大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 117『また例の田園風景』

2023-04-07 12:54:15 | ノベル2

ら 信長転生記

117『また例の田園風景信長 

 

 

 目が覚めると、また例の田園風景。

 

 この前とは逆の方向に体を捻る。

 ガチャリ

 やはり草摺りの鳴る音がして鎧を着こんでいることが分かる、手で触れればやはり鶴姫の胴丸鎧だ。

 しかし、反対側に体を捻ったので見えているのは土煙を上げて進軍する軍勢ではない。

 子どもの頃に遊びまわった尾張の村々だ……が、少し様子が変だ。

 尾張は美濃と並んで実り豊かなところだ。

 平手の爺に習った知識では、平安の昔から上国に分類され、都の中級貴族どもは進んで国司になりたがった。

 中級だから都での出世は望めないが、甘い汁をいっぱい吸って私腹を肥やすために都に近い上国に行きたがる。

 そんな国司は迷惑千万なのだが、そういう国司たちにむしり取られても、まだ余りある豊かさがあった。

 だから、尾張の村々は、どこでも活気があった。

 村人たちは田楽の歌や拍子に合わせて田植えや稲刈りに励み、手伝いの終わった子らはあぜ道を走り回って遊んでいた。

 田んぼは稲刈りが済んだ後か…………いや、これは早田刈りだ!

 賊どもが村々を襲い、刈り入れ寸前の田畑の実りを根こそぎ刈っていく狼藉だ。

 百姓が愛しむようにして刈った跡ではない。後妻打ち(うわなりうち)にあってジャキジャキに髪を刈られた女の頭のように無残だ。

 村が焼かれた気配はない。

 おそらくは、一度の襲撃では稲を刈るのが精いっぱいで、時を改めて二度目の襲撃に来る腹積もりなんだ。近隣の村々も同じ目に遭っているに違いない。

 

 あぜ道を進んで村の入り口に来ると、首が晒してあった。

 

 髪を大童にした若者の首だ……首筋の肉付きもよく、死してなおキリっと口を結んで、目こそつぶっているが眉尻は上がって、なかなかに逞しい。

 見下ろすと、晒木の下には赤い布切れ……紐が付いているので下帯(フンドシ)かと思ったが、広げて見ると腹掛け。

 その赤い腹掛けの真ん中には、太々と金色で金の一字が書かれている。

 

 こいつ、金太郎か!?

 

「今度は、わたしも付いていきます」

 右の腰が軽くなったかと思うと、あっちゃんが巫女服姿で現れた。

「わしも力になろう」

 今度はオモイカネの爺さんが現れる。

「グ、今さらという感じがするぞ」

「そう申すな、今度は、百姓たちにも迷惑をかけておる、数は多い方が良い」

「アハハ、三人だけだけどね」

「人相の悪い鎧女が乗り込んだら、百姓たちは逃げてしまう」

「誰が着せた鎧だ」

「必要だからじゃ。さ、まずは村の中へ……」

 そう言うとオモイカネはさっさと村の中に進んでいく。

 神主風のオモイカネ、巫女服のあっちゃん、それに鎧姿の俺。

 まあ、名のある神社の神主が巫女と護衛を連れてやってきたぐらいには見える。

 

 その効き目があったのか、村の広場に至るころには恐る恐るながらも村人が集まってきた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚

 

 

 

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RE・かの世界この世界:061『草上のバーベキュー』

2023-04-07 07:42:38 | 時かける少女

RE・

61『草上のバーベキュー』テル  

 

 

 

 教室ほどの広さに草が刈られている。

 
 特徴がある。

 ほとんど真円に刈られた草地は絨毯のようで、草の丈は二センチほどでしかなく、腕のいい庭師が精密に刈ったみたいなのだ。

「プレパラートの巣の跡だ」

 砲塔の上、双眼鏡で周囲を見渡しながらタングリスが言う。

「プレパラート?」

「クリーチャーさ。単体では一センチ四方ほどの薄いガラス片にしか見えないんだが、生き物だ。川岸に巣を作って、蟻のように集団で生活している。多くなりすぎると巣を放棄して、新しい営巣地を求めて移動するんだ。全個体が集合するまで、巣の上を円を描いて飛びまわる。それで草が綺麗に刈り取られるんだ」

「相当鋭利に出来ているんだな……」

「ああ、大型のクリーチャーを集団で襲うこともある」

「そんな奴らの巣の上で休憩して大丈夫なの?」

 首だけハッチからのぞかせたロキが不安そうに言う。

「放棄した巣には戻ってこない」

「タングリス、どのくらい休むんだ?」

「二時間ほど。ここを出たら、一気にノルデン鉄橋を目指します」

「二時間あれば魚が釣れるな」

「釣りをなさるんですか?」

「流刑地じゃ自給自足だった。上手いものだぞ、闇の力で得物を引き寄せ、一気に仕留めるんだ。おまえたちも付いてこい(^▽^)/」

「でも、釣り竿とかどうするの?」

 見ると、タングニョーストが四号のアンテナを外している。戦車の装備と言うのは無駄がないようだ。

「バーベキューにするから、用意をしておいてくれ」

「こんな草地で火を使うのか?」

「大丈夫だ、水を撒けば問題ない。念のために石ころで炉を作ってくれていると嬉しい」

「よし、わたしとケイトでやっておこう」

 あっという間に役割分担ができて、釣り組と設営組とに分かれた。

 

 ピピピピ ピピピピ

 

 ブリュンヒルデのCアラームが鳴りだして、緩みかけた空気がいっぺんに張り詰める。

「北西の方角……そんなに近くはないが」

 いったん降りた四号に駆けあがり、タングリスが双眼鏡を構える。

「プレパラートがメスシリンダーを襲っている」

「ほんとうか!?」

「メスシリンダー?」

 シリンダーの一種なのだろうが、初めて聞くクリーチャーだ。

「大型のシリンダーだ、プレパラートとは共存しているはずなんだが……どうやらクリーチャーの間にも異変があるような……」

 瞬間迷ったブリュンヒルデだったが、こちらにはやってこないと踏んでアンテナの釣竿を肩に魚釣りに出かけた。

 やがて、小魚や目の下五十センチもある魚を三匹釣ってきて、バーベキューが始まった。

 魚の名前を教えてもらったが、みんなで食べているうちに忘れてしまう。

 それと、いつの間にかタングリスとタングニョーストの言葉が変わっている。文字にするとタメ口だが、遠慮のない同僚・同輩に対するそれで距離が近くなった。指摘すれば、任務以外は不器用そうな下士官たちはアタフタしてぎこちない敬語に戻してしまうだろう、この方がいい。

 ロキとケイトはポチをボールにしてキャッチボール。やがてボールにされることに飽きたポチが追いかけまわして鬼ごっこに変わる。

「鬼ごっこならヒルデも入れろ!」

 最初は我々と大人の会話をしていたヒルデも小魚を咥えたまま参加する。

 凛とした姫騎士の姿も見せるヒルデだが、時どきスイッチが切り替わったように子どもっぽい姿も見せる。

 使い分けているんじゃない、そうなってしまうんだ。

「その通りだ、姫の周囲は大人ばかりで、十分に子どもの時代を過ごせないでお育ちになった。テルも自然に受け入れてくれると嬉しい」

 タングリスはタングニョースト共々、チェックしていた行程表から顔を上げて目を細める。

 自分のことはともかく、ヒルデのことはよく分かっているんだ。

 

 楽しかった。

 どうやら、六人はいいパーティーになりそうだ。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)     二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)   今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス        トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
 ロキ           ブァイゼンハオスの戦災孤児
 ポチ           ブァイゼンハオスの子どもたちが飼っていたシリンダーの幼生

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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銀河太平記・155『邂逅する者たち・3・スロットル』

2023-04-06 15:46:34 | 小説4

・155

『邂逅する者たち・3・スロットル』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 

 なんだ、付いてこないのか。

 

