫』だの『殿下』だのの敬称は記されていない。

「このようにバラ以外にはなんの取り柄もない町です。なにもございませんが、我が町、我が家と思ってお寛ぎください」

 詮索も野暮なようで、我々は、とりあえずはミュンツァー町長らの歓待を素直に受けることにした。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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パペッティア・009『みなみ大尉の家』

2023-04-13 15:32:48 | トモコパラドクス

ペッティア    

009『みなみ大尉の家』夏子 

 

 

 みなみ大尉の家はカルデラの北側にある。

 

 カルデラっていうのは、ファーストアクトでヨミのミサイルが命中して出来た巨大クレーター。

 ミサイルの弾頭には広島型原爆の何十倍とかいうアクイが籠められている。

 アクイというのは悪意からきてるんだけど、現時点では解析不能なヨミのエネルギーのことで、日本の学者が「悪意としか言いようがない」と評したことでアクイという表現が定着したんだって。

 破壊力はすごいんだけど、核兵器のように放射能とかは無いから、気持ちさえ折れなければ回復はできる。

 同じところに墜ちる可能性は低いだろうということで、その巨大クレーター中を特務のベースが作られた。

 クレーターの縁には高さ100メートルのカルデラの壁が出来た。真上から落ちてくるミサイルや航空攻撃には意味のない壁なんだけど、カルデラの外からの爆風や衝撃を防ぐには有効。それに警備やベースの秘匿性を確保するのにも好都合なので、ここに日本最大の対ヨミ戦のベースが作られた。

 一般人の居住は許されてないけど、直径3キロのカルデラはベースの施設を作っても地面としては余りまくり。

 そこで、幹部や軍属は家を建てて住むことを許可されている。

 人気は日当たりの順、北⇒西⇒東⇒南 という感じ。

 

 みなみ大尉の家は、通称北区のさらに北。カルデラの壁がすぐ後ろに迫っている棚のようなところに建っている。

 

「ここよ」

「え?」

 みなみ大尉の示したのは、どこかデジャヴな平屋建てで、表札が『磯野・フグ田』になっている。

「あ、また剝がれてる」

 門柱の下にハガキ大の段ボールが落ちていて、その裏に『高山』とマジックで書かれている。

「この家って……ひょっとして『サザエさん』の家?」

「あはは、設計とかめんどくさくってさ、サンプルのデータそのまま打ち込んじゃった。のび太君の家でもよかったんだけど、どうせなら平屋の方がいいかなって(^_^;)」

 ああ……3Dプリンターで作ったんだ。

「でも、表札くらい」

「うん、あとで好きに貼ったらいいからね」

 いや、そういう問題じゃ……

「あ、それから!」

「あ、何ですか?」

「基地に居る時は仕方ないけど、家に帰って『みなみ大尉』は禁止だぞ」

「え、あ、言ってないと思いますけど(^o^;)」

「顔に書いてある、みなみ大尉って言ってる顔だぞ」

「アハハ、気を付けます」

「うん、素直でよろしい」

 

 そして、家に入ってビックリした……。

 

 サザエさん仕様だから、普通の言い方をすると4LDKで、二人で暮らすには十分な広さと間数。

 それが、いったい何人で暮らしてるんだ!?

 というぐらいに散らかっている!

「どの部屋にもお布団があるんですけど? っていうか、五六人が住んでますよね、この家?」

「あ、いや……」

「ワ、めちゃくちゃ洗い物溜まって、ハエとか飛んでるし!」

「まかせといて!」

 プシュー! プシュプシュー! プシュー!

 ガスコンロの横の殺虫剤を掴んだかと思うと、的確にハエの鼻先10センチで噴霧、瞬くうちに8匹のハエを撃ち落とした。

「さっすがー! と言ってあげたいとこですけど、なんでキッチンでハエが湧いてるんですか!?」

「ああ、ついめんどくさくて……」

「それに、ガスコンロの横に殺虫スプレーって危なくないですか!?」

「いざとなったら、火炎放射器になるし」

「他の人は、なにも言わないんですか(-_-;)?」

「え、あ、だって、一人住まいだし」

「そんなわけないでしょ。シンクや食卓に食器いっぱいだし、どの部屋もお布団敷きっぱなしだし、少なくとも四人は住んでますよ」

「あ……いや、それはだね。わたしは特務でも重要な任務に就いてるから、いつ命を狙われるか分からないから。ね、日によって寝る部屋を変えてるんだよ。アーハッハッハ、優秀な特務隊員は辛いねえ」

「一人で、これだけ散らかしてるんですか!?」

「ウ……いや、だからあ」

「ま、まさか、これ片づけさせるために、わたしをここに住まわせるんですか!?」

「いやいや、ここ一週間帰れてなかったから忘れてた(^_^;)、っていうか、ま、とりあえずナッツが住む部屋だけでも片づけよう! どの部屋にする?」

「……うう」

 十秒悩んで、子ども部屋にした。

 理由は簡単、四畳半でいちばん狭くて片づける面積が小さい。

 それから、トイレとお風呂の掃除と、そこへ行く廊下というか動線を確保。

 台所は、シンクに溜まった食器だけ洗う(ハエが湧くから)。

 わたしもみなみさんも、それ以上の気力が無くって、カルデラの外の中華屋さんで夕食。

「ごめんね、ナッツ。今夜も泊りなの。家もあんなだし、徳川曹長に頼んで家事ロボット貸してもらうわ。ほんとは左官以上でないと貸してもらえないんだけどね、まあ、いちおう大尉だしぃ、前借的に頼んでみる」

「そんな融通きくんですか?」

「大丈夫よ! 司令のお嬢さん預かってるんだしぃ(^▽^)/」

「わたしをダシにしないでください」

「まあ、ドンと任せておきなさい!」

 ドン!

 胸を叩くと、とても充実した音がした。

 どっちかっていうと小柄なみなみさんだけど、けっこう質量はありそう。

「あ、見かけよりも重そうとか思ったでしょ!」

「あ、いえ、違います( >△<)」

 雑なようで、微妙に勘は鋭い。

 

 カルデラに戻ったところでみなみさんは基地に戻って、わたしは、ザっとお風呂に入って一部屋だけ片づけた四畳半で寝た。

 えと……明日はどうしたらいいんだろう?

