9月18日
熱海で飲み会があり私は福島屋の宿を予約しておいた。
仲間を駅のホームまで見送り一人宿へ向かった。
到着が遅くなり暗くなった道を歩きホテル貫一のカーブを曲がると福島屋が見える。
いつもと変わらぬ佇まいに安堵し近づくと玄関の脇にしゃがみ煙草を吸う松尾さんの姿が見えた。
いつものように手を挙げて迎えてくれる姿
「待っていてくれたんですか?(汗」
いつもの「かもめの間」に案内されて風呂へ入る。
他に客がいない浴室を貸し切状態で浸かっていると
「あぁ、帰ってきたな~」としみじみ思う。
翌日、コルトで来ていれば駅までマクドの朝食を買い錦ヶ浦か熱海新道で食べるのだが
今日は近くのコンビニで済まそう。
階段を下りると松尾さんがテーブルの上にアイスコーヒーの1Lパックを置き
ソファに座り煙草を吸っていた。
それもいつもの光景だ。
「ちょっと行ってきま~す」と声を掛けコンビニへ向かう。
コンビニの朝食が終わると日帰り入浴の客が来る前に風呂へ入る。
この宿の一番風呂に入れるのは宿泊客ならではの特権だ。
部屋に戻り布団に入ったりテレビを見たりスマホを見たりでグダグダし悩む。
『今夜は花火大会。明日も休みだしそれを観て帰ろう。でもどこで時間を潰す?』
さんざん悩み帳場へ向かう。
帳場でうたた寝をしている松尾さんに
「もう一泊いいですか?」と尋ねると空いているのであっさりOK。
再び福島屋を味わえる。
何をするでもなく布団でゴロゴロし温泉に入って部屋に戻り「かもめの間」の窓に座り浴衣で団扇をあおぐ。
ビールを飲みテレビを見て再びゴロゴロし寝入ってしまうともう夕方。
でも決して一人ではなく人恋しくなり1階へ降り帳場の前のソファで新聞を読んで居ると
頃合を見計らったように松尾さんが出てきて話しをしてくれるのだから。
そしてまた布団で横になり寝ていると
静かな二階とは対象的に下では福島屋に興味を持った家族連れのお客さんに案内、説明をする松尾さんの声が聞こえた。
楽しそうでこちらもそんなひと時が幸せでした。
下も落ち着き降りていくといつものようにソファーに座りタバコを吸う松尾さんがいる。
ちょっと食事に行ってきまーす!と声を掛けると「いってらっしゃいましー」と送り出される
一寿司で寿司を堪能すると花火大会の時間となり小雨の中で一人花火を見た。
20分ほどで花火が終わり宿へ戻ると松尾さんがソファにいる
『はい、お帰りなさいまし』
私は部屋からタバコを取りだしビールを持って松尾さんと歓談。
そこへ隣の部屋の家族連れが花火大会から戻ってきた。
二歳になるという子供に『花火怖くなかった(笑)』と尋ねその親御さんに
『せっかくですから家族三人でお風呂を使われては?』と心配りをする姿はこちらから
見ても微笑ましかった。こういうのがいいんだな。
お風呂から出てきたご家族を交えソファで他愛も無い話しをするひととき。
こんな時間が大切に思えます。
それからまた二人で話しをして夜が終わり翌日は名残惜しいが早めに引き上げる事にしました。
どんな話しをしたか いつも為になる話しを聞くのだが酒のせいか翌日は殆ど覚えていなかったりする。
外は雨。
コルトで「来熱」(松尾さんがよく使った言葉)すると暖気運転もあり出発するまで時間が掛かるのだが
今回はそうではない。
赤電話の前の上がりのところに座った松尾さんに「ではまた!お世話になりました」
と告げるといつものように手を挙げて送り出す。
ただ、気になったのはいつもなら立って見送ってくれるのに今回は座ったままだった。
普段と違うちょっとした事が少し気になった
それが
私の見た松尾さんの最後の姿でした。
前回にコメントをくれたゴンザレスさんが
「不思議な魅力のあるいい宿でしたね。」
と書いてくれましたが本当にその通りな宿でした
あの宿で湯に浸かり部屋でビールを飲み煙草を吸い通りを眺める時
何気ない事だけどそれが私にとって幸せな時間でした
日帰り温泉も営業を休止しもう一ヶ月が過ぎた
http://ameblo.jp/hotel-micuras/entry-11779070047.html
外のテラスのような所に、昭和の景勝地によくある100円入れるタイプの双眼鏡があるのですが(コインを入れる所が壊れているので見放題です)、いつの日かそこを訪れることがあれば、その双眼鏡をのぞいてみてください。
彩雲さんの愛した「いつもの光景」が見えるかもしれません。
閑散とした場所なので、いつまでもいつまでも見ていることができます。
お名前とその存在は古くから知っておりますが
ビビリな小生は行く勇気がありませんでした。
これこそ松尾さんと一緒に行くべきな物件だったかもしれません(笑)
でもその双眼鏡から見える世界が気になります。