 パルスバイクの側車を示すと、孫大人はニヤリと笑った。

「命が惜しい」

「満州じゃ地平線の向こうまで馬を走らせた仲じゃないか」

「何十年前の話アルカ」

「そうだな、あの頃、俺は新米の中隊長。大人は西域公司の五番番頭……」

「四番番頭アルよ、それに、勝ったらグランマが一晩付き合ってくれるって話だったアル」

「そうだったのか。勝ちを譲ってやるんじゃなかった!」

「あれは、実力アル! それに、一晩付き合ってやらされたのは、超アナログな帳簿の整理だったアル」

「アハハ、そうだったな。じゃあ、今度も西之島のロジスティクスは頼んだぞ」

「任せろアル。大事なお得意様アルからなアル!」

「だから、その変な中国語はよせ」

「普通に喋ったら泣きそうだ、劉宏は簡単な相手じゃない。なんだか、今の児玉はあの戦いの前日、北大街で会った時のようだぞ」

「それは、孫悟兵、貴様もいっしょだ。これから漢明と付き合うには悟兵みたいな奴は欠かせんからな。お互い命は大事にしよう」

「お、おお」

「元帥、そろそろ……」

「ヨイチ、貴様は残ってくれ」

「は?」

「ヨイチは、俺とは別に仕事があるような気がする。まあ、作戦会議までには戻る」

「お気をつけて」

「ああ、俺も一人で決戦するつもりはないからな。では!」

 

 ウィーーン

 バイクのスロットルを上げる。

 レトロな表現ではナナハンの倍ほどの馬力のあるバイクだが、パルスエンジンなので馬力に相応しい爆音がしない。

 やはりオートホースの方が身には合っている。馬腹を蹴って瞬発。瞬発して人馬共にアドレナリンが沸騰するような感覚が懐かしい。

 下方四時の方向から同型のパルスバイクが追って来る。

 シュィーーーン

 高度を下げて横に並ぶと、さっきブンカ―で出会ったラボのメグミ所長だ。

「どこに急いでいるのかしら?」

「あ、越萌さん」

「救急ね?」

「ええ、危篤状態のロボットのパルス半導体を交換してあげたいんですが予備が無くて……」

「負傷したロボットから部分的な移植をすれば……あ、型式が?」

「はい、ポーランド式で、漢明の……」

「戦死体から取る?」

「それよりも古いんです。敵の舟艇やパルス機に組み込まれているので、それを挑発に行きます」

「西部海岸に押し寄せてきた部隊ね」

「はい、撃破されて擱座しているものから頂きます」

「そう……分かった。南部で陽動攻撃を加えるわ。そう……三十分でいいかしら?」

「危険です! 南部は敵が集中しています、劣勢になりつつはありますが、まだまだ健康な部隊も存在しています!」

「じゃあ、強行偵察をやるまでよ!」

 

 ブィーーーーーーン!!

 

 つい馬のつもりになってボディーを蹴ると、思いのほかの爆音でパルスバイクは飛び出した。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

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RE・かの世界この世界:060『Cアラーム』

2023-04-06 06:48:03 | 時かける少女

RE・

60『Cアラーム』テル  

 

 

 前にも触れたが、ムヘンは菱餅の形をしている。横に長い◇(菱形)と言ってもいい。

 

 菱形の、ほぼ真ん中を東西に流れているのがムヘン川。

 ムヘン川の真ん中と西の端に玉がぶら下がっている。

 真ん中の大きいのが城塞都市ムヘンブルグ。西の小さいのが今朝まで居たブァイゼンハオス(孤児院)があるシュタインドルフ。

 そのシュタインドルフとムヘンブルグを結ぶ川沿いの道を東に向かっている。ノルデン鉄橋を渡って北辺の港ノルデンハーフェンを目指しているのだ。

 何事もなく進んで行けば、ノルデン鉄橋までは三日の行程だ。

 二号戦車の倍ほどの広さのある四号戦車の車内だが定員五人のところを子どものロキを入れて六人が乗っている。

 大きいと言っても戦車だ。長距離バスのように休憩用のベッドも無ければ、シートがリクライニングになっているわけでもない。

 

「……お尻が痛い」

 

 主砲の尾栓の下で声がする。

 ロキが情けない顔をして中腰になっている。

「振動で、お尻の骨がバラバラになりそうだよ」

「辛抱しろ、ノルデン鉄橋までは油断できないからな」

 砲手席から声を掛ける。

 ちなみに車内の配置は、車長・タングリス、操縦手・タングニョ-スト、砲手・テル、装填手・ケイト、通信手・ヒルデ、そして車長の足元でロキが膝を抱いてしゃがんでいる。

 来るときにシリンダー融合体に襲われた。なんとか切り抜けたが、いつ襲われるかしれないので、うかつに車外には出られないのだ。それに、襲ってくるのはシリンダーとその融合体とは限らない。ムヘンには主要街道沿いだけでも九十九種類のクリーチャーが確認されているという。

「ん……?」

 ロキの尻の方で動くものがある。ロキも気づいて後ろを見ると、シリンダーの幼体であるポチがスリスリしている。

「ポチ……そうか、お尻が痛いから撫でてくれているんだな……」

 ロキがしみじみ言うと、ポチがこころなしポッと赤くなったような気がした。

「ごめんよポチ、気を使わせちまったな。いいよ、おかげでマシになった」

 ロキがやせ我慢を言うと、ポチはロキの頬に回ってスリスリする。

 尻のマッサージよりも効き目があるようで、ロキはくすぐったそうに目を細めている。

 

 ピピピピ ピピピピ ピピピピ

 

 突然アラームが鳴った。

「できた!」

 通信手席のヒルデが声をあげる。アラームはヒルデの手元からしている。

「なにをしてるんだ?」

 車内の視線がヒルデに集まって、バレンタインチョコを上手く作れた女子中学生のような笑顔で振り返る。その手には、スマホみたいなのが掲げられている。

「クリーチャーアラームを作ったんだ! 略してCアラームだ!」

 なるほど、ピピピのアラームはヒルデの手元のそれから発している。

「てことは、間近にクリーチャーが(; ゜゜)!?」

 ケイトが足を上げてアタフタする。

「ポチに反応したんでしょ」

「「ポチは除外しておいてください」」

 車長と操縦手のシートから声がする。ヒルデが数回画面を操作するとアラームは消えた。

「ポチは、別の登録にしておいた」

「え、どんなの?」 

 乗り出したロキの鼻先のポチにCアラームが突き付けられる。

 
 ポチポチ ポチポチ ポチポチ

 
 これは分かりやすい、車長席のタングリスまでが笑っている。

 タングリスは、笑うと意外に可愛い……思ったが言わない。

「じゃ、Cアラームが鳴らないのを確認して休憩にしよう」

 
 ヒルデがOKサインを出して、四号は停車した。

 ガチャリ

 一斉に五か所のハッチを開ける。

 うーーーーーん

 思わずのびをして、深呼吸したくなるような新緑の空気と日差しに生き返る五人であった。

 

 見上げた空には、我々同様に東を目指す雲たちがゆっくりと流れていた。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)     二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)   今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス        トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
 ロキ           ブァイゼンハオスの戦災孤児
 ポチ           ブァイゼンハオスの子どもたちが飼っていたシリンダーの幼生

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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くノ一その一今のうち・49『してやられる!』

2023-04-05 11:34:53 | 小説3

くノ一その一今のうち

49『してやられる!』 

 

 

「450年も昔なら、いっしょに戦えたんだろうけどね」

 

 ちょっと昔の人工音声のように抑揚が無い、いや、特徴が無い。

 多田さんは、顔ばかりではなく声もつかみどころがない。

「そのっちはいいものを持っているよ。素直なくノ一だが、自分を殺しているわけではない。九割九分任務と弁えても一分のところで自分を捨てないでいる。忍びと云うのは非情なものだが、非常の根元にあるのは情けだ。伊賀も甲賀も百地や風魔も、元をただせば山や谷でしか暮らせない弱い里人の群れだ。役小角の昔から、おのれの技を売って里の生活を守ってきた。おのれ一人安穏に暮らすには十分な知恵と才覚、技を持っているのに、おのれ一人の為に生きることはしない。里の妻や子、年老いた親を養うためにワザを生かす。それは、つまりは人への執着。今風に言えば愛情だね。先祖代々木下家に仕えているとね、木下家の方々は、もう理屈を超えて守るべき同じ里人、里人の尊き……なんだろう、僕は照明技師だから監督や作家のように言葉は知らないが、里人の主、神、そういうものなんだよ。そう、そのっちが鈴木まあやに抱いている温もりのある気持ち、そういうものをぼくたちは持っているんだ……だから、木下も鈴木も、一つの豊臣であったころならば……」

 思わず聞いてしまう。

 話の中身じゃない、見てるうち聞いてるうちにも揺らめいてとりとめのない顔と声。

 心理テストで――これは何に見えますか?――という図形がある。それを「え、なんだろう?」と思って見つめてしまって他が見えなくなる感じ。道を歩いていて声や物音が聞こえ、それが犬の声にも猫にも子どもの声にも聞こえ「え、なんだろう?」って思わず耳を澄ます、あの感じ。テレビを見ていて電話の音がして、リアルなのかテレビの音なのか分からなくって「え? え?」と迷う瞬間に似ている。

 つまりは、目くらましに遭っている。

 気づいた時には、目の前に圧が迫っていた。

 シュッ シュシュッ

 サイレンサー付きの拳銃から撃ちだされた弾が三発、頬と胸元を掠めていく!

