雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

季節の物売り 江戸情緒 ② お飾り売り

2021-12-13 06:30:00 | 季節の香り

季節の物売り 江戸情緒 ② お飾り売り

季節の物売り

「きんぎょぇ~きんぎょッ」金魚屋さんがくると、一斉に物売りの声に魅かれて外に飛び出す。
夏が来たことを教えてくれる金魚売の声だ。往来に面しているけれど、私の家は道路から少し引っ込んだところに立っており、間口も広かったので金魚売りはいつも私のうちの前に店を広げた。
 巾着のかたちをした金魚鉢は、縁を水色に染めてありその中で、数匹の金魚が泳いでいた。涼し気な鉢の中で泳ぐ金魚の器がほしかったが、兄弟5人の母子家庭で育つ私は、とうとうそのことを母に言えなかった思い出がある。風鈴売りは、色鮮やかな江戸風鈴をたくさん吊るして、賑やかにやってくる。売り声がなくても、風に乗って聞こえてくる音色ですぐにそれが来たことが分かる。チリンチリンと澄んだ音を流す、南部鉄でできた風鈴は値が張ったのだろうあまり売ってなかった記憶がある。飴細工屋も私の家の軒先を商いの場所とした。冬はこんにゃくの味噌おでん売りを懐かしく思い出す。リンゴ箱に炭火を起こした七輪を載せ、その脇にカメに入った甘く煮詰めたみそだれが入っていた。売り声はなく、そのみそだれの臭いで人が集まって来る。私たち悪ガキはこのおでん屋を「墓場おでん」と陰口をたたいた。味噌の入ったカメは、墓場の骨壺を利用していると誰かが云いはじめたのが由来である。豆腐売り、納豆売り、パン売りなど、子どもたちが眼を輝かすような物売りが来た。
 時代と共に、物売りの姿は消え、私の実家も亡くなり、私も歳をとった。
 江戸時代、日常生活に必要なほとんどすべてのものが、「ぼて振り」と言われたてんびん棒の両端に売り物を載せて歩く姿は、庶民の生活に密着していた。そんな物売りを紹介します。

お飾り売り
  師走になると何となくせわしくなるのは、今も江戸の昔も同じようです。
  大掃除をしたり、年賀状を書いたりしているうちに、大みそかを迎えることになります。
  百八つの煩悩を打払うように、江戸の町のお寺さんの除夜の鐘が響いてきます。
  一夜明ければ、正月の初詣りが季節の行事だったように思います。

  こうした行事も、
  都会のマンション暮らしや、
  自然から隔絶された都会の雑踏の中に行き交う人々にとっては、
  縁の薄いものになってしまっているようです。
  餅つきの風景は田舎でも見られなくなったし、
  年越しそばの風習も少しづつ姿を消しているようです。
  豪華なおせち料理が幅を利かしているようですが、
  これとて、若い人の家庭では縁の薄いものになっているようです。
  おせち料理そのものを今の若い人は好まないようです。

  年末に紅白歌合戦を見て、正月にはバラエティー番組を見るような
  なんとも情緒のない年末年始の風景です。
  私は、紅白よりも、その後の「ゆく年くる年」を
  各地の名刹の鐘の音を聞きながら、
  カウントダウンを迎えることを毎年の習いとしています。

  この時期の江戸では、お飾り売りや、飾り松売りなどが行きかい、
  年の瀬を賑やかにしていたようです。
    

  『お飾り売り』
  いなせなお兄さんのお飾り売りは人気があったようです。
  お飾り売りは、鳶職や仕事師(火事師・火消)等の一種の際物師(きわものし)たちの
  臨時の商いだったようです。毎年小屋掛けをする場所も決まっていて、
  いろいろと窮屈な仁義があったようです。
  (現在でも、屋台や出店は香具師(やし)が権利と責任を持っていて
  厳しい約束ごとがあるようです)。
  的屋(テキヤ)ともいい、やくざの親分などが仕切っているようです。
  門松や貸観葉植物などこの手の人たちが関わっている場合も多く、
  一昔前までは、頼みもしないのに商品を置いていき、
  有無を言わせず集金をしていたこともありました。

  粋でいなせなお兄さんが啖呵をきって忙しく立ち働く姿に人気があったのでしよう。
         紋々の半纏 飾り物を売り (柳多留) 
  12月25日ごろより辻々、河岸、空地などに松竹を並べ、
  または仮屋を建てしめ飾りの具、歯朶(しだ)、ゆずり葉、海老、かち栗などを商い、
  大みそかには夜通し市を立てたようです。(東都歳時記)
 
  
  江戸市中町ごとに消防の鳶のもの、辻々へ小屋をしつらえ、
  しめ飾りを商うこと二十日以後より大みそか夜半までにて、
  元朝には小屋の跡も止めずよく掃除も行きとどけり。(江戸府内絵本風俗往来)

  『飾り松売り』
  12月になると、門松の松だけを売る市が立ちました。
  また、近在の農民が松を担いで売りにも来ました。
  売り声は、「まつや まつや まつや 飾り松や 飾り松や」
  師走の江戸の町を飾り松を売り歩く声が聞こえると、
  年の瀬もいよいよ終わり近くになります。
  この松は、下総(千葉県北総地域)、常陸(茨城県南東部)などが生産地になっていたようで、
  現在でもこの地方では、飾り松用の生産農家が多くあります。

  現在では、こうした縁起物は門前や街の通りを借り受けたテキヤ(的屋)が
  仕切っています。江戸の物売りの姿は、商業や物流の発展に伴い、
  庶民の生活習慣の変遷の中で姿を消してしまいました。

      (季節の香り№34)     (2021.12.12記) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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