 

☆彡 主な登場人物

  • 舵  夏子       高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
  • 舵  晋三       夏子の兄
  • 舵  研一       特務旅団司令  夏子と晋三の父
  • 井上 幸子       夏子のバイトともだち
  • 高安みなみ       特務旅団大尉
  • 徳川曹長        主計科の下士官

 

 

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RE・かの世界この世界:067『腹が鳴る』

2023-04-13 06:27:37 | 時かける少女

RE・

67『腹が鳴る』テル 

 

 

 ローゼシュタットに向かうには街道を西に外れる。

 
 西に外れるまでには宿場町が二つある。

 シュタインドルフを出てからベッドで寝たことが無いので、ホテルや軍の宿泊施設を横目に殺すのは努力がいった。

 燃料補給に立ち寄った補給処はちょうど昼食の準備中で、揚げ物のいい匂いがしていた。

「燃料補給が済めば直ちに西に進路をとる。昼食は走行中にレーション(携行食糧)で済ませるぞ」

 ヒルデの、ちょっとムキになった宣言は命令と言うよりは自分自身への戒めの響きがある。

 タングリスが車長に指名したのは正解だと思う。ヒルデは与えられた立場によって変わっていく性格のようだ。ムヘンブルグを出発する寸前、ケイトを連れて小学生のようにお八つを買い込んでいたのがウソのように思える。

 補給処の整備兵がエンジンとトランスミッションのチェックをしてくれて、予定よりも五分オーバーで出発。

 
 グーーーーーーーー

「あ~~揚げ物の匂いが離れないよ~(◞‸◟)」

 
 ロキが盛大にお腹を鳴らしながらグチる。

「あたしも……」

 歳が近いケイトも装填手シートでお腹を押さえている。

 この嗅覚的幻想が消えない限り大味なレーションを食べようという気にはならない。

 それにしても、この匂いはしつこい。恥ずかしながら唾が湧く(^_^;)。

「警戒を代わろう」

 半身を外に晒して警戒しているヒルデに声を掛ける。車内で腹の虫が鳴ってはみっともないのだ。

 身をよじってヒルデと交代……しようとしたら揚げ物の嗅覚的幻想が一段と強くなった。

「食べる余裕がなかったので調達してきた」

 操縦席から紙袋が差し出された。

 なんと、タングリスが人数分の揚げ物を、コッソリと仕入れていてくれていたのだ。

「いつのまに!?」

「停車するわけにはいかないが、食べてくれ」

 補給の間もタングリスは四号を離れていない、おそらくは、補給処の隊員とはツーカーの仲なのだ。そして、こういう気の利かせ方も含めてのコマンダーだということをヒルデに示しているのだろう。

「ローゼンシュタットの受け入れはいいのか?」

 揚げ物を受け取りながらヒルデが聞く。

「補給処の定時連絡で入れてもらっています、むろん暗号ですが。十マイルに差し掛かったところで、もう一度連絡、それは車長からお願いします」

「暗号でか?」

「これが暗号書です、ロキも勉強しておけ」

「オレも? うわー、なんだか数学の本みたいだ!」

 四号は、ローゼンシュタットを見下ろす峠に差し掛かろうとしていた……。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   事故で光子に殺される 回避すれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・400『灌仏会 二つのヘルメット』

2023-04-12 10:47:58 | ノベル

・400

『灌仏会 二つのヘルメット』さくら   

 

 

 三年ぶりの灌仏会、お花まつりは盛況やった。

 

 うちの如来寺は、都会のお寺としては広くて檀家さんの数も多い方。

 せやけど、檀家さんのほとんどはお年寄り。

 お年寄りのほとんどはお婆ちゃん。

 大方が昭和も戦前のお生まれで、数人は大正生まれいう人も居てる。いえ、居てはります。

「さくらちゃん、セブンチーンやなあ(^▽^)!」

 歳に似合わん真っ白な歯ぁを剥きだして、田中のお祖母ちゃんが喜んでくれる。

「早いなあ、さくらちゃん来て、もう十年かあ」

 早川のお婆ちゃんがスカタンを言う。

「やあ、まだやっと五年目ですよぉ」

「せやがな、歌ちゃんと戻って来て、すぐ中学やったもんなあ。ポニーテールをキリっと結い上げて、なんかタカミナみたいで、かいらしかった(^〇^)」

「タカミナてなに?」

「AKBの総監督やってた子ぉやがな」

「ああ、なんちゃら48の!」

「AKB48やがな」

「AKB、あっかんべーか?」

「アキバぁ、秋葉原のこっちゃ。東京にある日本橋みたいなとこに専用のシアター持ってがんばってるアイドルグループやがな。会いに行けるアイドルちゅうてやな、乃木坂とか日向坂やらHKTとか、大阪にもNMB48とかあんねんで」

「よねちゃん、物知りぃ」

「お婆ちゃん、すごいよ」

 留美ちゃんと感心する。

「アハハ、死んだ亭主が好きでなあ、タカミナの卒業までは生きてる言うて、贔屓にしとった」

「え、サダオちゃんが!?」

「はいな、タカミナの前に自分が人生卒業してしまいよって、アハハハ」

「せやったんかいな」

 アハハハハハハハハハハハハハハ((´∀`))

 田中のお婆ちゃんの話に、本堂の外陣はホコホコと温もって、みんなでお釈迦さんのお像に甘茶をかける。

 留美ちゃんは、自分から喋ることはせえへんけど、ニコニコとよう話を聞いたげてる。

「いやあ、ほんとうにええ空気ですねえ、如来寺は!」

 ちょっと感激して声あげたのは、ハンゼイのマスター。

 マスターは、うちとこに預けてた瑞穂さんのお骨をとりにきて、そのままお花まつりに参加してる。

 瑞穂さんの骨箱はテイ兄ちゃんの発案でご本尊の前に置いてある。

 骨箱には『釋瑞穂』と法名を記した紙が貼ってある。

 釋はお釈迦さんのお弟子という意味で、浄土真宗の法名共通の文字。

 瑞穂は『ずいすい』と音読みにする。言うまでもなく俗名の瑞穂を音読みにしたもの。

 テイ兄ちゃんとマスターの友情が偲ばれて、ええ法名やと思う。

 従兄妹としては、ちょっとスケベエでオタクで軽すぎる感じやけど、マスターにはええ友人。お婆ちゃんらには、ええゴエンサンや。本人には言わへんけど。言うたら、ぜったい図に乗るしね(^△^;)。

 

「実は、これをね……」

 

 そう言いながら、リュックからプチプチの袋に入ったのを二つ取り出した。

「なんですか。マスター?」

「ヘルメットやねんけどなあ……」

 プチプチ袋から出したのは、二個のヘルメット。

 一個はピンクでエメラルドグリーンの縁がついてるオシャレなやつ。

 もう一個は、ウクライナで兵隊さんが被ってそうなオリーブグリーン。

「男用と女用かいな?」

 お婆ちゃんらも覗き込む。

「いえ、両方とも瑞穂用のんです。言うても、一回も使わずじまいなんですけど」

「せやけど、男女のオソロに見えますけど」

「四月から自転車のヘルメットが努力義務になりましたででしょ」

 

 ああ………

 

 本堂に居てるみんなが納得の声を上げる。

「けど、なんで二つなんですか?」

「それは…………」

 そこまで言うと、マスターは俯いたまま嗚咽し始めた。

 

「それはやなあ」

 