 セイ!

 横っ飛びに跳んで側壁を蹴って、拳銃を持っていた下忍二人が構え直す寸前に蹴り倒す。

 グキ

 一人には確かな手ごたえ、もう一人は派手に吹飛んだけど、これは衝撃を和らげるための受け身だ。

 シュッ シュシュッ シュシュッ シュッ シュシュッ

 立て続けに8発。

 一発は。マトリックス並みにのけ反った足もとから下腹部胸元に沿って銃弾が走って、自分の前髪が数本吹飛ぶのが見える。僅かに遅れて鼻の奥にきな臭さが満ちる。

 大丈夫、銃弾は鼻先を数ミリ外れて後ろの岩に火花を散らせた。

 シュッ シュシュッ

 一人が一発、もう一人が二発。

 一人を延髄蹴りで仕留め、もう一人には懐から出したクナイを振るうが、わずかに浅手を負わすのみ。

 シュシュッ  ドガ  ドス  シュッ  シュシュッ  ゲシ  ドガビシ  シュシュッ  ドガドガ 

 血の匂いがして視界の中に見えるのは、さっきの倍の距離を取った多田さん一人。

「そのっちには、わたしの目くらましもあまり効き目はないようだ」

 !? !?

「気を張らなくてもいいさ。手下は、怪我人も含めて引き上げさせた」

「いつのまに?」

「その程度には目くらましは効いたわけだね。まあ、そのっちもここまで来たことは褒めてあげよう。御褒美に種明かしをしてあげる」

「種明かし?」

「信玄の埋蔵金さ」

「あ!?」

 いつの間にか、見える範囲の埋蔵金は消えてしまって枕木だけになっている。

「これはね、甲賀流忍法と草原の国の幻術の合わさ技なのさ」

「合わせ技?」

「甲府の北東に諏訪湖がある。そこには百キロ近い地溝帯が走っている、地上からでも宇津谷(うつのや)や中央本線が走っているのでよく分かる。つまりは地脈や霊脈というものが走っていてね、忍法と幻術の技を持って埋蔵金を諏訪湖に運ぶんだ。そう、そのっちが思ったゲームのテレポとかテレキネシスに似ているね。諏訪湖まで転送した埋蔵金は、諏訪湖周辺の神々の力をバネとして、遥か西方の草原の国に運ぶんだよ」

「それで草原の国を!?」

「そう、かの国の王子を応援し、木下家とゆかりの深い政府を築き上げる。いずれは豊臣の本姓に戻った木下が、その上にユーラシアに跨った大帝国を築き上げるというわけさ」

「そんな馬鹿気……」

 言い切れなかった。

 先月、その草原の国に行って、社長や嫁持ちさんといっしょに戦ったばかりだ。

 

 しまった( ゚Д゚)!

 

「話に付き合ってくれてありがとう、どうやら大方の埋蔵金は運び出せたようだ。ここに少し残っているが、これは鈴木家への餞別だ。まあやさんにも豊臣の分家として相応しい暮らしをさせてあげてくれ……これは猿飛佐助の言伝だ。それじゃ……また!」

 ボン!

 いっしゅん煙が舞ったかと思うと、多田さんの姿は消えてしまった。

 

 し、しまったあああ(# ゚Д゚#)!!

 

 けっきょくは多田さんの語りに惑わされて後れを取ってしまった……それどころか、胸に下げていた魔石が無い!

 そうだ、さっき、マトリックスで弾を避けた時に、チェ-ンが切れて!

 風魔その一、一世一代の不覚をとった(#⊙ꇴ⊙#)!!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
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RE・かの世界この世界:059『仮想タブレット』

2023-04-05 07:23:51 | 時かける少女

RE・

59『仮想タブレット』テル  

 

 

 ムヘン川の南岸を東に進んでいる。

 本来ならムヘン街道を北に進んでノルデンハーフェンを目指さなければならないんだけど、ひょんなことからシュタインドルフのブァイゼンハオスに寄った。のんびりしていられる旅でもないんが、ムヘン川の鉄橋に出るまでは単調な川辺の道だ。

 インタフェイスを仮想タブレットにして、ここまでのあれこれに思いをいたしてみる。

 これまでにも散文とも言えないメモのようなことを書いている。


 ブリュンヒルデ

 主神オーディーンの娘にしてムヘンの囚人。始まりの草原からやってきたわたしとケイトと行動を共にして脱走。そして、わたしたちを引き連れてヴァルハラを目指している。父オーディンにぶつけなければ収まらない想いがあるようだ。もし、ヴァルハラが川の向こう程の近さなら、天地を揺るがすような親子げんかになりそうな気が……おそらく、ヒルデ本人も予感している。予想される長い旅路は、ひょっとして、ヒルデ自身が必要とする、あるいは乗り越えなければならない心の距離なのかもしれない。

 タングリス。

 ムヘンの総督トール元帥の副官をタングニョーストと共に務め、トール元帥の意向でブリュンヒルデのお供をしている。体育会系美人のキャリア風だが、さっきのポチの件とか他の戦車兵とのやり取りを見ていると、意外にフレキシブルな対応ができるのかもしれない。

 タングニョースト。

 タングリスの同僚でトール元帥の副官、陰ながら我々の旅のサポートをやってくれるらしい。今回もヴァイゼンハオスのわんぱく坊主ロキを連れて行くことになって、小さな二号戦車ではどうにもならないところ、四号戦車を持ってきてくれた。それが、タングニョースト自身の意思なのかトール元帥の指示なのかは分からない。とりあえずムヘン北端の港であるノルデンハーフェンまでは同行してくれるようだ。タングリスは、常に傍にいてヒルデや我々の世話を、タングニョーストは外側からという役割分担があるのかもしれない。

 わたし?

 最初に言ったじゃないか、テルだよ。ケイトといっしょに始りの草原からやってきた冒険者。短い名前だから短縮にもしなかったしな。え? ああ、こんな言葉遣いをしていても女だよ。文句あるか? タングリスとキャラが被ってるって? さっきも言ったけど、タングリスは臨機応変だ。なんせトール元帥の副官を務めるほどだからな。わたしは見たまんまの男勝りさ。文句あっか?

