愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

からだの初期化を試みよう 27 アローン操体法 余話-1 背伸び (9)

2016-01-12 11:33:12 | 健康
“背伸び”の効用で、“目覚める”と一言で言っていますが、それは“脳を活性化”することと、合わせて“全身を活動できる状態にする(賦活する)”ということを言い表しているように思われます。つまり、前者は、“背伸び”の求心性の働きの結果であり、また後者は、“脳の活性化”を介した遠心性の働きの結果と言えよう。

ただ、脳内で何が起こっているかということ、および“全身を活動できる状態にする”という脳からの働きかけについては、“ネボケ、眠気を払う”という程度にとどめて、ここでは触れないことにします。

本稿では専ら、“背伸び”の動作により引き伸ばされた末梢組織、中でも骨格筋(以下“筋”とする)と腱が重要ですが、主に筋の状況がいかに神経中枢に伝えられるか、すなわち求心性の発信の仕組みについて考えていきます。

これは、ヒトが「姿勢を制御して平衡を保ち、2本脚で立つ、あるいは1本脚で立つ」こととの関わり、また「静的ストレッチング」の意義を考える上でも重要ですので、少々微に入るようですが、我慢して読んで頂きたいと思います。

本稿の結論を先に言えば、
筋は、関節を跨いで、その両端が腱によって骨に付着していて、収縮して関節を曲げるという本質的な働きをしています。と同時に、筋および腱は、からだの末梢部の状態を神経中枢である脳や脊髄に伝える発信源でもあります。

すなわち、“背伸び”の動作で、筋や腱が引き伸ばされる。それとともに筋や腱の組織内にあって感知器として働く特殊な構造物(”筋紡錘”)も引き伸ばされ、“変形”される。その機械的変形が刺激となって感知器から信号が発信されます。その信号は、神経線維を通じて神経中枢である脳や脊髄に伝えられます。信号を受けた神経中枢では、その信号の種類や質、程度に応じて適切に対応することになります。

さて以下、筋組織内にある感知器が刺激され、発信する様子を見ていきます。

筋は、収縮能力のある筋線維の集まりですが、筋組織の中には筋線維の束の間に、筋線維と平行するようにして「筋紡錘」と呼ばれる構造物があります(写真)。顕微鏡下で外見が「紡ぎ糸巻き」のように見えるのでこの名があります。

写真

それぞれの筋での筋紡錘の密度は、手や足のような微妙な働きが要求されるところで高いことが知られています。特に、手の第2~第5指の付け根の関節を跨ぐ円柱状でミミズ様の筋(虫様筋と呼ばれる)では特に高いようです。

この筋紡錘の中には、筋紡錘内線維と呼ばれる独特の構造をした線維があります。これら筋紡錘内線維には2種類の神経が分布していて、一つは筋紡錘内線維を収縮させるよう中枢側から信号を伝える「運動神経」であり、いま一つは筋紡錘内線維のふっくらした部分に巻き付いていて、そこが変形したときに“変形した”という機械的情報を電気信号に変えて中枢側に知らせる「知覚神経」です。

これら構造物は、筋紡錘が伸ばされる“速度”と筋紡錘の“長さ”を感知して中枢に伝える働きをしていて、“速度”はふっくらした方の線維が、また“長さ”はほっそりした方の線維が感知するように役割を分担しているようです。

筋紡錘ならびにそれに分布している神経系が実際にどのような働きをしているかを最も身近な例、筋が伸ばされる、“伸長される”という状況で見てみます

筋が伸長されると、平行して走っている筋紡錘も同様に伸びます。その結果、筋紡錘の中の「ふっくら部分」が変形されます。発信する信号の強さは、その変形する速度で変わります。筋のゆっくりとした伸長では、強い信号は発せられませんが、急激に伸ばされると強い信号が発せられます。

急激に伸ばされて強い信号が神経中枢に伝わると、反射的に中枢から信号が送り返され、その筋紡錘を含んでいる当の筋を収縮させるようにします。それはその筋が急激に過度に伸ばされると傷害を受ける可能性があるので、それを防ぐように働く、つまり生体の防御機構の一つとして働くわけです。

ここで“神経中枢に伝わる”と述べましたが、一部は脳へも伝えられ、それなりに重要な働きをしていますが、ここでいう中枢は主に“脊髄”です。信号を脳まで届けていては、神経線維を幾つも代えて伝えることになり、道遠く対処が遅れる可能性があります。

そこで筋を保護するためには反射的に素早く対処する必要があり、脊髄レベルで処理されます。この場合は知覚神経から運動神経に1回だけ神経線維を代えればよいようになっているわけです。この反射反応は「脊髄反射」と呼ばれています。

我々が目指している体操の中で、反動をつけた運動の「弾性ストレッチング」では、この「脊髄反射」が作動します。その結果、伸ばすべき筋をむしろ収縮する方向に仕向けることになります。このことはまた、筋を骨に繋いでいる腱に一層の負担を掛ける結果につながります。激しい運動を急に始めてアキレス腱を痛めることはよく耳にすることです。

この事実は、「静的ストレッチング」が重要であることを意味しています。すなわち、「静的ストレッチング」では、「脊髄反射」を作動させることなく、筋の緊張をほぐすことに繋がるからです。

日常、誰しも経験する「脊髄反射」の例を挙げましょう。適度に温もった電車の座席で、揺りかごに揺られているような快い気分となることがあります。その折、うとうとツ として急に頭が倒れかかった瞬間、ハッ と目覚めて……、細目を開けて、チラリ と周囲を見回す。首の後方にある筋の筋紡錘が一役を買った「脊髄反射」の例と言えるでしょう。

なお、筋紡錘の中で収縮能のある筋紡錘内線維には、運動神経が分布していています。その働きで、筋紡錘の緊張度を変えて、“感度”を調節しています。すなわち、電熱器でサーモスタットのオンーオフの設定温度を変えるようなものです。

腱は、別の形で運動制御機構の役目を果たしておりますが、続けて次回に見ていきます。
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