大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・182『アジト閉鎖・1』

2023-09-22 16:09:33 | 小説4

・182

『アジト閉鎖・1』アルルカン 

 

 

 カーーーーーーーーーーーーーーーン

 

 蹴り上げたオイル缶はカラとはいえ、100メートルの高さに舞い上がった。

 ピシュンピシュン ピシュピシュ ピシュピシュピシュピシューーン

 オイル缶は二つのパルス波によって100メートルの高さで踊らされ、三秒後にはほとんど蒸発したように消えてしまった。

 蒸発しきれなかった微細な破片がキラキラと宙に舞う。

 

 アルルカン:50  マーク:50  

 

 チェ!

 

 三度目のスコアが空中に浮かんで、二人の舌打ちが揃った。

「もうよそうぜ」

「なんだ、止めるのかぁ?」

「朝までやってもケリがつかん」

「言い出したのはマークの方だぞ」

「口やかましいボスがいたんじゃ、部下がやりにくいだろうが」

「まあいい、次の予定もあることだしな」

 ガチャガチャガチャ……空中のスコア票が古典的なエフェクトをさせながら、今日、88シュートの成績を表示する。

 88シュート全て50:50

 ガチャガチャガチャ……続いて、今までの99回分の成績を表示する。

 第一回の51:49を除いて、全て引き分け。

「いいのか、わたしの勝ち逃げになるぞ」

「続きはこんど会った時だ」

「フフ、そっちが生きていたらな」

「そっちこそな」

「…………」

「…………」

 ガラにも無く黙りこくって隠れ家に向かう。

 キュ キュ 

「やっぱり鳴き砂か?」

「ああ、ミナホの趣味でな」

 キュ キュ

「わざわざ入れ替えたのか?」

「いや、特殊なパルス波で処理すると、ここいらの砂は変質してこうなる。バルスの新案特許だ」

「ほほう、あの朴念仁がか」

「ふふ、いろいろあってな」

 面白そうなのでわけを聞こうと思ったら、副長のツナカンが気が付いて不満そうな声を上げる。

 

「ええ、もう帰ってきたんすかぁ!? まだバイクの整備終わってないっすよ!」

 

「かまわん、シャトルでいく」

「シャトルって、ステルスだけども光学迷彩じゃないからバレるっすよ」

「そんなヘマはせん」

「まさか、そのまま母船に拉致られるとかねえだろうなあ」

「ヒンメルは心子内親王殿下もお乗せするほど綺麗な船だ、ゴミは乗せん」

「ゴミか、オレは!?」

「あ、ゴミに失礼だったか?」

「この、くされ女海賊がぁ!」

「なにを! この宇宙ドブネズミがぁ!」

「ああ、もう仲がいいのは分ったっすから、さっさと済ませて戻って来てください。カサギの最終チェックもしなくちゃならないんすからぁ」

「ああ、そういうラブコメ風締めくくりはすんなぁ!」

「そーだそーだ!」

「ふん、いくぞマーク!」

「おお!」

 

 シュィーン

 

 図体のわりには、かそけき発進音でシャトルを起動させる。モードをアナログに切り替えると、立ち働く部下たちを尻目に、シャトルは地を這うように扶桑とマス漢の紛争地に向けて飛んだ。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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RE・トモコパラドクス・25『水島……結衣? 昭二?』

2023-09-22 06:34:50 | 小説7

RE・友子パラドクス

25『水島……結衣? 昭二?』 

 

 

「今年の転入生は二人ともかわいいねえ」

 この噂に友子は満足した。

 二人とは友子自身と、今日転校してきた清水結衣だったから。

「でも、今日来た清水結衣ちゃんは、抜群ってか、もうテッペン取ったて感じだよね!」

 この噂には、友子は二つの「し」の付く気持ちを持った……心配。そして、嫉妬。

 もともとが、あの都乃木(都立乃木坂高校)の宇宙人がアテンダント用義体を利用して作った義体だ。スタイル抜群、容姿端麗、眉目秀麗、明眸皓歯(めいぼうこうし)、曲眉豊頬(きょくびほうきょう)、花顔柳腰(かがんりゅうよう) 羞月閉花(しゅうげつへいか)、沈魚落雁(ちんぎょらくがん)、萌え萌えキュンと、CPUの言語野に入っている限りの慣用句を並べても足りないぐらいであった。

 

 ふゎぁぁぁ………(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)

 

 朝礼の時に自己紹介したとき、教室は萌キュンの溜息でいっぱいになった。

「もう……」

 と、眉をひそめたのは友子一人だけだった。柚木先生さえ、その声と顔と姿にほれぼれして、次の言葉がなかなか出なかったほどである。

 その日は、ほとんど授業にならなかった。男子生徒ばかりか、女生徒までが、いや、授業に来た先生たちも、ポーッとして、もう授業は、いつもの半分も進まなかった。

 休み時間には、他のクラスや他学年の生徒まで押し寄せてきて、生活指導の先生が規制に出てきたほどである。

 

 昼休、思いあまった友子はお手洗いに向かう結衣を部室にかっさらった。

 

「なにを、そんなに急いでいらっしゃるの?」

「あのね、し、心配してんのよ(`Д´#)!」

「わたしを……?」

「あなたと学校をね! 分かってんの、今の状況(`◇´#)!?」

「はい、少し困りますねぇ(^_^;)」

「う…………(`皿´#)」

 この、少し眉根を寄せた憂い顔が……癪に障る。

「な、なんとかしなきゃね、とても普通にはやっていけないわよ(`△´#)」

 紀香が入ってきて言って付け加える。

「まったく、マネも、少しは加減してくれなくちゃね」

「あなた、水島昭二だったころの記憶あるのぉ(#>Д<#)?」

「え、水島……結衣。ですけど?」

 

 ああぁ…………(`□´#)

 

「完全に上書きされちゃってる……友子、これインストールしときな」

 紀香が美少女耐性のプログラムを送ってくれて、やっと友子もまともになった。

「ちょっと、結衣ちゃん、ごめん」

 プツン

 友子は、結衣の動力を切った。

「うん、止まれば、ただのかわいいお人形さんだ。今のうちにCPUに手を入れておこう」

「わたしがやる……」

 友子は、結衣のこめかみに両手を当てた。

「…だめだ、ブラックボックスになってる。手伝ってもらえる?」

「分かった」

 左側のこめかみを紀香が替わった。ジーンという低い音がして、途切れた。

「ありゃりゃぁ…………昭二の人格が、義体のCPUに融合しかけてる」

「分離させようか?」

「下手にやったら、バグって元に戻らなくなるぞ」

「ちょっと、わたしのCPUを通してやってみる」
 
 友子はシンパシー(共感)の回路を少しずつ解放し、まだ昭二である部分をコピーしていった。

「どうだ友子?」

「うん……だいぶお兄さんへの抑圧された感情があるわね。ほとんど自己否定してるっぽい。ちょっとお兄さんの映像出してみるね」

 友子は、目の前に昭二の兄である水島昭一のホログラムを出した。

「ああ……見かけで、まず負けてるね」

「素敵な人ね。二枚目にも三枚目にもなれる。相手に合わせて個性を変えられるんだ。智あって驕らず。情にも厚い。ひとの幸せも痛みも感じることができるんだぁ」

「詳しくは『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』をご覧下さいって、とこだね……」

「こんなところでコマーシャル?」

「それが、一番てっとりばやいからさ」

「いい本だもんね」

 

 停止した結衣の目から涙が流れた。

 

「あ……」

「苦しかったんだ、そんな兄貴を持って」

「だから、幽霊になってもダクトなんかに引きこもっていたんだね」

「少し、楽にしてあげよう」

「どうするの?」

「海王星戦争での、昭二クンの活躍、そして、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の中のお兄さんの姿。お兄さんも、こんなに悩んで、こんなに苦労したんだよ。君は知らないだろうけど……いくよ、インストール!」

 兄のホログラムは、結衣と重なって消えた。

「うん、良い感じでインストールできた」

「じゃ、起動するよ」

 

 結衣か昭二か分からないものが目を開いた。

 

「あなたは、だれなの……?」

「……水島結衣……で……水島昭二?」

 その二重人格は、ゆっくり二人に目を向けると、素直なこぼれるような笑顔になった。

「あ、トイレに入ったところで連れて来ちゃったけど、だいじょうぶ?」

「うん、みんな爽やかな涙になって流れたから」

「ええ!?」

「うそうそ、今からお手洗い行って、教室に戻る」

 午後のみんなの態度は落ち着いた。好ましくかわいい子という人間的な印象に変わったようだ。

 

 しかし、放課後は大変だった。

 

 みんながこっそりスマホで撮った写真や動画がSNSで拡散して、マスコミが興味を持ち始めた。結衣が校門を出たとたんに、草むら、路地、駐車中の車、電柱の陰、中には宅配のピザ屋に化けたのたちが、いっせいに現れた。

「すみませーん、通行の妨げになります」

 とかわそうとしたが、ラチがあかない。

「あ、飛行機が落ちてくる!」

 うわああ!