 え、なんか忘れてるっぽいって? なんだろう……ああ、そんなことはいいよ。あれこれ考えるのは苦手だ、ま、気楽にわたしらの旅に付き合ってくれ。

 

「なに書いてるの?」

 気づくと間近にケイトの顔。

「ハハ、長旅になりそうだから、時々メモっておこうと思ってな。まずは、みんなのことをな……」

「へえ、わたしのことは?」
「ぼくとポチのことは!?」

「寄ってくんな、二号よりは広いが戦車の中だ、また今度」

「「ちぇ」」

 こういうところ、ケイトとロキは近いかもしれない。

 タッチして、仮想タブレットを消した。


 ノルデン鉄橋は、まだもう少し先だ。

 

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)     二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)   今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス        トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
 ロキ           ブァイゼンハオスの戦災孤児
 ポチ           ブァイゼンハオスの子どもたちが飼っていたシリンダーの幼生

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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RE・かの世界この世界:058『ロキの本気』

2023-04-04 06:56:36 | 時かける少女

RE・

58『ロキの本気』テル  

 

 

 ピンポン玉よりは大きく、テニスボールよりは小さい。

 ロキが思わずポチと呼んだシリンダーだ。

 我々がビックリしたので、ポチも驚いたんだろう、狭い四号戦車の車内を飛び回って、砲塔の壁や床や天井やらにビシバシと当たる。当然、車内の五人にもポコポコ当たるわけで、悲鳴やら怒声が響き渡る。

「大人しくしろ、ポチ!」

 立ち直ったロキが慣れた手つきで掴まえて、両手で胸に抱くようにしてやると、十秒ほどで大人しくなった。

「おまえ、そんなの飼ってたのか!?」

 険しい顔でタングリスが睨む。

 タングリスは、車長のシートに座っているので、砲尾の下のロキは見下されて怖さ百倍。

 我々には礼儀正しいタングリスだが、わんぱく坊主にはカマシテおこうという姿勢だ。むろん異論はない。

「そんなもの、さっさと捨てなさいよ!」

 ヒルデは、通信手のシートから上目で睨み、ケイトは装填手のシートに両足を載せて縮こまり、あたかも教室でゴキブリの出現に驚いた女子高生だ。タングニョーストは、この騒動にも一人動ぜず三速の巡航速度で四号を走らせている。かく言うわたしは、砲手のシートで、見かけ上は平静だ。瞬間、75ミリ砲のトリガーに力が入ったので、実弾が籠められていれば発射してしまっていただろう。

「ポチは並のシリンダーじゃないんだよ! 河原で仲間にはぐれてオロオロしてるところを見つけて助けてやったんだ、それから、みんなで世話してやって、ピンポン玉ぐらいのチビだったのが、やっとここまで育ったんだよ!」

「それが、どうしてお前のポケットに入っているんだ?」

「それは……たぶん、だれかが入れたんだ」

「だれかが……?」

「きっと、道中寂しくならないようにって……ポチはみんなのペットだから」

「でも、シリンダーなんでしょ!」

「オオカミの子を飼ってるようなもんだぞ」

「よこせ!」

 タングリスが一瞬でポチを掴まえて、同時に開けたハッチから投げ出そうとした。

「やめろー!」

 意外な速さで跳躍したロキは、ポチを握ったままのグリの腕に噛みついた!

「どういうつもりだ」

 車内のみんなが驚いた。わんぱく坊主のロキだが、これほど敏捷だとは思わなかった。最初に出会った河原でも、けっこうな追いかけっこをしたが、これほどのすばしっこさでは無かった。

 操縦のため貼視孔(てんしこう)を覗いているタングニョーストをのぞく四人が凍り付いたようにロキに目を奪われた。

「おねがいだよ、世話はオレがやるし、しつけもするし、いっしょに連れてってやってよ」

「おまえ……」

 タングリスが屈みこんで、ロキの鼻先に顔を近づける。

「本気になったら使えるかもな」

「あ、えと……じゃあ?」

「今度、こんなことがあったらチビンダー共々、四号の履帯でひき殺してやるからな」

 そう言い渡すと、チラリとヒルデを見てから頷いた。おっかない車長ではあるが、主筋であるヒルデをさりげなく立てている。

「チビンダーとは、うまく言ったな、タングリス」

「軍に身を置いておりますと、短くつづめて言うようになります」

 チビンダー……確かに的確だ。

「えと、お願いがあるんだけど……」

「お願いできる立場か」

「そうじゃなくて」

 ポチを大事そうに抱えながらロキが続ける。

「なんだ」

「ポチって名前は、みんなで考えたんだ。先週、やっとポチって名前にも慣れて覚えたとこだから、チビンダーにはしないでよ」

「勝手にしろ。わたしはチビンダーが気に入ったがな」

 ポーカーフェイスで締めくくるタングリス。ロキは「もう」と口を尖らせて、みんなが少しだけ笑う。

 ノルデンハーフェンを目指す道は、まだしばらくはムヘン川の南岸を東に進んでいくのであった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)     二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)   今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス        トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

  

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・016『メグ・ロコと呼び合う』

2023-04-03 20:20:12 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

016『メグ・ロコと呼び合う』   

 

 

 トキツカサッ……!

 

 はんぱな呼びかけに振り返ると、横断歩道の向こう側に宮田さん。

 わたしと同じ電車だったんだろうか。

 改札出たところで信号が変わりそうだったので、小走り。宮田さんは信号に間に合わなかったみたい。

 やれやれ、信号変わるまで待ってあげよう……と、思ったら、変わったばかりの赤を無視して走ってきた(^_^;)

「おはよう」

「おひゃようごじゃいま……」

「あ、ひょっとして舌噛んだ?」

「あ、いしゃしゃか(^皿^;)」

 トキツカサは微妙に言いにくいんだけど、それに『さん』を付けるとトキツカササンで、サが重なってはっきり言いにくい。

「下の名前でいいよ、メグリとか、中学じゃメグって呼ばれてたし。言いやすいでしょ?」

「いいですね! じゃ、わたひのこともロコって呼んでください!」

「あ、かわいい!」

「エヘヘ(*´σー`)」

「言葉も友だち言葉でいこうよ、愛称でよびあうんだから」

「え、いいんですか!?」

「『いいの!?』でいいよ」

「あ、そっか。じゃ、あらためてよろしく!」

「こちらこそ!」

「5番の男知ってます?」

「5番……あ、出席番号5番!?」

「そう、怪しい5番ですよ」

「先生も無視っぽかったから、最初は幽霊かと思ったわよ」

 改札では10円請求されてたから幽霊なわけないんだけど、本人の態度も周囲の反応も見えてないみたいにシカトっぽかったし。

「あいつ、加藤高明って言って、留年生だって話です」

「留年生!?」

「留年生は入学式には出られない」

「そうなんだ!」

 そうだよね、一年前に入学してるんだもんね。

「ちょっと変なやつって評判です」

「病気とかで……?」

「う~ん、これから調査です」

「あはは、調査しちゃうんだ(^_^;)」

「面白そうなことは、調査しなくちゃいけません!」

「あらら、敬語に戻ってるわよ」

「え、あ、あははは……」

「クセなんだよね。ま、ぼちぼちいこう」

「はい! あ うん!」

「うんうん♪」

 

 電器屋さんの前まで来ると、朝のワイドショーを流している。

 画面は小さくてショボいんだけど、音が大きい。

―― この三日に、ようやく解決したよど号乗っ取り事件で人質になっていた乗務員の人たちが、検査入院を終えて退院…… ――

 え、解決したの遅くない……っていうか、犯人の要求みんな通って、解決ってどうよ?

―― 人の命は地球よりも重いといいますから、まあ、良かったんじゃないですかねえ ――

―― いや、そうですね。では、次のニュースです…… ――

 いつの時代もテレビはいいかげん。

 

「……メグさん?」

「あ、ごめん。つい見入ってしまった(^▽^;)」

 お祖母ちゃんが言ってた、日本のこの対応はあとを引くんだって……。

「わたし、二月におおすみが成功したのには感激しました!」

「おおすみ?」

「あ、日本初の人工衛星」

「え、あ、ああ!」

 度忘れを装ってビックリしておく。

「日本も宇宙時代の幕開け!」

「うん、そうね!」

 令和じゃ新型の打ち上げ失敗したとこなんだけどね。

「知ってました? 2004年になったらアトムが誕生するんですよ!」

「え、ああ、そうなんだ(^_^;)」

「あ、ごめんなさい。ちょっと引いちゃいますよね(;'∀')」

「ううん、わたしこそ疎くって」

 ロコちゃんと付き合うには、そっち系の情報とかも仕入れておかなきゃいけないかもね。

「今日は生徒手帳もらえるんですよね」

「そうだ、やっと定期券買えるんだよね!」

「うんうん、定期通学って、ちょっと夢だったんです(n*´ω`*n)」

「うん、分かるぅ、ちょっと大人って感じ」

「メグさんはどこからですか?」

「奥宮だから、たった二駅なんだけどね」

「ああ、ロコは谷口だから反対方向です」

 谷口……聞いたことのない駅だ。

 いっしゅん反応に困ったけど、ちょうど商店街の放送が『世界の国からこんにちは』を流し始め、いっそう仲良くなった新入生同士、入学式以来最初の学校に向かった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