 いつの間にかテイ兄ちゃんがやってきて、マスターの横に腰を下ろした。

「病気がようなったら、いっしょに自転車でごりょうさんの周り走ろいうて昴(あきら)が用意しとったもんや」

 あ………

「ワイルドなんとオシャレなんと二つ用意したんやけど、決める前に逝ってしもたさかい、今日持ってきてくれたんや」

「瑞穂は、さくらちゃんや留美ちゃんみたいに仲よう自転車乗るのん楽しみにしとったさかい、これ、二人に使ってもろたら嬉しいんです」

「せやったんですか……」

「すんません、めでたいお花まつりに湿っぽい話で」

「ううん、これも仏さんの御縁やし」

「うん、タカミナのポニーテールや」

「「「「ナマンダブナマンダブ…………」」」」

 お婆ちゃんらのナマンダブで締めくくり。

 

 それで、日曜の9日を挟んで月曜の10日から、瑞穂さんのヘルメットを被って通学してます。

 

 うちがオリーブグリーン、留美ちゃんがピンク。

 で、並んで走って発見した。

 留美ちゃん、意外にピンクが似合う。

 けど言わへん。言うたら、この恥ずかしがり屋は二度と被らんようになるさかいね。

 

 それから、この『せやさかい』も数えて400回。

 

 ま、せやさかい、これからもよろしくお願いいたします(ᵕᴗᵕ)。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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RE・かの世界この世界:066『鉄橋閉鎖』

2023-04-12 06:35:38 | 時かける少女

RE・

66『鉄橋閉鎖』テル 

 

 

 ノルデン鉄橋は閉鎖されてしまった。

 
 装甲列車が橋の上で立ち往生してしまったからだ。

 十二両連結のうしろ二両が手ひどく痛めつけられている。タングリスの見積もりでは中破の状態で、本来なら連結を解除して健康な車両だけで帰還すべきであったらしい。指揮官の判断か上からの命令か、全車両を帰還させることになって、無理くり鉄橋を渡ろうとしたところ、不発弾か積載していた弾薬かが爆発。うしろ二両はグチャグチャに壊れて鉄橋を塞いでしまった。

「とうぶん渡れんな」

 砲塔の上に地図を広げ、タングリスは腕を組んだ。他の乗員も各々のハッチから出てきて覗き込む。

「ここはノルデン鉄橋を渡った北岸の街でグスタフと言います。ここの軍施設で一泊する予定ですが、この騒ぎで混乱が予想されます。南下する旅行者や物資が増えるばかりです」

 丁寧な言葉遣い、ヒルデに決めさせようとしているのだ。

「ムー、今夜はベッドの上で寝たかったぞ」

「ベッドどころか……」

「わたしも……」

 ヒルデの不満にケイトも同意を示す。わたしは静かに目線を動かし――あっちを見ろ――と促した。

「なんか人が殺到してるぜ!」

 子どものロキの方が反応した。

「橋を渡ろうとしていた人たちがホテルや民宿に掛け合っているんだ」

 地図によると、グスタフは北岸沿いでは最大の街で、ムヘンブルグが開かれるまではムヘン開拓の最前線都市として発展したらしい。ヒルデも知っていたんだ、ここで一休みしたかったという気持ちは良く分かる。

「ローゼンシュタットまで進もう」

 ヒルデは地図の斜め上を指した。

「そんなに北の町……街道からも離れてるしぃー」

「ここはバラが綺麗なことで有名なんだ、どうせなら楽しみを増やそうと思うんだけど?」

「賢明な判断と思います」

 ポーカーフェイスだけど、タングリスの目が少し穏やかになった。

 ヒルデが自分で判断したことを喜んでいるんだ。ただの付き添いではなく、姫としてのヒルデを教育するつもりでもあるんだろう。

「ブリねえちゃん」

「ブリねえちゃん……(`_´)?」

「あ、ブリュンヒルデねえちゃんだと長いかと思って(;'∀')」

「そうか、親しみを込めた呼び方なのだな」

 納得すると、三角になりかけた目を緩めるブリュンヒルデ。

「なんだ、ロキ?」

「バラならローゼだろ? たぶんバラの町って意味なんだろうけど、なんでローゼンで『ン』が入るの?」

「いい質問だ。ローゼというのは単数だ」

「タンスウ?」

「単数、一つのという意味になるから、やかましく言うと『ローゼシュタット』だと一本のバラの町ということになってしまう。ローゼンは複数形で、つまり、たくさんのバラのある町になる」

「そっか、バラいっぱいの町という意味なんだね(^▽^)!」

「そーだそーだ」

 タングリスの肩が微妙に揺すれたように見えた。

 どうやら、若干間違えているようだが、おおむね正解のようなので姫教育のために胸に収めようということのようだ。

 
 四号は混みあうグスタフのメインストリートを抜けて街道に進んだ。

 振り返ると、ノルデン鉄橋のあたりから、まだ黒煙が立ち上っていた。

 

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
  ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
  タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
  タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

  二宮冴子  二年生   事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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銀河太平記・156『邂逅する者たち・4・南を目指す』

2023-04-11 17:27:14 | 小説4

・156

『邂逅する者たち・4・南を目指す』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 

 初期戦闘で敵は空港の制圧と占領を目論み、実行して九分通り成功させた。

 

 南北の空港に同時に二個空挺大隊を降下させ、同時に空港周辺の防空施設を破壊。降下した空挺部隊は滑走路周辺の迎撃部隊を圧迫しつつ、旅団主力の着陸援護の態勢を整えた。

 そして、軍事的には瞬間と云っていい60分余りで制圧し終え、作戦は成功したかのように見えた。

 見えたからこそ、敵は間髪入れずに空挺旅団の主力を載せた巨人輸送機を着陸させようとした。

 しかし、そこからが真の勝負だった。

 それまで温存されていた守備本隊が行動を起こした。

 守備本隊は輸送機が無事に着陸し、停止したとたんに滑走路直下の坑道を爆破。輸送機を擱座させ、同時に坑道から飛び出したロボットたちが残った空挺部隊に対して自爆攻撃を加え、十分余りで形勢を逆転した。

 空挺部隊は陸軍、陸戦隊は海軍。ここでも連携の悪さが出てしまった。

 陸戦隊司令は空挺二個大隊の降下成功の時点で作戦成功と踏み、陸戦隊主力を西海岸に取りつかせた。

 空挺部隊も、最後まで自分たちで挽回しようとして海軍側への連絡が遅れていた。

 

 弁護するわけではないが、敵の戦術的な思考に間違いはない。

 初期戦闘で敵に打撃を与えられれば、時を置かずに敵の弱点に攻撃を加え、戦果を拡大するのは用兵思想の基本だ。空港を占領した空挺旅団も南北から西海岸に進出して陸戦隊を援護するはずであった。

 成功すれば、長年確執の有った陸海軍の不仲も改善できたかもしれない。

 陸海軍の不仲は、程度の差はあるがどこの軍隊にも付き物だ。しかし、二十余年前の満州戦役において、漢明陸海軍の連携は気の毒なほどにとれていなかった。戦闘の九割九分は満州の野で行われ、海軍は陸戦隊も含めて出る幕が無かった。いや、無かったことで説明されてきている。

