著者のジョン J. レイテイーが『脳を鍛えるには運動しかない』を著す契機となったと思われる米国のさる中・高校の体育授業と学業成績との関連について、同著書の内容の一部に触れておきます。
米国イリノイ州シカゴの西、ネーパービル203学区セントラル高校。入学時に “読解力”が標準以下であった新入生の中で志願者を対象に特別の運動プログラムを実施した。正規の“1時限”の授業には、読解力を養う授業を行うようにして、その授業が始まる前に“0時限授業”と称して、対象の生徒に8~10分間の長距離走の有酸素運動を行わせる。
すなわち、ウオーミングアップに続いて、グランドを4周走らせるのである。その際、各人に心拍数計と送信機を装着させて、平均心拍数が185以上、最大心拍数(220―年齢)の80~90%となるように、走りを自分で調節する。
走る速さは当然個人差がある。同じ早さで走ることを要求したのでは運動負荷量に差があり、走りの不得意な人にとっては運動負荷量が多くなることとなる。そこで個人の能力に合わせて運動の負荷量を課するようにしているのである。
学期の最後に試験したところ、正規の体育授業のみを受けた生徒に比較して、“0時限授業”を受けた生徒の読解力が伸びた という。その成果を基に、学校では、“0時限授業”を「学習準備のための体育」と名付けて、正規の教育課程の中に組み入れて、継続して実施しているとのことである。
その成果は米国内で広く注目されて、これがモデルとなって、他の学校でも同趣旨のカリキュラムが取り入れられ、実施が広がっているという。
“0時限授業”は、1990年に開始されたが、この取り組みを始めるきっかけとなったのは、当時の新聞記事で、「米国の子供の健康状態が下降しつつあり、それは子供たちがあまり動かないからである」と記載されていたのである。
一方、脳科学の研究で、運動、特に有酸素運動が刺激となって、脳内のニューロン(注)を結び付けることが解ってきていた。このようなニューロンの新しい結ぶ付きができるということは、脳が学習することであり、環境の変化に適応できるようになることを意味している。[注:ニューロンの詳細については追って触れることにします。]
これら周囲の状況を踏まえて、子供たちの健康増進を図ることと合わせて、読解力の強化に繋がることを期待して“0時限授業”を設けたようである。ただ、当時、国あるいは学校ともに、体育の授業時間を減らそうという動きがあったようだ。正規の体育授業時間を増やすことができず、正規外に時間を設定して“0時限”としたようにも想像される。
この“0時限授業”を着想し、推進したのは、203学区の中学および高校の体育教師たちであった。長距離走の有酸素運動を実施するに当たって、当時、父兄をはじめ周囲からの反対も強かったようであった。先生方の熱意がより強かったようである。
“0時限授業”の成果と言えるのではないかとする注目された出来事は、1999年に実施されたTIMSSの結果である。
TIMSSとは、「国際数学・理科教育動向調査」の略記である。1995年に始まり、4年ごとに実施されている。第2回目に当たる1999年には、世界38か国が参加し、23万人が受験し、うち米国受験生は、59,000人であった由。
1999年のTIMSSで、203学区の生徒が、理科では1位、数学では6位となった。理科ではわずかの差でシンガポールが2位、また数学ではシンガポールが1位で、以下、韓国、台湾、香港、日本と続き6位ということであった。因みに、米国の生徒の平均は,理科18位、数学19位とのことであった。
この結果が、“0時限授業”の効果であると、断定はできない。しかし203学区の8年生生徒の約97%が参加したということで、対象者が特別優秀な、選ばれた生徒に限られたわけではない。また、地域や家庭環境などの背景要因のみでは説明できないとしている。
当然ながら、203学区の子供たちは、健康状態も良好であるようだ。たとえば、肥満の指標として用いられるBMIについて見れば、2001年および2002年において、203学区の生徒の97%が正常範囲内にあった。また2005年に高校最終学年時の270人を抽出して調査した結果、肥満児は130人中1人の割合であったと。
上記の事柄は、結果を統計的に処理できるよう慎重に企画された大規模試験の結果ではない。同著書でも記載されているように、感触を探るケース・スタデイーである。とは言え多くの示唆を提供しているように思われる。参考として念頭に置いておくのに十分価値のある事柄であると思われる。
高齢化が進む中で、運動と健康や認知能との関りが注目を引いています。最近、認知能を高める目的の運動の工夫や、その成果も散見されるようになっています。それに関わる事項の理解に役立つ解説となるよう話を進めていくつもりです。
続いて、ブラックボックスの中、絵を描くキャンバスはどのようなものか、ちょっと覗いて見ることにします。