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せやさかい・398『もうじき灌仏会』

2023-04-03 11:07:16 | ノベル

・398

『もうじき灌仏会』さくら   

 

 

 山門の桜も盛りを過ぎた。

 

 遠目には分からへんねんけど、近くで見ると、桜の花群れの下に若葉が芽吹いてるのが分かる。

 もう三日もしたら、若葉の方が花群れを圧倒する。

 なによりも、地べたに落ちる花びらの量が多くなってきた。

「全部掃いてしもたらあかんねんで」

 先週、メグリンやらソニーが来てお花見してる頃は、お祖父ちゃんは、こない言うてた。

 花びらにしろ落ち葉にしろ、全部掃いてしもたら風情が無いらしい。

 それが、四月三日の今朝は、掃いてる尻から花びらが降ってくる。

「まあ、こんなもんやろ。キリないし」

「そうかな、もういいかな?」

「ええよ、もう行っといで(^▽^)」

「あ、うん。じゃあ、行ってくるね」

「箒は片づけとくから、早よぅ」

「うん」

 留美ちゃんは、箒をうちに渡すと、つっかけをカラカラいわしながら本堂の階段を上がっていく。

 部屋に戻るのは庫裏から行くよりも本堂の中を通った方が早い。

 

 留美ちゃんはお父さんに会いに行く。

 

 留美ちゃんは真面目な子ぉやし、奨学金をとることにしたんや。

 毎月の生活費やら学費やらは、お父さんが口座に振り込んでくれて、その管理はお祖父ちゃんがやってる。

 最初はおばちゃんがやってたんやけど「ボケ防止にやらしてえや」というてお祖父ちゃんがやり出した。

 お祖父ちゃんは、自分の方が留美ちゃん、話しやすいいうことを知ってるさかい。

 おばちゃんは、お寺の坊守(ぼうもり)やし、他にもボランティアの仕事やらも引き受けてるさかい大変。

 まあ、並の大変ではへこたれへん人やねんけど、よくできる女いうのは年下の同性には圧が高い。

 住職の仕事も完ぺきにおっちゃんに譲って隠居の身分やしね。伊達に何十年も坊主をやってへん。

「親鸞さんも蓮如さんも人の面倒見のええ人やったしなあ」

 畏れ多くも浄土真宗の開祖と中興の祖を自分になぞらえよる(^_^;)。

 

 もう一つ、口に出して言わへんけど、お父さんに会いたいんや。

 

 うちも留美ちゃんも、親は失踪同然におらんようになった。

 留美ちゃんのお母さんは看護師やってはって、どうやら流行り病で亡くならはった。

 お父さんが全て後始末して、お父さんも留美ちゃんのことをお祖父ちゃんらに頼んで消えてしもた。

 うちの親も留美ちゃんのお父さんも、どうやら同じ仕事をしてるような気がする。

 公安調査庁とか内閣情報局とか、ひょっとしたら、ネットなんかで検索しても出てけえへん秘密組織とか。

 リコリスリコイル的な? みたいな? ぽい?

 あかん、お母さんがリコリコの制服着てるとこ想像してしもた(;'∀')。 

 よう知らんけど。

 

 じゃ、行ってきます!

 

 うちにまで、きちんと頭を下げていく留美ちゃん。

 グッドラック……と、後姿の相棒にエールを送る。

 

 来週は、三年ぶりの灌仏会、つまりお花まつり。

 お花見に来てくれたお婆ちゃんらも楽しみにしてくれてる。

 境内のお花の手入れも灌仏会に向けて佳境に入ってくるし。

 それに、うちの十七回目の誕生日。

 12歳でここに来て、七日目で誕生日やった。あ花まつりとも重なって、檀家のお婆ちゃんらも喜んでくれたのを懐かしく思い出す(005『御釈迦さんといっしょ』)。

 

 思い立って自転車で大和川を目指す。

 

 13号線を北に進む。

 13号線、ほんまは30号線。なんでか地元では13号線て呼ぶ。

 四車線の広い道やけど府道。

 四年前、堺東からタクシーに乗ってお母さんとやってきた道。

 毎日通学で自転車こいでる道やねんけど、休みの日に一人で走ると、なんや感じがちがう。

 時間を巻き戻してるような、リアルとは違う並行世界の13号線を走ってるみたいな。

 堺東まで来ると、信号のとこにいつもの婦警さん。

 自転車のおばちゃんを呼び止めてる。以前も危険運転の自転車を呼び止めて怒ってた。

 私服の彼女も知ってるさかい、職業的なものやろうとは思うねんけど可愛くない。

「ちょっとすみません」

 見とれてたら、男のお巡りさんに呼び止められる。

 え、なんかやったっけ!?

「四月一日から、自転車のヘルメット着用努力義務をお願いしてます」

 にこやかにポケティッシュ入りの啓発ビラをくれる。

「あ、はい、ごくろうさまです(^▽^)」

 ありがたくいただいてチラ見すると、婦警さんも笑顔で配ってて安心した。

 あの婦警さんは、やっぱり笑顔の方が似合う。

 

 さらに北上して大和川。

 

 川が広くて空が大きいいうのは、それだけで嬉しなる。

 なんか叫びたくなるけど、やめとく。

 もうじき17歳やし。

 大和川は永遠に流れる。

 永遠の17歳。

 なんや、アキバのメイドさん的。

 12歳から、あっという間やった。

 今度、ここに来るときは幾つになってるんやろか……西の空に一つだけ雲が浮いてる。

 よし、あの雲がこの上を通っていくのを見届けてから帰ろか。

 ハクション!

 まぶしいからクシャミが出てしもた。

 五分ほど見てると、もう一つの雲がやってきてひっついてしまう。

 孤高の雲や思たのに、ちょっと残念やった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

  

 

 

 

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RE・かの世界この世界:057『さらばシュタインドルフ!』

2023-04-03 06:47:31 | 時かける少女

RE・

57『さらばシュタインドルフ!』テル  

 

 

 え、あいつか!?

 
 ジャンケンの勝負は一発で付いた。

 連れて行くなら、子どもながらにイケメンで品行方正なフレイがいいと思った。

 フレイアも女の子なので、少々お転婆でも扱いやすいだろう。それが、わんぱく坊主のロキだ(-“- )。

 ただのわんぱくなら、まだいい。

 カエルを投げつけてきた首謀者、それも、捕まっても素直に認めずフレイやフレイアのせいにしようとした。

 そういう性格が気に入らない。

 
 それに、なんでジャンケンなんだ?

 なんだか、院長先生にしてやられた感じがしないでもない。十三人の子どもたちの中から、よりにもよって。

 単に、厄介者のロキを放り出したいから……そう勘ぐってしまうほど、ロキを連れて行くのには気が進まない。

 
 皆さんの旅に神のご加護のあらんことを!

 
 ウダウダ思っているうちに、院長先生とフリッグ先生は送別会の準備を整えてしまった。

「ロキ、みんなに旅立ちのご挨拶をなさい」

「そ、そんなのいいよ……」

「ロキ、元気でね」

「お便りちょうだいね」

「水には気を付けて」

「オネショすんなよ」

「ご飯の時は、ロキの席に写真を置いとくからね」

「そうだよ、旅に出ても、心は一つだからね」

「いつか帰って来いよ」

「ロキが居なくなってせいせいする!……と思ってたのに、寂しいよ」

 最後の言葉はフレイアだ。なにか言おうとするのだが、涙を浮かべてアワアワするばかり。

 いやなガキだと思っていたけど、こいつなりに受け入れられていたんだと、ちょっとだけ目頭が熱くなる。

 
 ……ロキ!