 実際は、漢明の軍閥争いが災いして、なかなか手が出せなかった……真実であるが、これは真実の半分だ。

 長引くと思われた奉天戦が早くに決着がついて停戦になったため、漢明の海軍や陸軍の他の勢力が手を出す暇が無かった。

 満州戦争を国難と捉え俊敏に動いたのは劉宏の一個旅団のみだ。

 満州戦争の評価は戦後二十余年を経ても定まっては居ない。

 たった一個旅団で奉天を包囲し、奉天の漢明軍を潰走させた点では俺の勝ちとも言えるが、俺は肉体的には戦死してしまった。実際、包囲戦の末に生き残った兵は500に満たなかった。

 漢明軍も奉天包囲戦までは善戦した。特に、俺を付け回した東北旅団の劉宏少将は出色だ。

 もし、劉宏に漢明全軍の指揮を任せていたら、俺の奉天包囲戦は成功していなかっただろう。

 いや、あの戦いの真の調停者は先帝だ。

 奉天包囲の直前に崩御され、敵味方共に停戦の意を表し受け入れやすくなった。

 以来、満州は漢明の優位を認めつつも自治国家、東アジアのバランサーとして命脈を保っている。

 

 二十余年前の想いが浮かび上がってくるのは、やはり、この戦場の匂いだろう。

 いや、匂いの中に劉宏の出現を予見しているのかもしれない。

 岩田首相の通訳として北京の北大街酒店で謁えた劉宏は、どこまでが本来の劉宏なんだろう。

 劉宏は俺と違って劉宏本来の肉体を残している。

 しかし、度重なる王春華(JQと同じ究極ロボット)とのpi(パーフェクトインストール)はソウルの居所、いや、ソウルそのものを異質なものにしているかもしれない。

 漢明という巨大で肉厚の国家を統御するには、病み疲れた劉宏のソウルでは無理だろう。

 …………なんで、ここまで劉宏を気にするんだ。

 確かに、二十余年前は俺の好敵手だったが、今の劉宏は漢明国の大統領だ。

 彼の意思が反映されるとしても、それは官僚や軍という手足を通してのことだ。

 目の前の敵情と戦況にだけ集中しよう。

 

 まずは、敵のかく乱だ。

 西海岸の圧力を下げさせて、メグミが活動しやすいようにしてやらなければならない。

 瀕死のロボットの命を救う。この発想は漢明軍にはないだろう。瀕死のロボットは壊れた装備に過ぎない。

 装備の修繕の為の欺瞞戦闘。

 予想できない行動に出れば、人も組織もボロを出す。俺も、ついさっきまでは、せいぜい強行偵察ぐらいのつもりでいた。

 ちょっと愉快だ。

 

 一人称を「わたし」に変え、ボランティア戦闘員越萌マリとしてパルスバイクのハンドルを南にきった。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

 

 

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RE・かの世界この世界:065『装甲列車の進入』

2023-04-11 06:33:44 | 時かける少女

RE・

65『装甲列車の進入』テル  

 

 

 鉄橋上の制限速度は時速15キロと自転車並みだ。

 

 文字通り歩道を走る自転車と並走して……いや、抜かされてしまった(^_^;)。

「なんで停止するんだ!」

 車長ハッチから身を乗り出していたヒルデが潜り込みながら苦情を言う。

「停止信号です」

「信号?」

「ヒルデねえちゃん、車長なんだから信号くらい見とけよ」

 ロキがえらそうに言って、ポチが笑うように身を震わせる。

「そんな、橋の上に信号なんか……」

 再びハッチから身を乗り出して沈黙、トラス上部にある赤信号に気づいた。

「なんで信号なんか付いてるんだ!?」

 ご機嫌斜めのお姫様に、タングリスは操縦手ハッチを開けて答える。

「古い鉄橋なので、橋の土台の間隔で重量制限をやってるんです。1スパン二百メートルで1000トン、四号は自重30トンありますから1スパン30両として900トン、ほかにも鉄道が走っていますから、15両が限界です」

「そ、そうなのか(;'∀')」

 先のスパンも満杯なようで大勢の車両が停止したままだ。

「あいつ、なにか叫んでる……」

 タングリスの呟きで、車内のみんなが五か所のハッチから身を乗り出す。

 二つ前のスパンで、交通整理の下士官がトラスの鉄骨に足を掛け、メガホンで怒鳴っているのだ。

「なんて言ってるんだ?」

「さっぱり分かりません」

 落ち着いた声だがハッチに掛けた指がコツコツとハッチを叩いている、タングリスもいら立っているんだろう。

 ケイトはヒルデにキャンディーを勧めている、ここはお姫さまをなだめるところだと心得ているのだろう。

 ポチを肩につかまらせて、ボーーっとしていたロキだが、驚いたように車内に潜る。無線連絡が入ったようだ。

「鉄橋の守備隊長から連絡――鉄橋上の車両は速やかに渡って、新規の鉄橋通行は遮断する――ってさ」

 ようするに、鉄橋の上を空にしたいらしい。

 二三分で車列が動き始めた。

 橋の南北は渡橋を禁止された車両が溜まっている。我々もグズグズしていたら渡れなくなったところだ。

 鉄橋を渡り終えると、並行している鉄道のレールがカタンカタンと鳴りだした。遅れて重々しくも調子の外れた機関音がしてきた。

 ゴトゴトゴットン ゴットンゴトゴト ガクンガタガタ ゴトゴトガッタン……

 それは、いかつい装甲列車だ。

 全ての車両が装甲で鎧われて、重戦車から流用したような砲塔が載っている。

 なるほど、あの一編成の装甲列車を通すだけで鉄橋の積載荷重は一杯だろう。

「あれを通していいのか……」

 タングリスが眉を寄せる。

 彼女の心配は装甲列車の重さだけではなかった、後ろ二両が手厳しくやられて、最後尾の機関車が懸命に押しているのだ。

 あたりまえなら後ろの二両は破棄されるんだろうが、それでは最後尾の機関車も外さなければならなくなる。

「あんなもの切り離して線路脇に捨てて来ればいいのに!」

 ガリ!

 ヒルデは口に入れたばかりのキャンディーを噛み砕いた。

 渡り終えた車両が、渡り終えた安心から心配げに。足止めを食った車両からはいら立った目で見られながら、装甲列車は橋上に進入する。

 ゴットンゴトゴト! ガックンガタガタ! ゴトゴトガッタンガッタン! ガッタン!……

 最後尾が中央に差し掛かったあたりで、後部の車両から煙が上がった。

 まずい!

 思った瞬間。

 
 ドッカーーーン!!

