あなた
うす曇りの 寒い日です。
わたしはまだ旅の途中です。旅の途中の様ざまを書いておこうと思い書き始めましたが・・・まさか、あなたを失ってしま
う? 努々思いもしませんでした。
疲れて羽根を休めたい時、大きい手で受け止めてくれたから・・・自由に飛んでいられた・・・その手を無くしたわたしは、
もう遠くまで飛べない。
寂しくてどうしようも無い時は、自分だけの世界に浸ってしまう。その世界でふと、そんな自分を感じたとき虚しさが身体
の中を駆け巡る。
あなた
もう、わたしには、羽根を休める場所がないのでしょうか?
今日はすごく淋しい・・・あいたいなぁ・・・あなたに。
『横笛の生涯』 《平家物語》 より・・・
平家の全盛期に生きた二人の悲恋の模様が綴れている。横笛は悲しい人生を送った女性であった。時頼と恋に落ち、
生涯共に生きようとに決めていた。しかし、脆くもその想いは打ち砕かれ、彼女は逢えない時頼への想いを募らせる。男
性の多くが側女を持つ時代にあって、他の女性を愛することなくひたすら自分だけを愛し、人生を捧げてくれた時頼の誠
実さと一途な想い、また、時頼が出家して仏道に入ったことを知りながら、それでも愛しい人への想いを断ち切れず、心
から逢いたいと思う横笛。時頼にすれば、自分を求めひたすらにすがってくる横笛に心を打たれるなど、お互いに一層
の愛しさを感じたことであろう。
時頼に一目逢いたいと望んでいた彼女だが、そのささやかな想いが叶わないと知ると時頼と同じ道を選んだ。逢えない
ならせめて仏道で心だけでも繋がっていたいという彼女のせめてもの願いだったのだろう。
しかしながら、横笛は尼となった後すぐその短い生涯を終える。時頼の事 を想いながら川に身を投げたとも、病に
倒れたとも言われている。彼女にとって時頼は生きる上で人生の全てであったのだ。
恋に生きた女性横笛が辿った運命、それは儚さと愛に満ち溢れたものであった。一人の若い女が求めた実らぬ愛は、
来世で必ず築きあげてくれたことと思う。
平家の世であってもこの様に貫き通した儚い恋もあったのです。