 
 感極まってフレイアが抱き付く。すると、他の子どもたちも寄ってきて、泣きながら抱き付いて、モミクチャの団子になった。

「さあ、泣いてばかりいたら出発できなくなるわ。ゲートに並んでお見送りしましょう」

 促された子供たちは、涙をぬぐいながらゲートに並んだ。

「ちょっと待って!」

 フレイアが建物に戻って一分ほどで荷物を作って戻ってきた。

「枕がかわったら寝られないっていうから、枕と着替え。いいでしょ先生?」

「う、うん、構わないわよ」

 先生は、渡すべき荷物を用意していたようだが、フレイアの気持ちを大事にするんだろう、フレイアには見えないように荷物を減らしている。二号よりは大きいと言え四号も狭苦しい戦車だ、荷物は少ない方がいい。

「わたしたちから渡す荷物はこれだけです、よろしくお願いします」

「お預かりします」

 
 旅立ちに四号戦車はピッタリだ。

 
 砲塔のキューポラだけではなく、側面のハッチ、操縦手と通信手のハッチからも半身を乗り出して、お別れの手を振る。

 ゲートまでと言われた子どもたちは、坂を下って村の境まで付いてきた。

 もう、涙涙でグシャグシャだ。

 ついさっきまでは、このクソガキと思っていたけど、涙と鼻水でヨレヨレになったロキも可愛い。

 

「さ、ここまでですよ」

 

 オーディンシュタインの効き目は村はずれの峠までだ。峠のてっぺんで二人の先生は促した。

 五つのハッチから身を乗り出した我々は改めて敬礼。ポンプの修理に無理な魔法を使ったヒルデはヘロヘロだったが、なんとか笑顔で手を振っている。

 峠を下ると、道は『く』の字に曲がってしまって孤児院のみんなは見えなくなる。

「全員車内へ、警戒しつつ前進!」

 タングリスが車長として指示し、全員車内に収まる。

「ん? ロキ、お前のポケット……」

 ケイトがロキの上着のポケットを指さした。

「え? あ、う、うわー!」

 ポケットの中でグニグニ動くものがあって、ロキはアタフタと上着を脱いで。ハタハタと振る。

「バカ、車内でやるんじゃ……!」

 注意するのが遅かった。

 ポケットの中から転がり出てきたのは、子どもの拳ほどのシリンダーだった。

 とうぜん車内は大騒ぎになるが、もっとビックリした。

「ポ、ポチ!?」

 ロキが、シリンダーを名前で呼んだではないか!

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)     二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)   今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス        トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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鳴かぬなら 信長転生記 116『天照のゆで卵』

2023-04-02 17:15:28 | ノベル2

ら 信長転生記

116『天照のゆで卵信長 

 

 

 鬼退治が終わって戻ったのは御山の頂上、例の石の前だ。

 

 日輪は、ようやく東の空に顔をのぞかせたばかりで、日輪の本性であるくせに天照は、まだ現れていない。

 石に耳を寄せると、クーークーーと寝息が聞こえる。

 チャランポランに見えて、あれでも扶桑の総鎮守、神さまの元締め。疲れも溜まっているのかもしれない。

 昔の俺ならキレているところだが、俺も扶桑の空気に馴染んだか。

 まあ、機嫌を損ねたらホットケーキが食えなくなるかもしれないしな。

 

「ごめんね、あんまり力になれなかったかもしれない」

 

 振り返ると、あっちゃんが見慣れた第一形態(俺の次に可愛い美少女)で済まなさそうにしている。

「まあいい、鬼退治では活躍してくれた。俺一人で百匹は鬼を切ったからな。並の陣太刀なら五匹も切れば、脂が載って駄目になるところだ」

「うん、でも、よく考えたら、天照大神さまは『素戔嗚をやっつけろ』って言ったんだよ」

「ああ」

「思金神(オモヒカネ)のお爺さんは鬼退治を助けろって言って、なんか変だなあって思いながらも、結局は鬼を退治したよね」

「ああ、桃太郎の纏う空気にはそういうものがある。桃の旗のもとに力を合わせなければという気持ちにさせる空気がな」

「あ、お目覚めになった!」

 あっちゃんの言葉に目を移すと、石に腰掛けた天照が現れた。

「…………」

「なんだ、まだ寝てるのか」

「え、あ、起きてるわよ……」

「なんだか、まだ脳みそが目覚めていない感じだぞ」

「ああ、だいじょうぶ。これは、いわばアバターだからね、アバターが寝ていても本性は起きてるしぃ……」

「なんか、怪しいぞ。なあ、あっちゃん……?」

 あっちゃんの姿が無い。

「あ、あっちゃんは垂迹だから、本地と同時には現れないよ」

「本地垂迹? ならば、天照は本地では無くて、大日如来の垂迹ではないのか?」

「上総之介は半端に知識人だから、話しにくいぞよ。まあ、アバターの一つだ。プレーヤーが、同時に二つのアバターを使うのはダメであろうが」

「まあいい。とにかく、思金神が言っていた『桃太郎の素戔嗚を助ける』というミッションはクリアーしたぞ」

「あ、どうもご苦労であった」

「で……」

「すまぬ。ホットケーキならご近所におすそ分けしてしまったぞ」

「ム…………」

「あ、ちょっと怒った?」

「まあいい、それは後だ。思金神の言うことと天照が言うことは矛盾しておる。思金神は桃太郎を助けろというし、天照はやっつけろと言う。まあ、その矛盾を矛盾と思いつつも俺はミッションコンプリートしてしまったんだがな、いささか気持ちが悪い」

「上総之介は理詰めで攻めてくるのじゃなあ……まあ、良いわ。ホットケーキは切らしてしまったが、極上のゆで卵が仕上がったところだ。食うか?」

「極上のゆで卵?」

「ああ、伊勢神宮、つまりわたしの家で飼っている鶏でな。日ごろは神鶏と云って、一般人には手に入らぬ卵じゃ。プリンを作るのに用意したんだが、余ったやつをゆで卵にしたんじゃ」

「プリンも好きだが、ゆで卵も好きだ。食うぞ!」

「ほい、これじゃ」

 目の前にゆで卵が現れた。さすがは神鶏、色、容、大きさ、どれをとっても極上のゆで卵。

「思い出した! これは、武田が滅亡した後で家康の労をねぎらうために用意させたディナーに付けたゆで卵!」

「え、あ、そうだった? いやあ、上総之介も料理を見る目があるではないか」

「あの時は、接待奉行の光秀がクソ生意気でムカついて……けっきょく、俺は食べずじまいだった」

「そうか、それは良かった。では、いっしょに食べよう」

「うむ」

 俺は甘いものに目が無いが、ゆで卵とか焼き芋とか、料理の付け合わせや素材やお八つになるようなものも好きだ。

 やっぱり、ガキの頃に、尾張の村々で遊んでいるうちに憶えた食い物が――美味い!――の原点になっている。

 ゆで卵の剥き方にはコツがある。

 最初にヒビを入れるところ。剝くときは、爪ではなく親指の腹を使うこと、中の薄皮の方向を見極めるとかな。

 うまくやると、ほんの二剥きほどで、スルリと剥ける。

 

「兄さまだけきれいに剥けてじゅるぃ~」

 

 市が僻んだもんだ。じゅるい~というところは、単に舌が回らないだけではなくて、口の中に唾が溜まって「じゅるぃ~」になる。見た目が美幼女の市がヨダレを垂らしまくるのが面白くて、よくやって泣かせたものだ。

 市が剥いたゆで卵は、平手の爺の顔のようにゴツゴツになった。

「お、市のは爺卵じゃ! 爺卵じゃ!」

 囃し立てると、並のガキならワンワン鳴くが、あいつは掴みかかってきおった。おもしろい妹だった。

「お泣きなさるな、姫さまには、爺が剥いたのをあげましょう」

 爺が武骨な手には似合わぬ器用さできれいに剥く。

 爺は、前髪の小姓の頃から親父(信秀)に鍛えられた一徹もの、武芸や戦のことだけではなく、掃除や料理など、碑女、下郎がやる仕事まで知悉しておった。爺も俺と同じくらい卵の剥き方が上手かった。

 市が、爺の卵を嫌がるようなら張り倒してやろうと思ったが「しゅまんのう、ジイ!」そう言って、爺の卵を俺と並んで美味そうに食いおった。爺もニコニコしながら、市の剥いた卵を食っていた……。

 

「ほう、上総之介にも、そんな子供時代があったのじゃなあ」

 