 
 後部の車両が大爆発して、完全に停止してしまった。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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くノ一その一今のうち・50『まだまだ未熟なんだ』

2023-04-10 10:38:56 | 小説3

くノ一その一今のうち

50『まだまだ未熟なんだ』 

 

 

 魔石は無くすわ、埋蔵金は取られるわ、一世一代の大不覚に天を仰ぐ。

 

 仰いだところで空は見えない。

 ここは甲斐善光寺の地下戒壇、それも『心』の形をした、その内側の秘密戒壇の最奥部。

 クソッ

 クソ クソ クソ クソ クソ…………

 吐息が怨嗟の呟きを載せてしまい、長大な地下洞窟に響き渡る。

 まだまだ未熟なんだ。

 地下戒壇に間違いないと閃いて、でも、どこか自信が無くて、課長代理にも言わずに突出したことが悔やまれる。

 まずは確かめて、確証が持てたところで……悠長に過ぎた。

 仰いだところに見えるのは、冷たい岩肌、それがフニャフニャ歪んで、溢れた涙のせいだと知ってしゃがみ込んでしまう。

 だめだ、いまのわたしは忍者はおろかアルバイトとしても失格だ。

 口の中に血の匂いが広がる。

 悔しさと絶望のあまりに唇を噛んでしまった。

 ここに居てもしかたがない……立ち上がろうとすると洞窟の向こうに人の気配。

 目をこすると、はっきり見えた。

 怖い顔で見えてきたのは、わたしだ。同じ忍び装束のわたし。

 ドッペルゲンガーか?

 ひょっとして、今のわたしはゲシュタルト崩壊?

 

「なにをボンヤリしてる」

 

 わたしが社長の声で喋った。

「セイ!」

 跳躍前転して、目の前に立った姿は、いつもの暑苦しい社長。

「しっかりしろ、社長の儂とドッペルゲンガーの区別もつかんようでは使い物にならんぞ」

「でも……どうして?」

「服部からの連絡だ」

「課長代理が?」

「ああ、服部も気づいて、要所要所に忍びを送っている。諏訪湖から草原の国までは6000キロもある。いくら草原の幻術と諏訪明神のコラボと言っても、一気に運べるものじゃない。地脈の要所要所でブーストをかけている。儂らは、そこを襲った」

「そうですか……」

 課長代理は知っていたんだ。知っていて未熟者のわたしを……敵は、未熟者のわたしに対しても多田さん達とか、かなりの勢力を割いた。そうやって注意をそらせて、今ごろは諏訪湖で佐助たちを相手に死力を尽くして戦っているんだ。

 スタ

 かそけき音をさせて、もう一人前に立った。

 わたしの姿をしている……と思ったら、すぐに術を解いて嫁持ちさんに変わった。

「多田は、ブーストを止めて逃げていきました。ご苦労だったねソノッチ」

「嫁持ちさんも来てたんですね」

「うん、百地組も総動員だよ。諏訪湖には金持ちと力持ちが行ってる」

「多田は最後まで気づかなかっただろ?」

「ええ、風魔その一は化け物かって顔をしてましたよ」

「これで、ソノッチのお株も上がったな」

「そんな、ゲタみたいなお株要らないです!」

「ガハハ、まあ、そう言うな。評判も力のうちだぞ」

「アハハ、百地組希望の星なんだしね(^▽^)」

「もう」

 

 笑うだけ笑って二人とも消えた。わたしも、そのままホテルまで走って帰った。

 まあやは、わたしの身代わりに作っておいた毛布を丸めたのに抱き付いて寝息を立てていた。

 

 朝起きてビックリした。

 

「諸般の事情でロケは中止、昼飯食ったら東京に帰るから、準備してください」

 朝ごはんのダイニングで監督が宣言。宣言した後、プロデューサーや幹部の人たちで協議。

 協議しながらも、ちゃんと朝ご飯は食べている。この業界の人は逞しい。

「お墓参り済ませといてよかったわね」

 まあやも、ものごとの良いところを見て行こうという姿勢。

 わたし一人カリカリ、ちょっと反省して、朝食バイキングに並ぶ。

――半分は死守できたが、その半分は大阪に転送されてしまった――

 脚本の三村紘一(課長代理)が闇語りしてくる。

――大阪だったら近いからいいじゃないですか――

 騙されていたから、ちょっとツッケンドンになる。

「いやあ、今朝のソノッチ怖いなあ(^△^;)、まあやフォローしといてね」

「ダメだよ、ソノッチ、三村さん徹夜で本の書き直ししてたんだからね」

 クソ、まあやは完全に騙されてるし。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下

 

 

 

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RE・かの世界この世界:064『ノルデン鉄橋』

2023-04-10 06:11:25 | 時かける少女

RE・

64『ノルデン鉄橋』テル  

 

 

 ノルデン鉄橋は全長八百メートルのトラス式大鉄橋だ。

 
 四車線もある幅広の鉄橋で、西側から単線の鉄道、二車線の車道、一車線分の歩道になっている。

 そのノルデン大鉄橋が目前に迫っている。四車線を覆い、かつ支えている鉄の構造物は、いかにも軍都の入り口に相応しい。

 右手の南側には、その軍都ムヘンブルグ城塞都市。

 一週間前にムヘンブルグの北門を出て、そのまま、この大鉄橋を渡るところをシュタインブルグに行っていた。

 あの時以上に人や車両の動きが盛んだ。軍用車両に民間のトラックなども見えるし、自転車や徒歩で歩道を行く人たちも居る。

 ムヘンは流刑地ではあるが未開の荒れ地ではないようだ。

「北部に限られているようだが、ちょっとした開拓ブームなんだ」

 全開したハッチに寄り掛かりながらタングリスが呟く。短めのボブを川風になびかせて腕組みした姿は宝塚の男役のように景色がいい。けしてマッチョでも大柄でもないのだが、この佇まいの良さは、持って生まれたものと今までの軍歴が尋常なものではないことを物語っている。チャンスがあればケイトも交えて話がしたいが、ま、今少し親しくなってからでないと実のある話はしてくれないだろう。