 紀香が、落ちてくる飛行機の3Dで見せたので、みんな蜘蛛の子を散らすように居なくなった。

「ありがとう」

 そう小声で言って、愛すべき二重人格は駅に向かった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格

 

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RE・かの世界この世界:207『船通山の山頂が見えてきた』

2023-09-21 10:45:40 | 時かける少女

RE・

207『船通山の山頂が見えてきた』テル 

 

 

 伯備線に沿って北上する。

 

 道は完全に伯備線に沿っているわけではない。180号線と高梨川と伯備線が絡まるように伸びて鳥取県の米子に至る。途中船通山にも寄らねばならず、うかうかと走っているわけにはいかない。

 峠の道の駅で確認する。

雪舟ねずみ:「この山を迂回するとトンネルから出てきた伯備線が見えてくるはずです」

 雪舟ねずみはがカーナビで確認して、みんなにも説明してくれる。

イザナギ:「なるほど、この高梨川を挟んで西に船通山、東に船上山なんですねえ」

桃太郎二号:「おっさん、自分で作った国だろ、ちゃんと覚えとけよなあ」

ケイト:「神さまに、失礼だろがぁ」

イザナギ:「いやあ、面目ない(^_^;)」

ヒルデ:「イザナギ殿はちゃんとしておられる。うちの父などは、自分の世界だというのに戦争ばかりやって、娘が苦労しているぞ」

タングニョースト:「それで、二つの山にはどんな謂れがあるのですか?」

 生粋の軍人であるタングニョーストは、どこへきても地形や地理偵察に関わる情報に熱心だ。

イザナギ:「船通山は、素戔嗚がヤマタノオロチを退治して、その尻尾から天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)が出現した場所なんです」

ヒルデ:「ムムム、わたしのオリハルコンの剣よりも由々し気だ(`ω´)

タングニョースト:「いえ、もとはギリシャ神話の名刀とは言え、オリハルコンは主神オーディンの賜物でございます」

ケイト:「え、メイドイン北欧神話じゃなかったのか?」

タングニョースト:「ヨーロッパは地続き、問題はない」

桃太郎二号:「船上山というのはなんだよ?」

イザナギ:「時代は下るのですが、鎌倉時代の終りに後醍醐天皇が流刑地の隠岐島から脱出して、やっと落ち着いたのが船上山なんです。太平記ファンには聖地のひとつですね」

ヒルデ:「ゆかしいなぁ日本は、神話も歴史も由々し気だ」

タングニョ-スト:「いえ、姫が閉じ込められていたムヘンの流刑地も、やがては神話になります!」

ヒルデ:「うん、そうでありたいものだな」

テル:「船通山はこの先を左のようだが……」

雪舟ねずみ:「ええと……車が入れるのは登山道口の駐車場までです、2キロの上り道、急ぎましょう」

 

 我々は雪舟ねずみの車に、与一は馬に戻って船通山を目指した。

 

 二キロの登山道を危ぶんだが、ムヘンの冒険で足腰鍛えられた我々には苦では無かった。与一はもとより坂東武者、我々の先を行ってはキリのいいところで待ってくれる。

桃太郎二号:「……ゼーゼー(´Д`;)」

ケイト:「桃太郎二号、おまえ、体力なさ過ぎぃ」

桃太郎二号:「んなこと言ったって、桃太郎は鬼ヶ島ってのがデフォルトだろがぁ、船と平地しかいかねえから、山道ってのは想定外ぃ……」

ケイト:「せめて、鎧ぐらい脱いで車に置いてくりゃよかったのにぃ」

桃太郎二号:「うっせぇ、与一のおっさんもヒルデのネエチャンも鎧じゃねえか、なんでもねえよ」

 ヒョイ

桃太郎二号:「うわ!?」

 与一が桃太郎二号を摘まみ上げて自分の前に座らせる。

桃太郎二号:「おっさん、おろせ、みっともねえ!」

与一:「行軍の速度を落とすわけにはいかん」

桃太郎二号:「くそぉ」

 

 頂上が見えてきた。

 

 頂上付近は、なにやら目出度い雲が湧き上がっていて、なにか良いことが待っているような気がした。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ

 

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RE・トモコパラドクス・24『水島クンのアドベンチャー・3』

2023-09-21 06:26:48 | 小説7

RE・友子パラドクス

24『水島クンのアドベンチャー・3』 

 


 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺されてしまう。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された!

 


「いいえ、あれは宇宙戦艦キイ。ヤマトの拡大発展系……昭二クンが乗っている」

 ここが海なら、キイは沈没寸前の姿であった……。

 キイは、コントロールを失って不自然に傾いだまま、こちらを向いた。

「なるほど、ヤマトより大型ね。兵装も違うわ」

 紀香が呟いた。ヤマトと違いショックカノン砲が連装五十サンチに強化され、パルスレーザー砲も長射程に変わっていた。しかし、そのほとんどが破壊され、伝家の宝刀である破動砲も。双発の戦闘艇が突っこんで、栓をしてしまっている。艦内に残るエネルギー反応は、昭二の微弱な霊体反応だけであった。

「水島クン、まだ生きてる!」

 友子は、感動のあまり矛盾した感動を口にした。

「ハハ、もともと幽霊だもん」

 マネが、余裕の笑みで答えた。

「でも、霊波動とかあるでしょ」

「それが、あの帝国軍の弱点。やつらは、その宗教概念から、霊の存在を認めないの。だから、わたしたちのように水島クンのことは、奴らには分からない」

「それで、どうしようと言うの? もう、味方は、この艦だけなんでしょ」

「艦だなんて、生ぬるい普通名詞で呼ばないで。この艦はヤマトもムサシも、目の前のキイをさえ凌ぐ、超々々宇宙戦艦オワリなのよ」

「気持ちは分かるけど、あんまりオメデタイ名前じゃないわね(^_^;)」

「この食い違う会話って、いいわね。わたし好きよ。地球人の、そういうとこ(^▽^)」

 マネの笑みが楽しげに変わった。

「オワリは、漢字では尾張。旧日本海軍の大和級後継艦として、概念設計までされた艦よ。ちなみにあのキイは紀伊。でも、今はまさにキイよ。この戦闘の」

「どういうこと?」

「キイの自爆装置が生きている。そのスイッチを水島クンに押してもらう」

「そんなことしたら、この艦まで吹き飛んでしまうわよ」

「だいいち、敵艦隊は、ここから四百万キロも先なのよ!」

「そこで、二人の力を借りたいの……」

 マネは、左右の手で紀香と友子の胸を掴んだ。

 ムギュ

「「きゃ(゚д゚#)!!」」

――三人のコアエネルギーでキイの自爆装置をショートさせ、亜空間に送ったうえで爆沈させるの、我慢して――

 並の状況なら女同士でもセクハラだが、敵に察知されないよう、アナログな手段で情報を送ってきたのだ。

――いくわよ!――

 マネの、ダイレクトサインで、三人の念動力(サイコキネシス)は、一つの力となってキイに送られた。

 

 キイの姿が消えた。

 

 実際は、時速一光年の速度で、敵艦隊のど真ん中に突っこみ、惑星一つを吹き飛ばすほどの力で爆発したのだが、爆発は亜空間に送られてから起こったので、こちらからは消えたようにしか見えないのだ。

 結果は、海王星の陰から出たときに分かった。オワリのレーダーから敵艦隊の姿は消えていた。

 

「これで、よかった?」

 