「ム、勝手に人の心を覗くな(-_-;)」

「弟の信行の時は違ったな」

「ん……ああ。勘十郎(信行の幼名)の時は焼き芋だった」

「弟は、爺の焼き芋を食べなかった。しかし、上総之介、その時は弟を張り倒さなかったな」

「張り倒す値打ちも無い。奴は、爺が剥いた芋は汚いと思っておった」

「爺思いなんじゃな」

「ちがう。奴は物の値打ちが分からん男だ。美味くて量があれば誰が剥こうが同じゆで卵、同じ焼き芋だ。それを爺の手が触ったことで忌避するやつはバカだ、張り倒す値打ちも無い」

「そうか……」

 俺は、後に信行を刺し殺している……それには触れないのか……まあ、いいがな。

「上総之介、もう一つ残っているゆで卵、食べてもよいぞ」

「そうか、では、いただく……」

「ただし、殻は剥かずにな」

 

「なに?」

 

「そういうことなのじゃ、素戔嗚を成敗するには、まず殻を剥かなくてはならん。上総之介は、やっとその殻を……」

「剥いたところなのか?」

「まあ、半分な。ぜんぶ剥けたら、その時にわたしが出向く……さて、目も覚めた、仕事にかかるとしようかのう」

 

 カーー カーー

 

 ついさっき夜が明けたところなのに、もう日が暮れかかっている。

 

「で、あるか……」

「お互い、兄弟姉妹のことでは苦労するのう……励め、上総之介……」

 後姿で手を振ると、石と重なったところで天照は消えてしまった。

 

 とりあえずは、家に帰って寝ることにする。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚

 

 

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RE・かの世界この世界:056『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』

2023-04-02 06:41:03 | 時かける少女

RE・

56『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』テル  

 

 

 二号のエンジンでポンプを動かすのだ!

 

 普段の倍ほど目を輝かせて、ヒルデは宣言した。

 ムヘン街道での出会い以来、中二病的に言動が大げさなブリだが、この時は最高に大げさだった。

「タングニョーストが主命により四号を運んできたのは天啓である! シュタインドルフの村とヴァイゼンハオスを救い、その善行により我と我が眷属たちのステータスを上げるのだ! さあ、みな打ち揃って庭に集い、このブリュンヒルデの奇跡を目に焼けつけるがいい!」

「無理です、二号は十トンに満たない軽戦車とは言え、エンジンの重量だけで七百キロはあります。クレーンはおろか、目ぼしい工具も無い状態では作業できません」

 ここに至って身分を隠しても仕方がないので、タングリスは臣下の物言いで、しかし、キッパリとNOを突き付けた。

 タングリスの方が正しいと思う。

 ヒルデは確かにオーディンの娘で姫騎士で多少の武術には秀でている。が、それは、わたしやケイトと変わらない駆け出し勇者のレベルで、とても戦車のエンジンを抜きだしてポンプに付け替えるような力は無い。いや、魔法だ。小なりと言えど戦車だ。その戦車のエンジンを取り外すのにはクレーンが無い現状では重力魔法を使う以外に道はない。ヒルデの魔力は戦闘においてさえ三十キロそこそこの自分の体を飛ばせる程度でしかない。とても七百キロのエンジンを浮遊させてポンプ小屋に運べるものではない。それに、運んだ後にいろいろ繋いで、きちんと動かすには、電気技師のスキルか機械を魔法で操るマキナ系の魔力がいる。

「益体もないことを申すな! 我は、主神オーディーンの娘にして堕天使の宿命を背負いたるブリュンヒルデなるぞ。エンジンの一つや二つ意のままに動かせるぞ! 見よ!」

 ガチャ ゴトゴト ゴトン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 庭の方で音がする。みんなで飛び出すと、二号のエンジンルームのカバーが開き、七百キロのエンジンが宙に浮きつつあった! 子どもたちは、それを取り巻いて胸をときめかせているではないか!

 うわあああああ(゜O゜)!

「みんな、危ないから、下がりなさい!」

 若いフリッグ先生が呼びかけるが、だれも耳に入っていない。

「目に焼き付けるがいい、堕天使ブリュンヒルデの秘めたる力を! さあ、エンジン! 汝は、この時よりシュタインドルフの命の水を絶やさず汲み上げる力となるのだ……汝エンジンに命ず! マキナとしてあるべき所に収まりて、ポンプを稼働せしめよ!」

 ヒルデが身をのけ反らしながら、高々と両の手を挙げる!

 すると、屋根ほどの高さに上がったエンジンはクルクルと旋回し、壊れたポンプ小屋からは、さまざまのパーツが磁石に吸い上げられるようにして衛星のようにエンジンの周囲を回り、次々とエンジンに接合。接合し終えると、エンジンは旋回を止め、そろりそろりと下りてきて、ジェネレーターに結合された。

 ブルン ブルブル ブルン…………

 エンジンが動き出し、同時にジェネレーターが発電を始めてモーターを動かし、ポンプが稼働した。

「見たか! ブリュンヒルデの力を!」

 決めポーズをとると、ヒルデはポーズのまま仰向けに倒れ、ケイトがかろうじて受け止めた。

「気絶してます」

 子どもたちが畏敬……というよりはヒーローショーの主役を見る眼差しで中二病の貴人をとりかこむ。何人かは、目が覚めたらサインをしてもらおうと色紙とサインペンを構えている。

「きみたち!」

 タングリスが忌々しそうに子どもたちに呼びかける。

「この人は堕天使なんかじゃない。もう、隠し立てしても仕方がないから言うぞ!」

 子どもたちは期待の眼差しでタングリスを見上げる。コホンと勿体を付けて、タングリスは宣言する。

「この人はね、主神オーディーンの娘のブリュンヒルデ姫殿下だ!」

「え、ただの姫さま……?」

「オーディンの娘ってことは、ただの神さま」

「神さまの娘だから……ま、見習いってとこ?」

「……」

 口に出しては言わないが、子どもたちは、あきらかに失望している。わけがわからん。

 

「みんなに話があります」

 

 院長先生が言うと、さすがに口をつぐむ子どもたち。

「魔法とか堕天使とかはいいんです。ブリュンヒルデ姫が渾身の力でポンプを動かしてくれたことをこそ喜び、その感謝を捧げなければなりません。そうでしょ?」

 子どもたちを促すように神妙な顔でコクコク頷くフリッグ先生。わたしたちも真似て頷くと、ようやく子どもたちも大人しくなった。

「ブリュンヒルデ姫とお付きの方々はヴァルハラを目指されています。ポンプも無事に直った今、みなさんの中から一人、お供をしてもらいます。ただのお供ではありません。あなたたちのお母さんの元に戻ってお母さんを助け、この世界に真の平和が訪れる手助けをするのです。もちろん、今回はお母さんの存在がはっきりした人になります。お供できるのは一人だけですが、他の人も残念に思ってはいけません。これを皮切りとして、いつの日か、みんなが、お母さんやお父さん、または、それに代わる人を見つけて、あるいは、十分な力を付けて、ここを巣立っていくのですからね」

 はーーい!