 ビビ~~~~~

 いかれた玄関ブザーのような音がした。

 橋のたもとの合流点に停車した四号戦車の警笛であると気が付いたのはタングリスの反応だ。

「やあ、また会ったな軍曹」

 それは、一週間前に出会った二号戦車のクルーたちだった。

「あんたらも四号か」

「ああ、あんた曹長に昇進したのか」

 階級章が変わっていた。

「一個だけな。除隊して鍛冶屋でもやるつもりだったんだが、鍛冶屋よりも辺境警備をやれってさ、人使いが荒いぜ」

「こんなところに停車して、なにかの監視任務か?」

「いや、操縦手の交代要員を待ってるんだ」

 開け放った操縦手ハッチに済まなさそうな顔が見えた。

「卑下すんなハンス、お前が移動になれただけでラッキーなんだからな」

 そうだそうだの声があちこちのハッチからする。

「交代要員はまだなんだな」

「ああ、名前も分からん。こんなことまで軍機扱いしなくてもいいのにな」

 ピピピピ……こちらの通信手席に着信音が、受けたブリュンヒルデが何やら受け答えしている。

「その交代要員は、わたしのようです」

 なんとタングニョーストが出てきた。

「軍のやることに無駄は無いようだな。よろしくな、タングニョースト軍曹」

「曹長、あんたの名前は?」

「ルドルフだ、砲手がクリストフ、装填手がデニス、通信手がアデーレ、まあ、おいおい慣れてくれ」

「それはいいが、うちの操縦手は?」

「指示がない、問い合わせてみる」

 ブリュンヒルデがレシーバーを操作する。

「すまんが、先に行く。交代次第出発の命令なんでな」

「ああ、タングニョースト、またな」

 互いに手を振っただけで曹長は四号を発車させた。鉄橋を渡らずに川沿いを東に向かっている、東の道は軍都を迂回して南部の荒れ地に続いている。困難な南部の警備に行くようだ。

 

「信じらんない!」

 

 ブリュンヒルデがレシーバーを投げつけた。

「どうしました?」

「交代要員は無し、そっちで都合を付けろって! それもトール直々の、このブリュンヒルデに命令なんてあり得ない!」

「そうきましたか……」

 ポーカーフェイスで一同を見渡すと、頭を掻きながらタングリスは提案した。

「わたしが操縦します。姫が車長をやってください」

「えー! じゃあ、通信手は?」

「ロキ、お前だ。ポチを助手にしてがんばれ」

「オ、オレ?」

「そうだ、お前もなにかの役にたたなきゃな」

 そう言うと、ジャングルジムの中を移動するように操縦席に移った。ヒルデとロキも移動、わたしとケイトはそのままで、四号はイグニッションのスイッチが入った。

 ブリュン! ブリブリブリ!

 ブリュンヒルデの気持ちを代弁するような起動音をさせて四号は八百メートルのノルデン鉄橋を渡り始めた。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・017『開けてビックリ!』

2023-04-09 10:09:10 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

017『開けてビックリ!』   

 

 

 ちょっと後ろ向いて。

 

 家に帰るなり、玄関先でお祖母ちゃんが「ただいま」を言う間もなく命じる。

「え、なんか憑いてんの!?」

 小学校の時、いつもとは違う道を通って帰ってくると、これをやられた。

 古いお屋敷が珍しくって、しばらく眺めて帰ったんだけど、その時にいけないものが憑りついたみたいで、そうやって祓ってくれた。

 バシーン!!

「イタイ(*◇*)!」

「よし、これでいい」

「なにが憑いてたの? メッチャ痛かったんですけど」

「憑き物じゃないわ、防御力を上げておいたの」

「防御力ぅ?」

「あの70年代はメグリと相性が良すぎる感じがしたんでね、ボーっとしてると、良からぬものと出くわす気がする。まあ、予防注射」

 良からぬものと言われて10円男の加藤高明の顔が浮かんだ。

 フルフルと首を振って自分の部屋に……張り紙がしてある。

 

――5時まで立ち入り禁止――

 

「バレサン焚いてるの、終わるまでリビングに居て、あと5分ほどだから」

「ああ……(-_-;)」

 バレサンは殺虫剤ではない、漢字で書くと『破霊散』、見た目も使い方も殺虫剤と同じだから、人が来ても怪しまれない。外出とかで着いてきた妖とかが、はびこらないための予防剤。

「やっぱり、なにか連れて帰っちゃった?」

「わたしもね、入学式でいろいろ拾ってきたみたいで」

「あ、あの若作り!?」

「ちょっと座んなさい」

「え、うん」

「高校生にもなったことだから言っておくけど、メグリの中にも魔法少女の血は流れてる」

「うん、あ、はい……」

「気軽に、あの70年代に飛び込んだけど、微妙に瘴気が高い。わたしの若作りはダテじゃないのよ。魔法少女の気を高めると若くなる。つまり、現役だったころのアビリティーを呼び覚ますと若くなるの」

「え、あれ、ディフエンスのためだったの!?」

「ディフエンスだけじゃなくオフェンスのためにもね。魔法少女が少女であるのは、つまりそういうこと」

「はい」

「メグリには、そういうこと教えてないから、もしもの時は、潜在能力をフル稼働させないとも限らないから」

「フル稼働すると、どう……なるの?」

「どんどん若くなる」

「魔法幼女とか(^▽^)!」

「幼女で済めばね」

「え……」

「強力な力は使えるけど、若くなりすぎて存在が消えてしまう」

「そうなの……」

「だから、常人としての防御力だけ上げておいたの。反射力とか打撃力とかの身体能力。あくまで、人間としての能力だから、基本は危ないところには行かない、近づかないこと」

「はい」

「まあ、お茶でも淹れよう、向こうで今川焼き買ってきたから」

「あ、一個20円!」

 初日に見つけて、まだ買ってないアレだ!(005『1970年のこんにちは』)

「それと……学校から書類とかもらってきてない、入学の前後っていろいろあるから」

「あ、そだ!」

 入学式でもらったあれこれ、部屋に置きっぱだ!

「あ、ちょ……」

「もう5分経ったでしょ……ウワ!」

 

 ドアを開けて後悔した。

 

 六畳の部屋には、妖や化け物の幼体、それがムクロになってゴロゴロ転がっていた。

 急いで窓を開ける。

 サッと四月の風とお日様の光が入って来て、ムクロたちは蒸発するように消えていった。

 こういうのは普通の人間には見えない。瞬間、自分の血を呪ってしまった。

 

 そして、四月九日。

 

 今日から本格的な高校生活が始まる!

 そう思ったら緊張して、朝礼前にトイレに行く。

 女子トイレは階段のすぐ横、で、入ってビックリ。

 ある意味、自分の部屋を開けてムクロたちに怖気を振るったよりもビビった!

 八つある個室のどこを開けても洋式が無い! 

 

 ぜんぶ和式なんですけど!