 水島クンが、見慣れた旧制中学の姿で立っていた。

「水島クン、いつの間に!?」

「幽霊は残留思念だからね。だれかが思い出してくれたら、物理的な距離なんか関係ない」

「そうなんだ……」

 友子は、改めて感心した。

「でも、合図をしないことが合図とは考えたね」

 水島クンは、感心して言った。

「どういうこと?」

 紀香が、好奇心一杯に聞いてきた。

「海王星に来るまでにね、水島クンに伝えておいたの。三パターンのシチュエーションを」

「最悪のシチュエーションでしたけどね」

「でも、アナログな幽霊さんが、そんなデジタルなことできるんですか?」

「義体を与えてあげたの。むろん戦闘で機能の九十九%は失われたけど、自爆装置とのシンクロは最後まで失われなかった。で、予定通りってわけ」

 水島クンが、寂しそうな顔で、思い出に耽っている。

「あの義体、よかったなあ……やっぱ、生きてる体はいいですよ。それにハンサムだったし。女性乗組員からもモテましたよ……もう一回、義体になれませんか?」

「そうねえ……じゃあ」


「「かっわいい(♡ˊωˋ♡)!」」


 紀香と友子の黄色い声が揃った。

「予備の義体はこれしか残ってなくって……(^_^;)」

 水島クンは、なんと女の子の義体をあてがわれた。艦内アテンダントの汎用義体だ。

「こ、これが、僕ですか……!?」

 フェミニンボブにミニのワンピになった水島クンが驚いた。

「これで我慢して。アテンダントだから、この二人のようなスペックはないわよ。空も飛べないし、骨格もただの強化チタン合金。スペシウム光線も、小型破動砲もなし。まあ、並の人間より、ちょいましってとこ。言語サーキットは女性に。居住環境は、サービスで設定。身元は……トモちゃんのクラスメートってことで。わたしじゃ面倒見切れないからねぇ、苗字はマンマで名前は……素体のデフォルトで我慢してね」

 パチン

 マネが指を鳴らすと設定は完了した。

 ミニのワンピは乃木坂学院の制服に、髪は黒のお下げに変わった。

「わたし……水島結衣?」

 水島君の新しい人生が始まってしまった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊
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くノ一その一今のうち・76『作戦変更』

2023-09-20 14:53:14 | 小説3

くノ一その一今のうち

76『作戦変更』そのいち 

 

 

 ほんの一瞬迷っているように見えた。

 

 それが並の人間なら――そういうこともある――と見逃す、いや、迷ったことにさえ気づかなかっただろう。

 たとえば、自販機で飲み物を買う時、コインを投入するまでの一秒にも満たない時間、スポーツドリンクにしようかお茶にしようかと悩むような。駅のホームに上がって、一瞬どこの乗車マークに立とうかと迷うような。学食のカレーを食べる時、付け合わせを福神漬けにするかラッキョウにするか迷うような、そんな僅かな間。

 パソコンの画面には高原の国が国境を接する五つの国が表示されている。

 一つは、わたし自身初の大仕事だった草原の国。その他にA・B・C・Dの四か国。

 Cを除いては、いずれも元はソ連の中の共和国だった。

 AとBにアラームが灯っている。アラームといっしょに、その理由が出ている。

――A国の国境付近で爆発事故、国境警備兵二名死亡、三名負傷。A・B共に一級警戒態勢をとって、国境付近に軍隊を集結中――

「作戦変更」

 ひとこと言うと、三村紘一は服部半三の顔でこちらを向いた。

「桔梗とミヒャエルでA国へ、B国へはそのいちと王女殿下とで向かってもらう。A国の方が積極的に事態を拡大させようとしている。むろん背後には草原の国と木下豊臣が付いている。仕掛けてくるとしたらA国だ。なんとしても、AB両国の戦闘を回避させろ。B国が先に手を出すことはないと思うが、様子を探ってくれ」

「わたしは様子を探るだけなのか?」

 王女が不足そうな声を上げる。

「大事な仕事です。それに、いつ状況がひっくり返るかもしれません。そのいち、手に余ると思ったらすぐに撤退してこい」

「「「了解!」」」

「あ、ちょ……」

 まだ気が済んでいない王女をひっぱり、とりあえずB国との国境を目指した。

 

 ドバカラドバカラドバカラドバカラ…………国境へは馬でいく。

 

 草原の国に潜入した時は途中まで原チャを使った。帰路の予想がたっていたからだ。

 今度は予想がつかない、AB両国と高原の国は一応の国交関係はあるが、草原の国が今以上の力で軍事行動を起こせば、いつ敵対関係になるか知れたものではない。馬なら、途中で乗り捨てても自分の意思で王宮の厩に戻っていく。万一発見されても熱を発しない馬であれば誘導兵器で撃破される心配も無い。

 今朝のA国の爆発事故は、A国の不安を煽って自分の勢力に組み入れようとする草原の国の陰謀に違いない。B国との国境で起ったというのはB国の仕業に見せかけるブラフだ。

 AB両国に緊張状態を作り、どちらかに味方して勢力を拡大し、合わせた力で高原の国を攻めようという魂胆だ。

 高原の国は、今のところミサイル攻撃を受けているだけだが、AB両国を傘下に組み入れてしまえば、本格的に陸上部隊を送り込んで一気に高原の国を取りにかかるだろう。

 その大攻勢をかけさせないためにも、AB両国の国境紛争を拡大させてはならない。

 

 キュイーーーン

 

 怪鳥の鳴き声のような音を立て、いくつものミサイルが飛んで行く。

「王都を狙っていますね」

「大丈夫、旧式の巡航ミサイルだ。迎撃ミサイルで大半は墜とせる」

 大半……いくつかは着弾するわけだ。

 それを大丈夫と言えるのは、王女の強がりもであるんだろうが、戦争状態に慣れてしまっているということでもあるんだろう。そう思うと、王女の意地を張ったような敢闘精神も痛々しく思える。

「敵は、混乱を我が国にまで広げようとしている。ぜったいに阻止するぞ!」

「はい」

「あの峠を越えればB国との国境が見えてくる、一気に超えるぞ」

「殿下、少し身を隠しましょう」

「なぜだ?」

「ミサイルは20発を超えています。おそらく戦果確認のためのドローンが遅れて付いてきます、このままでは発見されます」

「そうか?」

「王都撃破、動画をあげれば恰好の宣伝になります。付いているカメラは4K対応の3Dカメラ、侮れません」

「分かった」

 癖のある王女さまだが、変に我を押し通すタイプでもないようなので、少し安心。

 

 道を外れて切通脇の薮に身を潜める。

 

 ブイーーーーン

 

 やがて、ミサイルと同じ軌道を通って模型飛行機のようなドローンが飛んできた。

 危ないところだ、乗り物を使っていたら、エンジンを切っても排熱を感知されているところだった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・23『水島クンのアドベンチャー・2』

2023-09-20 07:13:18 | 小説7

RE・友子パラドクス

23『水島クンのアドベンチャー・2』 

 

 

 海王星近くであいつぐ小爆発! 太陽系辺縁に異変……!?

 

 そんなニュースが世界を駆けめぐった。ただし……扱いは、ほんのコラムではあったが。

 今の二十一世紀初頭の科学技術では、海王星の近くまで行って確認することが出来ない。ハッブル宇宙望遠鏡をもってしても、小惑星か隕石の衝突ぐらいにしか見えず、実際、そこから出てくるデータを解析しても、そういう答えしか出てこなかった。

 ただ、これまでの観測のデータでは、海王星の近くに、こんな大量の小惑星や、隕石などが確認されていなかったので、世界中の天文学者が騒いだのである。

 むろん、このニュースは友子も紀香も知っていた。友子は未来の義体ではあるが未来の出来事に関するデータは入っていないので、他の人類と同じ程度の知識と興味しかない。

 紀香のコンピューターには、この情報はあった。

『2023年、海王星付近の未確認連続小爆発』

 これに該当するものだと思った。ならばなんの問題もない。

 一週間ほどで、この現象は終了するし、地球にはなんの影響もないのだから……。

 

 先週の日曜は、父であり弟である一郎が、新製品開発のツメのため休日出勤。義母の春奈と家中の片づけをやった。片づけたガラクタの中から出てきた友子の昔の写真、その写真で友子が一郎の姉であり義体であることが春奈には分かってしまったが、春奈は、やはり娘として友子を扱ってくれている。一郎にはナイショである。

 今日は、一郎も春奈も、新製品のルージュの発表会に、それぞれ開発者と営業担当として休日出勤。従って、今日の友子はホームアロ-ンである。

 今日はアキバにでも行って、紀香とAKRのメンバーにでも化けて遊んでみようかと思った。

 お気に入りのチュニックを取りだしたところで緊急のメールが直接頭に飛び込んできた。圧縮してあるが、広辞苑二冊分ぐらいの内容があった。そして最後の署名。

――SOS 乃木坂の宇宙人――

 あいつだ!

――了解――

 そう返信すると、友子はろくに発進地点も確認しないままテレポートした。

 

 え?