 みんな、お利口に返事する。おそらく、院長先生は、ここ一番というところでしか、こういう話をしないのだろう。

「ブァルハラへの旅は過酷です、厳しいものです、また、姫さまたちのお邪魔になってもいけません。ですので、一人に絞ります。ロキ、フレイ、フレイア、前に出て」

 三人は、一様にドキリとした顔になった。

 おずおずと前に出ては来たけれど、その緊張が喜びによるものなのか、未知の旅に対する不安なのか、わたしたちには分からなかった。

「それでは、決めます……ジャンケンで!」

 
 ズッコケてしまった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)     二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)   今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス        トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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銀河太平記・154『邂逅する者たち・2・スポンソン』

2023-04-01 11:46:52 | 小説4

・154

『邂逅する者たち・2・スポンソン』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 

 孫大人と二人でブンカ―のスポンソン(海側に張り出した連絡通路)に出る。

 

「あんたと喋っていると男言葉になってしまうからな」

「儂は、越萌マリでもいいぞ。ネットで時々見とるが、カルチェタランのマダムに負けん女っぷりだ(^▽^)」

「冷やかすな。あそこに見張り所がある、あそこまで行こう」

「あんなとこまでかぁ……足もとがスノコというのは、どうも落ち着かん」

「あそこなら、鉄板の床がある、キャッツウォークよりはいいだろ。なんなら、アンテナのスポンソンまで行くか?」

「勘弁してくれ、あそこはジャッキステーを上らなきゃならん。儂はサーカスをしにきたわけじゃない」

「じゃ、見張り所だ」

 

 見張り所と云ってもリアルに見張りが立っているわけではない、将来の拡張性を考えて設置されたものだ。

 西之島が市制を布くにあたって、さまざまな助言をしてきたが、このブンカ―の機能を100%使うようなことは無いだろうと踏んでいた。

 平時は全天候型の荷役港や荒天時の避難港になればと進言したが、及川市長は本気で整備した。

 官僚時代にはいろいろ軋轢もあったようだが、立派に市長職をこなしている。

「四方を海に囲まれているせいかね、潮風と海風に晒されて、人が磨かれていくいくようで、面白いなあ」

「孫大人が殊勝気に褒めると蕁麻疹が出るぞ」

「アイヤー、そのきれいな肌に蕁麻疹を出させては申し訳ないアル。悪党に切り替えようか」

 大人とは満州で司令官をやっていたころからの付き合いだ、バカ話を続けていたいが、そうもいかない。

「念を押しておく、大人は島の味方をしてくれるんだな?」

「儂は、関羽将軍の味方アル」

「関帝、商売の神さまだな。でも、漢明の神さまだ」

「商売はインターナショナルさ。その目で見れば、今の漢明は敵。その次にできる国に賭けるよ。西之島は、いい投資先だ。カッてもらわなければ困る」

「漢明は、西之島遠征軍を反乱軍認定して、国際世論を味方に付けたな」

「劉宏大統領は賢い、反乱軍鎮圧を名目にして、ついでに西之島にも進駐するつもりだ。日本政府は事変不拡大の方針で、出撃をためらっている。手を打たないと、数年後には劉宏に盗られてしまう」

「劉宏のこと、どこまで知ってる?」

「手の内は明かせないが、劉宏はあんたと同じニオイがする」

「やつの本性は劉宏だが、入れ物としての劉宏は死につつある。劉宏の体に入っていては全力を発揮できない。やがて、ソウルを100%王春華に遷すさざるを得ない」

「アイヤー、元帥も劉宏の秘密を知ってるアルかぁ!?」

「劉宏の姿をしているからこそ大統領でいられる。おそらく、想像もつかない奇策に出てくる。その第一歩が反乱軍認定だ」

「ひとつ聞いていいアルか?」

「なんだ?」

「氷川社長は親王を名乗って綸旨を発したアル」

「日本政府が救援を送ってこないんだ、自存自衛のためには仕方あるまい。実際、相当のボランティアが集結しつつあるぞ」

「しかし、元帥」

「なんだ!?」

「元帥は、今上陛下の元帥アル」

「そうだ」

「皇統を二分することになるアル」

「島の独立を確保するのが緊急の課題だ。パルスギの管理を島の者以外に渡すわけにはいかん」

「それもそうアル。パルスギを握れば世界を征服できるアル」

「想像したくないがな」

「政府は別にして、日本国内で秋宮睦仁親王の人気はうなぎ上りアル」

「あくまで方便だ、氷室社長に野心はない。さっき本人に会って確信した。わたしも、ここではシマイルカンパニーの越萌マリとして力を尽くすのだ」

「元帥のソウル丸出しででアルか?」

「え、あ、越萌マリです(^o^;)!」

「ちょっと気持ち悪いアル(ー_ー)」

「貴様……あ、あなたの中国風もキモイですわよ!」

「儂のはお国言葉アル!」

「アルアルは中国語じゃないですわよ!」

「色気出しながら怒るなアル!」

「なによ、この猪八戒!」

「そっちこそ、鉄扇公主!」

「人を妖怪みたいに言うな!」

 子どものいじり合いのようになってきた。

 

「前線偵察の用意ができました」

 

 二人そろってバカになりそうなところにヨイチ准尉が飛行モードのパルスバイクで現れ、思考を元に戻すことができた。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

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RE・かの世界この世界:055『女神の子たち』

2023-04-01 06:52:42 | 時かける少女

RE・

55『女神の子たち』テル  

 
 

 
 朝食が終わって、子どもたちが後片付けや掃除に取り掛かる。

 我々も出発の準備にかかろうと腰を上げると――ちょっとお待ちを――という風に院長先生が手を挙げた。

「少しよろしいでしょうか?」

「あ、はい」

 ヒルデたちは子どもたちと庭に出て、ダイニングはわたしとタングリスの二人で、今日の行程を確認するために部屋に戻ろうとしていた。

「ユグドラシルをご存知でしょうか?」

「はい、世界の時間を司っているという伝説の木と心得ますが」

「子どものころに、おとぎ話で聞いたような……」

「実は、伝説でもおとぎ話でもなく、ユグドラシルは存在します。この世界とは、ほんの少しだけズレた亜空間に存在するので、世界樹とはいえ、普段は目に見えません。先の聖戦は実に悲惨な戦争で、この実世界だけではなく、この実世界に隣接する亜世界や異世界にも大小の歪をもたらしました。その聖戦の歪が祟ってユグドラシルは枯れそうになってしまいました。ユグドラシルは三人の女神によって守られているのですが、女神たちはユグドラシルの回復に全力を注がねばならず、子どもたちの世話が出来なくなってしまい。それで、十年前にわたしが預かることになったのです」

「女神の子ども?」

「はい、女神にはそれぞれ一人ずつ子どもが居て、その子どもたちは女神の希望なのです。その希望にかまけていられないほどに、世界樹の再生は大変な仕事だったのです。そして、その仕事が一段落したいま、子どもたちの力が必要になってきているのです」

「子どもが働くんですか?」

「よくは分かりません、後継ぎが必要な段階になったのか、はたまた、子どもたちが女神の力を十二分に発揮するためのブースターになるのか。言えるのは、子どもたちの帰還を喜ばない者……者と擬人化してはいけないのかもしれません。悪、あるいは運命と呼ぶべきかもしれません。その悪、運命は、子どもたちが居ない形で世界を新秩序に収めようとしています。そうなる前に子どもたちを戻したいのです。孤児院に居る限り手出しは出来ませんが、一歩シュタインドルフを出てしまえば、わたしたちでは守り切れるものではありません」

「それで、わたしたちに」

 タングリスの声には困惑の響きがあった。

 ブリュンヒルデの供をするだけで一杯なのだ。子どもの世話、それも、どこにあるか分からない世界樹の根元の国にまで届けることは余計なことだ。

「三人ともとは申しません、一人だけ女神の元に送っていただければ運命の道が開けます。そうなれば、わたしかシスター・フリッグのどちらかで送ってやることができます」

「しかし……」

 さすがに、タングリスは腕を組んだ。ヴァルハラに向かうだけでいっぱいいっぱいなんだ。

「お気持ちは分かります、でも、余計なことに見えて、この仕事はブリュンヒルデさまのおためにもなることなのです」

「姫さまの……」

「創世記二十四章にあります、獄を出でし子は……」

「あれが姫様の事だと……」

「山羊たちを供として父に見参せんと……試練の子たちと……川を渡りて……共に手を……」

 わたしには分からない神話世界の話のようだ。瞬間視線を落としたタングリスだったが、顔を上げるとキッパリと応えた。

「分かりました。それで、その子らとは……?」

 
 ちょうど掃除を終えた子どもたちが入ってきた。

「「「「終わりました、院長先生!」」」」

 
「ご苦労さま、では、勉強の時間まで遊んでらっしゃい、あ、三人は残って」

 三人だけで通じるようだ。ロキとフレイとフレアが顔を見合わせながら、こちらを向いた。

 三人は連れていけないぞ~(^_^;)

 子どもたちなりに戸惑っていると、庭に通じるドアからヒルデがタングニョーストとケイトを連れて入ってきた。

「いいことを思いついたよ!」

 明るく言ったヒルデだったが、わたしたちの様子に戸惑ってしまった。

 
「なにかあったか……?」

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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