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

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RE・かの世界この世界:063『ペギーとの再会』

2023-04-09 06:39:24 | 時かける少女

RE・

63『ペギーとの再会』テル  

 

 

 ケイトの石化を解いてやると金の針が無くなってしまった。

 
「面倒だが、車外に出る時は必ずゴーグル着用だ。車内でも覗視孔から外を見る時はゴーグルだ。石化しても直しようがないからな」

「メデューサなんて聖戦以来だな」

 タングリスの注意に応えながら、タングニョーストはアクセルを踏む。

 ブルンと身震いして四号は再び走り始めた。

「来るときは、強敵だったがシリンダーと融合体に出会っただけだった。プレパラートとかメスシリンダーだとか、クリーチャーが多すぎないか」

「主神オーディンの力が弱っているのかもしれない、心して進まなければな」

「下手をすれば、また戦争が始まるかもしれない……」

「あれ、真っ赤に錆びついてるよ……」

 ペリスコープから先ほどの戦車を見てケイトが呟く。わたしも意外だ。メデューサのとは言え、戦車兵のナリで少女は転がり出てきたのだ。当然生きた戦車だと思う。

「メデューサは、廃墟や残骸を依り代にして現れるんだ。戦車そのものは先の聖戦で撃破されたスクラップさ。ムヘン川沿いは激戦地だったから、あちこちに残骸がある」

「あ……変なオバサンが居た」

 ペリスコープを覗いたままロキが呟く。

「オバサン?」

「メデューサか!?」

「違うと思う、ニコニコしていたし、大きな荷物を担いでいた」

「どこにいた?」

「草が少し禿げたとこ」

「タングニョースト、戻ってみてくれ」

「了解」

 グィーーーーーーーン

 四号が遊園地のコーヒーカップのように回れ右をした。超進地旋回というやつだろう、ちょっと目が回る。

 戻ると、そのオバサンは道の真ん中に出てきて陽気に手を振っているではないか。

「あ、ペギーだ! 出ていい? いいよね!」

 ろくに返事も聞かないでケイトが飛び出して、わたしたちも続く。

 


 オバサンは、始りの荒野で店を開いていたペギーだ。

 


「ペギ―、夜逃げでもするのか?」「重そうだな」

 知り合いらしく、タングリスもハッチを開けた途端に声をかけている。

「行商に出た方が儲かりそうな気がしてね」

「まあ、ちょうどよかった、少しばかり金の針が欲しい」

「おや、あれ以来だけど、あんたらもたくましくなったね。その子は?」

「ああ、わけあって預かってるんだ」

「そうかい、まあ、旅は賑やかな方がいいさね。で、金の針は使いきっちまったのかい?」

「ああ、一本も無い。ついさっきメデューサに出くわして、その坊主が間近で目を見ちまったんでな」

「メデューサ……やっぱ、復活したんだ(⌒∇⌒)」

「嬉しそうに言うなよ」

「少しは女らしい喋り方をした方がいいよ、ちゃんとしたナリをしたらいい女なのにさ」

「軍人に性別はない」

「ああ、トール元帥の副官なんかをしてちゃなあ」

「ポーションも少し欲しいんだ、1000ギルで買えるだけくれ」

「1000ギル? しみったれてるねえ」

「あれから稼いでないんでな」

「ウィンド開いてごらんよ、もっと貯まってるはずだよ」

「あ、そんなものがあったね……」

 
 日々のことに追われて、しばらくご無沙汰のウィンドを開いた。

 HP 2500  MP 1200  所持金 8500ギル

 
「すごい、いつの間に?」

「ステータスはこまめにチェックしなきゃ。これだけあるなら石化防止の指輪も買っときな、一個1000ギルに負けといてやるよ。おや、四号に六人も乗ってるんだ、リクライニングシートにして、エキストラシートも付ければ快適になるよ」

「とても、そこまでのギルはないよ」

「消耗品以外はリポ払いにすればいいさ」

「リポ払いってなに?」

 ケイトが身を乗り出す。

「リボ払いみたいなもんじゃないか?」

 前世の知識が蘇る。

「冒険者の予測経験値で組めるローンみたいなもんさ。あんたたちは前途有望だから……10万ギルまでいけるよ」

「え、すごいじゃん!」

「うんうん」

 ロキが目を輝かせ、ケイトがウキウキしてペギーのペースになっていく。

 ロキを除く五人のリポ払いで80000ギルも使わされてしまった。

「あんたらには武器も売りつけたかったけど、トール元帥の技物を持っていたんじゃねえ。お、坊主、珍しいもの持ってるじゃないか!」

 ペギーに目を付けられ、ロキは後ずさりする。

「シリンダーの幼体が人に懐くとは珍しい! 売りなよ、20000ギルで引き取るよ!」

「やだ、ポチは売り物じゃねえ!」

「残念、売りたくなったら、いつでも言っとくれ。必要な時、必要な所には現れるからさ。ところで……」

 
 それから一時間以上喋って、ペギーと別れた。タングリスたちとペギーの話は半分も分からなかったが、互いに情報を交換できて有意義だった。

 

 明日にはノルデン鉄橋に着けそうだ。

 

☆ ステータス(買い物を終えて)

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ            無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス             トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 グリの相棒 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

    二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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せやさかい・399『灌仏会の前日は始業式』

2023-04-08 14:37:01 | ノベル

・399

『灌仏会の前日は始業式』さくら   

 

 

 

 昨日は一日中雨やった。

 

 散り始めてた桜は、この雨で一気に花を落として山門の桜は完全に終了。

 まあ、雨のお蔭で境内の掃除はやらんで済んだんやけどね。

 

 その雨の中、昨日の七日は始業式やった。

 

 一年の始まりが雨というのは、ちょっと凹む。

 制服はクリーニングしたてやのに、堺東まで自転車で行ったらスカートびちゃびちゃに濡れるし。

「よし、わしが連れてったろ」

 お祖父ちゃんが車で送ってくれる。帰りはテイ兄ちゃんが迎えに来てくれることになる。

「お祖父ちゃん、ありがとう……ウワ!」

 ブゥィーーーーン ベシャ!

 車降りたとたんに、原チャがすり抜けて盛大に水しぶき。ドアがガードしてくれて制服は無事やけど、足と頭にけっこうな水しぶき。

 まあ、ええねんけど……これは学校に着いてからのさらなる不幸の序曲に過ぎひんかった(-_-;)。

 

 ええ( ゚Д゚)!?

 

 昇降口に貼ってあるクラス表見て目ぇ剥いた!

 お仲間が、ほぼ完全にバラバラ。

 留美ちゃん・1組  メグリン・2組  さくら&ソニー・3組

「まあ、こういうこともあるよ」

 留美ちゃんは冷静に受け止めてる。

「せやかてぇ」

「今までが幸運過ぎたのよ。中学一年からずっと同じクラスなんて、ふつうあり得ないよ。もう高校二年なんだし……」

 そこまで言うた留美ちゃんが息を呑んだ。

「え、月島先生いない……」

「あ!?」

 8クラスある新二年生の、どのクラスを見てもペコちゃん(月島先生)の名前が無い!

 中二の時からの担任で、うちらが真理愛学院に進学すると同時にペコちゃんも真理愛学院に転職してた。

 なんと、中二からずっと同じなんで、これは高校出るまでずっとうちらの担任やと思てた!

 

 いつまでもあると思うな親と担任……格言のモジリがシュールに浮かんでくる。

 

「まさか、学校辞めちゃったんじゃ( ゚Д゚)!」

「え、どないしょ!?」

 なんや、地面が無くなってしもたみたいな不安にかられて、思わずラム&レムみたいに手を取り合う。

 あんまり気のきかん先生やったけど、うちらには頼子さんと並んで、うちらのオネエチャンいう感じの存在やった。

 担任イコールペコちゃん! ペコちゃんイコール担任! そんな存在やった!