米国イリノイ州シカゴの西、ネーパービル203学区セントラル高校。入学時に “読解力”が標準以下であった新入生の中で志願者を対象に特別の運動プログラムを実施した。正規の“1時限”の授業には、読解力を養う授業を行うようにして、その授業が始まる前に“0時限授業”と称して、対象の生徒に8~10分間の長距離走の有酸素運動を行わせる。
すなわち、ウオーミングアップに続いて、グランドを4周走らせるのである。その際、各人に心拍数計と送信機を装着させて、平均心拍数が185以上、最大心拍数(220―年齢)の80~90%となるように、走りを自分で調節する。
走る速さは当然個人差がある。同じ早さで走ることを要求したのでは運動負荷量に差があり、走りの不得意な人にとっては運動負荷量が多くなることとなる。そこで個人の能力に合わせて運動の負荷量を課するようにしているのである。
学期の最後に試験したところ、正規の体育授業のみを受けた生徒に比較して、“0時限授業”を受けた生徒の読解力が伸びた という。その成果を基に、学校では、“0時限授業”を「学習準備のための体育」と名付けて、正規の教育課程の中に組み入れて、継続して実施しているとのことである。
その成果は米国内で広く注目されて、これがモデルとなって、他の学校でも同趣旨のカリキュラムが取り入れられ、実施が広がっているという。
“0時限授業”は、1990年に開始されたが、この取り組みを始めるきっかけとなったのは、当時の新聞記事で、「米国の子供の健康状態が下降しつつあり、それは子供たちがあまり動かないからである」と記載されていたのである。
一方、脳科学の研究で、運動、特に有酸素運動が刺激となって、脳内のニューロン(注)を結び付けることが解ってきていた。このようなニューロンの新しい結ぶ付きができるということは、脳が学習することであり、環境の変化に適応できるようになることを意味している。[注:ニューロンの詳細については追って触れることにします。]
これら周囲の状況を踏まえて、子供たちの健康増進を図ることと合わせて、読解力の強化に繋がることを期待して“0時限授業”を設けたようである。ただ、当時、国あるいは学校ともに、体育の授業時間を減らそうという動きがあったようだ。正規の体育授業時間を増やすことができず、正規外に時間を設定して“0時限”としたようにも想像される。
この“0時限授業”を着想し、推進したのは、203学区の中学および高校の体育教師たちであった。長距離走の有酸素運動を実施するに当たって、当時、父兄をはじめ周囲からの反対も強かったようであった。先生方の熱意がより強かったようである。
“0時限授業”の成果と言えるのではないかとする注目された出来事は、1999年に実施されたTIMSSの結果である。
TIMSSとは、「国際数学・理科教育動向調査」の略記である。1995年に始まり、4年ごとに実施されている。第2回目に当たる1999年には、世界38か国が参加し、23万人が受験し、うち米国受験生は、59,000人であった由。
1999年のTIMSSで、203学区の生徒が、理科では1位、数学では6位となった。理科ではわずかの差でシンガポールが2位、また数学ではシンガポールが1位で、以下、韓国、台湾、香港、日本と続き6位ということであった。因みに、米国の生徒の平均は,理科18位、数学19位とのことであった。
この結果が、“0時限授業”の効果であると、断定はできない。しかし203学区の8年生生徒の約97%が参加したということで、対象者が特別優秀な、選ばれた生徒に限られたわけではない。また、地域や家庭環境などの背景要因のみでは説明できないとしている。
当然ながら、203学区の子供たちは、健康状態も良好であるようだ。たとえば、肥満の指標として用いられるBMIについて見れば、2001年および2002年において、203学区の生徒の97%が正常範囲内にあった。また2005年に高校最終学年時の270人を抽出して調査した結果、肥満児は130人中1人の割合であったと。
上記の事柄は、結果を統計的に処理できるよう慎重に企画された大規模試験の結果ではない。同著書でも記載されているように、感触を探るケース・スタデイーである。とは言え多くの示唆を提供しているように思われる。参考として念頭に置いておくのに十分価値のある事柄であると思われる。
高齢化が進む中で、運動と健康や認知能との関りが注目を引いています。最近、認知能を高める目的の運動の工夫や、その成果も散見されるようになっています。それに関わる事項の理解に役立つ解説となるよう話を進めていくつもりです。
続いて、ブラックボックスの中、絵を描くキャンバスはどのようなものか、ちょっと覗いて見ることにします。
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