 

 気がつくと、そこは宇宙船の中だ。テレポデータを参照すると43億3千万キロを超えている。

 地球上のものなら、初めての船の中でも、その全体を掌握し、自在にコントロールすることもできる。しかし、この宇宙船は、そういう点でセキュリティーがきついようで、見えている範囲のことしか分からず、その見えているところも、その構造やスペックまでは分からなかった。

「ごめん、急に呼び出して」

 宇宙人が友子と友子の後にいる者に声を掛けた。振り返ると、紀香があさっての方角を向いていたが、驚いて、こちらを見た。ここでは義体同士の相互認識力も人間並みに落ちている。

「あ、ごめん。セキュリティーをかけたままだったわね。一秒間だけ解除する。船に関する情報をインストールして」

 頭が一瞬グラリとした。ハンパな情報量ではなく、ショックで後ろの紀香は倒れてしまっている。

「あ、大丈夫?」

「大丈夫、こんな情報量だとは思わなかったんで」

 友子は、倒れている紀香に手を貸して起こしてやった。

「じゃ、ブリッジにいきましょう」

「あなた、マネって言うのね」

「あんまり好きな名前じゃないけど、一応、そう呼んで」

「あたしたち、この船コントロールできるようになっちゃったけど、いいの?」

「その必要があるから、そうしたの。さ、ここが……」

 ブリッジには、もう一人のマネがいた。

「二人とも、そのマネから離れて、偽者だから!」

 もう一人のマネの声に、友子も紀香もプチテレポして離れ、ブリッジの両端に移動した。そして両目のスペシウム光線で、もう一人のマネのコンピューターを直撃した。

 ビビビビビビビ!

「ど、どうして……分かったの、完ぺきな義体だったのに……」

 偽マネは、苦しい息の中で聞いた。二人は、それに答えず、トドメを刺した。

 ジュ!

「ありがとう、助かったわ」

「この子のコンピューターには、パンケーキのレシピが欠けていたから」

「そうでなきゃ、偽者とは分からなかった」

「さっき、セキュリティーを解除したときに進入したのね」

「一秒で……?」

「船体に張り付いていたら、一秒あれば十分。右舷の装甲が破れて、シールドが効かなかったからでしょうね」

「処分するね……」

 友子は、偽者の義体を船外十キロの位置までテレポさせると、舷側のパルスレーザー砲を発射した。

 

 ドーーーーーン

 

 原爆並のショックが返ってきた。

「こっちの弾が当たる前に爆発した……自爆装置が付いていたのね」

 紀香が、生体組織から冷や汗を流していた。

「やっぱり、あなたたちに来てもらって正解だったわ」

 マネも声を震わせ、三人安堵のため息をついた。

 ホーーー(*´Д`)

 その時左舷後方から一隻の宇宙戦艦が漂流してくるのが分かった。

「宇宙戦艦ヤマト……!?」

「いいえ、あれは宇宙戦艦キイ。ヤマトの拡大発展系……昭二クンが乗っている」

「え?」「談話室の幽霊?」

 モニターの映像を拡大する。

 

 ああ……

 

 もし、ここが海なら、キイは沈没寸前の姿であった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・053『文化祭の取り組みが決まった』

2023-09-19 15:13:44 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

053『文化祭の取り組みが決まった』   

 

 

 ちょっと反省

 

 そう呟くのはMITAKA(みんなで楽しく語る会)を見事に成功させた真知子。

「え、反省?」

 意外な呟きに思わず聞き返したけど、意味は分かってる。

 月末に迫った文化祭の取り組みが延び延びになって、やっと今日のホームルームで決まった。

 本番まで二週間を切っている。大きな取り組みはできないので『合唱コンクール』への参加でお茶を濁すことになったんだ。

「でも、いい曲に決まったからいいじゃないですか」

 ロコが励まして、真知子が頷く。

 

 今日は珍しく真知子と帰り道がいっしょ。

 

 週に三日はロコと駅まで歩く帰り道、昇降口出たところで真知子が追いついて来て「いっしょしていい?」ということで、三人並んで歩いている。

「あ、うん、『黒猫のタンゴ』明るい曲だし、『若者たち』は、よそのクラスとかぶりそうだけど、みんな知ってる曲だしね、高いポテンシャルで始められそうね」

 真知子は人格者なので、グチをこぼしながらも楽観的に話す。

 わたしは『カントリーロード』が頭に浮かんだんだけど、机の下でスマホを開いて見ると、この1970年はジブリの『耳をすませば』はおろか、ジョンデンバー元歌も発表されていない。

「カンツォーネって『サンタルチア』とか大人が原曲で歌うイメージで、歌声喫茶とかでもあまり歌われないじゃないですか。それを子どもの曲にして、めちゃくちゃ身近になりましたよ。うん、一年五組はカンツォーネの二十世紀旗手です!」

「ハハ、なんだか太宰治」

 え、なんで太宰治?

 太宰と言えば『走れメロス』と『富岳百景』しか知らないわたしは戸惑うんだけど、笑われそうだからウンウンと頷いておく。

「うん、ロコの言う通りね、決まったことだからがんばろう」

「はい!」

 君の行く道は~ 果てし~なく遠い~ ♪

「「「お」」」

 おあつらえ向きにレコード屋から『若者たち』が流れてきた。

「「「歯を食いしばり~君はいくの~か~」」」

 思わず口ずさむ。

 あ、そうだ、これってお祖母ちゃんのオハコだった。思い出すと笑っちゃう。

「え、なんか可笑しい?」

「ううん、お祖母ちゃんのオハコなんだけどね、最後のね『アテもないのに~』をね『アテはスルメで~』に替えちゃうんだ」

「え、スルメ?」

「あ、正しいですよ。スルメは堅いから、歯を食いしばらないと噛めません!」

「「アハハハ」」

「あ、そうか」

 お祖母ちゃんは正しかったんだ。

「でも、メグリンのお婆さんはお若いですね」

「そうね『若者たち』を歌う明治生まれって、そうそういないわよ」

「あはは、変なお祖母ちゃんだからぁ(^_^;)」

 ちょっと墓穴を掘りかけた。

「でも、文化祭の一週間後に体育祭っていうのはきついよね」

「あ、ああ……」

 そうだった、令和の時代は体育祭は五月というのがほとんどだった。十月第一週の体育祭は、ちょっと変。

「加藤君とは意見の合わないことだらけだけど、この件に関しては正論よねえ」

 思い出した、10円男は「そもそも行事の有り方がぁ!」と異議を唱えたんだ。

 みんな――また加藤の演説が始まった――と思って相手にしなかったけど、真知子はちゃんと話の中身で評価している。

「学校の運営って先生たちで決めちゃうよね、それは仕方ないと思うんだけど、生徒にもフィードバックする仕組みは必要よね」

 ちょっと背伸びしてみる。

「あ、うん。仕組みとしては生徒会を通して要望は出せると思うんだけど、そうね……たみ子に言ってみようか。他にも予算の事とか、文化祭そのものにしてもいろいろあるもんね」

「そうですよ、今年は仕方ないけど、来年は二年生です。実り多い高校生活を目指したいですよ!」

「うん、そうだね。ありがとう、ちょっと元気出てきた。じゃ、わたし、こっちだから」

 

 商店街の手前で、真知子は本来の通学路に戻って行った。

 

「真知子さんて、ほんとに意識高いですねえ」

「ううん、ロコだってすごいと思うよ」

「ああ、自分なんか、情報集めて喜んでるだけですから……いて(>.<)」

「ん?」

「なにか顔に……」

 オデコを押えたロコの手にモミジの葉っぱが挟まってる。

「あ、商店街の飾りつけ、秋仕様になったんだ」

「あ、ほんとだ」

 アーケードの柱や釣り物のディスプレーが秋仕様になっている。

 

 戻り橋を渡って令和の時代に戻る。

 橋を渡ったとたん、モワ~っとした空気がまといつく。

 令和の九月は、連日の猛暑。

 でも、まあ、今日も無事だった。正体不明のスナイパーに狙われることも無かったしね。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

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RE・トモコパラドクス・22『水島クンのアドベンチャー・1』

2023-09-19 06:39:56 | 小説7

RE・友子パラドクス

22『水島クンのアドベンチャー・1』 

 

 

 妙子がヨダレを垂らして眠っている……かわいそうなぐらいだらしなく。

 しかし、妙子は悪くない。紀香と友子によって眠らされているのだ。

 

 水島クンが現れて三日目。

 

 土曜日なので、しっかり時間をとって部活ができるのだが、今日は、そうもいかない。

 水島クンがサゲサゲなのである。

 水島クン自身は、ダクトの中で満足していた。

 彼は、兄の水島昭一と同様に、昭和二十年三月の大空襲で死んだのだが、他の戦災幽霊のようには、この世に未練は無かった。

 空襲で、みんなが死んでいくのは辛かった。B29も憎くて怖かった。しかし、自分に関しては自業自得だと思っていた。

 三年ちょっと前には、世界を相手に戦争しても神国日本は必ず勝つと思っていた。

 ミッドウエー海戦が終わって半年ぐらいから、変だと思い始めた。山本連合艦隊司令長官が戦死して、もう日本は負けるなあと思った。でも、自分も熱烈に賛成した戦争なので、恨みの行き場所も無かった。