 

「ちょっとぉ……手伝ってくれるぅ(;゚Д゚)」

 

 後ろで声。

「「え?」」

 振り返ると、そのペコちゃんがケーブルとかはみ出た段ボールの箱抱えてフーフー言うてるやおまへんか!

「ちょ、せんせ!?」

「担任降りても仕事はあるのよ。まだ時間あるでしょ、体育館までだから運ぶの手伝ってぇ」

「「は、はい!」」

「今年度は視聴覚係りでさぁ、体育館は講堂と違って、放送設備はその都度だからねえ……ヨイショ」

「ウンコラショ、なんで担任辞めたん?」

「中学から、もう三年連続。それに、うちの神社のこともね……」

 荷物が重いせいか、ちょっと仕事にも生活にも疲れた「OLのお局様」みたい。

「だれがお局様よ」

「え、なんで!?」

「さくら、口に出てた(^_^;)」

「まあ、バラバラになっても同じフロアだし、担任はみんないい先生だし、がんばんなさい」

「3組のコトリアソビいうのは、どんな先生なんですか?」

「コトリアソビ?」

 プ(;゚;ж;゚; )

 なんでか、留美ちゃんが吹く。

「小鳥遊(タカナシ)って読むんだよ」

「ええ、ほんまぁ!?」

「再任用だけど、いい先生よ。お歳召してるから、ご迷惑かけるんじゃないわよ」

「そら、もちろん。伊達に十七歳……あ……(n*´ω`*n)」

「ん?」

「そうだ、さくらは明日が誕生日なんですよ。花の17歳」

「そうか……早いものねえ(-_-;)……」

「なんか、死んだ子の歳を数えるみたいにシミジミせんとってくれます」

「ああ、ごめん。あ、ここでいいよ。じゃ、今年もがんばってね」

「「はい」」

「あ、それから、散策部の顧問は辞めてないからね」

「それも辞めてたら殺します!」

「おお、こわ~い(^0^;)」

 

 それから、教室に行って、いつもの学年始め。

 

「小鳥遊先生は、さくらの祖父君と同じ歳であられるようだぞ」

 席が隣になったソニーが、こっそりと教えてくれる。

「え、こ、古希!!?」

「酒井くん」

「すみません」

「謹んで指導第一号の称号をあげよう」

 先生は真面目な顔のまま閻魔帳に書いた。みんながクスクス笑う。

 

 今年も人に笑われるとこから始まってしもた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任)
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RE・かの世界この世界:062『メデューサに徹甲弾!』

2023-04-08 06:07:04 | 時かける少女

RE・

62『メデューサに徹甲弾!』テル  

 

 

 地図で見るとノルデン鉄橋に向かう道は東への直線だ。

 

 しかし、実際には微妙に蛇行しているし高低差もある。

 時おり、左にムヘン川が見える他は、道の両側は草原か灌木林で、道の蛇行や高低差と相まって、地図で見るほどに見通しはよくない。

 時々、車載機銃や75ミリの主砲で榴弾を撃ったりする。

 見通せない向こうを警戒するためだ。これまでに、シリンダーやプレパラートを発見し、避けたり駆除しながらここまでやって来た。

「2シュトリヒ先の灌木林、機銃掃射」

「2シュトリヒ先の灌木林、機銃掃射」

 タングリスの発声を復唱してトリガーを引く。

 タタタタ

 乾いた発射音、灌木林の中で火花が四つする。

「いい勘をしているな、岩か何かがあるぞ」

 火花がたつということは固いものがある証拠だ。

「少し左にも当ててくれ」

「承知」

 タタタ

 再び火花、けっこう大きな岩か金属の構造物がある模様。

「榴弾、撃ってみるか?」

「いや、徹甲弾にしてくれ」

 榴弾に手を伸ばしていたケイトが怪訝な顔をする。シュタインドルフを出てから徹甲弾など撃ったことがないからだ。

「装填急げ」

「徹甲弾装填!」

 測距用ペリスコープで照準を確認。他の乗員もペリスコープにかじりつく気配。

「テー!」

「テー!」

 復唱してトリガーを引く。ガクンと発射の衝撃、主砲尾部が後退してリロード。

 リロードの瞬間、装填手のケイトはへっぴり腰になる。主砲尾部のリロードから身をかわすためだ。

 最初のころはロキが笑った。その都度ケイトに頭を張られていた。餅つきのリズムに似ている。

 今は笑わない。慣れたこともあるが、徹甲弾を撃つというイレギュラーなことに興奮しているのだ。

 

 ズッガーーーン!

 

 灌木林の中で爆発が起こり、火花と破片が舞い散って煙が上がる。

 戦車か?

 思った瞬間、人影がまろび出てきた。

 髪をなびかせながら道に出てくると、膝をついて頽れてしまった。

「女の子だ!」

 声を発すると同時に、ハッチを開けてロキが飛び出した。見えない糸で繋がったようにポチが続く。

「待て!」

 タングリスの制止も間に合わない。ロキもポチも四号の構造に慣れてしまって自在に動けるようになったのだ。

「ロキを追え!」

 操縦席と通信手のハッチが同時に開いて、タングニョーストとブリュンヒルデが飛び出す。

 少女戦車兵の傍に寄って手を掛けたロキが、ストップモーションのように静止した!

「メデューサだ! ゴーグルをかけろ!」

 叫びながら飛び降りたタングリスはゴーグルをかけて走り出した。右手にはなにかを握っている。

 タングニョーストとブリュンヒルデは姿勢を低くして近寄ると固まってしまったロキを引き離しにかかる。

 メデューサはノロノロと起き上がろうとする、おそらく負傷しているんだろう。

 三メートルほどに近づいたタングリスはメデューサに跳びかかると背後から首をロックした。

 はっきり顔の見えたメデューサは哀願の表情の美少女だ。口をパクパクして命乞いをしているようにも見えるが、タングリスは斟酌せずに手にしたものをメデューサの口にねじ込んで飛びのいた。

 ドーン!

 メデューサの首が吹っ飛んで、肉片が四方に飛び散った。

 思わず口を押えるほどに凄惨な光景だったが、数秒後には肉片もろともメデューサは消えてしまった。

「金の針を!」

 そうだ、石化を直すには金の針を打ち込むしかない。

 始まりの草原で仕入れた金の針をケースごと投げてやる。

「間近でやられたんできついなあ……」

 五本の金の針を使って、やっとロキは元に戻った。心配そうに飛び回っていたポチがすり寄って、やっと人心地がついたようだ。

「さ、おちついたら前進だ」

 車内に戻ろうとして気づいた。

 半身をハッチから乗り出したかっこうで、ケイトが石化していた……。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:0 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)     二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)   今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス        トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
 ロキ           ブァイゼンハオスの戦災孤児
 ポチ           ブァイゼンハオスの子どもたちが飼っていたシリンダーの幼生

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
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