 父や『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』で、名脇役を果たした兄は、この戦争には最初から反対だった。だから、日本もアメリカも等しく恨むことができた。また、自分の命と引き替えに助けてやりたいと思う人も居た。

 兄は、麻布高女の池島潤子という女生徒に恋していた。もっとも通学途中にすれ違うだけの仲だったのだが。

 昭二は、そんな兄がまどろっこしくって通学途中、友だちに頼んで潤子さんにわざとぶつかってもらい本を落とさせたことがある。

「あ、本落ちましたよ」

「ど、どうもありがとうございます」

 兄は、これで池島潤子さんの名前を確認はしたが、それ以上には、いっこうに進まなかった。そのくせ自分が死ぬときには、潤子さんのことを思い続けた。

――君は助かってくれ――

 そして、潤子さんが、まともな幽霊にも成れないほど焼き尽くされたことを知った兄は、戦後六十余年にわたって、潤子さんが成仏するのを待ち続け『はるか 真田山学院高校演劇部物語』の終盤に成仏するのを見届けて、やっと先年、逝くべきところに逝った。

 そこに至るまでに、兄は消滅寸前の乃木坂演劇部の立て直しに大いに力を発揮し、坂東はるかや仲まどかが俳優として身を立てる手助けもした。最後は消えゆく姿のまま『仰げば尊し』を、みんなと共に渾身から歌い上げ、ドラマチックに昇天していった。

 この弟の方の水島クンは、そんなに心を寄せる人もおらず、他の幽霊のテンションにもついていけず、一人ダクトの中でくすぶっていた。

 幽霊の引きこもり、というのが実際である。

 

「そうだ、演劇部の手伝いをしようか?」

 

 昭二も兄に負けず、浅草などに通っていたので、芝居のことは詳しい。

「あたしたち、義体だからさ、演技なんてお手の物なのよ。ねえ、友子……」

「うん、いざとなれば、世界中のコンピューターにもアクセスできるし、有名無名を問わず演劇関係者の頭脳も覗き込めるしね」

「じゃ、道具とか、力仕事は!?」

「わたし、こう見えても十万馬力(^_^;)」

「そうか……(-_-;)」

「ごめんね、せっかくダクトの中でタソガレてたのに」

「いや、いいんだ……」

 水島クンはうなだれてしまった。

 

 コンコン

 

 そのとき談話室がノックされた。

「どうぞ」

 と言ってみたものの、相手の正体が見抜けない。一応の外見は分かる。乃木坂学院の女生徒のナリはしているが、テンプラだ。全生徒の情報を検索しても、こいつは出てこない。

「こんにちは(^_^;)」

「だれなの?」

「分からない、初めての気配……」

 紀香と友子は、念のため戦闘モードに切り替えた。

「ごめんごめん。この気配なら分かるでしょ?」

 友子には覚えのあるオーラに変わった。

「……ああ、なんだ、あの時の宇宙人さん」

 そいつは、駅前のパンケーキ屋でいっしょになり、富士の樹海にテレポートしてバトルを繰り広げた宇宙人であった。

「これ、お土産」

「わ、駅前のパンケーキ!」

「レシピ分かったから、レプリケーターで合成したものだけどね。あ、その眠っている妙子ちゃんには、これね。保温になってるの。それから水島クンには、こっち。幽霊さんでも食べられる、特別制」

 水島クンは、恐る恐る手を伸ばして口に入れた。

「う……美味い(#◎□◎#)! ほんとうに食べられるものなんて七十何年ぶりだ(;'∀')!」

 涙さえ浮かべて喜ぶので、三人は女子高生らしくコロコロと笑った。

「ダクトから出てきて正解だった!」

「ハハ、今の今まで落ち込んでたのに」

「エヘヘ」

 初めて、年相応に水島クンは笑った。

「でもね、水島クン。食べ物食べて楽しいのは、ほんのしばらくだよ。どう、ちょっとしたアドベンチャーに出てみない?」

「アドベンチャー?」

「うん、アドベンチャー(^ω^)」

 水島クンの目が輝き、宇宙人が微笑んだ……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊

 

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鳴かぬなら 信長転生記 143『信長版西遊記・羅刹女の岩山・1』

2023-09-18 12:56:13 | ノベル2

ら 信長転生記

143『信長版西遊・羅刹女の岩山・1信長 

 

 

 モンモンモンモン モンモンモンモン モンモンモンモン……

 

 岩に木霊してなにやら聞こえてくる。

 くぐもった響きは過行く夏を怨みながら最後の力を振り絞る蝉のようでもあり、地の底で繰り言を呟く土地神たちの群れのようでもあり、地底の風穴が大地の血流の響きを拾っているようでもある。

「……あれは念仏の響きだウキ」

 親父(織田信秀)の葬儀に乱入した時、菩提寺の本堂に満ち満ちていたクソ坊主どもの読経に似ている。

 元々は漢語である経を、そのまま音だけ拾ってモンモン唱える読経など、参列者はおろか当の坊主どもも意味など解してはおらん。

 それを、さも有難そうに唱える坊主どもも、それに和する参列者の有象無象たちも反吐が出るほど嫌いだった。

 リチャード三世も真っ青というような権謀を巡らし、領民や家臣どもから恐れられながらも尾張半国しか取れなかった親父にも腹が立った。

 ムカムカして焼香壇に進むと、想いが溢れ、香を手づかみにして位牌に向かってドバドバ投げつけた。

「さらわれた坊主たちに違いないッパ」

「様子を見に行こうブヒ!」

「ウキ!」

 

 岩陰を拾いながら風穴の奥に進む。

 

「あれだッパ!」

 沙悟浄が指差す穴を覗くと、大勢の坊主が特大の平鍋に半身を漬けられモンモン経を唱えているのが見えた。

 鍋の中央に薬草や香草が積み上げられたところがあって、我らが三蔵法師がニコニコと経を唱えている。

 

 ボ!

 

 音がしたかと思うと、鍋の周囲に陽炎が立つ。

「あ、いま火をつけたブヒ!」

「とろ火だ、じっくり煮込んでエッセンスを搾り取ろうという算段だッパ!」

「くそ、玉門関で助けてやったというのに、無防備すぎるぞ坊主どもブヒ!」

「俺たちも三蔵法師を取られているんだ、文句は言えないウキ! まずは、鍋の火を止めるウキ!」

「「よし!」」

 穴を飛び降り、鍋の周囲を駆け巡る。

「どこにも元栓は無いッパ!」

「これは妖術鍋ブヒ!」

「くそ、元凶を倒さなければ停められないのかウキ! 羅刹女の居所を突き止めるウキ!」

「この岩山のどこかに居るブヒ!」

「やみくもに探しては鍋が煮えてしまうウキ、なにか目星、ウキ!」

「そうだ、いまは牛魔王が来てるブヒ、牛魔王はデカイから目立つブヒ」

「いや、今は人の形だッパ」

「じゃぁ、しらみつブヒ!?」

 羅刹女の岩山は全山が軽石のように無数の岩室がある、探すとなると手間取りそうだ。

「いや待て、人の姿ということは……お楽しみに至る可能性が高い、いや、真っ最中かもしれんッパ」

「ブヒ、お愉しみ(n*´ω`*n)!?」

「牛魔王の本性は黒牛、牛の体温は40度もあるし体臭がきつい、ヒト化してましにはなっているだろうけど、狭い岩室、きっと換気をしているに違いない。臭いと温度を探るッパ」

「よし、ウキ!」

 坊主たちの鍋も少しずつ温度が上がって、そこからも熱が放散され始め、そこの放熱と区別がつきにくくなる。いや、うかうかしていては、三蔵法師も坊主どもと諸共に煮上がってしまう! 時間の問題だ! 時間の勝負だ!

 俺たちは、岩山を駆けまわって羅刹女の岩室を探した!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

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RE・トモコパラドクス・21『あの水島さんの弟!?』

2023-09-18 06:57:59 | 小説7

RE・友子パラドクス

21『あの水島さんの弟!?』 

 

 

 二人が不審げに戻ってくると、そいつはホコリを払って、やっと立ち上がるところだった。

 そいつは、戦前の旧制中学の制服を着ている。起き抜けみたいに目をしばたたかせ、キョロキョロすると友子と紀香の顔を交互に見た。

「君たち、僕のこと見えてる……?」

「「うん」」

「キミは、残留思念が実体化したものだね」

「ぼく、残留思念なのかい?」

「普通は幽霊っていうやつ、でしょ先輩?」

「うん、幽霊ってのは、本人は自覚してないだろうけど、一種の残留思念なのさ」

 紀香は、ロマンのカケラもない話をし始めた。

「残留思念……?」

「オナラしたら、臭い残るでしょ。あれみたいなもん」

「オ、オナラ……」

「……じゃ、かわいそうか。写真撮るでしょ。ストロボ焚いてズボッって。そしたら、しばらく光が目に残るでしょ」

「もうちょっと、ロマンチックにさ……」

「むつかしいなぁ……好きな女の子ができたとするじゃん。そしたら、寝ても覚めても、その子の姿が目について離れない……これくらいでいい? わたしの言語サーキットって、あんまり文学的にできてないの。ごめん」

「じゃ……僕って、ただの幻( ꒪⌓꒪)!?」

「そいうこと」

 しょげてきた幽霊さんに、友子がフォローに入った。

「あのう、あなたの時代でも、電話ってあったじゃない。あれって不思議でしょ。何百キロって離れたところから話しても、耳元でしゃべってるみたいでしょ。それに近いかな?」

「あ……オナラよりましかな?」

 友子は思いついて、スマホを出した。そして五目並べの無料ゲームをダウンロ-ドした。

「やってみて、ここの画面にタッチするだけでいいから」

「え……すごい。僕五目並べには自信あるんだけど……あ、負けちゃった。これ、誰かがどこかで操作してんの?」

 幽霊さんは、スマホをひっくり返したり、グッと目に近づけて見つめたりした。

「それ、中に五目並べに関する思考力が入ってるんです。これ、ちょっと近い?」

「人工頭脳?」

「まあね」

「こんなのもあるよ」

 紀香が、タブレットを取りだした。

「なんですか、この厚めの下敷きみたいなのは?」

「まあ、いいから。出会いって字にタッチしてごらんよ」

「え……うわ!」

 幽霊さんが腰を抜かした。

 タブレットの上には1/2サイズの女の子のホログラム映像が現れていた。

『わたしでよければ……お付き合いしていただけますか。名前は紀香っていいます♪』

「もっとタッチしてごらんなさいよ」

 タブレットの上には、次々と美少女が現れては幽霊さんを誘惑していく。

「紀香、キャラにお友だちの名前付けるのやめてくれる」

「ごちゃごちゃ言わないの」

「それに、紀香って子と、友子って子と、ずいぶん差があるように感じるんだけど」

「差を付けたんだもん」

 あまりの正直さに、友子はズッコケて怒る気もしない。

「それに、それに、これって現代の技術にないもんだし!」

「まあ、いいじゃん。ほんのお遊びなんだから……え、なんで、そいつ選ぶの!?」

 幽霊さんは、友子を選んでいた。

「飾りっ気がなくて、僕と気が合いそうで……」

「あ、そ(`з´)!」

 紀香はむくれたが、幽霊は落ち着きを取り戻してきてホログラムに語り掛ける。

「自分は、水島昭二っていいます。昭和四年生まれ。兄が昭一、もう成仏しちゃったけど。あ、僕幽霊なんだけど構わないかな(#^0^#)」

『あ、わたし、幽霊さんて大好きです。生きてる人間みたいにウザイこと言わないし。いつでも、お相手してくださいそうで。あ、あの……』

「なんだい?」

 幽霊さんは、あまり身を乗り出しすぎて、ホログラムの友子と被ってしまった。まるでCGのバグだ。

『ハハ、お互い実態がないから被ってしまいますね』

「ああ、ごめん」

 水島クンは、頬を染めて後ずさった。

『お名前、なんて読んだらいいですか。水島さん? 昭二さん? あ、ハンドルネームでもいいですよ』

「ハンドルネーム?」

『あ、仮名のこと。バンツマとかエノケンとかさ』

「僕は、堂々と本名だ!」

『じゃ、水島さん』

「あ、それじゃ、兄貴と区別つかなくなるから、昭二で」

『じゃ、昭二さん……』

 

 そこで、紀香はタブレットのスイッチを切った。

 

「あ、友子さん……」

「分かった? 原理的には、このタブレットの子と水島クンは同じなの。タブレットの友子は人工頭脳が作った残像みたいなもの。あなたはこの校舎や時代の空気に焼き付いた残留思念なの。でも、ちゃんとした自意識も判断力もあるけどね。それを世間では幽霊という。分かった!?」

「分かった……かな、なんとなく……でも、君たちも普通の人間じゃないね」

 そこからの説明は長くなったが、どうやら水島クンは分かってくれたようだ。非常に洞察力と理解力に優れている。旧制中学は偉い!

「あなたって、ひょっとしたら『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に出てくる水島さんの弟さん?」

「その物語は知らないけど、水島昭一なら、一つ上の兄貴だよ。そんな物語があるんなら読んでみたいな!」

 水島クンが目を輝かせた。

「あ、今は手許にないの。電子書籍にもなっていないし、そうだ!」

 友子は、紀香のタブレットをひったくり、アマゾンのサイトを出した。

「よかった、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』は一部在庫有りだって、注文しとくね」

「ちょ、ちょっと」

「これも縁じゃん。半分ずつもって、水島クンにプレゼント」

 

 そう決めたとき、談話室のドアを開けて、三者懇談の終わった妙子が入ってきた。

 

「え、どうかした、二人とも?」

 どうやら、妙子には、水島クンの姿は見えないようだ。

 友子は、謎であった『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の水島さんの名前が分かって、大満足であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊

 

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やくもあやかし物語・2・007『先代ボビーの墓参り・1』

2023-09-17 10:11:19 | カントリーロード

くもやかし物語・2

007『先代ボビーの墓参り・1』 

 

 

 ネルが入って、うちの女子は8人になった。

 あ、聴講生の詩(ことは)さんを入れると9人ね。

 

 マシになったとはいえ、もともとコミュ障のわたしは全員とは仲良くなれていない。

 

 ちなみに、女子のクラスメートは以下の通り。

 アーデルハイド・クロイセン   みんなからハイジと呼ばれてる活発な子。

 アイン・シュタインベルグ    アインシュタインとは関係ないらしいけど、頭は良さそう。

 アンナ・ハーマスティン     どんな? そんな? あんな? まだよく分からない。

 オリビア・トンプソン      良家のお嬢さん まだよく分からない

 コーネリア・ナサニエル     ネル ノッポのルームメイト エルフ  気が合いそう

 ベラ・グリフィス        天文台みたいな苗字  まだよく分からない

 ヤクモ・コイズミ        わたし

 ロージー・エドワーズ      バラみたいな名前  まだよく分からない

 

「ねえ、ボビーを見に行きません?」

 

 言語学の授業が終わるとオリビアが声をかけてきた。

 クラス一番の美人でお嬢のオリビアに声を掛けられて、ちょっとドギマギ。

「お、いくいく!」

 わたしが返事する前にネルが割り込んできて、これにハイジが加わって四人で見に行くことになる。

 言語学のあとはランチなので、いつもより早く食べて、ボビーの住家である衛兵詰所に向かう。

 前にも言ったけど、学校は王宮の敷地の中にある。

 宮殿と『王室管理』の札が掛かっていないところ、それから、森の奥と夜のヤマセン湖は立ち入り禁止。

 

 衛兵詰所は、王宮正門脇の石造り。

 

「ちょっと入りにくいね」

 鉄砲持った兵隊さんが等身大のフィギュアみたいに立っている。

「裏に周ってみましょう」

 オリビアの意見で裏に周ると、ちょうどソフィー先生がボビーを引き連れて出てくるところだった。

「なんだ、お前たち?」

「えと……」

「「「ボビーを見に来ました!」」」

 わたしが言い淀んでいると、三人が声を揃えて返事をする。

「そうか……ちょうどいい、これから先代ボビーの墓参りに行くところだ。ネルとオリビアは免許を持っていたな?」

「「ハイ」」

「お前たちは、向こうのカートに乗って付いてこい」

「「「「ハイ!」」」」

 ウィーーン

 あれ?

 ソフィー先生のカートは回れ右して宮殿の方に進んで行く。

「いったん降りろ」

 宮殿の前に付いて、下りるように言われる。

「アテーンション!」

 いきなり号令を掛けられ、条件反射で気を付けする。

 

 え?

 

 なんと、宮殿の正面玄関から王女と聴講生の詩(ことは)さんが出てきた。

「あら、あなたたちも来てくれたんだ(^▽^)」

 満面の笑顔で喜んでくださる王女さま。

 詩さんは侍従さんに車いすを押してもらっていたんだけど、一言告げると侍従さんは、こちらに会釈して行ってしまった。

 これは、代わりにお世話しろということだ。

 ちょっと緊張して詩さんの方に足を向ける。

「「あ、大丈夫よ」」

 王女と詩さんもハモって、みんなでクスクス笑う。

 控え目だったけど、ソフィー先生が笑うところを始めて見たよ。

 もう一台のカートにはリフトが付いていて、あっという間に準備が整う。

 

 ワン!

 

 ボビーが一声あげて、二台のカートはお墓参りに出発したよ。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        小泉やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 

 

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RE・トモコパラドクス・20『冷房開始の日』

2023-09-17 06:34:53 | 小説7

RE・友子パラドクス

20『冷房開始の日』 

 

 

 今日は冷房開始の日だ!

 学校の規則では、六月から冷房になっている。

 それが一週間も早く冷房し始めたかというと、二つの理由がある。

 一つは、校内全部の冷房装置……エアコンなどという華奢なものではなくて、屋上にドデンと設置されている室外機は、あたかも宇宙怪獣捕獲の檻のようだ。
 檻の上から水を流し、その水で怪獣の暴走を止めているのかというようなシロモノ。ガチの形式は『異容量接続・個別運転マルチ』という前世紀の年代物で、学校はこれをダクトごと交換するという大工事を、この春休みにやった。

 業者は真面目な会社で、言い換えれば作業効率を上げ、純益を増やしたい会社で予定の工期よりも早く仕上がった。この手の工事は、試運転して、さらにあちこち手を入れなくてはならない。それを規則通り、六月まで待つと、契約期間が長くなって、工事費が高くつく。そこで試運転を兼ねての運転開始、一週間にかかる電気代と計りにかけると、トントンになる。

「それじゃあ、先生方や生徒諸君の利益になるほうでやりましょう」

 理事長の鶴の一声で前倒しの稼動が決まった。御歳九十五歳になられる理事長だが、思考はいたって柔軟だ。

 友子は義体なので、冷暖房なんて関係ないのだが、生体組織が気温や湿度、日差しの影響を受け、自動で人間らしい反応をする。方や紀香は型番の古い義体なので、生体反応は季節ごとにプログラムしなければならない。少し優越感を感じる友子ではある。

 窓側の生徒たちは、冷房が入っても暑いらしく、麻子などは、スカートをパカパカやって、それでも足りずに下敷きでスカートの中に風邪を入れて、もう女を捨てたという感じだ。

 王梨香は、華僑の娘さんらしく平然としている。先祖代々、いろんな国を渡り歩き順応してきた一族の強さなのかもしれない。このクラスがみんなパニックになっても梨香一人泰然自若としているであろうと友子は思った。

 二時間目の英語の授業。

 長峰純子は吹き出し口の真下で震えている。ちゃんと分かっている友子なのだが、本人が申し出るか保健委員の亮介が気づいて先生に声をかけるまで放っておく。彼女の成長のためには必要なことだろう。
 でも、純子はひたすら堪えるだけで、やっと授業の中ほどで「Is it possible if I go to the bathroom?(;'∀'#)」と蚊の鳴くような声をあげた。英語の先生は一瞬キョトンとしたが、さすがに意味が分かって「おふこーす」と応える。十分たっても帰ってこないので、梨香が手を挙げて「様子を見てきます」と申し出て、その五分後「ちょっと貧血気味なので、保健室寄ってきました」と梨香の解説付きで戻ってきた。
 梨香は、本当に気のつく良い子だ。席に戻るとき目が合ったら、目が優しく笑っていた。思わず友子は『ごくろうさま』と目配せをしてしまった。

 委員長の大佛聡が気を利かせて、休み時間に机に乗って吹き出し口の向きを変えた。新品なので少し硬いようだ。

「……くそ、新品なんで硬いや」

「わたしが、やってみる」

 しゃしゃり出てしまった。吹き出し口は施行ミスで、ダクトと吹き出し口のリングの間に接着剤が少量入ってしまい、それで動かないことがすぐに分かった。計算すると一トンの力で動くことが分かった。吹き出し口は一トンと百グラムまで耐えられる。まあ、このくらいのものなら余裕で……。

 ベッコン!

 お腹に響く音がして、吹き出し口は回るようになった。

 でも、ダクトそのものの強度を考慮していなかったので、ダクトが配管の中で歪んでしまった。目を非破壊検査モードにしてチェックしてみると、ただ捻れただけなのでテヘペロ(๑´ڤ`๑)をカマシて放っておく。


 放課後、稽古場になっている同窓会館に行くと、新しい台本が決まったので、さっそく紀香と二人で、動きながら本を読んでみる。

 新しい台本は熱が入る。

 昼間閉めっぱなしの談話室は二人の熱気もあって35度まで室温が上がった。人間である妙子には耐えられないだろうと、冷房を入れる。

 ウィーーン

 教室と違って、ここは美観を損ねるということで、新しいダクトは通っていない。昔の通風口を利用して、風を送り込んでいるせいか冷気がなかなかやってこない。

「なんか詰まってるのかな?」

「妙子が来る前に、なんとかしよう」

 紀香は、そう言ってジャージに着替えると、隣の用具室に行き、そこの通風口から、秒速三十メートルの息を吹き込んだ。

 ブボォー!

 ズボ

 ホコリと一緒に何かが落ちてきた。

「ねえ、なにか落ちてきたわよ……」

「え……?」

 なにやらグニャグニャしたものに埃やカビがまといついて人のような輪郭を現している。

 パンパン パンパン

 ウワアア!
 
 そいつが二本の触手を伸ばして体を叩くと濛々と埃がたって、友子と紀香は談話室を飛び出してしまった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部

 

 

 

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銀河太平記・181『奥の院』

2023-09-16 10:31:41 | 小説4

・181

『奥の院』穴山新右衛門 

 

 

 奥の院は御庭の奥にある。

 

 御庭の奥は五月の斜面を挟んで啓林が借景の山のように蹲っている。

 斜面の小道は緩いカギ型で、啓林の入り口には二本の石柱が立って結界になっている。

 石柱の先は、めったに入れない。

 石柱の先、苔むした小道の尽きたひそみに奥の院がある。啓林に足を入れると、周囲より二度ばかり気温が低く、その静謐さと相まって、いかにも神域めいている。

 拝殿があって、奉行以上の役職に任ぜられたときは、ここまで来て祖神と祖霊である一仁(かずひと)様に精励の誓いをたてる。

 法的には将軍家の私的な霊廟であるが、扶桑の国にとって一番の聖域でもある。

 

「奥まで入るよ」

 

 てっきり拝殿でなにやらお誓いすることになるのかと思っていたら、奥の奥、神社で言えば本殿まで行くと仰せになる。

「しかし、平服でありますし、斎戒もいたしておりません」

「それはわたしも一緒だ」

「はは!」

 

 正面に『扶桑大神』 左に『扶桑一仁』 右に……なにも書いていない木牌。

 

 主従並んで最敬礼したあと、お上は、厳かにおっしゃられた。

「祖神、祖霊の御前で命ず。穴山新右衛門、大老職を受けよ」

「は、ははあ!」

 ここに至って否とは返せない、お上の並々ならぬご決意、お受けする他に道は無い。

「ハンベを鑑(かがみ)にせよ」

 鑑とは役人言葉で、書類の表紙の事を言う。ハンベの鑑とは大昔のスマホでいうところのマチウケのようなものだ。

 役人の場合、持ち主の姓名と職員番号が秘められている。

「鑑にいたしました」

「自分の姓名を、右の木碑が光るまでクリック」

「は?」

「はやくいたせ」

「は!」

 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ……

 息子の親友たちの顔が浮かんだ、ハンベゲームで、よく弾幕シューティングゲームをやっていた。息子の彦には禁止こそしなかったが、あまり見っともいいものではない。この歳で、不本意ながらも大老職を引き受けたばかりの大人がやることではないだろう。

 パンパカパーーン!

 今どき、子どものゲームでも使わないようなエフェクトがして、木碑が輝いた。

「よし、これで、シキシマとの縁が結べた」

「シキシマ?」

「ここでは畏れ多い、黒書院……いや、東屋で話そう」

「は!」

 

 もう一度最敬礼すると、二柱の木碑も輝き、どうやら祖神、祖霊も嘉したもうご様子であった。

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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RE・トモコパラドクス・19『Let It Be……』

2023-09-16 06:55:26 | 小説7

RE・友子パラドクス

19『Let It Be……』 

 

 

「もう! 散らかしっぱなしで!」

 春奈(お母さん)の声で友子は目が覚めた。

 

 友子は、なるべくリアル女子高生に見えるように調整している。

 パンケーキ屋の新装開店にも並ぶし、少しお喋りだし、軽率に噂話には加わらないが聞き耳はたてるし、そのくせ授業の集中力は25分が限度だし、教科書で隠してスマホはも観るし。

 そして、休日はなかなか目が覚めないようにしもていて、その感度は、乃木坂女子の平均値。だから、休日の朝はなかなか目が覚めないのだが、友子の頭には危機感知モードというのがあって、声の大小にかかわらず、そういう事態には目が覚める。

 

 今の春奈の声は夫婦の危機レベルであった。

 

「どうしたの、お母さん?」

 とりあえず、ハーパンにTシャツという横着な寝間着姿でリビングに向かう。

「トモちゃん。見てよ、このざま!」

「ああ、なーる……」

 リビングは、夕べ一郎が仕事のために出した資料や、サンプル、予備のパソコンや周辺機器で一杯だった。

「研究職って、これだからヤなのよ。商品開発のためなら、なんでも許されると思ってるんだから!」

 そう言いながら、春奈はテキパキと片づけ始めた。 

「顔洗ったら、わたしも手伝うねぇ」

「ごめん、トモちゃん。テスト明けの日曜だっていうのに……少しかたしといてくれる。回覧板まわしてきたら本格的にやるから」

「はーい」

 一見してガラクタだと思った。

 一郎は昔から、そうだった。

 子どもの頃、八畳間を姉弟二人で使っていた。とくに仕切なんかなかったものだから、読みかけのマンガやガラクタが、いつの間にか友子のテリトリーに進入してきて、そう言う時は泣くまで叱ってやった。少し懐かしい気持ちになって、リビングと一郎の部屋を往復する。

「あ……」

 思いがけない物を見つけた。

 一郎が三年生の夏休みのとき、少年科学雑誌に熱中し、図工の宿題を忘れてしまった。工作が苦手な一郎は途方にくれて、友子に泣きついてきた。友子は自分の宿題の分の紙粘土が残っていたので、それでピカチュウの貯金箱を作ってやった。そのずんぐりむっくりな姿と、機能性を評価され、いつにない成績をもらった。

――こんなもの残していたんだ――

 思わず、しみじみ眺めているうちに春奈が戻ってきた。

「あ、それ亡くなったお姉さんが作ったもんだって、初めてあの人が自分の部屋に呼んでくれたときに見せてくれたのよ。お姉さんには想いがあったみたい」

「そうなの……」

「研究職の資料だから、勝手に整理できないし……でも、このスペースじゃ、収まりきれないわね。よーし……」

 春奈は、腕まくりすると、床が見えなくなるほどのガラクタを片づけはじめた。

 あわ!

 ドッシャーン

 春奈は、スカイツリーほどに積み上げられたガラクタの山を崩してしまった。

「あ、もぉ(`m´#)……ああ!?」

 そして、その中に自分たちの結婚写真帳が混ざっていることに気付いた。

「こんな大事なものを、あ~あ~角が折れちゃったよ……ん?」

 春奈は、結婚写真を収めた白い写真帳のノリが剥がれて、中にもう一枚の写真が入っていることに気づいた。

「あれ……」

 と言ったときには、もう遅かった。

 それは、友子が児童劇団を受けようとして撮ったとびきりの写真だ。友子の義体化が長引くことが分かったときに当局からの指示で、友子に関する物は全て処分された。戸籍から、学校の在学記録まで、全て……でも、一郎は処分しきれなかったのだろう。この写真一枚大事にとっておいたのか、あるいはうっかり残してしまったのか、自分の結婚写真の裏に入れてしまった。しかし、もともと不器用なこととノリの劣化、そして、さっきの衝撃で口が開いてしまった。

「え、これって……トモちゃんよね?」

 募集用の写真なので、裏には、生年月日と名前まで書いてある……。

「昭和52年……どういうこと?」

「あ、あのね……お母さん(-_-;)」


 友子は観念して、義理の妹に全てを話した。


「そう……トモちゃんて、わたしのお義姉さんだったの……」

 友子は、その後に来るパニックを恐れた。

「あ、えと……」

「アハハハ…………ああ、おっかしい」

 春奈は、涙を拭きながら笑った。

 友子は後悔した。

「トモちゃんは、やっぱトモちゃんだわよ。どう見ても十六歳の高校生。ほら、そんなに涙ぐんじゃって。どう見ても思春期の女の子。今まで通りの母子でいきましょう。たとえこれから、なにが起こるか分からないけど、トモちゃんはわたしの娘だって、決めちゃったんだから!」

「……うん、ありがとう、お母さん」

 友子は、穏やかに頷いた。それが、プログラムされた能力なのか、自然な心なのか分からなかった。でも、実感としてはお母さん。

 Let It Be……

 むかし好きだったジョンレノンの曲を思い出した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部


 

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RE・かの世界この世界:206『天の斑駒だピョン₍ᐢ.ˬ.ᐡ₎!』

2023-09-15 09:25:23 | 時かける少女

RE・

206『天の斑駒だピョン₍ᐢ.ˬ.ᐡ₎!』テル 

 

 

 この馬は天の斑駒だピョン₍ᐢ.ˬ.ᐡ₎!

 白ウサギは、馬の背中に飛び乗ると、腰に手を当て胸を反らせて言い放った。

 

桃太郎二号:「アメノフチコマぁ?」

 桃太郎二号がうさん臭そうに腕を組むとイザナギさんが「ハッ(゚д゚)!」と息を呑んだ。

イザナギ:「わたしは娘のアマテラスに高天原を治めさせるんですが、そのときに持たせてやったのがアメノフチコマなんです。おとなしく力持ちの馬なのですが……」

白ウサギ:「そうだピョン、でもスサノオのバカが皮を剥いて織姫の機屋に放り込んだんだピョン」

みんな:「「「「ええ( ゚Д゚)!?」」」」

白ウサギ:「で、神話の中でもいちばんかわいそうな馬なんで、活躍のチャンスをつくってやろうってことになったピョン」

与一:「わたしの馬は?」

白ウサギ:「もう歳だピョン、那須の田舎でさんざん働いて、余生を与一の家で畑耕していた年寄馬でしょ」

与一:「ああ、でも、乗り手の呼吸をよく読んで自在に動いてくれる名馬だったんだぞ。屋島で活躍できたのも、あの馬がいたからなんだ」

白ウサギ:「ああ、それなあ……馬も喜んでたピョン。でもな、もうあれが精いっぱいのとこさ。与一が乗る前に10人の兄ちゃんたちが、さんざん乗った馬だったからね。それに、壇ノ浦から鬼ノ城まで駆けに駆けて、もう中国山地を超えて黄泉平坂までは無理ピョン。療養させて那須に帰してやるから、天の斑駒に乗ってけピョン」

与一:「そ、そうであったか……」

ヒルデ:「このお膳立てをしたのは白ウサギではないだろう?」

白ウサギ:「えと……」

テル:「岡山でアルバイトしてたやつが、ここまでのお膳立ては無理っぽくないか?」

ケイト:「あ、ひょっとしてペギーのおばさんに頼まれたとか!?」

テル:「面倒見のいいペギーならあり得る話だけど、ここは、ペギーにとっての本拠地ではない、そこまでできるだろうか?」

白ウサギ:「じつはね……名前は言えないんだけど、ある人に託されたんだピョン。その人は、えと……黄泉平坂の途中の船通山てとこで待ってるから、途中で寄って欲しいピョン」

イザナギ:「船通山……」

ヒルデ:「ご存知か、イザナギ殿?」

イザナギ:「船上山というのもありましてね……申し訳ない、ちょっとゴッチャになっています」

白ウサギ:「ま、そういうことだから、ちゃんと行ってくれよね。じゃ、例の手紙もわすれないでねピョン!」

 馬の背から大きく跳ぶと、すぐに林の中に隠れてしまって気配が無くなった。

タングニョースト:「急ぎましょう、うかうかしていると鬼ノ城で一泊することになります。車が走る道に出て距離を稼ぎましょう」

ヒルデ:「ああ、そうだな。雪舟ねずみ頼むぞ」

雪舟ねずみ:「はい、任せてください!」

 

 そして、鬼も城を出たわたしたちは『黄泉の国を目指す有志の会』の旗を『黄泉の国を目指す勇者の会』に替えて、勇ましくも陽気に北を目指すのだった。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ

 

コメント
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